怪獣襲来編─2
─よし。
作戦は上々だ。
あとはこの私を頂点とする新しい国政態勢を作り出すだけだ─
そう心の中でつぶやき怪しく微笑むのは、この国の元王子であり、新王でもあるダガーラだ。
そう、あの"イフリート"には「怪獣の襲来によってタマゴに絶望を味わせたくない」という理由でこの国を出ていってもらったが、実際は彼らがただの邪魔者だっただけなのだ。
もうこの国に自分を邪魔する者はいない。
前王であったアベルディアも、"転移者"が協力してくれたこともあり殺すことが出来た。
あと邪魔なのは─
そして彼はゆっくりと、妹であるハナの部屋に歩いていく──
▶◀
彼女─ハナは少し反省していた。
確かに幸二を追い出したのは兄だが、流石に馬鹿、と言いすぎたと感じていたのだ。
しかしハナとて幸二を諦めた訳では無い。
いつか城を抜け出して幸二の元へ向かうためひっそりと準備を進めていたのだ。
残る準備はあとひとつ。
自分の代わりに朝までここに寝ていてくれる影武者。
その存在さえいれば彼女の作戦は成功する。
「ねぇ、あなた。
そこにいるのは分かっているのよ。
お願いがあるのだけれど...」
「おやおや、驚きましたね。まさか私の場所がバレているとは...。
お願いですか。どうせまた無茶苦茶な事なのでしょう?」
彼女は心の中で微笑んでしまう。
「ふふっ。そうよ。実はね、あなたに私の偽物役を頼みたいのよ──」
そうして、密かに姫とメイドの作戦会議が始まったのだった。
●●●
そして決行の日。
全ての準備は整っている。
彼女はきっかり午前1時に目を覚ました。
メイドは既に起きているようだ。
「ねぇ、イリス。あなた、本当にいいのね?」
何気にハナは心配性なのだ。
改めて自分のメイドであるイリスに確認をとる。
「全く、姫様は心配性なんですから...。
何度も言っているでしょう、大丈夫ですよ。」
「そうね...。」
そして、ハナは覚悟を決める。
幸いなことに姫の部屋は屋敷の1階部分にある。
なので、窓から飛び降りても大丈夫なのだ。
ハナは窓を静かに開け、窓から飛び降りる。
イリスがすかさず窓を閉め、ボソリと呟く。
「ハナ。どうかご武運を─」
それを言い終わるやいなや、予めハナと服装を入れ替えておいたイリスは静かに行動を開始するのだった。
ハナは丁寧に、かつ慎重に行動を進める。
もはや高価な和風メイド調の服が汚くなるのは気にならない。
兄が寝ている寝室の前を通らないように、裏の細い路地を通っていく。
そして、彼女は無事に屋敷を出ることが出来たのだった───
▶◀
契約と言っても、別に俺自身に負担はないようだ。
ガエンにある訳でもない。
じゃあ誰に負担があるのか?
人じゃない。魔法陣だ。
不思議な話だが、魔法陣は描いた人間のエネルギー、つまりは血液だが、それを利用しているのだ(ちなみにこの魔法陣には俺の血とガエンの血が含まれている)。
要するに、魔法陣を描く時は血が必要なのだが、それが全ての負担をしてくれるので、俺たちはなんの心配もなく使うことが出来る。
なお、血液と言っても5滴くらい垂らせば大体の場合は足りるので、多用しても問題は無いのだとか。
ただ、自分の血を大量に使って唱える魔法もあるらしいが、流石にそれは禁呪とされ、禁止されているとか。
そりゃまそうだろう。
唱えて死んだら元も子もない。
ちなみにこの情報は全てガエンとアオイさんが教えてくれた。
どうせ3歩歩けば忘れるだろうけど。
それはさておき、今後はどうするか...。
「さてさて、今後のことを話し合おうじゃあないか?」
「確かにねぇ。国を追い出されちゃったしぃ、行く宛もないしねぇ。」
「む?行く宛ならあるぞ。
我が昔いた都だ。」
おい、それってまさか。
何知ったかしちゃって、と思うだろうが、俺はガエンと契約している。
記憶と神経を繋げているのだ。
決して2人で巨大ロボに乗って巨大生物を倒す映画のあれではない。
カテゴリー5?何だそれ。
だが確かに呼び名は必要なので、ブレイン・シェイクシステム、とでも呼称しておこう。
決して違うぞ。
ぱくったなんて、そんな不謹慎な。
俺は著作権と法律と惚れた女は守る男なのだ。
惚れた女なんていないんだけど。
それはそうと、ガエンが何を言おうとしているのか。
そう、精霊達の都、聖霊国都カンディアだ。
名前の通り、精霊達がたくさん住んでいる都で、今は王たるガエンの代わりに、シルフィードという風の精霊王がその役割を務めているのだとか。
興味はある。ありありだ。
だけど。
精霊以外のものが入ると二度と出れないらしい。
俺たちどうなるんだよ。
ガエンはいいとして。
俺やアオイさんを都に閉じ込める気か?
「ふっ。案ずるな主よ。
王たる我がいれば、主達も無事にここに戻れる。
我がいれば、な!」
うん。案じちゃう。
ガエン、自信満々なんだよな。
アオイさん曰く、こういう時ほどダメなケースが多いらしい。
大丈夫かよ。
ちなみに、こういうガエンの愚痴を思う時はブレイン・シェイクシステムはオフにしているのでガエンには聞こえない。
ホント便利。
今度誰かの主になったらひたすらガエンの愚痴言お。
と、俺が険悪なことを考えているうちに意見はまとまった。
アオイさんとしても行きたいという気持ちが心の中で勝ったらしく、目をキラキラさせてワクワクしている。
アオイさん、ほんと黙ってれば妖艶な雰囲気を放つ妖しい美人さんなんだけど...。
ま、言わぬが花だ。
君子危うきに近寄らずって言うし。
俺としても異論はない。
んだけど...。
この草原で心地よく寝たい。
俺の心の中はそれでいっぱいだった。
なので、1日だけ、行きたくてうずうずしているガエンとアオイさんを引き止めて、ここで一晩を過ごすことにしたのだ。
夜ご飯はない。
でもお昼ご飯はちゃっかり王城でたっぷりと頂いておいたので、腹は減っていない。
それに、寝たい。
はよ。
ふと俺はうつらうつらし始める。
ダメだ。
もう眠気に勝てない。
おやすみなさい...。
そうして、俺は目にゆっくりと、シャッターを被せたのだった。