転移
俺はそいつを不快に思いつつも、逃げられないだろうという勘を信用して掴まれたまま立つ。
次の駅に着くまでにはそんなに時間はかからなかった。
こいつが何かやったのかどうかは知らないが。
そうしてそのまま電車を降りる。
そいつは未だに俺を掴んでいるが、離す気は無さそうだ。
なので、話を振ってみ
る。
「で、俺に何の用だ?」
せっかく俺が声をかけてやったのにも関わらずそいつは俺の言葉を無視し、
「付いてこい」
とだけ言ってホームを降りていく。
「誰にも見られない場所に行くぞ」
そいつに引っ張られながら改札を抜けた。
なんだよ。
誰にも見られない場所、だと?
何でそんなめんどくさいことをするんだ?
しかし、この展開は...
思い当たる節がある。
だが、気のせいだと考えを捨てる。
そいつはもう人間の姿になっていて、他人から目立つような様子はなかった。
そいつはそれからだんまりになった。
駅を出てから、ずっと引っ張られながらも俺は周りを見渡していた。
いつもなら何気なく通り過ぎていた都会の街並みだが、なぜだかその日はいつもと違って見えた。
なんかこう、自分が初めて上京して見た都会の景色、みたいに。
何もかもがキラキラしている。
そう、何もかも。
さっき出たばかりの駅舎も、ロータリーを走るバスも。
少し、心がワクワクしているような気がした。
そうやって周りを見渡しながら歩いていると、
そいつが
「急げ、時間が無い。急がねばならんのだ。」
と言ってきたので、何やら切羽詰まった状況なのだろうと察した。
俺はそれに対しなにも言わないまま、そいつについて行くだけだった。
そしてそれから30分ほど経った頃、右手に見える大きめのビルの中に入った。
「ここになんの用があるんだ?」
そう聞いてみたが、
そいつはやはりだんまりだった。
もはや諦めてビルの屋上まで階段を上った。
俺は途中で疲れて倒れ込みそうになったが、そいつは疲労の気配を一切感じさせなかった。
最終的にはそいつに抱き抱えられる形で運ばれたので、誰かが見ていたなら殴りかかっていたところだ。
そうこうして屋上についた。
そろそろしびれを切らして俺は地面になにかブツブツ言っているそいつに
「おい、いい加減何をするのか言ってくれないか?」
と言った。
するとそいつは、
「黙って待っていろ。いま魔方陣を展開中だ。少し古いものだから時間も精神力も使うのだ。話しかけられると集中力がそがれる。」
と言って俺を睨んだ。
チンプンカンプンだ。
魔方陣何てどこぞのファンタジー漫画とかでしか聞いたことのないフレーズだ。
いや、確か中学の時厨二病野郎が叫んでたか。
そんな事を考えているとそいつがムクっと立ち上がって炎を纏った姿になった。
どうやら魔方陣の展開が終わったらしい。
「ここに来い。」
突然言われ少しばかり戸惑っていると、
「早く来い!」
と怒り気味で引っ張られた。
すごい握力だ。
「亜空間転移魔法展開。"世界の架け橋"を繋げ、この我の"イフリート"の名の元に!」
それだけ輝いたら目をつぶるのは当然の定めだと思う。
だって目つぶらないと目が潰れそうだったんだもん。
でも、目をつぶったおかげでいい体験になったんだけどね。
光が収まったと感じたので目をゆっくりと開くと、そこには今まで居たキラキラとした都会の街並みなどなく、ただ、一面の草原がただただ広がるばかりだった。
そうかしら?
でもサティーも結構頑張ってると思う...わよ?
(あの人がこれをOKするかどうかはさておき...)