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不味い。
混濁した意識の中、最初に思ったのは空気の悪さだった。
「おい!大丈夫か?」
頭に響く騒音の中、意識は浮上することなく消えていった、、、。
次に意識を取り戻した時には、真っ白な空間にいた。
よく分からないけれど、とてつもなく柔らかいものに包まれている。
身体を起こそうとすると、尋常じゃないほどの重さを感じる。
手も足も全てが鉛のように重たい。
「何の呪いだ?」
気だるさの残る頭で、とりあえず自分の状況を確認しようとする。
「え?」
いつも通り空間を右手でスワイプしてみてもステータスが出てこない。
これでは自分が何の呪いにかかっているのか調べようがない。
とりあえず自分の行動を思い返してみる。
西の魔王が死んだと報告を受けて、西国に向かっていたはずだ。
秋霖山を抜ければ効率よくレベル上げしながら西国へ行けるため、ギルドの仲間たち5人でパーティーを組んで国境まで順調に進んでいた。
だが、、、そこからの記憶が無い。
「ここは死後の世界なのか?」
それならばこの真っ白な空間にも、包まれているものの心地良さにも鉛のように重たい身体にも納得できる。
きっと西国の国境で自分でも何が起きたかわからない間に死んだのだろう。
そんな事を考えていると、白い部屋の白い扉が開かれ
「気づかれましたか?ここがどこがわかりますか?」
などと白い服の人間に声をかけられた。
(死後の世界も言葉はわかるんだな)
などと考えながら
「わかりません。」
と正直に答えた。
我が身を危険に晒したくないので普段なら初対面の変な服を着た人間などと会話しないのだが、死後の世界ならばなるべくコミュニケーションをとって情報収集したいのである。
「お名前は?」
名前、、、。
そういえば名前は何だっただろうか。
みんなにはベルと呼ばれていた気がする。
正式な名前はとてつもなく長く、ステータスが出ない以上答えることもできない程だ。
答えられずにいると
「年齢はわかりますか?ご家族は?」
などと次々に質問される。
年齢?ご家族?
何を言われているのか全く理解が出来ない。