ー11話ー 1章 2節 転生者に憧れていた(2)
下手でも読んでくれる方がいるって本当に作り手としては嬉しいことです。
ありがとうございます!!
「こちらは異世界転生課になります。あなたがここに入ることは許可されていません。二課の天国成仏課にお戻りください」
当然の対応だった。どういう風に割り振られているかは知らないが異世界には転生できないようだ。どんな風な世界が広がっているのだろうか。冒険という命を賭けるに値する旅とはどれほど魅力的なのだろう、危険にも勝る仲間との絆とはどんなものなんだろうか。
物語などでは語りつくせない異世界が目の前にあるというのに。
僕は生前得意だった諦めという気持ちで異世界への扉に背を向けた。
「お前異世界に転生したいんだろ?」
悪魔の囁きにしてはひどく俗世じみたおじさんの声だった。
姿はないが声ははっきりと聞こえる。
「あ、あの」
「なんだビビりやがって。怖くねーよ。お前、転生したいんだろ?」
前世の癖で口ごもってしまった。痛くはないが魂が軽く押しつぶされた気がする。だけど、声の主はとっても魅力的なことを言ってくる。
「とにかく俺は退屈してたし、転生者が欲しかったところなんだ。とにかく来いよ」
掴まれと言われた先は釣り針だった。強引に魂をひっかけられ作りと痛みが走ったが魂がどんどん天上へと釣り上げられていく。
魂は門のはるか天まで登り視界が雲に遮られて行く。
「本来魂の上昇は制限されているが俺たち神は特別だからかなり天界の上部まで行ける。魂や天使の馬鹿どもには見えもしねえ。途中で降ろすからこれを持って俺の世界に飛ばしてもらえ。なに、俺の異世界で楽しませてやる」
背中がぞっとする気がしたが、異世界の魅力には敵わなかった。糸が切れ魂ごと落ちると金色の大きな輪がある空間に着いた。
落ちた魂は弾みながら徐々に止まった。
「おや、転生者の方ですかな?」
受付だろう場所に人型に近い魂が眠そうに目を擦っている。眠いという概念が魂にもあるのかな?
「は、はい」
「では札を」
いつの間にか魂に刺さっていた小さな札を渡す。さっきの声の主が渡してきたものに違いない。
人型魂は説明がくどいくらいに長かったが、根気よく聞いた。特に気にする点はなかった。
一生転生した世界で暮らすことなど造作もなかったし、自分の想像に近いファンタジー世界のようだ。
ようやく準備が整い、僕の魂は異世界に飛ばされた。
大きな大樹の下の木漏れ日に目を見開いた。
「本当に来たんだ」
本当に憧れて、文字だけでも夢膨らんだ世界に僕は感想が口から漏れてしまった。
身体に触れてみるが、子供や赤ちゃんになった感じはしない。何を言ってるんだと思うかもしれないが異世界転生ではよくあることだ。よし、女性になった訳でもなさそうだ。
顔は見れないが、体つきは死んだ時と同じようだ。
服装はなぜか制服。あぁ死んだ時もそう言えば学校途中だったか。
周りを見渡すに明らかに僕いた現実ではない。少しと遠くに見える街は周りを木の柵で囲っているようだし、それに目の前に薄気味悪く見えるスライムと子供のような体型だが異形のゴブリンが。
「スライムとゴブリン!?」
定番のモンスターだが、ざっとみるに数十匹。大樹を背にした僕をぐるっと囲んでいる。
当然身につけているもので武器になりそうなものは一つもない。
これではどうしようもない。死んだ後でもう一度死ぬのか。ゴブリン達は一瞬目配せをしたが、一匹が飛び跳ね頭上から獲物たる僕に棍棒を振り落とす。
「ワァァァァ!!」
咄嗟に腕を盾に顔を隠す。しかし、いくら待っても痛みは来ない。状況を確認しようと腕を戻すとさらに複数のゴブリンが僕をタコ殴りにしている。ゲラゲラと苛めを楽しむ悪ガキのようだ。
しかし、痛みはいくらも感じなかった。試しに、さっきから足の脛ばかり攻撃して鬱陶しいゴブリンを蹴り飛ばす。まるでサッカーボールのように数十メートル吹っ飛んで何度かピクピクと痙攣をして動かなくなった。転生に身体能力の向上はつきものだが、体感してみないとわからない。だが、確信を得た僕は、ほくそ笑んだ。
その後も一対多数の苛めは続いた。苛めたのは一の僕の方だけど。
身体能力の確認のため色んなことをやった。ゴブリンを引きちぎった。ジャンプしてとびひざげりをしたり、投げ飛ばしたり。
「ファイヤーボルト!!」
出したいものを想像して手をかざしてみたりすると炎が飛び出たりもした。この世界には魔法もあるようだった。炎を出した時点で全てが終わった。想像以上に高火力で自分の体よりも大きな火の玉で爆炎と共にモンスターが全て吹き飛んだ。
「何が起こった!?」
手に鍬や包丁を持った数十人の村人が肩で息をしながら走ってくる。
「見張りからモンスターの大群が祝福の大樹に集まって来ていると聞いていたんだが、どこに行ってしまったんだ?」
この木は祝福の大樹という名前だったらしい。祝福と言われている場所に下り立ったのが自分だということがなんともむず痒い。元は冴えないただの高校生なのだ。堂々としていればいいとわかっていてもすぐに慣れるものでもない。
「全部倒しちゃいました」
胸を張ればよかったんだけど、生憎対人スキルは生前のままなみたいだ。なんとなく気を使って困ったように愛想笑い。
「ひ、一人であの数の魔物を!?も、もしやあなたは」
予想していたことだけど、こんなにも驚かれてもそれは能力値がチートなだけで、僕自身は特に変わっていない。いや。これはチャンスだ。変わるチャンスなんだ。
誰も僕を知らない世界で、力がある。この世界でならば自分を満たせるかもしれない。
空虚で空気な自分を。憧れるばかりでいた強くて優しくて愛されるそんな誇れる自分に。
「この祝福の大樹にはこんな言い伝えがあります。
大地が疲弊し、混沌が世を覆いし世界の終焉 大樹に光差す。光は金色の魔を鎮め 青き稲妻を従え 赤き大剣を携え 世界に和をもたらさんとする
と。いきなり大樹が光ったと思ったらここにあなた様が」
全員が平伏する。ゲームや本でよくある勇者誕生の瞬間だ。
「ぼ、いや俺は勇者になるためにここに来た。わからないことばかりだが、よろしく頼むますよ」
今度はできるだけ格好をつけて言ってみたけど最後が変な丁寧語になってしまったけど今度は堂々としてみる。
普段絶対に言わないことを言ってる自覚はあるから、死ぬほど恥ずかしいが、そんな俺の心境をよそに泣きながら抱きしめ合う街人達。
まだ何もわからないけど救いを求めてる人がいるんだ。助けないと。俺の力はそのために神に力を渡され此処に遣わされた。
「あ、あなた様の名は」
「俺の名前はユウタだ」
ここから本物の勇者になるための第二の人生が始まったんだ。
お読みいただきありがとうございました。
ここまでお送りできたのは皆さまが読んでいただけたお陰です。
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