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 お花畑に行っても二人はまだ来てないだろうな。

 一人で待つのは寂しいけど朝ごはんを食べながら待ってたらいいよね。


 そう思いながら教会の裏に回るとシャアアって水の音がした。

 雨は降っていないから誰かがお花に水をあげているのかな。


「レミちゃんかな。フェルリくんかな……」


 結構早起きなんだなって思って見るとそこにはじょうろを傾けて水を出す見たことのない、右の頬に十字の傷跡があるおじいさんがいた。


 おじいさんはじょうろでお花に水をあげているつもりなんだろうけど、水はお花じゃなくて地面にばかりかかっている。


「あの、そこにお花はないですよ?」


 地面が濡れて色が変わっていくだけなのに。って不思議に思って話しかけるとおじいさんは手を止めてあたしのほうを向いた。


「ああ、これはこれは教えてくださってありがとうございます。私は目が悪くて花が見えないのですよ」


 それなのに水やりをしに来てるなんて。


 この町の人はあと牧師さんがいるだけなんだけど、傷跡を見る限りじゃおじいさんは牧師さんには見えない。


 じゃあおじいさんは一体どこから来たんだろう。



「すみませんが、私の代わりに花に水をあげてくれませんか?」


 おじいさんに質問したいけど先に水やりを手伝ってあげたほうがいいよね。


「はい、いいですよ」


 おじいさんからじょうろを受け取って私はたくさんのお花に水が行きわたるように花畑に足を踏み入れて奥から水をあげていく。


「心優しいあなたのお名前を教えてはくださいませんか?」

「あたし、ソリスっていいます」


 水やりをしていたら後ろからおじいさんが尋ねてきたから答える。


「ああ、なるほどお姫様でしたか」

「え?」


 そしたらあたしのことをそんな風に呼んだ。

 お姫様なんて恥ずかしい。


 それよりなるほどってなんだろう。おじいさんはあたしのこと知ってるのかな。


「あなたがまだ赤ん坊の頃に一度だけ会ったことがあるんですよ。大きくなったあなたに会えるのは嬉しいですね」

「あたしに?」


 外に出たことがなくてママ以外の人はあたしのことなんて知らないと思っていたのに。

 おじいさんは知ってくれてたのかな。


 でもあたしはお姫様じゃないし。人違いかな。

 とりあえず水やりをしよう。


「よしっ!」


 奥のお花から順に水をあげてきて全部のお花に水がいきわたったかなって思ったところで水が無くなった。


 水の音がなくなったことに気づいたおじいさんも、もういいですよって言ったからじょうろを返して今度はあたしが聞く。


「あの、おじいさん……あたしに会ったことがあるって本当に?」

「ええ、もちろん。そしてあなたが二人のお姫様が夢を叶えた証だということも知っていますよ」

「ふたりの、おひめさま?」


 おじいさんは不思議なことばかり言うからとても気になる。


「おじいさん、二人のお姫様のお話を聞かせてほしいの! 朝ごはんがまだならあたしのパンを分けてあげる」


 ポケットからパンを取り出して二つにちぎる。


「おやおや、いいんですか? では、ありがたくいただきますね」


 おじいさんの手に半分にしたパンを渡してからパンを口に入れておじいさんの話を聞いた。


「昔、まだ私の目がはっきり見えていた頃なんですがね、私たちが今いるこのお花畑でお二人の元気なお姫様と、大人しいお姫様がよく遊んでいらしたのですよ。綺麗な花の中、可愛らしいお声で笑っていつも楽しそうでした」


 おじいさんはパンを食べないまま手に持ち続けて、傷のある右頬を上げて笑顔で語ってくれる。


 お姫様はお花畑でいつも互いに花を贈りあったり、飾りつけを作ったりして遊びながら夢を語りあっていたらしい。


「あまりの可愛らしさにお茶会によく誘わせてもらったものですよ。そしてお茶会に来るといつも夢の話をね、聞かせてくれるんです」


 二人の夢は違っていて、一人は王子様に出会うこと。


 そしてもう一人は


「お姫様に出会うことだったんですよ」

「お姫様なのに?」

「ええ。新しいお姫様に会いたいと元気なお姫様が言うものですから」


 そして、そのお姫様の新しいお姫様があたし?

 でもあたしのママはお姫様じゃないし、あたしもお姫様じゃないからおじいさんは多分間違えてるんだ。


 そのことをおじいさんに教えてあげる前にレミちゃんがやって来た。フェルリくんはいないけど、まだ寝てるのかな。


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