日の出⑥
境内のもっとも南東の端では三年生の先輩達がカウントダウンを始めていて、その少し横にいる二年生のうち部長でも副部長でもない二人はそれぞれに双眼鏡を構えている。
あんなもので直接太陽なんか見て失明するんじゃないかと心配になったが、三木が「あれは太陽観測用にフィルターが付けられているから大丈夫だよ」と教えてくれた。
渋々参加している部長と副部長は、そのまた少し離れたところで詰まらなそうにしていた。
「おぉ~っ!!」
三年生が一際大きな声をあげたので、俺は周囲に向けていた目を太陽の上がってくる方向に戻す。
今にも産まれそうなくらい出てくる場所がドンドン明るくなっていて目を離せないでいると橙色に輝く太陽がニョッキリ顔を出した。
そして太陽が顔を出した瞬間に今迄薄暗かった景色や紺色の空は一気に明るくなっていく。
”あんなに小さく見える太陽がひとつ顔を出しただけで、この明るさは凄い!”
はじめて見る初日の出に感動していると、斜め前にいる榎田さんは手を合わせてなにか拝んでいた。
横を見ると俊介も本田も手を合わせて榎田さんと同じようにしている。
なぜか三木だけは太陽観察用なのだろうか、フィルターのついたオペラグラスを除きながら腕時計を構えて見ていた。
俺は三木のようにこの現象を科学的には考えないで、榎田さんたちと同じように”御来光”の御利益があるうちにと思って手を合わせて拝んだ。