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王国訪問編─⑧

敷地内。

広大な庭園と、そこかしこにある庭木。

全て綺麗に整えられている。

そして、真正面にそびえ立つ、巨城。

そう。これこそが、俺の用事のある場所なのだ。

アベルディアさんはどんな人なんだろうか...

怖い人じゃないといいんだけど...


「心配しなくてもいいって言ったでしょぉ?

もぅ、気にしすぎよぉ!」


アオイさんがさっきから優しい言葉をかけてくれている。

俺としても、そこまで緊張している訳では無いんだけれど...

やはりトイレ行きたくてソワソワしなくて良かった。

ただでさえ緊張しているふうに見えているのに、トイレでさらにソワソワしていたら絶対に入れないだろう。


「さぁ、主様がお待ちだ。先を急ぐとしよう。」


さっきまでたらたら喋ってたくせに。


庭園を真っ直ぐに割くようにある石畳の道を進んでいくと、お堀にやってきた。ここからは橋を渡るのだ。初めて渡る、石畳の橋。

ワクワクする。


「おぉ...」


興奮が抑えきれずに声がこぼれてしまった。


「幸二、お前はいちいち感嘆しすぎだ...

この先どうなることやら...」


大丈夫だって。そのうち慣れるって。

慣れは大事。


「それじゃあ、開けるわよぉ!」


ここは意外にも襖だった。

へぇ。開かないんだね。

珍しい気がする。


「アベルディア様に会いたい。取り合ってくれ。」


"イフリート"がそうそうに受付している。

デキる男、そんな感じが溢れてる。


「かしこまりました。しかし、文句は一切受け付けられませんが、よろしいでしょうか?」


文句?

なんでそんなことを聞くんだろう?


「文句など言うわけもあるまい!

では行くぞ、お前達!」


疑問はまあまああるが、とりあえずは会ってみないとわからないからねぇ。


「おう!」


とだけ言う。

案内人が連れて行ってくれるようだ。

ありがたい。

俺たちは入口で靴、というか草鞋を脱いでいるので、もう足音はしない。

やっぱ縁側っていいよね。

心が落ち着く。


「こちらです。」


そう言って連れてこられた、ひとつの部屋。

なんというか、和を極めすぎたらこうなる、って感じだな。

これはこれで趣があっていい。

中に入った。

部屋の真ん中に敷いてある、布団。

そこに寝ている、1人の老人。

まさかこの人が...?

いや、そんなわけが...

色々考えているうちに、老人の思い口がゆっくりと動く。


「おぉ...。そこに...いるのは...ガエンか...?」


「そうでごさいます!ガエンでございます!

任務を終え、ただ今帰還致しました!」


えっ。驚きの事実が2つ。

こいつがアベルディアなのは薄々は分かってたよ。まあそれはそれでもいいさ。

でも問題はこっちだ。

こいつの名前、『ガエン』だったのか。たしかにイフリートって呼ぶのはなんか変な感じだとは思ったけどさ。

なんとなく種族名っぽいし。

ここは、アオイさんに聞こう。


(アオイさん、"イフリート"ってガエンって名前だったの!?)


アオイさんの耳元で囁く。


(えぇ。彼は確かにイフリートなんだけど、それは「種族名」でね。種は焔精霊王(イフリート)、名を『ガエン』と言うのよ。)


口調が変わった。格好つけて言いたかったんだろう。

にしても驚きだ。こいつにも名前があったとは。


(ただね、彼自身は自分をガエンと呼ばれることをあまり好かなくてね。自分の主にしか呼ばせないのよ。

ま、そこが可愛いんだけどねぇ!)


ほう。だから俺には"イフリート"と。納得だ。

俺の中にガエンと呼びたいという気持ちが芽生えたのは、また別の話。

にしてもアベルディアさんはなんでこんなにも瀕死なんだろうか。

不治の病とか...?


「おぉ...。そうか...。しかし...、少し遅かった...。

あと1年...早ければ...。」


「アベルディア様!?

一体何があったというのですか!?」


うん。それなんだよ。

すると意外な人が答えてくれた。


「私から説明しましょう。我等が主様──アベルディア様は、約一年前、突如現れた自称"転移者"によって致命傷を負ってしまわれたのです。転移者はすぐにその場を去ってしまったため今の所在は不明ですが、アベルディア様は寿命があと少し、という所まで来てしまっていたのです...」


アオイさんから告げられる、衝撃の事実。

おい、それってギリギリ間に合わなかったってことかよ。

まじかよ...


「アベルディア様の超回復は!?

それでも駄目だと言うのか!?」


「ええ。それでも無理だったわ。どうやら"転移者"にしか解けない呪縛を植え付けられたようなの。

我々ができたのはそれを突き止めたことまでよ...」


「そんな...。

アベルディア様...

あと一年...あとたったの1年早くあなたのお側に戻れていれば...!!!

こうなったら、その"転移者"に殴り込みに行くしかないだろう!!!」


「まあ...待て...。私は...、お前の帰り...を待って...いたのだ...。

何の...ための...タマゴ...だ...?

タマ...ゴ...を...孵...らせ...、敵を...うつのだ...。

私は...長く...待ちすぎ...た...、

少し...休む...。」


いや、それは寝たらあかんやつ!

だめ!

寝たらダメー!!!

言いたいのだが、声が出ない。

こういう時に限って...。

悔しい。何故だ...

くそ...。


「お待ちくださいアベルディア様!!!まだ...。

まだ...眠られるのは随分と早いですよ...。」




アベルディアは黙ったままだ。呼吸もだんだんと遅くなる...。


こちらの世界の時間で5月25日午前9時14分53秒。


この世界の大国を収めていた王は、最後に自分の最も愛する下僕に看取られ、静かに息を引き取ったのだった。



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