アーツギア1話~そして転生~
【フロンティアアーキア】
"アーツ"と呼ばれる、生あるものすべてが持つエネルギ-を、祖として構成された世界。
多種多様な生物がいるこの世で、高い知性を持つ、人種はその賢さゆえに、日々争いを続けている。人という種族は世界や価値観、環境の違いの大小はあっても、歩む道のりは似たようなものだということだ。
長きにわたる争いの果て、他国を飲み込み、巨大化した2つの大国が覇権を争い、睨み合う、弱肉強食の世界。
これは、そんないつ戦争が起きてもおかしくない、混沌とした世界で、前世で成し遂げることのできなかった、己が欲を満たすために、迷い込んでしまった、1人の男とその仲間たちの物語である。
フワフワとした感覚が、徐々に無くなっていくのを感じる。すると同時に、聞きなれた声が聞こえてきた。
「おはようございます。ご主人様♪」
ぼやけた感覚で、目を開けると、見慣れた女性が、覗き込むようにこちらを見ていた。銀髪のボブヘア。そのサラサラした髪は左目を隠すように覆いかぶさり、あらわになっている右目は、金色の澄んだ目をしている。その整った顔から向けられる笑顔は、まさに天使が抱擁してくれるかのような優しさであった。
彼女がいるということは、女神に頼んだ"セーブデータの引継ぎ"をやってくれていると考えて、まず間違いはない。
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【エクスファンクションドール】
通称"EFD"と呼ばれる、人間とほとんど変わりのない容姿、感情を持つ、超高性能AIを積んだ、戦闘用多目的型アンドロイドのことだ。
ホプリスマギアというゲームの目玉である、アーツギアと双頭をなす存在。同じEFDは1つとして存在しないというのが売りだ。ゲーム内では、「戦闘特化型」「支援戦闘型」「汎用戦闘型」など種類は様々あり、アーツギアとリンクすることによりその真価を発揮する機体の一部でもあった。下級のEFDはショップなどで、購入することができた。
その中でも、上級以上のEFDは特殊技能と呼ばれる発動条件があるが、非常に強力な特殊能力を持っている。そんなEFDは「塔」と呼ばれる特殊ダンジョンの守護者という設定があり、倒すことにより仲間にできた。中でも最上級クラスのEFDは12体しか存在しない。それらは12星座に由来する名前のアーティファクトを持ち、その強さは想像を絶するものだ。しかし「塔」はランダムで出現するため、非常にレアな存在なのである。
その苦労から生まれる絆も相まって、ソロプレイヤーにとってかけがえのない、パーティメンバーのような存在であり、最高の相棒なのだ。俺にはメインで行動を共にしている、3人のEFDがいる。その1人が目の前にいる彼女、"ゼロ"なのだ。
最上級の12体の1人で"ジェミニ"のアーティファクトを持ち、俺が攻略した塔で、初めて仲間にした守護者だった。
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「他のコたちは、一緒じゃなかったのか?」
「はい、2人ともピンクの髪の女の子と一緒に、この教会の周囲を調査に行きましたよ。」
頭の中に、暗闇の世界にいた時の記憶がよみがえる。ピンクの女の子。何の確定情報もないが、シニーであると確信した。
そんな考えを巡らせていると、出入り口に見たことのある、ピンクのアホ毛が左右に動いているのが見えた。あちらもこちらに気づいたようだ。
「あ、気が付いたみたいですね~」
当たった。
彼女を見たとたん、妙な懐かしさと安心さを感じてしまった。あそこにいた間、それも、女神が来てからは、どこにいたかすらわからないのに、だ。
「おかげさまでな、というかシニー、お前は何でここに?」
「えーっとですね~、お母様の命令で、無事に転生したかを確認するように言われていたのです」
神という立ち位置のものが、こんな何食わぬ顔で堂々と人間界に干渉してもいいものなのか。こいつの場合は死神だが。
「それに、です。この教会はお母様、女神カタリナを崇拝する聖堂なのです! つまり庭みたいなもんなので、ここに来てもらえればいつでも会えるのですね~」
それを聞くと、無意識に、さわやかな笑みを浮かべてしまう。このシニーといると生まれる、妙な安心さのせいだろうか。
シニーは続けて、俺が使っていた、アーツギアや武器諸々等を引き継いで、この地下に置いてあることを伝えてくれた。確認するため地下に行く準備をしていると、教会の出入り口から2人の人影と、またも聞き馴染んだ声が聞こえた。
「シニーったらまったく、急に飛び出したと思ったら先に帰っているなんて。あら、マスターお目覚めになられたのですね」
「まぁまぁハク姉、そう怒るなって~。お! 兄様、おっはよう!」
挨拶がてらに、手を振ると、こっちまで走ってきてくれた。彼女たちが残りの2人。これでメンバーがそろったわけだ。"ハク"と"イージス"。もちろん彼女たちも最上級EFDである。
"ハク"
