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アーツギア  作者: 鷹ノ宮アルフ
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アーツギア9話~戦略機動大隊設立~


 女皇の謁見を終えた後、俺たちは本部へ向かう車に揺られていた。帝都からは離れた国境近く、ということもあり、移動にはかなりの時間がかかるそうだ。心地の良い振動からくる睡魔。そんな最強の魔物と死闘を演じた末、あっさりと負けた。


 後部扉が外から開けられる音で目を覚ます。どうやら着いたようだ。寝ぼけ眼に鋭い白光が襲い掛かる。はっきりと視認できるようになると、そこには紺の軍服を身にまとった、いかにも兵卒という身なりの兵士が4人、例の敬礼姿で立っていた。その奥から上官であろう男が歩み寄って来るのが見える。


「ご無事で何よりです、司令官閣下」


 男は敬礼と共に、先に降りたエルヴィアへ言葉を向ける。彼女の反応を確認し終えると、視線をこちらへと向けた。


 「君が例のゼラ……失礼、アスフィア殿だね?」


 問いに対し軽く頭を下げる。


「司令官補佐のベルファスト・モルガーだ。よろしく頼む」


 男の見た目は暗い金髪のセンター分けヘア。髭などは一切生えていないが、はっきりとした男らしい顔つきで、真面目な印象を受けた。


 挨拶を終え、こちらに手を差し出す。それに答えるように手を握り返した。

 

「よし、それじゃあパパッと事務的な事を終わらせますか」


 握手を見届けたエルは、無理やりやる気を出す様な喝を入れた。彼女に続いて、我々も建物内に入っていく。階段を登り、奥の突き当たりにある部屋の前まで足を進めた。


 扉の脇には「司令官執務室」と書かれたネームプレートが置かれている。


「久しぶりに入るな、この部屋」


 捨てるように呟いたエルは、中へと入って行く。その部屋でまず、真ん中の机とソファー型の椅子に目がいった。続けて正面奥の窓際を見てみると、社長机一式と記章旗が置かれているのが見て取れた。彼女は俺たちに、横列に並ぶ様指示すると、奥の椅子に腰を落とす。それからすぐ後、部屋にもう1人入ってきた。


「エルヴィア様、お連れいたしました」


 ノアが連れてきたのは、先に向かわせていたトロンであった。


「それではトロンさん、また後で」


 少年は一言挨拶すると部屋から出て行った。


「随分と早くついたな、アモン」 


 俺に声をかけ、横に並ぶ。寝ている間に、こうなってしまったことをどう思っているのだろうか。彼女の顔から、そんな考えが導き出された。


 整列を見届けたエルは、咳払で場を引き締めた。それから、こちらに向かって読み上げるように口を開いた。


「アモン・アスフィア。貴殿の階級を特務少佐に、ゼロ、ハク、イージスの3名を特務少尉に任ずる」


「サン・トロン、貴様は賊として手配されている身ではあるが、トロンレヴナンとしての実力は考慮すべき点である。よって技術中尉を与えることとする」


 エルの鋭い眼光に対し、トロンは頷きで返す。


「以上5名を新たに創設する戦略機動大隊所属とし、アスフィア特務少佐を大隊長に任ずる。以上で辞令を終える」


 原稿を読み終えると、真面目な固い顔つきを緩める。やっと終わったとばかりに、俺の元へと近づいてきた。


「よしアモン、施設を案内してやろう」


 意気揚々と連れ出そうとする彼女を止めたのは、側で控えていたモルガーだった。


「閣下は不在時の書類を片づけてください。案内は小官が責任をもって、致しますから」


 モルガーは子を諭すように椅子に座らせる。時間がかかると判断したのか、俺たちに部屋の外で待っておくよう合図した。


 扉を出て少し離れた壁に、もたれて待機する。廊下にまでエルの文句が響きわたる。幼子の我がままのようなそれに、あの駆け引きや戦闘技術を持つ人間と、本当に同一人物なのかと思うほどのギャップを感じた。


 予想以上にかかりそうだな、特にできることもないし、トロンに気になっていたことを聞いてみることにした。


「せっかく辞めた軍にまた従属する形にしてしまったな。その、すまない」


「あ、ああ。気にするな。あたしはアンタに付いて行くって決めたし、文句はないさ。それにここは嫌いじゃない。珍しく話のわかる奴もいるしな。んじゃ、ノアのとこに行ってるから、また後で」


 少し間があったのと、妙に浮ついた様子が気になるな。


 優しくフォローの言葉を添え、そそくさと去っていった。姿が見えなくなってからすぐ、やっと説得を終えたモルガーが出てきた。


「待たせて悪かった。まずは君たちがお世話になる、補給部隊に挨拶しにいくか」


 次に向かったのは、執務室のある建物から道を1つ挟んだ、兵営であった。本部基地の3分の1を占めるエリア。そこには大型の倉庫と各部署、居住区画の入る建物が複数存在するらしい。移動用であろう車両を横目に、俺たちは軽い運動とも言えるその道のりを歩いた。


