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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

良かったねぇ? 自覚できて。

作者: 綾瀬紗葵

 夏のホラー企画参加作品。

 今年は短編として合計7作品上げる予定です。

 こちらは3作品目。

 不気味というかグロテスク、生理的嫌悪を覚える描写がそこかしこにあります。

 また、虫や両生類、深海魚の描写もあります。

 お読みの際は自己責任にて宜しくお願い致します。    

 また、タグを見て苦手意識を感じた方は読まない方向でお願い致します。


 7月19日 誤字修正 ご指摘ありがとうございます!




 私は、今日も見ている。

 見続けている。

 気持ち悪い、アレ、を。



 裏野ドリームランドがまだ廃園になっていなかった頃、アクアツアーに参加すると時々、見たこともない奇妙な生物が見られると結構な評判だった。


 私は怖い物見たさに何度も足を運んだけれど、一度も見られなかった。

 一緒にツアー参加していた知らない人が『ほら、見てあれ! あれじゃない!』とか『うっわ! きめぇ。あんなん見たことねぇぞ!』などと騒ぎ立てていた時も、興味はないけれど、そこまで言うなら見てもいいわよ? という態度で、自己主張する人々の目線や指差す場所を真剣に探してみたけれど。

 やはり見ることはできなかった。

 騒いだ人達は、見た気になっていたか、そう言って人の気を引きたかったんだと思う。


 アクアツアーは、世界各国の海をテーマにした大小様々な水槽を回るもので、案内人もきちんと教育を受けた正社員のようだった。


 案内人の説明は決まって単調だったが、時々、一つの水槽の前で、引きったような掠れた声で説明をする場面に遭遇した。

 そして遭遇した後でツアーに参加すると、案内人は必ず変わっていた。

 どうしたのかと尋ねても、人事の異動ですとか、一身上の都合で退社したようですと言った、無難な答えしか返ってこなかったけれど。

 私は知っていた。


 案内人は全て、行方知れずになっていたのだと。


 裏野ドリームランドのファンサイトに、様々な書き込みがあったのだ。


『アクアツアーズの案内人、退社したとかいってたけど、行方不明らしいぜ?』


『また変わったね、アクアツアーズの案内人。前の人は人事異動とか言ってたけど、どこのアトラクションにもいないっておかしいよね。正社員だから、裏方になったとか?』


『辞めたアクアツアーズの案内人ってさ。ほら例の、不気味な生物見て、精神病んじまったんだってよ』


『爺ちゃんな案内人、いたじゃん? ちょっと前にホームレスで見たよ。でさ。辞めた原因とか色々聞いたらさ。何時の間にかいなくなっちゃったんだよね』


 といった具合に。

 

 私は鋭い洞察力で、一つの巨大水槽に問題があることに気がついていた。

 案内人がいなくなる前に決まって、何かに怯えたような態度を見せた巨大水槽は、世界の深海魚を集めた水槽だった。

 深海ともなると存在できる生物がかなり限られているらしく、そこだけは様々な国の深海魚が生息していたのだ。

 深海のイメージのままに水槽にへばりついて見ても魚影が確認できないほどに暗く、北極南極コーナーとはまた違った底冷えする冷気が漂っているので、夏場は結構人気だったらしい。

 時々蠢く深海魚にスポットライトが当てられては、悲鳴が上がっていた。


 その暗さと、長時間は居にくい寒さのせいで、なかなか不気味な物の正体が確定されなかったのだろう。

 実際、ファンサイトにも不気味な生き物の具体的な描写はなく、あっても同じではないどころか、共通点すら少なかった。



 私が、気持ち悪いアレを見つけられたのは、廃園が確定し。

 照明や空調の制御がなされなくなってからだった。


 アクアツアーズに使われていた水槽の大半は水が抜かれて適当に掃除がなされていたが、中には幾つか放置されていた水槽があった。

 魚が死に腐れたのだろう凄まじい悪臭も段々に薄れていき、魚特有の生臭さが鼻につく程度になった頃に発見できた。


 深海魚の巨大水槽は、一番大きいにもかかわらず放置された水槽の一つだった。

 巨大な深海鮫が腹を見せてぷかりぷかりと浮いていたり、その死骸に無数の小蟹が集っていたり、死んでいるかと見せかけたダイオウグソクムシがのそりと動いたり。

 

 最初の遭遇は、そんな生と死が混在する世界に見とれていた私の視界を一瞬かすめた程度だった。

 物凄く早く動く生物なのかと思ったが、深海にそこまでスピーディーな生き物はいない。

 ならば存在感がない生き物が、一瞬だけ気配を立てたのかと考え直して、息を殺すと長時間凝視し続けた。


 そこまでしてやっと、見つけたのだ。


 掌サイズほどの、透明な生き物を。

 見つけにくいはずだ。

 目以外の全身が透明なのだから。


 奇形種の蛙のような姿形をしており、目だけがルビーのように赤い。

首が二つ、足は十二本。

 腹の中にはオタマジャクシのように頭が大きい線虫が無数、うねりまくっている。

 基本は水に揺られるかのように、ゆうらりゆうらりと振り子のように揺れて、時々首や手足を我武者羅に動かす、不気味な生き物を。


 蛙が苦手な人は多いだろう。

 それ以上に、首が二つあり、足が十二本もある歪な生命体は、気味が悪い。

 更に腹の中で蠢く線虫がまた、嫌悪感を煽った。


 それでも私は、ようやっと噂の生き物を発見できて嬉しかった。


 しかし。

 いざ、正体が判明してみると。

 今度は新たな疑問が生じたのだ。


 この、蛙もどきを見ただけで、どうして案内人達は行方知れずになったのかと。


 色々なパターンを考えてみた結果。

 ホラー小説好きとしては、正体を知られたもどきが、線虫を案内人の体内へと侵入させ、脳を支配し、もどきの食料として、その身を水槽の中へと投じさせた、という真相が気に入った。


