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アーツギア  作者: 鷹ノ宮アルフ
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アーツギア14話~死神ジェミニ~


 地面の煉瓦をめくりあげながら、大通りを急いで進んでいく。この移動速度の結果かは定かではないが、道中攻撃にあうということはなかった。


「目標に到達致しました。これより戦闘に入ります」


 こちらももうすぐつく、そう返してから少し時をおいて現場に到着する。機体が余裕を持って動ける幅のT路地をうまく使いながら、接近戦を行う3機。ハッチを開けながらこちらへゆっくりと、近づいてくる2機が視界に飛び込んできた。


 イージスの報告から、到着するまでに苦闘があったことが伺える。2つの機体は重要パーツに目立った損傷こそないものの、切り傷と思われる痕が散見された。ジーナの機体はそれに加えて、かなりの装甲版が破壊されていた。


 こちらに気づいたアルが両手を大きく振って合図を送ってくる。通常走行に切り替え、一歩ずつ彼のもとへと歩みをよせた。


「援護感謝いたします!」


 会話が可能になったとたん、凛々しくもどこか不安げな様子を拭いきれない表情の彼が食い入るように言った。


「通信もままならず、連携できない絶望的な状況で接近戦に持ち込まれ……ハクさんが駆けつけてくれなければ、今頃やられていました」


「無事でなによりだ。2人とも門まで撤退できるか?」


「ええ、勿論です。……すいません、私が力不足なばかりに」


 あの元気さが印象的なジーナから、満身創痍という言葉が最も似合う声色が返ってくる。


「後は俺たちに任せてくれ」


 その言葉で2人の後を押し、俺は前に出た。


「ハク、敵の戦闘力はどのくらいだ」


「流石は名のある特殊部隊、といったところでしょうか。かなりの手練れの様ですが、近接戦闘においては私の敵ではございません」


「わかった。しかし、何があるかわからない。油断は決してするな」


 いつものように、丁寧な返事がくる。


「ここまで密着した状況であれば、敵の伏兵とて迂闊に火器は使用できまい」


 前傾姿勢になり、機兵用防盾シールドを胸を守るように構える。次に腰後部に取り付けられた、機体越しにも重量感を感じられるような、重型硬質剣ギアソードを、鋭い金属音を立てながら抜き取った。


 不思議とこみ上げてくる興奮を抑えつつ、三つ巴の戦いへと飛び込んでいった。


 高速移動で接近するこの機体を、感覚で察したのであろう。ハクは左から切りかかった敵を斧の柄でいなし、こちらへと向けた。


 生身の人間であれば、あれほど態勢を崩されれば、一撃をもらうことは必至であろう。しかし、アーツギアの制御装置は、瞬時に攻撃を防ぐ事の出来る状態へと移行させ、振り下ろした重型硬質剣ギアソードを、かろうじてではあるが受け止めたのである。いや、機体の性能だけではない。それを手足のように使うことのできる技量がなければ、これを止めることは不可能だ。


 特殊部隊というのは伊達じゃないらしい。


 振り下ろしたそれを受け止め続ける対象に、腕部出力を上げ、圧をかけていく。そんな我々の空間を確保するためか、目の前で激しい切り合いをするハクが、突然つばぜり合いを申し込み、奥へと押し込んでいった。


 ある一定まで出力が高まったその瞬間、剣の下で耐えていたものが消えた。その刃先は地面をめくり上げ、強く突き刺さる。一瞬何が起きたかわからなかったが、足元の痕跡から、ブースターを使ったのだということを理解した。


 それも最高のタイミングで、だ。


 この状況では普通、いくら高出力のブーストを使おうとも反応され、足か肩がやられる。だが、奴は動かすことのできない、最低限の力をかけた瞬間を狙って抜けることで、剣の着撃地点を予測したのだ。


 自ら火器兵器を捨て、殴り合いの接近戦を挑むだけのことはある。


 この一撃を切り抜けられるとは、正直思っていなかった。だが、今は焦りよりも先ほど感じた興奮が、さらなる高揚感となって自分を支配していた。


 次はどんな技術を見せてくれる?


