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Ep.17 完璧令嬢の災難

 イグニスと歌の特訓の約束を取り決めてから一週間後の朝、いつも通り学園に出掛けようとしたカナリアにマーガレットがひとつの水筒を差し出した。


「いってらっしゃいませお嬢様。本日の分のお茶でございます」


「……どうしても、持っていかなきゃ駄目?」


 深緑色の液体が入ったそれを見て顔をしかめたカナリアの鞄に、マーガレットは無情にも水筒を押し込む。


「もちろんです。イグニス様がわざわざ王宮の薬草園から譲ってくださっている喉に効くお茶なのですよ。そんな嫌そうな顔をされるものではありません。何、死ぬほど苦いだけで死にはしませんわ。安心してお飲み下さいな」


「死ぬっっっほど苦いから嫌なんじゃないの!マーガレットったら私が苦いの嫌いなの知ってるくせに……!まぁ、とりあえず水筒は貰っていくわ。ありがとう。行ってきます!」


 嫌そうに歪めた自分の顔を白々しいほど優しい微笑みで見送っているマーガレットに対してツンと顔を背けて、水筒を鞄に押し込んだ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……どうしよう、結局全っっ然減っていないわ……!」


 あっという間に迎えた放課後。騒音防止の為に何重にも防音結界が張られた音楽室にてイグニスを待ちながら、カナリアは例のお茶が入った水筒を恨めしく見つめた。

 授業の合間の休憩、ランチ後のティータイム、そして放課後である現在と、1日を通してタイミングを見て頑張って飲んではいるものの。あまりの苦さに一度に飲めるのはふた口程度が限界で、ご覧の通り全く減らないのである。

 この苦さのレベルを例えるならば、バラエティー番組の罰ゲームに使う激苦茶でお馴染み・センブリ茶にゴーヤやらピーマンやらの苦い野菜をこれでもかと溶かし込んだくらいの域である。味を誤魔化す為にはちみつやら砂糖やらを加えても却って逆効果なレベルだ。しかも、かなり青臭い。

 最初の数日こそ一気に飲み干そうと果敢に挑んでみたカナリアであったが、この青臭さのせいで吐き気を催してしまい諦めたほどだった。


 とは言え、やはり全くの手付かずでは好意で薬湯を譲ってくれたイグニスにも悪い。せめて彼がやってくるまでに、半分くらいまでは減らさなければ。

 と言うわけで、先ほどからチビチビと薬草茶を飲みながらイグニスを待っている訳なのである……が。


「それにしても、今日は遅いわねぇ。いつもなら4時までには来るのに」


 壁にかかる豪奢な時計を眺め、呟いた。

 いつもならば『今日こそは一曲終わるまで気絶しないからな!』ととっくにこの音楽室に飛び込んで来ている筈のイグニスが来ないのだ。カナリアはいつも彼が来る時間の30分前にはここに来ているので、かれこれもう一時間は待ちぼうけを食らっていることになる。


 一体どうしたのだろうかと首を傾ぐと、未だに満タンに近い水筒のお茶がちゃぷんと揺れた。


「……よし!待つだけでは時間の無駄だし、男子の授業をしている騎士科の棟まで見に行って見ましょう!」


 そうと決まれば善は急げ。お茶はいつでも飲めるのだからと水筒の蓋を閉めたカナリアは、軽い足取りで騎士科へと向かうのだった。

 そう、決して、苦いお茶とこれ以上格闘したくないから逃げ出した訳ではないのである。







 さて、そうこうしてたどり着いた騎士科棟だが、令嬢は基本武器や魔法が飛び交うこちらのエリアには近寄らないため勝手がわからない。

 とりあえず近場を通りがかった騎士に聞いたところどうやら生徒たちは今日模擬試合をしていたとのことなので、その会場である闘技場まで行くことにした。


「あ、白ゆりの彫刻の門!あったわ、あそこね!」


 そう安心して駆け寄ろうとしたカナリアの目の前で、豪奢な門が爆発した。





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