アーツギア8話~女皇謁見~
女皇に謁見するため、俺たちは王宮へと向かっていた。流石にトロンを連れて行くわけにもいかず、ノアの監視のもと、一足先に本部に向かわせることとなった。ゼロはというと、何事もなかったように目を覚ました。ジェミニ使用中の記憶がなくなるのは、ゲームと同じのようだ。
それより、妙にエルとの距離感が近い気がする。が、彼女は気にする様子もなく、謁見に際しての立ち居振る舞いなどを話し始めた。
会っていきなり無礼を働く訳にもいかない。そう考え、真面目に聞く態勢を整える。例によってうちの3人は聞いているはずがなかった。
粗方、話し終えたところで車両が止まると、ドアが勢いよく開かれる。
「閣下お待ちしておりました」
警備兵だろうか。武装兵ながらも、華やかなあしらいを散りばめた服装の兵士が出迎えてくれる。それにあの動き。あれが噂の敬礼か。右手握りこぶしを胸の前で作り、それを開くと同時に、右斜め下へと振り下ろす。その仕草は、中世の騎士のような印象を受けた。
エルに続いて降車する。門をくぐり、緑の生い茂った道を進んでいく。すると絵に描いたような噴水庭園を前面に出した宮殿が現れた。バッフェに紹介された洋館も中々の豪華さではあったが、それをはるかに凌駕する造りに、思わず見惚れてしまうほどであった。
「何してる。早く来い」
エルに促され、宮内を突き進んでいく。ただの廊下だというのに美しさだけでなく、妙な神秘さを感じた。それは奥に進むにつれて、段々と強く感じられるようになっていく。不思議な感覚を覚えつつ、最奥の扉にたどり着いた。先導していた警備兵が、こちらを振り返り敬礼を見せた。
「陛下より、すぐ通すよう仰せつかっております。どうぞお入りください」
言葉に呼応するように、扉が開かれる。まず視界に飛び込んできたのは、窓から差し込んだ光が、鮮やかな赤色を引き立てるカーペットであった。それに沿って顔を上げていく。数段上がった先に、黄金の装飾と朱色の布で彩られた玉座が鎮座していた。絵に描いたような謁見室。それが俺の見たものだった。
「エルヴィア様御一行、到着されました」
兵がひと声上げる。すると、部屋の両側に立っている者達が、片膝をつく姿勢をとった。格好から上位階級の人間。その服装から見ても、貴族であろうことが窺える。そのまま玉座の前まで進み、横列に並ぶ。その場で片膝をついて従う形をとった。
「顔を上げてください」
仰せの通りに顔を上げる。そこに座していたのは、可憐な少女であった。しかし、彼女から放たれる、神秘さ漂うオーラ。やはり、只者ではないことを容易に想像させた。
「よく、おいで下さいました。ヴォルザー帝国皇帝、カルヴィア・フォン・ヴォルザーでございます」
しとやかな声とトパーズのような黄金の瞳をこちらに向けてくる。姉と聞いていたが、どう見てもこちらが妹にしか見えない。それに、似ているのも髪色ぐらいなものだ。その容貌はむしろ、イージスが髪をくくっていない時に似ていた。今の自分も、他人を子供呼ばわりできる見た目ではないが、どう見ても一国の皇帝とは思えない。
ただしこれは、このオーラなしの話である。彼女から発せられる、全てを包み込む空気に、心が奪い去られない者はいないだろう。彼女のことを知らない。それどころか、たった今初めて会ったばかりだというのに、俺にそう確信させるのだ。これが上に立つ者の力。人を導く存在の魅力なのだろうか。そんな思考を巡らせつつ、簡潔に自己紹介を済ませた。
「名乗り遅れました、私はアモン・アスフィアという者でございます。右の者はゼロ。左の者はハクで、その奥がイージスです。3人とも私の従者にございます」
車内で聞いた通りに、話を進めていく。すると突然、玉座から立ち上がった。まっすぐと、こちらの瞳を見つめ、ゆっくり、歩み寄ってくる。目前に手が差し出されると、俺はそっと添えるように握った。そのまま引き上げられるように、立たされる。
まさか女皇陛下と、このような近い距離で謁見することになるとは、思いもよらなかった。目つきの悪さを誤魔化す為、精一杯、目を見開き愛想よく振る舞ってみる。とにかく失礼の無いようにしなければと必死であった。だが彼女は気にする様子もなく、深妙な顔つきで語りだした。
「私の願いは民の安寧。それと帝国の繁栄。この2つのみでございます。ゼラの貴方からすれば、他人事であることは重々承知しております。ですがどうか、この国の民をお守りください」
彼女は握った手を額に当て、頭を下げるような形になる。その姿に、側で控える全員が動揺を見せた。自分の仕える神と同格の存在が、目の前の見ず知らずの男に頭を下げているのだから当然の反応である。
この真剣な願いに、自分の気にしていたことが馬鹿らしく思えた。それに応えるように出た言葉は、心の底からのものであった。
「陛下の為、帝国民の為。全力を尽くします」
こう言ってしまったのは、場の空気がそうであったからだろうか。いや、それよりも彼女の為なら。そういう感情がいつのまにか出来上がっていた、というのが正しい気がする。少なくとも、それほどの魅力が、カルヴィア・ヴォルザー。この女皇帝にはあったのだということだ。
「ありがとう……」
小さく、俺に聞こえる程度の声量で感謝が届く。しばらくこの状態のまま時が流れた。
それを断ち切るように出てきたのは、玉座の隣に控えていた男であった。胸を多くの勲章で飾るその男は、威厳のある風貌で睨み付けてくる。
「恐れながら、カルヴィア様。次の予定が詰まっておりますので、そろそろ本題にお入りください」
てっきり何か言われるのかと、構えたが違ったようだ。
「……分かりました。アモンさん、妹を。エルヴィアをよろしくお願い致します。またお会いしましょう」
そう言い残すと、両者とも、定位置に戻り、形式的な流れが再開された。
「カルヴィア・ヴォルザーが命ずる。アモン・アスフィア以下4名を帝国軍特殊行動作戦群所属とし、以降の権限をエルヴィア・ヴォルザーに一任する」
「勅令、謹んで拝命いたします。ディアカイゼ」
エルは俺たちの前に立つと、見事な敬礼をつくる。それに対して、俺たちは、片膝のまま頭を深く下げた。全てが済むと、立ち上がりこの部屋を後にしたのだった。




