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「牧師さん……ぼくしさ、っ……」
名前を呼んでも返事をしてくれない牧師さんに悲しくなって溜まっている涙があふれ出る。
握っている手に涙がかかってしまって拭こうとしたら、繋いでいないほうの牧師さんの手があたしの頭に力なく置かれた。
「泣くことは、ないですよ」
「っ、ごめんなさ……」
牧師さんを不安にさせちゃうから泣いちゃいけない。
そう思うのに涙は止まってくれない。
「……レミチャさま、フェルリクさま……すこし、せきを外して、いただけませんか」
牧師さんが目を開いて扉の側にいる二人に言うと二人は頷いて扉から出ていく。
でも、レミチャが不意に立ち止まって
「……マキシ牧師、私の力を貸そうか?」
「いいえ……あなた様のお力を、いただけるような、人間では、ありませんよ」
「あなたの意志は固そうだ。分かった私は何もしない」
そう言うレミチャの目はとても優しかった。
「ソリス、何かあったら呼んでほしい」
「うん」
頷くとレミチャは扉を閉めて行ってしまった。
残されたのはあたしと牧師さんだけで、部屋にはあたしの泣き声を耐える呼吸音と、牧師さんの静かな息遣いだけが響いていた。
「本当にね、泣くことは、ないんですよ」
頭の上に置かれているだけの手がゆっくり動きだして頭を撫でてくれる。
「二人の、夢が叶ったことを、知れて、私は嬉しい」
頭を撫でてくれる優しい動きを感じながら顔を伏せる。
「悲劇の、お姫様ですが、夢が叶う喜びは、悲劇を、喜劇に変え、幸せになれたでしょう」
優しい声に耳を澄ませて
「そう知れたのは、赤子のあなたに、出会えたからです。ありがとう……ソリス」
顔を上げた。
牧師さんはあたしに会ったことがあるって言っていた。
だけどそれは人違いなんじゃ……
そう尋ねる前に扉がノックされてママが入ってきた。
「ソリス、あなたは先に帰ってなさい」
「でも……」
「お姫様、今度は、あなたの母上と、二人にしてください」
撫でてくれていた手は下ろされて、牧師さんに頼まれる。
あたしは握っている手を両手で握ってそこに額を押し付けて手を離すと、牧師さんは出会った頃と同じように傷のある右頬を上げて笑顔を向けてくれた。
ママと牧師さんを残して部屋を出てから、教会に置かれている長椅子に座る。
前の祭壇にはレミチャとフェルリクが話すことも、お祈りするわけでもなく立っていた。
あたしも二人に声をかけないでぼーっと前を見る。
そしたら頭の中に朝の花畑で水やりをしながらおしゃべりをしたり、お茶会をしてくれる牧師さんの姿が浮かんできた。
でもそれはすぐに今見てきたベッドに横になる牧師さんに変わった。
「っ……っう……」
止まりかけていた涙が溢れてくる。
景色がぼやけてきて俯いて両手を顔に押し付けて声を漏らさないようにした。
考えちゃいけないけど考えてしまう。
牧師さんはここからいなくなってどこか遠く、もう二度と会えないところに行ってしまうんじゃないかって。
考えたくないのに、頭は勝手に答えを出してくる。
牧師さんの、死を。
「っ、う……っ!?」
泣き続けるあたしの肩に誰かの手が置かれて顔を上げた。




