怪獣襲来編─11 7"人"の怪獣
「行くのか?ゴマラよ。」
そう問うのは、怪獣達の中で最も長命である、ギラスである。
「ええ。寂しいの?ギラス?」
ギラスにも可愛いところがあるじゃないの─とゴマラは思ったが、口にはしない。
「心配いらぬであろうよ。7人の中で最弱とはいえゴマラは怪獣。生態系の最上位種である我らが現の世界の雑魚どもに負けるわけがない。」
いつかは見返してやる、と心に誓っているゴマラでも、流石に"怪獣王"の彼にはどう足掻いても無理だろうと考えていた。
そう、ゴマラは最強種の怪獣とはいえ、その中の七番目なのだ。
これは、怪獣が産まれた順番に関係がある。
神が産み出した、最強であり、最初の怪獣。
黙示録の獣とも形容されるそれは、まさに無情。
1人目の怪獣である彼には、性別という概念は存在しない。
そのために、口調は男性でありつつも、その容姿は妖艶な美しい女性である。
そして、彼が自らの要素を二つに分け、創り出した怪獣。
それが、2人目と3人目の怪獣である。
そのうちの一人がギラスであり、彼は1人目よりも若いにも関わらず、老けた容姿をしている。
しかし1人目以外から見れば年上に変わりはないので、ギラス叔父様、という呼び名が付いているほどだ。怪獣の中でも極めて優しい彼だが、仲間想いなのもそれによるもの。
彼の怒りを見たものは、いまは居ないという。
そして、ギラスとその妻が産んだ、3人の怪獣。
その末っ子──最弱の怪獣が、ゴマラなのだ。
7人の怪獣。
それぞれは罪を背負う。
"高慢"のアリス。
"憤怒"のギラス。
"貪欲"のモンガ。
"色欲"のレリア。
"怠惰"のオルガ。
"貪食"のメラ。
そして──"嫉妬"のゴマラ。
その7人は、全てを支配する。
神をも超えて、世界全てを。
そして、ゴマラは優雅に微笑みを交わし、向かう。
世界の狭間の裂け目へと────
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世界の狭間の裂け目は、どこに現れるか分からない。
国の前かもしれないし、森の奥深くかもしれない。
はたまた、山の山頂かもしれない。
今回は、森の中であった。
最初の目撃者は、ポヨンポヨンと跳ねる、スライムであった。
しかし、スライムは仲間を避難させない。
正確には、出来ないのだ。
何故ならば、その裂け目から現れた巨大な怪獣の鋭い爪に一瞬で貫かれたからだ。
このスライムは幸運であろう。
なにせ、苦しむまもなく死ねたのだから。
そう、この怪獣の向かう先にあるのは、多くの苦痛と恐怖の世界。
生きて還る、などという戯れ言を言う暇など、微塵もないのだ。
その光景を木の影から見ていた1メートル程の蜘蛛型の魔物は、恐怖に支配され、その体の制御権を奪われてしまった。
そして、それは幸いとなり怪獣には気づかれない。
怪獣「ゴマラ」の大蹂躙が、いま、ここに始まった。