旅の終着
お知らせ
物語にまったく関係のない話ですが、本作のあらすじが結構ネタバレだったことに今更気付いたので、最初の一行以外すっぱり切らせていただきました。
「ふぁぁ・・・、・・ん?」
朝の静けさの中、少女が目覚めた。
半目の開いた無愛想な顔は、いつもと変わらないように見えて、何となく眠そうにも見える。
「キュ!」
「・・・おは・・よう・・? ここは・・・」
混乱しているのか辺りを見渡す少女。ここが野営地だと気付いた彼女は、ふと自身の身体を見た。
「・・・服、・・キミが?」
「キュウ!」
頷いて肯定する。一瞬訝しげに見つめられるが、納得したのかすぐに俺の頭を撫ではじめた。
「・・・キミは本当に、頭がいい。」
褒めてくれているのだろうか。彼女はいつもの無愛想な顔を崩して、静かに微笑んでいた。
・・・その顔が少しだけ悲しそうに見えるのは、俺の気のせいだろうか。
「・・・そろそろ、終わる。」
撫でる手を止め、彼女はそんなことを言った。
『終わる』というのは、この旅がという事だろうか。だとすると、なんだか感慨深いな。
長かったこの旅の終着点は、一体どんなところなんだろう。ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
思えばこの旅では一度も人と会っていない、・・・・というより、避けているような気がした。
飛べるようになってから、何度か遠目に薄らと街が見えたことはあったが、進行方向に街があると決まって遠回りして避けていたり、いったん引き返していたりしていたのだ。
・・・・となると目的地も、人のいる場所ではないのだろうか。
想像もできないが、どちらにしろついていくと自分で決めたうえ、彼女は俺の事について何か知っているようなので、それが分かるまでは傍にいるつもりだ。
昨日の残りで朝食を済ませた俺たちは、支度も手短に出発した。
いつものペースで行けば余裕で到着できる距離らしいので、今はいつも通りの気ままな旅路である。
「・・・・。」
いつもと同じであまり喋らない道中だが、何故か今日だけは、その場になんとも言えない空気が流れていた。
言いたいことでもあるのか、何度か視線をこちらに当てるが、すぐに逸らしてしまう。
そんな彼女らしくない行動に小首を傾げていた俺だった、が―・・・
(そこまでおかしくはないの、かなぁ。)
昨晩と今朝の事が強烈すぎて、あまり違和感は感じられなかったりもする。
しばらくすると、意を決したのか少女が口を開いた。
「・・・そういえば、キミにまだ何処に行くのか、言ってなかった。」
「キュ!」
話題が欲しかったのだろうか。取ってつけたかのような台詞を口にした。
俺も丁度知りたかったことなので、乗ることにする。
「これから行くところは、とっても小さな村。」
「キュ?」
「・・・人はいない。『廃村』って言うのかな?」
村に行くと言われ驚くが、人が居ないと聞いて少し安心した。
(・・・でも、なんで廃村なんかに向かってるんだ?)
旅の途中、一度だけ無人の集落を野営地にしたことはあったが、寝床にする以外特に何をするわけでもなくそのまま立ったので、おそらくどこでもいい訳じゃないのだろう。
(・・・なにかしら思い入れのある場所、・・・ってことかな?)
