榎田歩実⑨
翌日から冬季補習授業が始まり、部活はそのあと。
榎田さんは、かなり恥ずかしそうにしながら俊介に昨日のハンカチを渡していた。
俊介のほうは、ぶっきらぼうに「ありがとう」と言ってそれを受け取っていて俺たちはその俊介を囲む。
綺麗にアイロンが掛けてあるのは屹度、榎田さんが自分で掛けたんだろうと思った。
柔軟剤の香りなのか、ラベンダーの香りもほのかに漂う。
”あの、くしゃくしゃだったハンカチがこんなに立派になって帰ってきた”
俺たちがひとしきり見たあと俊介がそのハンカチをズボンの後ろポケットに捻じ込もうとしたので慌てて、上着のポケットに丁寧に入れるように言うと、チョッと面倒臭そうな顔をしたがそれに従った。
いつもは空いた俊介を見つけては「阿久津君」と声を掛けて対局していた榎田さんだったのに、この日は何故か榎田さんから声を掛けることは一度もなくて、俊介のほうは普通に榎田さんの空いているときをみて対局を申し出ていた。
榎田さんはかなり俊介のことを意識していると思って、ハンカチに付けられた香り。
つまりラベンダーの花言葉を調べてみた。
*** ラベンダー * 花言葉 ***
* 『あなたを待っています』『繊細』『清潔』『優美』『期待』『幸せが来る』『許し合う愛』『疑い』『不信』『沈黙』 *




