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アーツギア  作者: 鷹ノ宮アルフ
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アーツギア~プロローグ2~

アーツギア プロローグ2


 俺の名前は新川優斗、ゲームが趣味の、ごく普通の会社員。朝起き、仕事をし、帰ってゲーム。そんな何気ない毎日。周りからは「つまらない人生だな」などと揶揄やゆされることもあったが、この当たり前の毎日、この生き方に満足していた。


【ホプリスマギア】


 俺の心を奪い、人生の全てとも言える存在。


 俺がこいつに出会ったのは、忘れもしない中学3年の終わりの時だ。中高一貫に通い、暇を持て余していた俺はこのゲームに吸い込まれるように惹かれた。


 世界観、戦闘システム、何から何まで新しく、特にアーツギアと呼ばれる人型兵器を使った戦闘には鳥肌がたった。まさに自分の望んだゲーム。そんな存在であるこのゲームにのめり込んでいった。それからというもの、毎日のように入り続け、気づけば10年の時が経っていた。ゲーム内では"死神"なんて二つ名をつけられているが、リアルでは冴えないおっさんサラリーマン。


 だが、そんな誰もが送る平凡な日常でさえ、唐突な終わりを迎えることがある。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 俺はその日もいつもと変わらない、平凡で、それゆえに最高の1日を過ごす。……はずだった。


「次のニュースです。本日朝8時ごろ、歩道にトラックが突っ込む事故がありました。この事故で歩道を歩いていた男性がはねられ、病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。運転していたのは70代男性で『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』と話しているということです。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 暗い"空間"に、ぽつんと置かれたテレビが繰り返し、そのニュースを映し出す。その眩しい光が俺を照らし続けていた。


 どうやら俺は死んだらしい。


 頭では理解した。ただどこかでその事実を受け入れることができずにいる。抜け殻のように、ただ茫然とニュースを眺め続ける俺の耳元で"誰か"が囁いた。


「汝、輪廻の解に選ばれん」


 女性の声だろうか、高い透き通る声だ。その声で我に戻った俺は思わず声を上げた。


「誰だ!」


 その問いに答えるように、"それ"は俺の前に姿を現した。やはり声の主は女性、というよりは少女といったほうが的確だろう。ピンク色のショートヘアの子、ぴょんと寝癖のようなものがついている、あれがアホ毛というやつか。


 さっきの透き通る、きれいな声を出した主とは思えない、元気で活発そうな印象を受けた。そんなことを考えているうちに、目の前の少女が喋りだした。先ほどの女神のような声が幻だったかのような、少女の声だった。


「いや~、1回言ってみたかったんですよね、このセリフ!」


 彼女はそのまま、嬉しそうに小一時間、どうでもいい話を続けた。


「あのー、ちょっといいか?」


 耐えかねた俺は彼女の話を切ると、我に返ったように、落ち着いた声で話を再開した。


「ごめんなさいです、初めての仕事でテンション上がっちゃいましたのです。あっ、申し遅れましたです! 担当のシニー・デスカです! とりあず手続きを済ませてしまいますですね~」


「手続き?」


 この状況に、死んだということ以外わかっていない俺は、素直に疑問に思った。


「えーっとですね、全世界線の秩序と安定を保つため、死神協会の定めで、あなたは死んでしまったわけなんです。なので、どの世界に輪廻転生するかの手続きとですね、あと120%の確率であるわけのないことですが、手違いがないかの本人確認ですね~」


 俺の目の前で、どこから取り出したのかわからない、カンニングペーパーのようなものを読みながら伝えてくれた。


 俺は死んで、戻れない。覚悟を決め、手続きの開始を促した。


「てなわけで! それでは、確認するです。種族は人間、所属は地球の日本……」


 名簿の項目をシニーが淡々と読み上げる、それに俺は頷きを見せた。


「名は笹蒲鉾慶次郎で……」


うんうん、ん?


 その瞬間、時が止まったような感覚に陥った。


 理解が追い付かず、放心状態になる。少し時を空け、冷静さを取り戻したのを自覚したのち、口を開いた。


「ちょ、ちょっとまて、名前、名前なんていった?!」


「へ? 名前ですか? 笹蒲鉾慶次郎ですよね?」


 すっとぼけた態度で答えられる。ていうか、笹蒲鉾ってどんな苗字だよ。


「じゃなくて、おい! その名簿ちょっと見せてみろ」


「あ! 急に取らないでほしいです~!」


 取り上げた名簿をめくっていくと、"例の名前"とその下に俺の名前があり、"例の名前"の横には血判のようなものが押されていた。


「なぁ、これって読む場所間違えたのか? お前の読んでいた名前の下に、俺の名前があるんだが」


「ふぇ? どれです?」


 手に持った名簿を覗き込むように見ると、先ほどまでのヘラヘラした表情が、一気に強張った。


「えーとですね、これはですね、まちが…」


「120%間違いはないんじゃなかったのか?」


 彼女の言葉に食い気味に詰め寄ると、泣きそうな顔になりながら、少し黙り込んだ。その後沈黙を破ると、開き直ったように、声を荒らげて答えた。


「あぁそうですよ! 間違えたんですー! 死神だって間違えることあるんです!」


「あーもういやです! せっかく雑用から解放されたですのに!」


「・・・・」

 

 なんかもう、わからない。


俺は無神論者だが、神の言う120%も信じられないなら、何を信じればいいのだろうか? というより俺はどうなるんだ?