 さながら、アクション映画のクライマックスを楽しむ少年のような気持ちで、言葉を頭に巡らせた。


 無理な姿勢で放ったブーストは、軸を安定させるためのエネルギーと時間を貪る。俺からそこそこの距離を離し、舗装路を捲り上げながらようやく止まった。本来なら、姿勢を崩して後退する敵に、追撃を入れない手はない。しかし俺は、それが万全の状態でもう一度向かってくるのを、ワクワクしながら待っていたのだ。


 ゲーム的思考が抜けていないなどという、つまらない話ではない。心の底から、こいつを使って技比べをしたい、ここで負けるなら死んでもいいと。そう、俺の中の何かが強く思ったのだ。


 命を握る力が増していく。対面から逆再生のように舞い戻ってくる戦士と一合目を交わした時、雷に打たれたような感覚が走った。傍から見れば、刃同士を当て合っただけでどちらの攻撃も成立していない。それなのに俺はこの一刀に、何かはわからないが、別の意味を感じ取った。


 そこからのインファイトは、見た目の激しさだけで、膠着状態が続いていた。的確に、有効打の取れる攻撃を仕掛けているはずなのに、寸でのところで対処される。かといって、集中を切らさない限りは奴の斬撃をもらうこともない。喜びと楽しさから、自身の攻撃ペースが上がる。それと引き換えに冷静さを失っているのもわかった。


 最後に残った思考力を使い、盾の耐久と持続力を削り合う、この不毛な戦いを打開する策を実行することにした。


 奴の縦振りを剣で受け流すと、すぐさま盾での体当たりを行った。予想通り、押し返されたが、それが狙いであった。反動を利用したバックステップで距離をとると、間髪入れずに左手の盾を投げつけた。


 盾を投げ、囮に使い視界を一瞬だけ奪う技。古典的ではあるが、かなり使えるやり方だ。しかし読まれ、次に繰り出す一撃が決まらなかった場合、圧倒的不利になる諸刃の剣でもある。


  あの世界ですらここまでのつわものと相対したことはなかった。そんなこれほどまでに熱くなる戦いにおいて、リスクを考えた冷静な行動などできるはずがない。持てる技、力に全てを尽くすことを心から楽しんでいた。


 すでに盾は投げられた後。ブーストを使い、高速で飛翔する鋼に追いつく勢いで直進する。次に起こったのは甲高くも重々しい金属が弾ける音であった。


 やった。音からも手ごたえからもそう確信した。


 盾が視界からはがれ、全てがはっきりと見えるようになる。頭部めがけて振り払ったはずの重剣は目標でなく、何故か左腕をとらえていた。


 何故だ! 反応速度は互角で、機体差はむしろこちらのほうが若干上のはず! 


 初動の振りも頭部をとらえていたのを確認したし、奴も飛んできた切り札をしっかり上に向かって弾いた! 狂いなく二つの攻撃は重なっていた。それなのに直撃の瞬間、左腕で防ぐなどありえない!


 この納得いくわけのない受け入れがたい現実に、敗北したという事実が覆いかぶさるように俺を襲った。俯くと、一瞬で頭を埋め尽くす死に、一言の声が響いた。


「おかえりなさい」


 優しい声だった。驚きに引っ張られるように、顔を上げる。すると、この声が聞こえたのは俺だけではないということが分かった。左手を失った奴も、右手をおろし、上の空を向いていたのだ。

 

 悔しさか、チャンスだと思ったのかははっきりとしない。俺は、勢いで左に流れた唯一の武器を、切り上げるように降り戻した。突然動いたこちらに奴は反応できず、渾身の一撃は、リベンジと言わんばかりに制御装置の詰まった脳へと吸い込まれていった。


 その瞬間は時が止まったような感覚に陥った。


 先ほどまでの死闘を演じていたものは、膝をついて停止した。


 この戦いが終わった達成感とこれほどの技術を持った存在を見たいという欲求から、真っ先に目をやったのはコックピットだった。しかし、注目した時にはハッチはもう開いており、もぬけの殻であった。


 その後の俺は放心状態で、その皮だけになった鋼鉄の塊を見つめていた。


「マスター、敵将を捕縛いたしました」


 次に俺を呼び覚ましたのは、勝利報告であった。彼女の言葉を理解していくにつれ、いつもの自分が戻ってくる。奴のことを聞けるかもしれない。そう思った瞬間動かずにはいられなかった。


 一目散にその現地に駆けつける。そこには、両腕頭部が破損した敵機が胸を突き出す形で止まっていた。コックピットから身をさらけ出すその者は、両手を上げこちらを睨み付けていた。望遠してみると、小太りの体格に禿げた頭と無精ひげの男。見た目はまるで山賊のようだ。さらに右目に付けた眼帯が睨みに拍車をかけている。


