二人の始まり
あらすじを変更しました!
私なりに頑張ってみましたが、果たしてあれで初見さんのハートを掴めるのでしょうか・・・。
埃の舞う廃屋の中、俺はゆっくりとその身を起こした。
(・・・・ここは・・・そうか、確か廃村に・・・)
眠い目をこする。何か大きな違和感を感じるが、眠気が勝ってあまり考えることができない。
それにしても、まだ疲れが取れていないのだろうか? 光の角度から察するにいつもより長く寝ていたはずなのだが、身体全体が異様に重い。
(・・えっと俺は・・・そうか、この子の看病をしてたんだっけ)
ふと目線を下げると、少女が横になっていた。
熟睡することがない上、自分より早く起き、遅く目を閉じる彼女の寝顔は、それなりに新鮮なものである。
・・・・というか、初めて見たかもしれない。
そっと少女の頬に手を当てる。
いつもと明らかに違う体温や肌触りに少し驚くが、『きっと寝ぼけているのだろう』と、そう自己解決した。
不意にピクリと、・・・ほんの一瞬だけ少女の瞼が動く。
「・・ん・・・。・・っ!」
そんな声が彼女の口から漏れる。そしてそれから間もなくして、薄らと目が開いた。
・・・―刹那。
ドンッ!!
少女が視界から消えていた。そしてそれを理解するよりも早く、俺は強く頭を打ち付けられる。同時に、後頭部には転生してから一度も感じたことのない、重い痛みが走った。
衝撃と同時に閉じた瞳を開けると、目の前には少女の顔があった。
何故か、初めて会った時ほどではないが、殺気も放っている。
仰向けの俺に馬乗りのような形で乗る少女は、右手で首を固定し、左手で俺の腹を捉えていた。
そもそも殺気でまともに動けないが、万が一動いたら魔法を撃つ、そう忠告しているようにも見える。
「・・・誰?」
真剣な表情で、そう聞く。
一瞬、その言葉の意味が理解できなかった俺だったが、数秒の間をおいてその言葉が脳に届いた。
(・・・へ? いやいや、今までずっと一緒に旅をしてた・・・・)
いつものように、『キュウ!』と鳴こうとした。が―・・・・
「・・・あぅ、あ!」
・・・―自分の口から出たのは、赤ちゃんのような、言葉にならない声だった。
「う? ・・・うぁ! あ!」
俺は一瞬にしてパニックに陥る。
自分が発した声が、自分の知っている鳴き声でも、おそらく前世の声でもない、聞き覚えのない声だったからだ。
喉の感覚、口の感覚。しばらくの間その感覚から遠い所にいた俺からすれば、今のそれは明らかに異質なものである。
・・・・―しかしそれも後から思えば、自身に起きた異変の一部に過ぎなかった。
俺は慌てて口に手を当てる。もはや自分を拘束している少女すら目に入っておらず、俺の腹を捉えた無言の忠告の事も、完全に頭から抜けてしまっていた。
もちろん少女の左手も俺の手が動くと同時に力むが、敵意が全くなかったため戸惑い、一瞬だけ隙が生まれてしまった。
『攻撃される!!』と、咄嗟に右手を離そうとするが、やっとそこで少女は目の前の子の様子がおかしいことに気付いた。
一方、当の本人はそんなこととも知らず、自分の顔をペタペタとしきりに触る。
比べ物にならないほどに違う触感や形。首や顔、それどころか手や腕さえも、一晩前のそれではなかった。
下へ下へと手を伸ばす。
・・・―《肩》、
・・・・―《胸》、
・・・・・―《腹》。
もうそこまで来ると、自分が今どんな姿になってしまっているのかが、嫌でも把握できていた。
「・・・・キミは・・・。」
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何の前触れもなく、俺は人間になっていた。
「・・・・―じゃあキミは、本当にあの幼竜・・?」
訝しげに見つめられる。信じられない気持ちは十分に分かる。
久しぶりの《喉》でその使い方を忘れているのか、単純に声帯が発達していないだけなのか、俺は未だ喋ることができていないため、大きく頷いて肯定した。
あれだけ自分で驚いていおいてアレだが、正直自分自身、人になったことについてはそこまで違和感はなかった。それよりも重大な問題があったからだ。
「・・・・女の子、・・・だったんだ・・。」
大きく項垂れる。『違う』と言えないのが、ただただ悔しい。
廃屋の割れたガラスに反射して見える俺の身体は、正に絵に描いたような《幼女》だった。
前世で言えば、大体小学生~中学生ほどの容姿の彼女の服ですら、少し大きく感じてしまう俺の今の姿は、自分で言うのもあれだがとても可愛い。小竜の姿もそうだが、そこら辺もう少しどうにかならないものなのだろうか・・・。
・・・―というか、何故女なのだろうか・・・。
今一度、よくよく自分を観察してみる。
肌の色や顔の形は、姉妹と言っても疑われないほどに少女と似ていた。
そうなると、薄灰色のこの長い髪や紫色のこの瞳は、白髪に水色の瞳の彼女と、灰色の鱗に緋色の瞳の小竜の色が混ざっている、・・・・ってことなのかな?
