王国訪問編─⑥
──…め…ろ。
…めろ。
…やめろといっておるだろうが!
ん?
なんだ?
誰だ?
ま、待てよ。
こいつ剣を持ってないか!?
ちょっと待ってくれ。
まさか…
─なっ!
何をする!?
…ぐはぁっ!?
っ!
やっぱりかよ…
おい!?
大丈夫なのか!?
っ!?
誰か来た!?
─ハァ、ハァ…
アオイ…か…。
おまえ…に…
これを…
アオイ...
俺はアオイと呼ばれている美しい女性らしき人を見て落ち着きを取り戻し、冷静に現状を把握する。
─たの…む…ぞ…
これ...?
なんだろう。この感じ。
前にどこかで感じた気が...
─かしこまりました、主様。
必ずや!
そして、アオイと呼ばれる女性らしき人はその場をあとにする。
アオイ...どこかで聞いたことがあるような気がす──
「おいっ!
幸二!?
大丈夫か!?」
「あ、あぁ。
ちょっと不思議な夢を見てな...
うなされてた。」
「夢...か。
どんなものだったのだ?」
なんだろう。こいつには言わない方がいい気がする。
「うん...ちょっとな。
とても悲しい夢だ。」
「そうか。まあいいさ。
それよりも時計を見ろ!
もう城に向かう時間だぞ!」
「えっ!?
やべぇ!!!」
夢のあれはなんだったのか。
それは後でゆっくりと考えるとしよう。
とりあえずは城だ。
アベルディア?
とかいう王に合わなきゃいけないみたいだし。
ってか日本語しか喋らないのになんで英語っぽい名前なのかは不思議だけど。
そう思いながら身支度を終わらせる。
「準備出来たか?」
"イフリート"の声だ。
「おう!準備万端だ!」
と言っても、特に持ってくものは無い。
というかずっとスーツのままなんだけどね...
「俺ってこのままでもいいの?
俺スーツ着てるし...」
本心のまま言ってみたのだが...
「気になるか?
ならば確かここに...」
"イフリート"のやつ、何かゴソゴソさせ始めたぞ。
何をする気だ...?
「あったぞ!これを着るがいい。」
"イフリート"はそう言って着物を渡してきた。
そういえば確かに、門の前で並んでいた人(?)達も何気に和服だし、建物も和風建築だし。
まさか...
奴の影響!?
まじか。
やべえな、信長さん。
ま、俺も和服着てみたかったし、丁度いいかもしれない。
そんなわけで、俺は和服を着たのだった。
─彼女に、とある一報が届いた。
『魔神"イフリート"、タマゴを連れて国に無事帰還』
と。
彼女は、耳を疑った。
何故ならば、"イフリート"が連れてきたタマゴというのが、
幸二であるから。
そう、疑いようもない。
自分の前世で、自分の親友だった人間。
その幸二が、この世界にやってきたというのだ。
彼女は静かに歓喜した。
そして、彼女は情報をくれた召使いに「よくやりました。」といい、自室にこもる。
初めて感じる、不思議な感情。
無性に会いたい、心の抑えきれない欲望。
声だけでもいい。
会いたい。
顔が見たい。
喋りたい...
─それこそが「恋心」というものなのだが...
彼女はそれを理解していない。
心がドキドキして抑えられずにいると、
ドアの外から声がする。
「入るぞ。"イフリート"が戻ってきたのだ、祝い事をせねばならん。そのためにはお前の力も必要になる。」
「どうぞ。お入りくださいませ、兄上様。」
彼女は兄の言葉で落ち着きを取り戻し、ドアを開ける。
心の中で再会できることを悦びながら──