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このアカウントでの初投稿です。大目に見てください。
雨、それは人の心を曇らせる。
鬱になるから嫌い、という意味だけではなく人の心裏を読み取れなくなるという点で雨が嫌いだ。(読み取れないというよりは、皆一様という言い方が正しいか)
僕は周囲の目を過度に気にしてしまう傾向にある。
現代のイジメというものはとても陰湿で、暴力を振るうという訳ではなく、lineや口伝てでハブろうとするのが主流らしい。
親に、学校に通わせてもらっている立ち場なのだから、イジメというくだらない理由で親に心配をかけることはなんと浅はかなことか。
イジメを避けるためにある程度他人に同調していかなければならないから、そんな訳で周囲の目を気にするようになったのだろう。
そんなことを考えているうちに、僕の通っている学校が見えてきた。
桜の咲く季節が過ぎて、そろそろ校門の景色も見飽きてくるこの季節であっても、人の笑い声が絶えないことはこの学校の良いところと言えるだろう。
雨で汚れ切った傘を閉じ、濡れた階段をのぼり、教室のある二階を目指す。
「おはよう、、、」
心なしか雰囲気すら淀んだ教室に入り、友人(仮)に挨拶を適当に済ませて席に座る。僕のクラスである2‐Aは私立大学を狙うコースになっている。クラス分けをして無駄に差別化を図ろうとしている様子を見る限り、この高校に自称進学校としてのいらん誇りだけはあるようだ。しかし、このクラスにはただ単にガリ勉が集まっているという訳ではない。スポーツ推薦で入学した、所謂スポーツ馬鹿という人種も混ざっている。
まあ、コイツらがいるおかげで明るい雰囲気が保たれているが、どうも彼らはクラスメイトのカーストといったバカげたことを考えているらしい。
その影響で僕も他人の目に敏感になるようになったわけだが、他人のことを陰キャ陽キャなどと囃し立てるのは大変気に食わない。
だが、このクラスでも一際異彩を放つ(多分自然と周囲を遠ざけているだけだと思うが)人がいる。
ロングの黒髪に、大きな黒目。
これが日本人ですと言わんばかりの容姿をした彼女の名前は「詩織」という。
初めに明言したが、雨だと人間皆一様の心裏状態で他人の顔色を伺うのも面倒だし、仮にそうしだとしても特に面白いわけではない。
でも、彼女は違う。
雨だからという訳ではなく、いつも何を考えているかわからない。
どこかこころを閉ざしているようにも見える。
それでも彼女のことが気になってしまう。同族のニオイがするからかどうかはわからないが、気づいたら彼女の方を見ていることがある。
これが恋愛感情というものかは定かではないが、もっと彼女のことを知りたいと思う自分がいるのがなんとなく悔しい。
こんなくだらないことを考えているうちに日が傾き、放課後を迎えた。
今日は、男女一人ずつでやる日直当番の担当日であった。
日直の仕事は単純で、教室の掃除とゴミ捨てだけだから十五分もあれば終わる仕事だ。
今日の単純仕事のペアは、運が良いのか悪いのかわからないが、絶賛(僕の中だけで)話題である詩織さんだった。
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静寂が教室をつつむ中、後ろに椅子を下げ、前方を箒で履く。
掃除が始まってから特に会話をしていないことを鑑みると、嫌われたのだろうか、だとしたら何かしただろうかと推察をしているうちに掃除も大詰めになってきた。
掃除の最後には決まったサイクルがあり、一日で溜まった教室のゴミをゴミ捨て場に捨てるという慣行がある。
ゴミ捨て場は、業者の方に配慮した結果かニオイが充満するからか、わからないが、外に設置されている。
当然ながら、この降りしきる雨の中、ゴミ袋を持って外へ行くのは大変面倒なことであるが、任された仕事すらこなさないというのは先生に示しがつかないので、とりあえず捨てに行くとするか。
「詩織さん、今日は僕がゴミ捨てをするからお先に帰っていいですよ。」
好意を抱いているから出た言葉かはわからないが、自然と口から出た言葉だった。
「えっ、、、申し訳ないので私もついていきますよ。先生に顔向けできませんからね。」
同じことを考えていたと思う反面、どうやら彼女は、僕のことを思って行動してくれたのではなく、先生のためを思って行動するらしい。
嬉しいのやら悲しいのやら、、、
