寒い朝②
本田との話を終えて教室の中央へ目を向け、お目当ての秋月穂香詣でを済ませてA組の教室をでると廊下には大勢の参拝客で溢れていた。
F組の自分の教室に向かう途中、榎田さんのことが気になってD組の閉められた扉の前で足を止める。
教室に入る生徒が扉を開けたとき、直ぐ傍の机で本を読んでいる榎田さんを見つけた。
少し前かがみで上体を斜めに傾けている姿は将棋をしているときと全く同じ姿勢で不思議とホッとするものを感じながら見ていると教室の中から「早く閉めろよ!」という声が聞こえてきた。
榎田さんがその声に反応して扉の方向を見たので目があってしまう。
さっき教室に入っていった生徒が、その視線の間にひょっこりと割って入り「なんかようですか?入りますか?入りませんか?」と聞いてきたので「くしゃみが出そうで立ち止っていただけです」と謝ってその場を離れた。
放課後、少し送れて部室に着くと、その榎田さんは俊介と対局していた。
本田が直ぐにやって来て「言われて見るとあの二人好い感じだよな」と言ってきたが俺には少し腑に落ちないところがある。
確かに俊介は最近よく榎田さんと対局するし、対局している二人は楽しそうに見える。
でもそれが恋かと言われると何だか違う気がしてならない。




