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アーツギア  作者: 鷹ノ宮アルフ
12/16

アーツギア10話~新たなる旅路~


 宿舎へ戻った俺たちは休息の体制を整える。こちらへ来てから、初めてと言っていいほどの、落ち着いたひと時を過ごしていた。部屋に入ってからは、誰がどこで寝るのかなど下らない話が始まったりもしたが、疲れのせいか3人はすぐに寝てしまった。そのため、このような時間が生まれた。もう二度と来ないかもしれない時間を過ごした後、明日のことを考え寝ることにした。


 聞いたことのあるようでない、起床音楽で目を覚ます。


「おはようございます、ご主人様。いつでも出れる用意はできております」


 寝起きを迎えてくれたのは、戦闘用服に身を包んだゼロだった。あたりを見回してみると、2人がいないことに気がついた。


「ハクとイージスは?」


「2人は戦闘前に体を動かしたいと言って、出て行きましたよ。昨日のドックへ行くと言ってましたね」


 ゼロは他人事のように、軽く答える。ハクがついていることだし、特に問題はないだろう。とはいえ、イージスが"体を動かした"のは2日ほど前。手合わせ程度の模擬戦だとは思うが、ヒートアップして周りに被害がでる可能性は0ではない。集合の時間にはまだ余裕があるし、様子だけ見に行くか。足早に身支度を済ませると、その地へと向かった。


 目的地には明朝にも関わらず、人だかりができていた。周囲の人から発せられる感服の呟きと、2人の掛け声が耳に入る。まるで、ファイトリングのようだ。人混みの間を割り込むように入っていく。素手での組み手を行なっているのが見えた。


 運動がてらの手合わせ。と言っても、互いの実力を知っている彼女達の動きに遠慮などは無かった。不動の淑女と機動の幼女。彼女たちの打ち合いは凄まじいものであった。群がる人たちが呆気にとられるのも納得のものだ。野次を飛ばさない野次馬の中に交じり、温かい目を向ける。すると俺の存在に気づいた1人が動きを止めた。


「おはようございます、マスター」


 それと同時に、やっと周りの人だかりに気づいたらしい。彼らに向かって挨拶するような素振りを見せた。


「お騒がせして申し訳ありません」


 彼女の紳士的な態度は、見ていた者の心を掴んだように見えた。


「ハク姉、もう1戦やろうぜ〜。お、兄様来てたのか」


 イージスは相変わらずの態度だ。


「なんだこいつら」


「こら、イージス。許可なく勝手に始めたのは私たちなんだから、その態度はダメでしょ?」


  辺りを見回しながら、ハクは優しく言い聞かせるように諭した。


「お前たち、何事だ?」


 声の主はミアだった。この人だかりが気になり、見に来たのだろう。彼女の質問に、ヤジの1人が、簡潔に説明した。


「なんだ、そんなことか。お前らどうせなら、組み手してもらうのもいいんじゃないか」


 彼女の冗談交じりの一言に、一同は微妙な笑みで返した。あれを見た後では、想像するだけで十分な恐怖だろう。群衆の反応に首をかしげる彼女。が、気を取り直して、話を続けた。


「まあいいや、全員ドック内に集合、朝礼するぞ」


 その言葉で、ここにいる人だかりが次々と、ドック内に吸い込まれるように入っていった。


「そういえばアモンさん、昨日言い忘れてたのですが、ブリーフィングが終わりましたらドックに来てください」


「わかりました」


「それじゃあ行ってくるから、迷惑だけはかけるなよ」


 そう言ってハクたちを残した。ゼロだけを連れ、昨日と同じ建物内にある「作戦立案室」へと足を運んだ。


「失礼します」


 ノックと挨拶を済ませ、部屋へ入っていく。何というか、この瞬間だけは元の世界と変わらない気分だ。中へ入ると、部屋のほとんどを半透明な長机と椅子が占めていた。扉に対して1番奥の席に男が座っているのに気づく。

 

 立ち上がると、右手に作った握りこぶしを胸の辺りへと当てる。続けて、教師のような口調で言った。


「うむ、時間通りだなアスフィア特佐。だが敬礼は返すように」


 今見たのが簡易の敬礼。正式には拳を突き出してから、胸に持ってくるんだっけか。確か、自分より低い階級に対して行う敬礼だったな。エルからしっかりと聞かされたが、何となくしか覚えていない。

 

「さて、本題に入ろう。適当なところに座ってくれ」


 部屋が暗くなり、目の前の机から立体的な地図が現れる。


「これを見てくれ」

 