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教室を出て、数歩離れて外へ向かう時もひたすら無言、無言、無言という代り映えのない状況が続いた。まあ、無言というだけであって、降りしきる雨は轟々と騒音を立てている。
あらかじめ教員室からゴミ捨て場の鍵を受け取っていたため、スムーズに開錠が終わり中へ入り、ぎっしりと詰まったゴミ袋を投げ捨てる。
詩織さんも僕同様に、ゴミ袋を投げ捨てていたが、意外と怪力らしくゴミ袋を山のてっぺんらへんに載せた時には大変驚かされた。
僕の驚いた顔を見たのだろうか、詩織さんはこっちを向いて、くすりと口元に笑みを浮かべた。
「そんなに僕の顔が面白かったのかい?」
なんとか会話をしてみようとしても、僕のコミュニケーションスキルの低さが露呈するだけなので、会話をする度に、自分に劣等感を抱いてしまう。
「ええ、貴方が笑みを浮かべる姿を見たことはあっても、驚いた表情をするのは初めて見たものだから。」
僕の心配をよそに、淡々とコメントを返す。こんな無機質な声を聞いたのはいつぶりだろうか。
この人には少し調子を崩されるが、せっかく会話を続けてもらっているのだから、彼女のことをもっと知るための努力はしよう。
「ふう、、、」
一呼吸置いて緊張をほぐす。こういったことは大事なんだと実感出来る日が来るとは、夢にも思わなかった。
「詩織さん。」
「何かしら、、、」
僕がこんな真剣な表情をするとは思わなかったのだろうか、詩織さんは一歩後退りをした。
「なんで貴方は変わらないんだ?」
「、、、それはどういう意味かしら。」
一瞬、彼女の瞳の奥が揺らいだのをそれとなく感じ取った。思わず僕も緊張感が高まり、手が汗ばんでくる。
「僕は、他人の心裏を読み取ることができるらしい。クラスメイトの様子からして普通、晴れの日は皆明るい状態になるか感情の起伏が激しくなる。だが、雨の日は心なしか感情の起伏がなくなり、皆一様な状態になる傾向にある。」
「確かにそうね。」
間髪入れずに合図地を打つ。
「だが貴方は違った。晴れの日でも雨の日でも常に一定で、何を考えているか全くわからない。だから貴方に興味を持ってこういう質問をしたんだ。」
一気に話しすぎたせいか、手汗だけではなく心臓の鼓動すら聞こえるほど緊張している。この緊張が伝達したのだろうか、詩織さんも僕に合わせるかのように返答を続ける。
「端的に言えば、周りの人との波長が合わないのよ。だから、人を近づけないように振舞っているだけよ。」
あっさりと白状してくれたことには驚きだが、理由に関して言えば、こういった人種ならばあるあるなのだろうか。
だが、そんなことはどうでもいい、僕が思ったことをありのまま伝えるんだ。
「確かに、周囲の人は貴方をどこか避けているようにも見える。でも、そんなのどうでもいいんだ。貴方のミステリアスな部分に僕は惹かれたんだ。他の人がどう思っていようが関係ない。」
自然と口から零れた言葉は、言い終わってから大変恥ずかしいものだと気づいた。
僕なりの気迫の迫った言葉に思わず彼女も目を見開き、丸くさせる。
「そう思ってくれていたのね、、、でも貴方からの熱の籠った視線はそういうことだったのね。」
「そういうこと、が何を意図しているかはわからないけど、視線はバレていたんだね。迷惑だったらすまなかった。」
「いいえ、そこまで気になるものでもなかったから別にかまわないわ。」
ふと思ったが、そこまで彼女に対して熱量のある視線を送っていただろうか。そもそも、彼女と僕の席は離れており、僕の方が席は後方にあるため、僕のまなざしは見えないはずだ。だとしたら彼女は後ろを振り向かなければならないはず_________
「ふふっ、、」
僕が一瞬のうちに思考を巡らせている間に、彼女は薄く笑みを浮かべ、まるで正解だと言わんばかりに頬を赤らめ、こちらを見ていた。
「、、、、、」
思わず彼女の笑みに息をのみ、黙り込んでしまう。
だが、この静寂は雨によってかき消されていく。
雨に紛れて、また呼吸を落ち着ける。
いつも悩まされてきた雨というものも、偶に良い働きをしてくれるらしい。
「とりあえず、片付け終わったし教室に戻ろうか。」
鍵を再度開錠し、外へ出る。
相変わらず雨は、酷いくらいに地面を打ちつけている。
雨は空気がジメジメするし、気分が重くなる。僕も今まではそう思っていた。
だが、今日の一件でそのイメージは一新された。
傘を差し、歩みを進める。その足取りは行きよりも軽く、足並みを揃えて教員室へと鍵を返しに向かった。