「抵抗しなければ、悪いようにはしない。それといくつかの質問に答えてさえくれればだ」


 男の威圧感に負けぬよう話しかける。俺の言葉にゆっくりと頷くのを確認すると、言葉を続けた。


「道中倒した兵士の紋章から、連邦の部隊であるというのはわかっているが、確認のためだ。所属と名前を聞かせてもらおう」


 男は辺りを一通り見回した後、怒号のような声で話し始めた。


「連邦軍第62特殊作戦大隊所属、マークスマ・インペル大佐だ。いや、だったというべきかな」


 含みのある一言に添えるような、不敵な笑みを浮かべる。


「今この時をもってこの部隊の存在はこの世から、連邦軍の公式記録から消える。そしてこの現場からもだ!」


 その勝ち誇った顔に、何かを感じたハクが突然、俺に向かってきた。


「マスター! こいつから離れて下さい!」


 彼女に守られるようにして、現場から離れていく。男が最後の一言を放ってからわずか数秒のことであった。


 目の前が白い閃光に包まれた。ここへ来てから嫌というほど聞いた、爆音の中でも特に大きいそれは、機体ごと男を地上から言葉通り消し去ったのである。ひしひしと伝わってくる振動に、呼び覚まされるように、広場と”奴”の居た場所で同じ爆発が起こった。


「やっと繋がったわ! だれか聞こえて?」


 焦りの中に、上品さが残る声がコックピット内に響き渡る。それにいち早く反応したのはアルだった。


「メリッサさん、無事でしたか!」


「ええ、突然通信装置がおかしくなったこと以外は、安全だったわ。開けた場所で監視していたから、工作兵も簡単に手を出せなかったみたい。そちらの状況も教えてもらえるかしら」


「ジーナと俺は機体の損傷だけすみましたが……救援に来ていただいたアモンさん達はあの爆発で……」


 言いにくそうな様子の彼に、勝手に殺すなと言いたいな。とはいえ、俺が向かった先で起きたあの光と音を、二つも目撃すればそう判断するのも分からなくはない。


「こちらアモン。ハク共に無事だ。ただ敵は自分から爆散したがね」 


「証拠隠滅ってところね~」


 俺からの報告を聞いたからか、時間が経って落ち着きを取り戻したからか、いつもの口調に戻った。


「これほどの戦闘と爆発が事実として残っている以上、本部との連絡は取らざる終えないわね~」


 軽い切断音が聞こえ、彼女が通信を止めたのがわかる。とりあえず、イージスとゼロからの報告を聞かなければ。


「ゼロ、イージス。状況の報告だ」


 先に返って来たのは、ゼロだった。


「敵兵と思われる者が複数名、逃走しているのを発見し、現在自警団が追跡中です。それ以外には、この近辺の市民は皆避難した様で、どの家屋にも人影は見当たりませんでした。以上でございます」


 こちらも落ち着くような声と内容に安堵する。心配であった爆発による人的被害は幾何かマシになりそうだ。


 そんな報告と真逆な声量で勢いのある内容が、耳をつんざいた。


「聞いてくれよ兄様! あいつらアリみてぇに群がって来やがったと思ったら自爆しやがってよ! 脚部動力機関と武器が使い物にならなくなっちまった!」


 いくら機体を手足の様に扱える彼女でも、自爆攻撃などというのは予想外で対処できなかったのだろう。



「本部から返答が帰ってきたわ! 戦略機動大隊の4名は報告のために早急に帰還すべし。その他負傷兵が存在する場合は同じく、残り作戦行動が可能な者は自警団と協力し、掃討作戦と現場の確保に尽力せよ。とのことよ」


 通信の内容を丁寧に我々に伝えると話を続けた。


「私とニコで、援軍が到着するまで命令を実行するわ。アルくんとジーナちゃんは、アモンさんと一緒に本部へ」


「俺はまだやれます」


「あなたはよく頑張ったわ。後は無傷の私たちに任せて」


 母性すらも感じるその雰囲気に、あるいは信頼ゆえの決断か。彼は本部に戻ることに首を縦に振った。


「こちらも了解しました。3人とも、撤収の準備だ」


 メリッサに理解した旨を伝えると、広場に5人を招集し、隊列を組んでこの街を後にした。


 勝ったとは言えない初戦。


 心に靄がかかったまま、重い足音を立てながら、報告のための帰路に就くのであった。


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