 そんなことを考えている俺をよそに、あいつは1人慌てていた。どうやら上司がいるらしい。そりゃそうか。新神しんじんがいるということは、ベテランもいる。考えの整理がついた俺はあいつに今後の処遇について質問した。


「じゃあ俺はこれからどうなるんだ? 日本……元に戻れるのか?」


「それは無理でございます」


 落ち着いた、男性の声がその問いに答える。


 初めて聞く声だ。あたりを見回してみると、この世の終わりのような表情をしたシニーがいた。その目線の方に顔を向けると、礼服に身を包んだ老紳士が立っていた。


「まずはこちらの不手際を謝罪させて頂きたく存じます」


「誠に申し訳ございませんでした」


 老紳士は深々とお辞儀をすると、慣れた口調で今後について話した。


「先ほど申した通り、元には戻れません。というのも、今地球は人気で輪廻転生待ちのものがいっぱいなのです。今回の件は明らかにこちらのミスでございます。ですから"空きのある"お好きな世界にすぐ転生していただこうと思います。もちろんあなたの望む完璧な状態で--」


「じゃあ今すぐ地球に転生してくれ」


 俺の放ったこの回答に、老紳士はもちろんシニーまで、こいつは馬鹿かといわんばかりの顔でこちらを見ていた。


「申し訳ございませんが地球への転生は200年待っていただくことになりますが、それでもよろしいでしょうか?」


「無理だ今すぐ頼む」


 俺はかたくなにバカな返答を繰り返した。元の世界、俺のすべてのある世界に戻りたい、その希望が少しでもあるかもと思っての駄々こねだ。そのあとも老紳士は俺に色々な世界を紹介してくれた。しかもチート、いや、それ以上のオーバーすぎる条件で。


 だがそのすべてを一蹴していった。


「それなら、このレリクスという世界はどうでしょうか?真聖神と大魔王の力を持つ、魔導剣聖として……」


「いやだ、元に返してくれ」


 このやり取りを長いことしていたが、脇でおとなしく見ていた、根源のシニーが突っかかってきた。


「こんな厚遇条件、ほかの同況転生者たちなら喜んで応じるですのに~」


「何がそんなに気に入らないんですか~?」


 こいつのせいでこんなことになっているのにと思うと、感情的になり少し声を荒げた。


「俺はただ元の世界に戻りたいんじゃない、ホプリスマギアのある、俺のすべてのある、日本に帰りたいんだ!」


 2人は同時に同じ疑問を覚えた。


「ほぷりすまぎあ? ですか?」


 老紳士がシニーに目配せすると、またどこからともなく、タブレットを出してきて調べた。


「あったです。ホプリスマギアは、地球のDVRゲームですね。う~ん、この世界どこかで見たような~」


 老紳士はタブレットを横から覗き見ると、はっと何かを思いだした様子で、とある提案を俺にしてきた。


「もし、この世界に似た世界があれば、そちらに転生していただけるでしょうか?」


 この提案に俺は少し考えたが、結論が出るのにそう時間はかからなかった。


「それであれば妥協しよう。本当にそんなそっくりな世界があればの話だがな」


 挑発的な態度で、言ってみる。


「おお! それはよかった。仕事を思い出したので、それでは私はこれで失礼させていただきます。あとはシニー頼みましたよ」


 疲れているように見えながらも、どこか確信した様子でシニーに任せる。その後深々とお辞儀をしてから、暗闇に消えた。完全にいなくなったのを確認したシニーはホッとした様子で砕けた態度に戻る。


「よかったです~怒られるかと思ったのですよ~」


「それで、あるのかよ。さっきのベテラン死神さんの言ってた場所は」


「死神協会の管轄地域には調べた限りないのです。ですが、先輩が私にこの案件を続けさせたのは、お母様に連絡しろということなのです~」


 シニ―の話を聞いてみると管轄地域ごとに協会があるらしく、母親である女神カタリナの管轄する世界に、似たような世界を見たことがある。ということらしい。


「それじゃあ連絡してみるですね~」


「その必要はありませんよ」


 優しく全身を包み込むような声。その主がこの暗闇の世界に、まばゆいばかりの光をまといながら現れた。プラチナブロンドのロングヘア、白い肌に、優しい笑顔。まさしく女神と呼ぶのにふさわしい姿だ。


