謎の少女
視界が真っ赤に染まる。
同時に、ふわっと身体が宙に浮く感覚を覚える。
突然の出来事に、俺は再びパニックに陥った。言葉にならない悲鳴を叫び散らしながら、身体の違和感も関係なしに暴れる俺。
しかし、数分間暴れ続けて、ふと気付く。
「キュゥ!キュゥ! ・・・・・キュ?」
死んでない。かなりおかしくはあるが、叫べてるし動けてる。それに、痛みもない。
恐る恐る目を開けてみる。目の前はやはり真っ赤だ、再び目を閉じてしまいそうになるのをぐっと堪え、目を凝らす。
「~―~、 ~―~―~」
目の前にあったのは、顔だ。返り血でも浴びたかのような、真っ赤な少女の顔がそこにあった。
次に下を見てみる。あったのは褐色の地面と、白い球体のような物。浮いているのかと思ったら、目の前の彼女に持ち上げられていたようだ。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、俺はふと疑問に思った。
(俺を持ち上げてる? こんな軽々と? しかも子供が!?)
自分の外見は・・・・よくは思い出せないが、こんな小中学生にしか見えない女子に持ち上げられる身体ではないはずだ。
そんな俺の絶えない疑問を知ってか知らずか、少女は俺を持ち上げながらほんの微かに微笑んだ。
相変わらずぼやけていてその表情もよくは分からなかった俺だが、何となく、さっきまでの威圧感が消えていたので、敵ではないと直感で感じた。
そこから先の記憶はない、多分緊張が取れたことで、疲労感などが一気に押し寄せたのだろう。
俺はそのままスイッチを切ったかのようにストンと、深い眠りに落ちてしまった。
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どのくらいの時間が経ったのだろうか。辺りは暗く、シンとした静寂に包まれていた、空には無数の星が散りばめられている。
ハッと息を呑むほどに神秘的な、美しいその光景をしばらく眺めていたが、さっきまでの事を思い出すと星空も忘れ、急いで辺りを見渡した。
驚くほど鮮明になった視界が写し出したのは、先ほどまで自分に刃を向けていたあの少女。
彼女は、焚火の明かりに照らされながら、こちらをじっと見つめていた。ただし、あの時感じたような威圧感や敵意は感じられない。おそらく、ただ純粋にこちらを眺めているだけだろう。
ただ、それでも怖いものは怖い。
ゆっくりと後ずさりをする。しかし、未だ違和感のある身体は上手くは動かず、乗っていた丸太から足を踏み外してしまう。
「キュ!・・・・」
・・・・落ちない。いや、落ちたはずなのに衝撃がない。
咄嗟に目を開けると、俺は少女の手の上にいた。どうやら俺が地面に落ちる前に少女にキャッチされたらしい。
(手のひらに・・・・、乗ってる!? まさか!)
下を見る。俺が乗っているはずの手が目前にあった。つまり・・・・
(体が小さくなってるってことかよ!? ・・・・いや、それだけじゃなさそうだな・・・)
ちらと視界に映る。否、映ってしまった。
俺の身体には、灰色の鱗がびっしりと張り付いていた。足の指の部分には黒光りする鉤爪。細い腕には鱗、手も腕と同様に小さく、爪は足と同じような小さい鉤爪になっていた。
毎日のようにファンタジー小説やアニメを見ている俺は、すぐに悟ってしまった。
自分が、竜になっていることを・・・・。