 その中で最も大型の倉庫へと入っていく。内部は複数のAG用ドッグと、コンテナが所狭しと並んでいる空間であった。この作業着を着た人たちが補給部隊かな。


「お! トロン、面白そうなもの整備してんじゃん」


 倉庫に入るや否やイージスは緑色に瞳を輝かせ、勝手に奥へ走っていった。ゼロとハクも追いかけるようにこの場を去った。


「お前ら!」


 怒号のような声が耳を抜ける。思わず謝ってしまいそうになったが、その言葉は続いていた。


「新設部隊の物資確認と機体の整備も残ってんだ! ピッチあげてくぞ!」


 よく聞いてみると、怒号というよりは激。そうとらえることのできる、女性の声であった。モルガーは声の元へと歩いて行き、ポンと優しく肩をたたいた。


「これは、モルガー少将! うっ! げほっごほっ……じ、新設部隊の件は今日中に完了しますのでご安心ぐださい! って後ろの方々は例の!」


 驚きの余りという奴か。急いで行った敬礼のこぶしは、見事に彼女の胸めがけて突き刺さる。見ているこっちまでむせそうになる光景だ。


「その! 到着は明日と聞いておりましたので、統合戦隊の補給準備を優先しておりました! 一刻も早く戦闘配備出来るように手配いたしますので少々お待ちを!」


 モルガーは微笑みを見せながら、もう1度彼女の肩に手をやった。


「そう焦るな。私が来たのは、彼の挨拶回りの案内役のためだ。それに到着が早まっただけで、作戦が早まったわけではないぞ」


 それを聞き彼女は、よかったとばかりに胸をなで下す。今度はこちらに、先ほどの勢いはないが、しっかりとした敬礼を見せた。


「特行戦群の支援全般を行う、統一支援補給部隊の統括長をしております! ミア・サッチェル技術中佐であります! 以後よろしくお願いします! アスフィア特務少佐殿!」


「こちらこそよろしくお願いします。それにしてもなぜ名前を?」


「先ほど、特行戦群所属の者にはデータが送られてきましたので」


 片手に持つ、タブレットのようなデバイスをこちらに向ける。そこには、俺を含む4人の顔と名前、階級の書かれた簡素なプロフィールが載っていた。


「本題に入りますが、ここが戦略機動大隊のドックになりましてですね……」


 ミアは倉庫の使い方や担当人員のリストを丁寧に説明してくれる。全体的な内容を話し終えると、何かを思い出したように話を切り上げた。


「とりあえずはこんなところでしょうか。ご不明な点がございましたら、なんでも聞いてください。それでは私は仕事に戻りますので」


 彼女は足早にデバイスを収めると、再度敬礼し、仕事へと戻っていった。


「さて、後は兵舎内で終わりだな。私は外で待っているから、彼女たちを連れてきてくれ」



 モルガーはそう言い残し、出ていった。飛び出していったイージス達を連れ戻さねば。そう思い、倉庫の奥に足を運ぶ。邪魔になっていないか不安であったが、どうやら心配はなさそうだ。トロンとノアを含め5人で分担しながら作業しているのが見えた。


「お前ら、モルガーさん待たせてるんだから行くぞ」


「ほら、主人がよんでるぞ。後はいいから行ってこい」


 トロンは左手に持った工具を俺のほうに向け、呼びかける。その声で各々の作業を止め、こちらに集まった。


「うちのが邪魔したようで、悪かったな」


 トロンに向かって挨拶がわりの一言声をかける。彼女は軽く首を横に振る仕草をとり、言葉を返した。


「そんなことないさ。逆に、予想以上にアーツギアの構造に詳しいみたいで助かったよ。おかげでノアに頼まれた、この機体の整備が早く済みそうだ」


「それならよかった。ところでこの機体は?」


 少し気になったので質問してみる。すると頭上から返事が返ってきた。頭部付近で作業しているノアからだ。彼は地面に降りてくると、ペコリと頭を下げて話し始めた。


「本当に助かりました、この機体はエルヴィア様ので、AG2という機体をベースに巡航化したものです。細かくはいじってありますが」


 巡航型というと、エネルギー量に特化した機体だったか。装甲を犠牲に作戦可能時間を伸ばした機体。思わず見惚れ、彼女たちを呼びにきたのを忘れるほど胸の奥が熱くなってしまう。


「なるほど、エルの機体か……おっと、そろそろ行かないと」


「もっといじりたかったのにな~」


「とりあえず行くぞ」


 俺が出口に向かって足を出すと、彼女も渋々ついてきた。モルガーと合流した後、次に向かったのは兵舎であった。


 そこでは、滞りなく各施設の用途と注意事項など説明を終える。その後、食堂で食事を済ませ、解散する頃には辺りが暗くなっていた。


「少し長くなってしまってすまなかったな。宿舎でゆっくり休んでくれ。早速だが明日、明朝より哨戒任務に出てもらう。司令官閣下は明日は帝都に向かわれるため、詳細は私が追って知らせる。では解散」


 彼の敬礼に対し、初めて例の敬礼を返した。



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