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第三話 『酒と肉』

 イクマは男を近くの酒場に誘い、適当に酒と肴を頼んだ。男は勘定の心配をしてオロオロとしていたが、イクマが「奢る」と伝えると、それはそれで恐縮にオロオロとしているようである。


 ――金は問題ない。<<ゲーム>>のルールである程度は引き出せる

 イクマはデニムのポケットに手を突っ込み、ジャラジャラと鳴る、歪な硬貨の感触を確かめた。


 薄汚れた厚手のブラウスに、茶色い染め付けのロングスカートの女店員が、酒を2つ運んでくる。木製のジョッキに満たされたそれの名前をイクマは知らなかった。「酒をくれ」といえば、自然とこれが提供されるから口にしていたが、特に旨いとも不味いとも思っていなかった。匂いを嗅げば、麦の醸造酒なのだろうと予想はついたが、飲んだ感想としては、薄い白ワインだと、僅かな酒の知識の中に、そう感じていた。


 この世界では<<鉄>>は量産できるものではないようで、酒場は木造であり、建具も家具も木で造られたものがが主であった。周りで提供されている料理が盛られた皿をみると、それは陶磁器であったが、素朴な趣きで「益子焼に似ているかもな」とイクマは思っていた。


「まずは、乾杯といこうか!」

まずは、男の信頼を得ようと、努めて明るく、イクマはジョッキを片手に上げる

「あ、いや……。どんも、ご馳走になります」

なれない敬語で、男もジョッキを遠慮がちに持ち上げた

「それじゃ、乾杯!」

イクマは杯をぐいと前に出して、半ば無理矢理に男の杯にぶつけると、一気に酒をあおった。


 ――アルコールが薄いのが救いだな

 イクマの年齢は、17歳であり、アルコールを口にして良い年齢ではないが、この世界では、それを取り締まる法律は無いようであった。イクマは本来の自分の世界で、ビールを飲んだ事があったが、その時は350mlの缶1本で、結構酔いが回ったことを記憶していた。ジョッキ半分ほど飲んでみたが、少し顔が上気した程度であるのだから、こちらの酒はアルコール度数が薄いのだと、イクマはそう判じた。


「いやぁ、酒なんて久しぶりだぁ」

イクマが男に目をやると、既に空になったジョッキを見つめて、男が感慨深そうな顔をしていた

「そうなのか?」

男は少し寂しそうな色を目に浮かべる

「貴方様には、わがんねかもしれねっすけど、ワシらは酒なんて、めったに飲めねぇんですよ」

「ああ、オレのことはイクマでいいよ。そういやアンタの名前はなんてんだい?」

「ワシは、オスビンといいます」

「仕事は?」

「山で木さ伐って、薪にして売っとります」

「ふーん。大変そうだな」

「はぁ、まぁ……。でんも親父も、その親父もずっとそうやって暮らしてきましたもんで。べんつに大変だと思ったこともないですよ」

「ふむ、確かにそんなものかもしれないな」


 <<適当に>>と頼んだ料理が運ばれてくる。木の実やらが煮込まれた茶色いタレがかかった揚げた魚と、肉と芋を焼いたもの、そしていかにも硬そうな茶色いパンが数個だ。肉は一口大に切り分けられていて、断面はレアである。何の肉かどうかも分からないイクマは、少し顔をしかめたが、オスビンの顔は喜色に溢れていた

「こんな豪華な料理……ワシも相伴に預かって良いんですか?」

「もちろんだよ。あと、敬語の必要はないから。気楽にしてくれ」

オスビンはぎこちなくだが、軽く頷くと、木製のフォークを器用に使って、料理を口に運び出した。

「うめぇ! 肉の脂なんざ、久しぶりだべ!」

「ハハ! 喜んでくれたら、オレも嬉しいよ」

イクマはそう言うと、肉の一欠片をフォークで差すと、えいやと、それを口に放り込んだ ――ん、意外と旨いな

 ――だけど、これからオスビンを不幸にしなければならないってのに

 ――オレも随分と気楽なもんだよな

イクマは、肉を咀嚼しながら、自嘲気味に口を歪めた。

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