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 東京都文京区本郷五丁目、御徒町(おかちまち)へ抜ける春日通りから少し入った場所に、本妙寺(ほんみょうじ)坂と呼ばれる細い坂道がある。

 かつてこの近くには本妙寺という法華宗の大きな寺があり、そこへと下る坂であったところから本妙寺坂の名がついたそうだ。


 本妙寺は、明暦の大火の火元と言われている寺だ。

 明暦三年、正月十八日に発生した火災は、江戸城外堀の内側を二日間に渡って焼き尽くし、一説には十万人もの死者を出したと言われている。

 この時に消失した江戸城の天守閣は、再建されることなく現在に至っている。


 火元に関しては幾つかの説が唱えられているが、その中でも最も有名なのが、本妙寺を火元とする『振袖火事』の逸話だ。

 質屋の娘の悲恋に端を発し、因縁の絡んだ振袖を供養するために火にくべたところ、折からの強風に煽られ、まるで人が纏っているかのごとく舞い上がり、明暦の大火を引き起こしたというものだが、どうやらこれは創作らしい。


 本妙寺は明治の頃に巣鴨へと移転して、今は坂に名前を残すのみで、周辺はマンションが建ち並ぶ住宅地になっている。

 その本妙寺坂で、道路を掘り起こす工事が行われていた。


 老朽化した下水管を新しいものへと交換し、ついでに送電線を埋設して電柱を無くすための工事だ。

 そのため下水管は、従来の場所よりも更に掘り下げた場所に敷設される予定だ。

 古い下水管を掘り起こし、パワーショベルが更に深く土を掘った時、ガシャンと何かが割れる音が響いた。


「おい、何だ今の音は?」

「さぁ……何だか陶器の破片みたいなものが見えますが……」


 作業員達が覗き込むと、パワーショベルが砕いたものは、大人がようやく抱えられるほどの大きな古い壺だった。

 壺の中には割れた破片と掘り起こした土、それに蓋の一部と見られる木片が落ちているだけだ。


「何だよ空っぽかよ。大判小判がザックザクとかなら大儲けだったのに」

「駄目っすよ先輩、掘り起こしたお宝をパクると捕まりますよ」

「マジかよ。土の中から見つけてもか?」

「前にテレビで埋蔵金の特番やってて、土地の所有者が権利を持ってるとか、どーとか……」

「何だそれ、結局金持ち優遇ってやつかよ」

「それより先輩、この壺どうします?」

「砕いて捨てるに決まってんだろう。文化財がどーとかになったら、年度末までに工事が終わらなくなんぞ」

「そうっすね。うわっ、先輩、降ってきましたよ」

「おぅ、さっさと終らすぞ」


 結局、中身が空の大きな壺は砕かれて、掘り起こした土と一緒に運び出された。

 壺の蓋を覆っていた紙はボロボロに崩れ、朱墨で書かれていた文字も判別できない。

 壺を砕いた時、一匹の蛞蝓(なめくじ)が這い出して来た。

 蛞蝓が這った跡の粘液が、チロチロと青白い炎を上げていたが、それを見た者はいなかった。


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