小竜の要素はまだしも、少女の要素が、要素どころか基盤となってしまっているのはさすがにおかしい。
(これは、この子が何かしたに違いない・・・。)
・・・・―そうも思ったが、彼女が起きた時の反応や行動は、明らかに俺を認識していない様子だったので、可能性は薄いだろう。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
(頭が痛い。一気に色々と考えすぎたか?)
頭を抱え、廃屋から外に出る。途中、少女が何か喋ったような気がしたが、あいにく今は頭がオーバーヒートしていたので、脳を素通りして片耳へ抜けてしまった。
とぼとぼと歩いていると、いつの間にか河原にまで来ていた。
特に目的があって来た訳ではなかったが、・・・どうせなので顔でも洗うことにする。
河原にかがみ、そっと清流を手ですくう。
肌で感じる透き通った冷たい水は、硬い鱗で覆われていた昨日までは感じられなかった、新鮮で懐かしい感触だった。
そのまま、すくった水を勢いよく顔に当てる。
パシャパシャと顔に当たる。自分の煩悩を洗い流すかのようでとても気持ちがいい。
顔に水が当たることもまた久しぶりだったので、その分爽快感や新鮮味を感じていた。
(・・・・さて。そろそろ考えるか、・・・・これからの事を)
パンパンと軽く頬を叩き、気持ちを引き締めさせる。憂鬱な気分はそれだけでも十分に吹き飛ばすことができた。
そんな気持ちの切り替えをしたところで、ふと、水面に映った自分の姿が目に入る。
薄灰色の超ロングな髪も、紫色に光る瞳も、前世では染色やカラコンなどをしないとできない色のはずなのに、何故かとても自然に見える。この世界ではむしろ黒髪黒目の方が異色だったりするのだろうか・・・・?
(・・・・って、身体のことはもういいんだ!)
今更嘆いたところで、何が変わる訳でもない。未練たらたらな自分にそう言い聞かせ、立ち上がり川に背を向けた。
「・・・・。おあ!」
決して何かに驚いた訳ではない。「よし!」。そう意気込みたかったのに、口から出てきたのはやっぱりそんな腑抜けた声だった。
「はぁ―・・・・。」
・・・・―あっ、ため息は思う通りなのね・・・。
・・・あ、でも『喋れない』ってのは大きいな。コミュニケーションが取れないってのは大分問題なはずだ。
この世界の知識に疎い俺には、地面に文字を書いて意思を伝えることもできない。
文字がダメなら絵を描いて、・・・もしくはジェスチャーやなんかで、
・・・いや、意思疎通に疎い彼女に、果たしてそれが通用するのか・・・?
・・・・―答えは、言わずもがな。
(八方塞がりじゃねーか!)
心の中でそう叫びながら、悶えるように頭を抱えた。
こんなところでつまずいているとは、・・・この先のことが思いやられる。
「・・・・キミ・・・。」
「っおあ!!」
背後からの突然の声に、心臓が跳ね上がる。思わず叫んでしまった。・・・今回は驚きの声だ。
犯人はもちろん少女である。気配を消すのは彼女の癖のような物なので、悪気がある訳じゃない。しかし、何回もされているとさすがにこっちの身が持たないので、そろそろ本気でやめてほしいところではある。
こっちのそんな心情も全く考えない少女は、おもむろに口を開いた。
「キミはまだ、何も知らない。」
「ん。」
「私はまだ、何も教えられてない。」
「ん。」
「・・・・だから、キミにはこれから色んな事、教えようと思う。
一人でも生きていけるように・・・」
「ん?」
最後の言葉に少しだけ不穏な何かを感じたが、面倒なので聞くのは止めておこう。
「・・・・―だから改めて、これからよろしく。」
少しだけ、ほんの少しだけ彼女の表情が和らぐ。俺もそれに釣られて、少しだけはにかんだ。
・・・少女の笑みに少しキュンときたのは内緒だ。
「あい!」
まあいいか。ここは何が起こるか分からない未知の世界なんだ、今を楽しもう―・・・・。
なんとか投稿は間に合いましたがどうでしたでしょうか。
急展開というか、ただただ強引なだけになってしまったような気がしなくもないのですが、楽しんで頂けていたら幸いです。
名前は・・・次回出ます。多分。
次回もまた、よろしくお願い致します!