死、そして誕生
ドンッ! ドンッ!
強い衝撃と音で目を覚ます。
(地震・・・ではないな、何だ?)
明らかに地震の音ではない。四方八方から、爆発音や鈍い金属音が鳴る。地鳴りや何か動物のような鳴き声のようなものも感じた。
急いで周りを見ようとするが、視界が真っ白にぼやけていて何も見られない。音も、さっきから耳栓でもつけているかのような聞きづらさだ。
その上、身体にも違和感があり身動きが取れないとなると、もうどうすることも出来ないので、聞き取りにくくはあるが、辺りの轟音を聞き入るしかなくなってしまう。
突如としてこの場に静寂が訪れた。さっきまでの爆音も地鳴りも、そのすべてが嘘だったかのように静かだ。
そして、その静寂の中に一つだけ、微かだが足音のような音が聞こえた。心なしか近づいている気がする。
・・・・・ザッッ!!
一瞬、思考が固まった。
鋭い斬撃音の次に、強い光が俺を刺激する。感じた光はさっきまで視界を覆っていた優しい白ではなく、痛みおも感じそうなくらいの、眩むようなとにかく強い白い光だった。
しかし、何故か俺はそれよりも目の前にいる人影に目が行ってしまう。ゲームで言うところの『威圧』と言えば分かり易いのか。俺の意識とは無関係にそちらに注目してしまっていた。
「・・・・・」
人影は怖いぐらいに動かない。
いや、実際とても怖かった。逆光で真っ黒なシルエット、その中で何故かそこだけ光っていた水色の瞳で、強い威圧や殺意の眼差しを向けられているのだ。おそらく俺がこの人影を無意識に見つめてしまうのも、その敵意に反応してしまうからだろう。
体感で数時間にも感じられた沈黙は、突如として破られた。その人影よりも黒く冷たく、そして鋭い『何か』で。
気づいた時には、既に視界に映っていた。いつ出していつ突き付けられたのかは分からない。
視界が狭いうえに遠近感も掴みづらいので定かではないが、その大きさと特徴的な形から、これがファンタジーなどで登場するような『大鎌』のようなものだと悟った。
正直、寝起きドッキリか何かだと思っていた。身体の違和感は縛られているからで、この眩しい光は撮影用の照明で、目の前の人は仕掛け人。「寝起きに殺されそうになったら、どんな反応をするのか!?」的な題名で。
「~-~-~」
ようやく目の前の人影が喋った。しかし相変わらず聞き取ることはできない。もはや日本語をしゃべっているのかすら分からない状態なので、早めに耳栓も取って欲しいところだ。
しかし、その願いとは裏腹に、人影は一切動いてくれない。
(・・・・もしかして、ドッキリじゃない? となると誘拐か? いや、俺を誘拐するメリットがない)
一瞬頭に浮かんだ可能性を即座に否定する。しかし、今だ首元に当てられている刃はそれを肯定させるかのように怪しく光っている。
さすがに、本物の大鎌が自分の首を狙っているとしたら、俺だって怖くなる。
段々と、恐怖に身体が固まりそうになっていることを悟った俺は、喋れなくなる前に何か言おうと、勇気を振り絞って口を開けた。
「・・・・・キュゥ!」
(え?)
確かに今声を出したのは俺のはずだ、間違いない。
しかし、出ていた声は俺のものではなかった。高い、動物に似た鳴き声だ。
(何が起こった? 何だこの声は? 俺は、喋れていない? いや、確かに喋ったはずだ)
頭の中がパニック状態になる。一瞬、目の前の人も見えなくなるほどに。
その人影は、その一瞬さえあれば十分だったのかもしれない。
次に気付いたとき、俺の視界は赤く染まっていた。