そう考えていると、まるでそれに答えるかのように、少女が呟いた。
「・・・・私の、故郷。」
「・・・・・。」
『故郷』。そのフレーズに言葉が詰まる。
生まれ育った場所が、今は廃村になっている。そんな話をされたら、誰だって気まずくなるだろう。
「キ、キュゥ・・・・」
「・・・・キミは、・・・心配、してくれるんだ・・。・・・本当にいい子。」
そう言って、また撫で始めた。相変わらず感情の読みにくい少女の言葉。だったが、何故か最後の一言だけは、何か複雑な心境が垣間見えた気がした。
少女はその後、この話を機転に様々な事を話しかけてきた。
昔行ったことのある場所、そこで食べた物。自分の戦闘術や魔法の話なんかもしてくれた。
その場で思いついたことを話す他愛のないお喋りだったが、珍しく次から次へと話を進める少女に、俺は少しばかり新鮮味を感じていた。
いや、新鮮味を感じているのは少女にばかりではないのかもしれない。なにか、他人と話す事自体が新鮮なことのように感じる。
俺の前世の記憶は、その大部分が酷くぼやけている。人間関係に関しても、例に漏れずあまり詳しいことは覚えていない。
現状の事ばかりであまり考えてこなかったが、これを機に少しづつ自分自身のことについて究明していこう。
そんな決意をしたところで、ふと、少女は何か思い立ったかのように手を止め、少しオドオドとした様子で再び口を開いた。
「・・・キミ。・・私の事、どう思ってる?」
そんなことを聞かれ、真っ先に頭に浮かんだのは、今朝言われた言葉だった。
『「・・・キミは、・・・キミはきっと、私を恨む。・・・いや、恨んでる。」』
あれは結局何のことだったのだろうか? いや、何であったにせよ、そんなことを言うということは、そうであって欲しくない・・・・、そう思っているのではないだろうか。
そう悟った俺は、少女の胸元に頬をすり寄せ、嫌いではないアピールをしてみせた。もちろん嘘でも気休めでもないが、微かに残っている羞恥心からか、少し抵抗があったりなかったり。
「っん、・・・・。」
少し驚いたような素振りを見せた少女だったが、すぐにまたいつも通りにもどっていた。
・・・俺の返答がよほど嬉しかったのだろうか。彼女はいつも以上に強く俺を抱き返していた。かなり痛い。
少女との時間は、限りなく短く流れていった。
撫でられたり、話しかけてきたり、・・・もちろん、何もせずただただ歩いているだけの時間も。
気付けば空は赤く染まり、辺りは段々と暗くなってきていた。
少女の話では、日没までには余裕で到着する距離だと言っていたので、そろそろ見えてきてもおかしくないはずだ。
そんなことを思っていると、案の定予想通り木々の隙間から、何やら建物のようなものがちらほらと見えて来はじめた。
「キュウ!」
「・・・ん、あそこが、終わり。」
少し身を乗り出して柄にもなくはしゃぐ俺に、そう答える。
間もなくして俺たちは、この旅の終着点である廃村に辿り着いた。長いようで短いようで、やっぱり長かった旅は、その村に一歩踏み込むことで、あっさりと終わりを告げた。
「・・・キュ、キュウ・・・」
言葉にならない感情に、低い呻きを漏らす。
廃れた集落の人気のないその外観は、何とも言い難い寂しい感じだった。
しばらく村の入り口に立ってぼうっとしていたが、不意に一瞬、体がグラつく。
俺、いや、少女が身体のバランスを崩したのだ。
いつもの彼女ではあり得ないことに驚いたのも束の間、少女は前のめりになり、そのままうつ伏せで倒れてしまった。
一瞬にして視界が真っ暗になる。少女の下敷きになってしまった俺は、急いで彼女の下から這い出ようとするが、腕の力が相変わらずなので、抜けようにも抜けられない。
何とか力業で少女の腕から逃げると、念のため少女の腕を触り脈を測る。自分の肌が鱗なので分かりずらかったが、しっかりと脈は確認できた。
ホッと息をついて腰を降ろす。少女の身体は、未だ死んでいるかのように微動だにしていないが、息だけは少し上がっている。顔も心なしか少し苦しそうに見えた。
額には汗も滲んでいるが、身体の強い彼女が風邪をひくはずがない。原因はほかにあるはずだ。
・・・とりあえず、こんな場所で横にさせたままなのもあれなので、場所を移動させることにした。
日が沈みかける頃、今朝のように尾で少女を巻いた俺は、パッと見で一番損傷の少ない家屋に彼女を避難させた。
(これで少しは楽になるといいんだが・・・。)
適当な布を水で濡らし、少女の額に当てる。が、安静にさせているはずの彼女の容体は、時間を追うごとに悪化していた。
次から次へと流れ出す汗、徐々に荒くなる息。少女のそんな姿を、俺は眺める事しかできなかった。
(・・・せめて、人の身体だったら・・・)
叶わない願いなのは重々承知の上だが、『この手がもう少し長ければ』『この身体がもう少し大きければ』、そんなことばかり思い浮かんでしまい、どうしてももどかしくなってしまう。
力も強いし、空も飛べる。そんな身体でも、もっともっとと欲しがってしまう俺は強欲なのだろうか。
(・・・そうなの・・かも・・な・・・・・。)
今日はいつも以上に色々なことがあったからか、こうしているといつもより瞼が重くなってくる。
藁を敷いただけの簡易なベッド。その上で横になって眠る少女を看病していたはずの俺は、いつの間にか少女の横で寝息を立てていた。
いい加減名前を出したい・・・。十話もやってて、未だ主人公の名前すら出ていないことに、危機感を覚えていますが、そろそろ出ると思うので許して下さい・・・。
次回からは、マンネリ化していたこの話に急展開(?)がおとずれます! 乞うご期待!
今後とも、もよろしくお願いいたします!