 指先には、森と壁に囲まれた小さな町があった。よく見ると、最初に目指そうとした場所に似ている気がする。


「君たちの初任務は、この中立地帯の巡回警備だ。本来なら単純な任務なんだが、先に言った通り"中立地帯"というのが厄介でな。少し長くなるがしっかり聞いてくれ」


 元から優しいとは言えない表情が、より難しい顔つきになった。彼は地図を拡大するとより詳しい説明を始めた。


「この中立地域であるシグウェル区は、見ての通り連邦と帝国、両方の国境線に面している場所だ。先の大戦でこの地区を中立化し非武装中立地帯とすることが決まってからは、軍や武力の介入が禁止になった。つまり、賊たちにとって格好のマトになったというわけだ。加えて要塞化のなされていない、唯一の国境線接触地帯でもある。そのため、連邦は幾度となく違反ギリギリの行動をとってきた。それに対抗するため、我々帝国は傭兵に扮して警備を行う。その見返りに協力体制をしいてもらっている。中立地帯とはいえ元帝国領だからできる芸当というわけだ」


 「本来なら第1統合戦闘大隊が任務に当たるが、今は別の任務についている。先ほども言ったように軍人に見えないほうがいいわけだし、軍に染まっていない、君たちの初任務にはうってつけというわけだ。色々と言ったが早い話、堅苦しくなく村落の人たちと接触、偵察をしてくれればいい。戦闘になることもないだろうしな」


 説明を終えたモルガーは深く席に座りなおす。


「以上が概要だ。何か質問はあるか?」


「了解しました」


「なら、ミアのところで準備してくれ。ああ、言い忘れていたがこの任務にはガイド役として君もよく知る者たちが同行することになっている。分からないことが出てきたら、彼らに聞くと良い。以上解散」


 この世界で"よく知るもの"?


 誰だろうか。疑問符を浮かばせたまま、敬礼を済ませ部屋を後にした。考えなくともその正体とすぐに対面するわけだ。俺はそのモヤモヤからの解放を求め、足早に倉庫へと向かった。


 中に入っていくと、左レーンの1番手前のドックが視界に止まる。見たことのない機体が整備されている途中のようだ。


「アモンさん、ゼロさん、お待ちしてました」


 昨日見たAG2と呼ばれていた機体は、似たようなのを"前にも"見たことがあった。だが、今見ているこれからは、全く新しいものという印象を俺に与えた。特別、形が新しいとか、見た目が全然違うというわけではない。むしろ、AG2の面影がハッキリと残っている。しかも、形だけを見て言うなら、少しパーツを増やした程度のシロモノだ。にもかかわらず、パッと見ただけで新しさをひしひしと感じる。その中の性能が、比べ物にならないほどの逸品であることを物語っているからだろう。


 忘我の極致を彷徨う俺に、ミアは自慢げな様子で話しかけてきた。


「さすがは、司令が直接スカウトした人ですね~これの良さがわかっちゃいますか」


「この機体は?」


「我らが誇る帝国軍の最新型アーツギア! その名もAG4です! まだ数えられるぐらいしか生産していない凄い機体なんですよ! 何がすごいかというとですね--」


 ミアは興奮気味に捲し立てながら、詳細を長々と語った。


「とまぁこんな感じでですね! とにかくAG3の後継機とは思えないほどの高スペックなわけですよ!」


 こんな世界に来てしまうほどに、こいつが好きな俺は、かぶりつく様に聞き入る。後ろのゼロは案の定、興味を失っていた。その無表情な顔が目に入ったのか、ミアは我に返った。


「は! 長話が過ぎましたね。本題に入りますが、このAG4がアスフィアさんの搭乗する機体になります」


「それはありがたいな。そういえば、ハクたちはどこに?」


「ハクさんとイージスさんは、もうチェックを終えて、自分好みに改造してるみたいです。後はアモンさんとゼロさんの機体の最終チェックだけなので、コックピットの方へお願いします。ゼロさんの機体は隣です」


 ミアは言い残すと、誘導するように手を動かした。


「用意してもらって済まないが、ゼロの機体は要らない」


 それに対して、彼女は不思議そうに目を丸くした。続けて俺は、話の機体を指さし、やることを言った。


「ゼロはこいつにリンクしてもらう」


「了解しました」


 ゼロが脚部パーツに手をかざすと、優しい光に包まれる。


 人で言う心臓と脳が混在する最重要パーツ、アーツリアクティブコア。それが搭載されているのは、最も装甲が厚いとされる胸内部。明さが少し下がると、そこが、発光の発生源であることがわかった。


