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「町のことについては教えてあげたくても教えてあげられない。その代わりに世界のことを教えてあげようと思う」
「世界? 王子様とか不思議な生き物が住んでいるところのこと? それならたくさん――」
「オレ様たちが存在するこの世界のことだ」
知ってるって言えなかった。
だってあの家で二人と読んだ本は絵本か料理の本ばっかりだったから知ったのは料理の名前とか新しい物語だけ。
でも知らないなら教えてもらえばいいよね。
「うん教えて!」
「ただし条件がある」
「え?」
「私たちは君に世界を教えよう。だから君は私たちに君自身のことを教えてくれ」
「あたしのこと?」
あたしのことってなんだろう。名前は言ったし、ママのことも知ってて家の場所も分かるのに。
何を教えればいいんだろう。
「オマエはこの町にしばらくいなかった。いなかった間どこにいて、何をしていたのか。それが知りたいんだ」
「つまり君の思い出と私たちの知識を交換するということだよ」
「あたしの思い出……」
二人と一緒に過ごした楽しい毎日を話せばいいのかな。
それは別に交換なんてしなくても話したいことだけど、本当にそれでいいのかな。
「どうだ? 構わないか?」
「うん! 交換なんてしなくても聞いてほしいことがいっぱいあるの。なのに交換でいいの?」
「もちろん。君にだけ話させて私たちが何も話さないのは不公平だからな」
「じゃあたくさん聞いてね! えっとね……」
まず話したのはあたしがどうして二人の所に行くことになったのかっていう理由から。
生まれてから五年間外に出たことがなかったあたしをプレゼント代わりに外に出してくれたママ。
「どうやって行ったんだ?」
「分からない。行ってる間、あたしは寝てたから」
そして目が覚めたら白い部屋の中にいた。そこでママから外に出て二人と仲良くして待っててって言われて外に出た。
外に出て家に着いて、でも誰もいなくて不安で泣いてたら、二人が来てくれたんだ。
「今思うとあの時から助けられてたのかな……」
「なるほどな」
「さて、じゃあ一旦区切りを入れて次は私たちが話そうか」
一人ごとを呟いたらレミちゃんが区切った。
まだ話したいことはあるけど世界について教えてもらうのも楽しみだからあたしは話すのをやめてレミちゃんとフェルリくんの話を聞くことにした。
「まず、世界は三つに分けられている」
レミちゃんがいきなりびっくりすることを言う。
「三つ?」
「二つの神が生まれ、生き続ける世界。それから天使と魔族の住む世界――七天魔の存在する世界は“アンディア界”と呼ばれる。そして人間と魔物が存在する“アノルジ界”だ」
「どうして神様の住む世界に名前がないの?」
天使、魔族、人間、魔物の世界にはあるのに、みんなをつくったって言われている神様の世界に名前がないのは変。
「神はもはやいない。からだ」
「え? 神様はいないの?」
「神を見た者はいない。天王と魔皇という変にでかい称号は持っているが、それも人間が七天魔を束ねる者がいると考えたからに過ぎない」
「え、と……七天魔さんより偉い人がいるんだろうなーって考えたからつくってみただけってことなの?」
「待てフェルリク、そうすると次に話す“天獄”がおかしくなる」
「何がだ」
二人は何を言っているんだろう。頭が痛くなってきた。
なんだか言い争いしてる二人を放っておいてあたしなりにまとめてみる。
あたしたちの住んでる世界がアノルジ界、天使と魔族の住んでいるのがアンディア界、神様の世界は人間が分からないから付けられない。
神様はいない……。
でも、神様が苦手な人は知ってる。神様に嫌われてるって思う人も。
「神様はいるの? いないの?」
まだ言い争っている二人に聞く。
「話をややこしくしないためにいるとしておいたほうがいいみたいだな」
「しておくのではない。いるんだ!」
「いるのね! うん、いるね!」
いるってことにしておいたほうがあたしにも分かりやすい。
神様はいる。
これでまとめたけどフェルリくんだけは納得がいかないみたいだった。
「まあ世界は三つあると分かっていればいいさ。知っていても人間は他の世界には行けないのだから」
「七天魔の人たちは来れるの?」
「その話は明日にしないか? もう日も傾いてきている」
「そうだな。明日の朝、ここの花畑で会おう」
夕方になって二人と別れてから家に帰る。
帰る道の途中には家が三軒建っているけど、暗くなってきてるのに明かりがついてないから確かに人はいないみたい。
五人だけしかいない町は三人だけの家より寂しい気がした。