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アーツギア  作者: 鷹ノ宮アルフ
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アーツギア13話~シグウェル自警団~


「よう、兄様! 危なかったな」


 唐突な無線に乗っていたのは、男勝りな口調の幼い少女の声と、対魔導機兵砲キャノンの排莢音だった。


「イージス!」


「いやー、援護射撃頼まれてたから、とりあえず撃ってみたんだけど、もう少しで両方やっちまうところだったぜ」


 こいつならやりかねない。冗談にならない怖い言葉が聞こえたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「メリッサさんに頼まれたのか?」


「いや、違う。オレに援護を頼んだ奴らは……」


 通信音がフェードアウトしていくと、徐々に微かな発砲音らしきものが届いていた。


「あ、いたいた。兄様の後ろ」


 後方カメラに切り替えると、5人ほどの制服ではない男たちが、戦闘を繰り広げていた。


「彼らは?」


「たしか、ジケイダン? って言ってたか。暇だったから見晴らしのいい壁上に向かってたんだけどさ、その途中いきなり現れやがって。後は成り行きだ」


 何とも雑な説明だ。それにここへ来たとき、壁の警備がもぬけの殻だったのを見て、てっきりやられたものだとばかり思っていたが。何はともあれ自警団がまだ生き残っていたのは朗報だ。


「ゼロ、可動パーツの復旧状況は」


「依然、下半身の制御がダウンした状態です。ワイヤーを切断していただければ、リンク回復で復旧できるのですが」


「イージスにキャノンで破壊……は威力がありすぎるか。それなら、あいつ愛用の長物はどうだろう?」


「14.5mmライフルですか。対人であれば十分な距離ですが、切断は不可能かと思われます」


 うーん。となると自警団を援護して、ワイヤーの魔力タンクを壊してもらうのが一番か。


「イージス、殲滅までにどれくらいかかりそうだ?」


「終わってるぜ」


 モニターに素早く目線を戻す。さっきまで五分の戦いを繰り広げていた者たちが、何が起こったかわからない、といった様子で立ちすくんでいた。


「さすがだな、戦闘に関しては頼りになる」


 次に拡声通信に変え、男たちに呼びかけた。


「すまないがそこの方々、ワイヤーのタンクを壊してもらえないか」


 一人の青年が銃を掲げ、こちらに返す。周りに指示を出すようなしぐさから、おそらく彼がリーダーだろう。


 ほどなくして、激しい火花のような音に誘われるように機体が上下に揺れた。


「接続を確認しました。リンク回復します」


「よし、そのまま各パーツの再点検を行いつつ広場周辺の警戒に当たってくれ。俺は彼らと話してくるついでに、そこに転がってる機体を調べようと思う」


「承知いたしました。機体は任せてください」


 機体を屋根に近づけ、丁寧に俺を降ろす。彼女を見送り、彼らのもとへと歩いていくと、先ほどと変わらない様子で立っていた。


「お、おい、AGが勝手に動いてやがるぞ!」


 男の一人が声を張る。次に声を出したのは、ツンツン頭をしたリーダーらしき青年であった。


「あんたら見ねぇ顔だが、何もんだ?」


「レッドバロンに雇われた、しがないアーツギア乗りです」


「レッドバロン? ......ってことはあんたらが巡回兵か。いつもの特戦軍の奴らじゃあねえから身構えちまった」


 事情が事情だし、一応誤魔化してみたが必要なかったようだ。それに取り引きしているとはいえ、自警団まで把握しているとは。


「失礼、改めて。特戦隊新設部隊の隊長を任された、アモン・アスフィア特務少佐です」


「特務少佐?! 幼年学校の出か? ……いやそれはあり得ない。となると帝国に亡命してきた客人士官ってところか……それとも……」


 多方面に伸びた棘のような髪に手を当てながら、独り言を話し続ける。何か結論に至ったのか勢いよくその手をおろすと、こちらに力強く歩み寄ってきた。


「すまねえ、考え込むと周りが見えねえたちなもんでな。俺はラインフリードってんだ。シグウェル自警団の一応団長やってる。それと支援感謝するぜ少佐殿」


 そういいながら差し出された右手にこたえる。言動から見たとおりの脳筋のようだ。


「それで、いろいろと事情を聞かせてもらいたいのですが、よろしいですか?」


「もちろんいいぜ」


 軽快に承諾すると、彼は目線を上にあげ話し始めた。


「最初に違和感があったのは、壁上砲担当が次々と帰ってきた時だ。聞くと軍が新型砲設置の下見にくるからあけろ、つー話でよ。今思えば、俺にその話が入ってきてない時点で怪しむべきだったんだが、今日に限って武器庫の整理とかで忙しくって。そんで気が付いたら奴らに中央を占拠されてたってわけだな」


「その後、壁付近でイージス……失礼、私の仲間と出会ったと」


「そうだ。装備を整えて街へ向かう途中で、帝国製のAGが見えたもんで協力を依頼したってわけだ。声をかけたとたん砲口がこちらを向いたときは焦ったがね」


 冗談交じりに話してくれたが、彼の表情から相当なやり取りがあったことが伺える。やはりあいつを一人で行動させるにはまだ早いか。ともかく大事にはなってないようだし、後で考えることにしよう。


