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第四話 『劇薬と血清』

※5/8 毒性の設定を変更しました

「さて、腹も満足したところで、商談といこうか!」

「イクマさん、最初にも言ったけんども、ワシは金はあんまり持ってねぇべ」

オスビンは、オドオドと困ったようにそう言うが、イクマは構わず、腰に下げた袋から

・濁った土色の液体が入った瓶を1つ

・注射器を6本

・薄い黄色の透明な液体が入った瓶を1つ

を取り出して、テーブルの前に並べる


「まぁとりあえず聞け」

イクマは、濁った土色の液体の入った瓶を、オスビンの方へ、少し押し出した

「これは……なんだべか?」

そもそも透明なガラス瓶が貴重な世界である。オスビンは、その高級そうな細工がされた器に興を引かれ、中身については考えが及んでいないようであった

「容れ物はともかくだ、重要なのは中身だ」

「中身? 貴重な酒かなにかだべか?」

あれから、さらに3杯ほど酒を飲んでいたオスビンは、赤ら顔で呑気に首を傾げている


「大きな声では言えないが……」

イクマは身を乗り出し、オスビンに顔を近づけると、声を静かに言葉を続ける

「これは劇薬だ」

「ッ!?」

オスビンはビクッと身をこわばらせて、酒場をキョロキョロと見回した。夜に足が掛かる時分の店内は、喧騒に溢れ、イクマとオスビンの会話に耳を傾けている奴などいやしないし、そもそも劇薬を持っていたとしても、使わなければ罪に問われる道理も無い。イクマは構わず、注射器を手に取ると、その先端を酒の入ったジョッキの中に突っ込んだ


「これは注射器といって、こうやってこの部分を引き上げると……」

イクマが注射器のブランジャーを引き上げると、注射器の中に酒が吸引されていく。イクマは酒に満たされたそれを持ち上げて、その先端をオスビン向け、こんどはブランジャーを一気に押し込んだ

「うわっ! 何するべ!?」

注射器から押し出された酒が、オスビンの顔に直撃する。浴びせられた液体が酒であることは、様子を見ていたオスビンにも承知のことであり、びっくりはしていたが、焦った様子もなく、腰に下げた手ぬぐいを取ると、それで顔を拭っていた。


「ふふふ。悪い悪い」

イクマは謝りながら、酒の水滴が盛り上がる、注射器の先端をオスビンの眼前に寄せる

「いいか? この針は空洞になっていて、中の液体を吸ったり、出したりすることが出来る」

「むぅ。すげく細っこい針だども、ほんとに穴が空いているべ」

オスビンは驚愕に顔を染めながら、針をマジマジと見つめている。イクマはそれを見て少し口角を上げると、オスビンに囁いた

「例えば、この注射器に劇薬を満たしたとするぞ」

イクマは、劇薬の入った瓶の横で、注射器のブランジャーを引いてみせる。無論それに満たされたのは、空気に過ぎないのだが、オスビンがゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた


「そして、この針を刺してココを押せば……刺した相手の体の中に、直接毒を流し込むことが出来るってわけだ」

「刺すって……一体誰にだべか?」

「さて……ね。それはオレの預かり知らぬところさ。別に<<人間に>>と言っていないだろう? 大きな獣を倒すときにも使えるさ」

「だども、そんなもんおっかなくてワシは……」

「まぁ、話はまだ途中だよ? そこでコレの登場さ!」

イクマはもう一つの瓶、薄い黄色の透明な液体が入った瓶を、劇薬の隣に置く。


「これは血清という。この劇薬に冒されても、そうだなぁ、1分以内にこれを使えば、助かるっていう薬だ」

今度は、血清の瓶の上で、イクマは注射器のブランジャーを引いてみせる

「劇薬の投与と同じ要領で、血清を打てばいいんだよ」

「それは絶対に効くんだべか?」

「そうだね。時間内であれば、まず助かるよ」


 一通りの説明を受けたオスビンは、一拍の逡巡を経て、口を開いた

「だども、こんなもの貰っても……使いみちがあるんだべか?」

イクマはそれには答えを与えない。それは言うべきでないことなのだと理解していた。イクマが<<使い方>>を提示すれば、恐らくオスビンは、この商品を受け取らないであろう。善良であれば、もしくは善良であるふりをするのであれば、それが必然なのだ。


 もし受け取る人間がいたとすれば、それは悪人でしかありえないし、悪人がこれを<<使い方>>通りに使うことは、彼らの望む生き様であり、彼らにとって幸福であるのだ。


 ――オレは悪魔だ。だから、オスビンに、善良な人間に<<使い方>>は教えない

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