「話はオズウェルから聞きましたよ。シニ―」


「ふぇです? 先輩からですか~? 任せたのは、私から連絡しろってことかと思ったのです」


 シニ―の疑問に女神が答える。どうやら、普段は協会間の案件は委託できないが、この件には色々あっちの事情があるらしく、担当区域を超えて女神である彼女が来た。シニ―に任せたのは、投げやりではなく、ただの場繋ぎだったようだ。


 シニーとのやり取りを終えると、本題に入った。


「娘が本当に申し訳ありません。協会の決まりで、特別な場合を除いて、名乗ることはご法度なのですが……」


 ちらりとシニーを見るとそのまま続けた。あの丁寧な老紳士が名乗らなかったのも、納得だ。


「私の名前は女神カタリナ、こちらに非がある場合、決まりに乗っ取って、生活、地位、力、そして生きることのできた年月間の命。これらすべてを保証して、管轄内空いている世界に転生していただく。そうなっているのですが、お約束した世界【フロンティアアーキア】は、管轄外に存在し、その世界に転生すれば以下を保障できません。本当によろしいでしょうか」


「ああ、だがどんな世界かは、見せてもらえるか?」


 そう提案すると、女神は小さくうなずき、この暗い空間全体に投影して見せた。


 鳥肌が立った。


 それしか言えない、というよりそれ以外感じなかった。そっくりすぎたのだ。あの世界に、【ホプリスマギア】に。


 小一時間ほどだろうか。俺は放心状態でその映像を見続けた。


 はっとしたのを見て、意識が戻ったと判断したのだろう。女神はゆっくりと話を始めた。


「女神である、私でも決まりを破ることは、決してできません。ですがこの件に関しては、私的、いえ、娘の不祥事でもあります。命の保証や特別な力など"約束"はできませんが、なにか1つ、望みをかなえさせてください」


 先ほどまでの優しい、すべてを包み込むような笑顔はどこかへ消え、とても真剣な表情をしていた。何か事情があり、女神という自分の立場がどうなってもいい、そういう思いが伝わってくる。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。俺のデータをそっくりそのまま引き継げないか?」


 それはホプリスマギア内のセーブデータをフロンティアアーキアにもっていけないかという提案だった。"1つ"という約束に当てはまるのかはわからなかったが、女神は、祈るような形をとった。どうやら俺のデータを調べてくれていたようだ。結果は条件付きの承諾。


「この内容であれば、ほとんど、そっくりに再現することが可能です。しかし一部のスキルに関しては、不可能です」


 持っていけないスキルというのは、チート過ぎるか、再現不能かのどちらかということか。女神は申し訳なさそうな顔をしていたが、俺にとっては、それでも十分過ぎた。また俺のやりたいことが続けられる。そう思うと、にやつきが隠せない顔になる。


「まさかこれがOKされるとは思わなかったな、ありがとう」


 この顔を見ても、まだ女神の不安と申し訳なさの、入り混じった顔は晴れない。


「確かに能力的には比較的高いといえます。ですが何の保証もされておりません。転生してすぐ、何かに巻き込まれて死ぬ可能性もあるのですよ?」


「もちろんだ、それじゃあ、転生してくれ」


 急かせるように、女神に言うと、硬い顔のまま、手を上にかざす。


「どうかご無事で」


 それと同時に、魔法陣が浮かび上がる。そこから発せられる、光に包まれた。


 フカフカとした羽毛布団に包まれているような感覚の中で、こっちに来てからの出来事を、思い出す。そういえばシニーはどこに行ったのだろうか。女神との会話を始めてから見ていない。元はと言えば、あの死神のミスが原因でこうなったのだが、今となっては感謝の気持ちも少なからずある。最後にお別れぐらい、言えばよかっただろうか。女神が言っていた通り、転生してすぐ、死にかけるかもしれない。もちろんわかっている。ゲームではトッププレイヤーだった俺も、ごろつき程度の実力という可能性も大いにある。

 

 だが、力なんてそんなものはどうでもよかった。ホプリスマギアにそっくりな世界でほぼ同じ状態。ただそれだけで、俺の願いは十分だった。


 ファンタジーな世界で最強? そんなのどうだっていい。俺の心を動かしたあの世界で、やり残したことをやり遂げる。たとえそれが、どんなに厳しくてもだ。


 俺が元の世界に戻ることを固執した理由。


 それは、あの世界で、個性的な人選、唯一無二のオリジナル装備、それでいて名が通る部隊を作り上げるということ。俺が10年かけて計画してきたことを実行に移す時が来たのだ。

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