 きっとそうに違いないと、不可思議な泳ぎ方で水中を移動するもどきを、飽きることもなく眺める。



 どれぐらいの時が経ったのかは解らない。

 ずきっと酷い頭痛がした。

 と、同時に。

 頭の中で声が響いた。


『やー! 妄想乙! あんたってば、化け物になっても屑のまんまなんだねぇ!』


「……誰?」


『あんたの良心よ! ようやっと出てこられたわ!』


「良心、って?」


『不気味な生き物が私だけ見られないのはおかしいって案内人の人に食ってかかった挙げ句、あんた達が悪いんだ! って何人も殺して、水槽に放り込んでさ。ばれたらばれたで、水槽に投身自殺したサイコパスなあんたの中、微かに存在していた常識の集合体……って言ってもいいかな?』


 声の言っていることが微塵も理解できない。

 夢でも見ているんだろうか。

 見ているとしたら悪夢だ。

 それだけは、間違いない。


『ほら、そいつ。あんたがもどきっていってる、寄生虫。そいつに触手の一部を食われて、その痛みで、私が出てこられたってわけよ!』


「ナニを、言っているの、貴女」


『うん。あんたは人間じゃない。クラゲの化け物になったんだよ? ほら、よーく目を凝らして見てごらんよ。クラゲに目があるのか知らないけどさぁ』


 言われて凝視する、水槽の反対側にある汚れた巨大な鏡。

 鏡の中を集中して見れば、声の通りに、ソレは、いた。


 巨大な水槽と同じ大きさのクラゲ。

 水槽そのものといってもいいだろう。

 膨れて大きすぎる頭部はぼこぼことした凹凸が目立ち、長く太い触手のあちらこちらがちぎれそうになっている。

 色も水槽の汚れた水に同化している、薄汚れた色。

 水槽内のあらゆる生き物を補食しているため、頭部触手関係なく全身に、喰いかすがこびりついている。


 水に透けてゆらゆらと揺れる触手その先に、もどきが張り付いていた。

 巨大なクラゲを、小さな首と手足を食べる喜びで無邪気に蠢かしながら捕食している。

 その、微かな微かな痛みが、声の主を呼び起こしたのかもしれない。


『水を浄化できるクラゲとか、希少種だし? サンプルとか取られて、今まで生かされてきたけどさー。寄生虫がついちゃうと、色々まずいらしくって、破棄が決まったんだよねー』


 これが、私?

 巨大クラゲの化け物が?


『しかもあんたさー。廃園に忍び込んであんたを見た奴等も食べたんでしょ? さすがにその人数も見逃せなくなったみたい。人食いクラゲも希少種だったからね。二重の意味であんたは珍妙な生き物だったんだよ?』


 人を食った?

 嘘だ。


 でも、私はどうして、知っていたんだろう。

 確信していたんだろう。

 書き込みには行方不明と断定されていない件の方が多かったのに。

 案内人が行方不明になったのだと。

 

 それに私は、何時からここにいるのだろう。

 食事は何時取った?

 トイレには何時行った?

 睡眠を取った記憶が、どこにある?


『つまりはさー。あんたはね? あれほど執着していた、アクアツアーズの謎の生き物に、なれたんだよ!』


 巨大水槽の前に、入館してから閉館するまで、毎日居続けた私。

 不気味な生き物を見たよ! と言う声があがれば、どこにいるのか教えろと、老若男女関係なしに食ってかかった。

 注意をしたり、無視したり、排除しようとした案内人や、それ以外の人間を何人も水槽の中に放り込んだ。

 警察に追い詰められて、水槽の中へ飛び込んで、魚達によってたかって食われた。


 そして。

 そして……私は。

 アレに、なった。

 巨大クラゲに、なった。

 水槽にぴたりと嵌まって身動きできない。

 ゆっくり、ゆっくり時間をかけて小さな寄生虫に食べ尽くされる巨大クラゲの、不気味な化け物に。

 

 絶叫を上げ続ける私の耳元で、もう一人の私の声が嬉しそうに囁いた。


 良かったねぇ? 自覚できて。




 サイコパスにしては微妙かな? と思ったのですが、自分の邪魔者を罪の意識なく何人でも殺せるのは十分サイコパスだろうと。

 ……と思っていたところ、メッセージでパラノイアの印象かも? と頂きまして、なるほど! とタグ変更しました。


 文章中には書きませんでしたが、彼女が犯行に及んだのは、経費節約のために監視カメラ映像の切られた深夜だったため、犯行がなかなかばれませんでした。

 投げ込んだ遺体に関しても、私の邪魔をしやがって! という、鬱憤も存分に晴らして、細切れにていたので、魚に食べられてしまっていたというのもあります。


 ……なんだか、後書きが一番猟奇的な気がしてきました。

 

 

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