「そういや、まだ言い忘れてたことが……」


「ご主人様!! 前方に煙が!」


 彼が何かを言い出そうとした瞬間、耳を持っていくような勢いの、彼女の声が思考を埋め尽くした。立ち込める黒煙から、アル達が向かった方角でそれほど遠くない地点であることがわかった。


「イージス! そこから状況を報告できるか?」


「ちょっと待ってな。あー、煙の近くに固まって3機、少し離れたところにもう1機だ。人影は見当たらない。損害は腰部装甲板の破損ぐらいだ。今のところ問題ないと思うぜ」


「敵は2機か。そこから援護はできそうか?」


「まかせとけっ……ひゃう?!」


 勇ましい声が、同一人物とは思えない可愛げのある頓狂な声へと変わる。それをかき消すように、聞きなれた、耳をつんざく破裂音が重なった。


「どうした!? イージス!」


「雑魚が調子にのりやがってぇ!」


 荒げたその言葉を残し、彼女は通信を断った。いつの間にか、入り口付近にも展開していたようだ。さっきの戦闘を皮切りに敵も大きく動き出したということか。それに、イージスなら心配はないだろう。


 それより、さっきの攻撃だ。煙が上がったというのに、砲声のようなものは聞こえてこなかった。報告から推測するにあの黒煙は、恐らく腰部につけていた対人用爆弾(HCIEG)が、近接戦闘の際に、爆発したものだろう。倉庫に隠れていた奴といい、この状況で銃器を使わずに、近接戦闘を仕掛けてくるとは。出来るだけ人質を温存しておきたいか、痕跡を残さずおきたいのか、どちらにせよこちらとしては好都合だ。


「ゼロ、アルたちに通信を入れれるか?」


「それが、先ほどから誰とも機体間通信がおこなえない状態でして……」


「どういうことだ!?」


 予想外の事態に思わず吃驚の声で聞き返してしまう。戦闘中のアルたちと連絡が取れないというのはまだわかる。だが、後方の通信がやられているとはどういうことなんだ?


「この世界特有のジャマー的なものでしょうか……」


 このタイミングで未知の妨害攻撃……確かにアルたち以外とは、無意識的にスキルで通信を行っていた、しかし……いや、考えるのは後だ。今はアルたちの救援が急務だ。


「分からないが、救援にはハクと行く。敵機との接近戦となれば、あいつの出番だからな。そのために、機兵用防盾シールド重型硬質剣ギアソード以外の、全ての火器と弾倉を外しておいてほしい。出来るだけ軽くしておきたいからな。確か広場にもう一つ倉庫があっただろ。そこに隠しておけば安全なはずだ」


 機体の動作音を返事代わりに、彼女は動き出す。


「ハク、聞こえるか」


「いかがなさいましたか? マスター」


 こちらの焦りすらも消し去ってしまうような、落ち着き払った声で返してくる。


「さっきの煙は確認したか?」


「ええ、アルバート殿が向かった方角でございますね」


「今から、二人で救援に向かう。アーツギアでの、近接戦闘でお前の右に出るものはいないからな。先に現地へ急いでくれ、俺もすぐ追いかける」


 指示を簡潔に伝えると、彼女はいつもの冷静な話し方を装いつつも、少しばかりの意気揚々さを感じる話し方で語りだした。


「承知いたしました。この、硬質重斧ギアアックス程度では少し威力不足ですが、この私が獅子王の如き戦をご覧にいれましょう」


 普段は冷静を装っているが、彼女自身、イージスと同じくらい戦いというものを好む人物であったことを再認識させられる。塔の最上階での苦戦は、今でも鮮明に思い出すことができる良い思い出だ。


 そんな懐かしさに、思わず浸ってしまう。そこに俺を現実へと戻す、完了の報告が入った。


「指定通り、機動力重視の設定に切り替えました。いつでもいけます!」


「了解した。ゼロはリンク解除を次第、自警団の彼らと共に退路の確保に当たってくれ」


「 ……はい。わかりました」


 口ごもる様子に少々の疑問は残ったが、気にする間もなく換装を終えた機体が姿を表した。視界が眩む光に包まれる。次に開いた眼に入ったのは、膝まづいた彼女だった。


「お気をつけて」


 一言言い残し、消えるような速さで門のほうへと走り出した。


「ラインフリードさん、自警団は大通りと門辺りの確保を頼みます」


「あ、ああ。任せてくれ!」


 後ろであっけにとられていた彼に後ろを任せ、機体へと飛び乗る。最速で現場に着くために考えられる方法はただ一つ、『高密度魔導浮力増加装置ウィドネス・ブースター』を使用すること。この装置はアーツを風へと変換し、ホバー走行を可能にするというものだ。膨大なアーツを使用するが、鋼鉄の塊とは思えない、柔軟かつ高速な動きを可能にする。通常であれば短期決戦の際に用いるのだが、今はそうも言っていられない。幸い、この機体の燃費は素晴らしいほどに良い。使ってみないことには、どれだけ使えるかはわからないが、十分戦える余力は残せるだろう。

 

「”死神”の戦い……楽しみだな」


 声が響くコックピット内部の計器には、狂気じみた笑顔を覗かせる少年の顔が映っていた。


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