怪獣襲来編─7
「彼」──ガエンは、しばらく音沙汰のなかった兄の連絡通信を久々に受け、少し緊張気味だった。
その内容というのが、
『【未熟者】2人を安全に守り、その上監視として我に定期的に連絡を入れよ』
というものだった。
ガエンとしては、兄のジギスとの久々の会話なのでもう少し喋りたい、という思いも無いわけではなかったが、それよりも重大な任務を背負わされたのでそんなことはどうでも良くなった。
そして、さらに重大なことを告げられる。
『この地にもう時期厄災が訪れる。それまでに【未熟者】達を安全なところに移動させ、また闘えるように鍛えよ』
と。
(厄災...まさか奴のことか?
しかしそうなると時期としては随分早いな...
確か奴は500年ほど前に現れたはず...
何かあったのか?
まさか...アベルディアが死んだ...から?
だとすれば...)
ガエンは思案する。
自らの力を以てして、アベルディアの代わりになれるかどうか。
勿論無理だ。それは彼自身もわかっている。
しかし、ここにいる【未熟者】2人と共に代わりになるとすれば?
彼は確信する。
そして、まずは彼らを安全な場所──精霊の都へと、導くことを改めて決意する。
(というか、幸二は【未熟者】だが、もう1人の【未熟者】は誰だ?まさか...アオイが...)
瑞奈が来ていることを知らないために起きたこの勘違いはこれからしばらく解けることはないのだが...
──それは、まだ幸二達が目覚める前の、真夜中に静かに起きたことであった──
▶◀
ガエンは展開を開始してから2分ほどで魔法陣を完成させ、詠唱を行った。
そして魔法陣が光り、その光か拡大されると共に大きなゲートが出来上がった。
「皆様、こちらが精霊の都への扉となっております。」
ガエンが突然敬語になる。
なんだろう、案内人みたいなもんかな。
なりきってるねぇ。
俺も今度機会があったらやりたい。
面白そうだ。
「じゃあ私から失礼するわねぇ!」
そう言ってまずはアオイさんが嬉しそうに入っていく。
光っていてゲートの先がどうなっているかは見えないが、アオイさんはその光に吸い込まれるように入っていく。
「次は私。幸二、あんたは最後よ。」
えっ。
それは酷くありませんかね。
なんで俺が最後なんですかね?
ちょっと何言ってるか分かんないです。
そんなことを思いつつ、俺はガエンに先を譲ってもらう。
<と言うよりは我が最後に入らないとゲートが閉じてしまうからだが...>
おっと。聞かれてました?
まあちょっとばかし美化したっていいじゃん。
ねぇ。
って誰に言ってんだが。
ゲートにしゅぽんと入る。
なんというか...水の中に入る感覚が近いだろうか。
勿論、息ができない訳では無いので死にはしない。
でも、気持ちいい。
変な感じだ。
「早めに行くぞ。ずっとここにいると、その快楽から抜け出せなくなる。」
なるほど、この気持ちいい感じはそういうことだったのか。
もしかして、このままここにいたら昇天しちゃうんじゃあないだろうか。
って、まさかそんなわけないよね。
ないない。
ということで俺たちはガエンについていく。
一見宇宙の様な黒地にキラキラした光が見える空間をとぼとぼと浮遊しているように見えるが、実際はゼリーみたいなぷよぷよとした床があって、俺たちはその上を歩いている。だから走るとぴょんぴょんするんじゃないだろうか。
ゼリーの上を走るのは夢だったが...、今はやめておいた方がいい気がする。
俺は、こう見えて勘が鋭いのだ。舐めてもらっちゃ困る。
体感的に500メートルほど歩いただろうか。
進む方向にちっぽけな光が見えてきた。
恐らくあれが出口だろう。
正確には精霊の都の入口だが、門の出口、ということで、ね。
さてさて、いよいよ出口の前だ。
「誰から入る?」
俺は問うてみる。
「わ、私は女の子だから!」
「なるほど、女の子だから最初に行ってくれるか!」
ん?レディーファースト?
ナニソレオイシイノ?
俺は男も女も平等に考える男なんでね。
「ちっ、違うって!そういうあんたから行きなさいよ!」
ええ...
ここは精霊の王のガエンさんに行ってもらいましょう。
そう考えて、俺はガエンの従属権限の中から肉体強制を使用してガエンを先に行かせる。
悪いね!ガエンさん!
悪いとは思ってるんだよ?
うん。
ブレイン・シェイクシステムを介してガエンの文句がひたすら聞こえてくる気がするけど、全て聞き流す。
いやぁ、従属権限って、素晴らしいね。
ん?なんでそんな設定知ってるかって?
ふっふっふ、夢の中で誰か知らない人が教えてくれたのさ。
夢はすごいぜ。
「ガエン君が先に行ってくれたから、俺たちはガエンについて行こう!ねっ!」
──ガエンは何が「ねっ」だ!となどと思っていたのだが、それが幸二に届くことはない──