全自動販売機
……とある夏の日の朝。
あまりの暑さに閉口しながら歩いていた僕は、交差点で自動販売機を見つけた。
ポケットにはちょうど良い額の小銭も――ってちょっと待て。
――『全自動』販売機……?
販売機には確かにそう書いてある。
全? つまりは何もかも自動ってことか?
しかし、一口に全自動と言ったって、どこからどこまでが自動なのだろう。
商品を選ぶところから?
それともまさか、お金を入れるところから?
いやいやもっと遡って、商品補給からして勝手にやるということなのか?
……分からない。
考えて分かるものでもないし、説明も書いていない。
そもそも、暑さで頭が回らない。
考えて分からないとなれば、試してみるしかないだろう。
どこから自動になるのか、実際に順を追って確かめていけばいいのだ。
直近のコンビニへ向かい、2種類の缶ジュースを1万円札で(店員にイヤな顔をされながら)購入して戻った僕は、全自動販売機をこじ開けてみた。
――中にはお茶もジュースも無い。空っぽだ。
どうやら、補給まで自動というわけではないらしい……。
僕は買ってきた2種類のジュースを別々に入れ、自販機を閉める。
次に、小銭をポケットから出し、投入口の前でちらつかせてみる。
小銭が吸い込まれたり、自販機に噛み付かれたりすることは一切無かった。
どうやらお金の投入も自動ではないらしい……。
僕は手ずから小銭を投入し、しばらく待つ。
……商品のボタンは光ったまま、うんともすんとも言わない。
商品を自動で選んでくれるわけでもないらしい。
仕方ないのでボタンを押す。
ガコン、という音はしたものの、取り出し口に缶ジュースが出てこない。
取り出し口から覗き込むと、どうやら途中で引っかかっているようだった。
思い切り手を伸ばして、何とか下から引っ張り出す。
………………。
なるほど、看板に偽りナシ。
いかにもコイツは『全自動』だった……コイツ自身にとっては。