 突然のこの出来事に、ミアはもちろん、他の仕事をしていた整備士全員が目を奪われた。それもそのはず、光だけでなくその光を作り出したはずのゼロがどこにもいないのだ。


 次に起こったのは、拡声されたゼロの声。先ほどまで彼女が触れていた新型機の方からだ。


「機体システム初期化。アーツ供給量100%。システム正常値を確認。Aリンク完了しました」


 コックピットが開いたままの機体が立ち上がる。


「無人なのに動いてる……?」


 整備士の1人が口から言葉を溢す。次に声を発したのは、目を輝かせながら、驚嘆の様相を浮かべるミアであった。


「これがAリンク……実物を初めてみました……」


「はっ! そ、そんなことより、受け取ったデータの中にゼロさんが神機だなんて載ってませんでしたよ!?」


 目に光を残しながらも、真剣な顔つきで問いかけてくる。


「それは、俺に言われても困るんだが。ちなみにハクもイージスもEFD……じゃなくて、神機だ」


 俺の返しに、豆鉄砲でも食らったような、また新しい驚きを見せた。


「何事ですか!?」


 つい最近聞いたような、声が響く。入口のほうへ顔を向けると、そこには鮮やかな赤い髪をした青年が立っていた。俺が軍に入るきっかけを作った1人。アルバートだった。


「アル、久しぶりだな」


 気さくに振る舞い近づいていく。声で気づいた彼は、どこか申し訳なさそうな、もじもじとした態度でいた。


「アモンさん! 先日は大変申し訳ありませんでした!」


 開口一番、アルから飛び出たのは力強い謝罪の言葉であった。これでもかというほどに、きれいな低頭を見せられ、思わず動揺してしまう。


「別にこうなったことは気にしてないぞ。それに、事情があったことも容易に推測できるし」


 少しの庇いを入れつつ本心を語った。だが、真面目な性格の彼は、その後もしばらく頭を上げなかった。


「あの宿場での騒動から、アモンさんには申し訳ない気持ちがいっぱいで……軍にはできるだけ関わりたくありませんが、グレリアさんからこの仕事の話聞いたとき、せめてアモンさんの助けになればと……」


「だから気にしなくていいって。よろしく頼むよ」


 手を差し出し、握手を求めてみる。すると彼は、両手で握り返し、頭をもう1度深く下げた。


「よろしくお願いします!」


 アルの気持ちが少しでも、和らげばと思ったが、あまり意味が無いようだ。


 こうしてみると俺やっぱ身長低いなぁ。相手が焦っていると、どうも冷静な心境になってしまう。アルは高身長ではあるとはいえ……今更過ぎるが、こんな少年風にキャラクリした自分が急に恥かしくなってきた。といっても、作ったとき俺もそれなりに幼かったわけで……


 彼とやり取りしながら、そんなどうでもいいことを考えてしまう。それを終了に導いたのは、ミアの圧だった。


「お取込み中のところ悪いんですけど、そろそろ準備を、ね」


「す、すいません! それではアモンさん、先に外で待ってます」


「そうだった、申し訳ない」


 彼と別れ、自分のドックへと戻る。ミアの指示に従い、コックピットの席へ着いた。そこから見える景色は、懐かしいと感銘をうけるものがあった。


「まあ、聞きたいことは山ほどありますが、先ほどのAリンクでシステムの個人設定などはすべて終わっているようなので。そのままハッチを閉めて手動での起動を試してみてください」


 いわれた通りにハッチを閉じる。機体の姿勢が高くなるのを、揺れが伝えた。閉じられた背面部がモニターとなり、暗い内部を鮮やかに照らす。システムの稼働を示す二つの文字が無数に視界を覆った。


「おかえりなさい。ご主人様」


 最後の項目に現れたこの言葉と同時に、ゼロの声が聞こえてくる。後ろに空間があるはずもないのに、常に背後にいるような感覚に守られた。あちらではゲームだからと、深く考えたことはなかったが、こちらの世界での彼女たち。神機は実態のある概念とも言うべき代物なのだろうか。


 狭い空間に落ち着くと数多くの物事を考えてしまう。


「4号いつでもいけるよ!」


 ミアの声を合図に前進する。アーツギア用の出入り口から滑走路へ出ると、外には6機ものアーツギアが、並んでいた。そのうちの4機は赤色の塗装で統一されており、別種の2機がハクたちのものだとわかった。


「おーい、兄様、あいつらはもう準備できてるぜ」


「アスフィアさん、ジーナです。若輩者ですが、よろしくお願いします!」


 こちらまで、元気が湧いてくるような、明るさの声。そして大人じみた落ち着いた声が続いた。


「今回は宜しくね~」


「……頑張る」


「アモンさん。改めてよろしくお願いします。先導しますのでついてきてください」


 一通りの挨拶の後、俺の機体を合わせた計7機が隊列を組んだ。


「戦略機動大隊出撃する」


 整備士に見送られ、俺たちは目的地の中立地帯へと、重々しい鋼の音を響かせながら進み始めたのだった。


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