白髪のロングストレートヘアで褐色の艶やかな肌が、互いの美しさを掻き立てる。”レオ”のアーティファクトを持ち、その大柄な体つきも、戦闘特化型のEFDであることは一目瞭然である。実際に単体のパワーは、EFD随一という設定だ。だがその強く、威圧感のある見た目とは裏腹に、基本、誰に対しても礼儀正しく接し、丁寧な口調で話すため、その印象に驚く者も多い。
そんな彼女の隣にいるのが、
"イージス"
紅い色のツインテールは、体の半分近い長さである。ハクの隣に立っているということもあるが、その見た目は、はっきり言って子供だ。それでも"サジタリウス”のアーティファクトを持つ、支援戦闘型の優秀なスナイパー? である。
たしかに、優秀ではあるのだが、問題は見た目だけでなく、頭の中も子供ということだ。
基本的にEFDというのは守護者として、その為に戦闘をする事を本能に組み込まれている。従者化した場合は、守護する対象が塔から主人に移行し、何より守り、仕えることを最優先するようになる。なのだが、彼女の場合、塔という'枷'がなくなり、より戦闘欲に忠実になってしまったのだ。
戦闘狂というのは、ゲームの中ではまだよかったが、この世界で面倒を起こさないとは限らない。よくよく考えてみると、不安な点がいくつか見つかる。だが今の俺にとっては些細なことにしか感じなかった。
それよりもワクワクしていたのだ、またこのコたちと、この世界で生きていける。しかもこの地下には、俺の愛機であるアーツギアが眠っているのだ。
「みんな集合してくれ、地下に降りるぞ」
シニーはその合図とともに、女神の像をずらし、現れた階段を下って行った。それに続くように俺たちも降りる。すると、この教会がいくつも入りそうな大きさで、かなりの分厚さの鉄板の壁があった。よく見ると、壁の真ん中に繋ぎ目があり、上下開閉式ハッチのようなものであることがわかる。これにも見覚えがあった。
「これの中にですね~、引き継いだものが入っているはずなのです~」
俺が近づくと、機械音声が認証を開始し、クリアというセリフとともに、ハッチが開く。中には、右の整備エリアにアーツギアが5機と、左の格納エリアには中型の装甲輸送機があり、整備エリアの隅には武器庫があった。
俺が使っていた、隠れ家の格納庫を完全に再現してくれている。
それからというもの、我を忘れたように、格納庫の隅々まで、動き回り、懐かしさに浸ったのだった。気付いた時には、俺は整備エリアにある仮眠室で横になっていた。
「そういえば、ゲームの中じゃないんだよな」
あの後、テンションが上がり、格納庫を見て回っていたのだが、急激な睡魔に襲われ、仮眠室に入ったのだった。
一眠りすると、昨日のテンションが嘘のように、冷静になっていた。
「これからの方針を考えなきゃな」
確かにホプリスマギアに非常に酷似した世界ではあるが、違う点があって当然だ。生きていくためには、とりあえず街か、どこか人気のある場所に出て情報収集する必要がある。武器庫に隠してある、お金が使えない場合も考えて、金銭を稼ぐ手段も考えなければ。そんなことを考えながら起き上がる。ベットの隣に置かれた机の上に、置手紙らしきものがあることに気付いた。
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みなさんへ
私は仕事が入ったので、戻るのです~
ここに来てもらえれば、また会えるのですよ~
それではです~
シニーより
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日本語ではない字。それなのに読むことができるのは、不思議な感じだ。ホプリスマギアで使われていた字に似ている気がするが、あれはシステムが脳に直接理解できるようなプログラミングが組まれていた。そのために理解できていが、この世界で言葉が理解できるのは、女神のおかげといったところだろうか。
仮眠室を出ると、3人とも各自の機体を整備していた。彼女たちに集合をかけると、同じエリア内の休憩室に足を運び、朝考えたことを簡潔に伝える。
「まぁ色々とやることがあるわけだが、とりあえず、街に出て情報収集をする必要がある。物資の確認もできたことだし、準備ができ次第でるぞ」
彼女たちは、各々の頷きを見せると、部屋を出て行った。部屋に静寂が訪れると、とりあえずシャワールームへと向かった。すっきりとした気分で、ふと洗面台の鏡を見てみる。そこには黒髪の冴えない青年ではなく、深い鮮やかな蒼髪、蒼眼の少年が立っていた。
自分で見ても第一印象は、冷たく落ち着いた表情をしている。だがその表情の奥には不思議と負の感情ではなく、希望などといった明るい感情を感じる。あくまでも自分自身の感想だが。
戦闘用の服に着替え、黒のローブを羽織る。武器庫からは主戦闘用とバックアップ用の、ハンドガンを1丁ずつ、ホルダーにしまうと、最低限の必需品と換金できそうなアイテムの入ったバックを持ち、整備エリアへと向かった。
「ゼロ以下3名、出撃の準備はできております。ご命令をご主人様」
そこにはローブに身を包んだ、3人の相棒たちが、片膝をつき頭を下げていた。ローブごしに伝わる、戦闘装備は強い安心感を覚えさせた。
「よし、じゃあ行くとするか!」




