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生きる為に


 新しい攻撃手段がる。

 

 将臣は迷宮から帰還した後、久方振りに街の外、街壁の向こうへと足を運んだ。

 迷宮程では無いが、街の外にもモンスターと呼ばれる存在が生息している。

 それらは総じて、迷宮のモンスターよりも弱い存在ではあるが、決して無視出来る脅威では無い。現に、商会の輸送隊キャラバンや旅人などの被害が出ている。

 モンスターを狩って生計を立てている探索者にとっては、モンスターが密集している迷宮の方が稼ぎやすいのだが、実力が足りない、或いはギルドの護衛依頼などで稼ぐ探索者が街の外に足を運ぶ事は少なくない。

 寧ろ、そういう依頼をメインに行う探索者も中々多いのだ。

 将臣が態々(わざわざ)街の外へと足を運んだ理由。

 それは、新しい攻撃手段を得る為だ。

 将臣はアドバンテージを失う事で、初めて実感した。

 自分が『弱い』事を。

 将臣は生粋の魔術師であり、肉弾戦の戦闘能力は一般的な探索者程度しか無い。

 一年間の戦闘でそれなりの観察眼と言うか、敵の僅かな動きや予備動作で次の攻撃を予想し回避する技術を身に付けてはいるものの、近接専門の剣士などには遠く及ばない。

 それでも将臣が【魔術杭バンカー】などと言う魔術を生み出したのは、ひとえに遠距離で強力な破壊力を持つ魔術を考えていなかったから。

 この事実に気付いた時、将臣は愕然とした。

 将臣の最も強力な魔術は第十階位の【無情の嵐】だが、魔力消費量や展開の速さを考えれば【魔術杭】が最も手軽に使用可能な切り札と言う事になる。

 杭を魔力爆発で射出するなど、この世界の発想では存在しないだろう。

 故に、正確な魔術階位こそ分からないものの、それなりに強力な魔術。

 そして、同じ威力を誇る遠距離魔術を、将臣は持っていなかった。

 今の今まで、必要無かったのだ。

 大抵、将臣がこの世界で戦ってきモンスターは、遠距離で掃討、それで死ななければ接近して一撃入れれば終わりだった。

 前の様な、ガルエンディアの方が異常。

 遠距離の攻撃が通らず、近接の一撃すら完全に通らず。即興の【魔術杭Ⅱ】【魔術杭Ⅲ】が生み出せなければ、恐らく勝者は逆転していただろう。

 強力な魔術、【魔術杭】があるから良い、貫けぬモノは無い。

 そこに『接近しなければならない』と言う、魔術師にとって最も忌むべき行為が含まれていても、将臣は気にしなかった。

 将臣は、慢心していたのだ。

 この世界が、ゲームの様だと思っていた。

 自分が強いと思っていた。

 ゲームの様に、今の自分に合ったレベル帯のモンスター、それを倒し順調に強くなっていく自分。

 魔術を死ぬほど考えなくても、ぱっと思いついた魔術を運用すれば良いと、たかくくっていた。

 それがガルエンディア戦で露呈したのだ。

 

 将臣は事、肉弾戦に於いては探索者として平均以下。

 一般的なモンスター程度であれば遅れは取らないものの、もしガルエンディアの様なモンスターと殴り合いになれば、今度はどうなるかも分からない。

 将臣は後悔した。過去の自分を恨んだ。

 何故、考えなかったのか。何故、不測の事態を考慮しなかったのか。

 その理由は分かっている、自分だからこそ理解している。

 将臣には『命のストック』(アドバンテージ)があったのだ。

 だから、慢心していた。

 別に本気にならなくても、此処は夢の世界だし、自分の好きな様に生きても……。

 それが、将臣には許されていた。

 

 昨日までは。


 

 新しい攻撃手段が必要なのだ。


 理想は、先手必勝の長距離殲滅、過剰殺害オーバーキル

 接近される隙を与えず、遠距離から一方的に殲滅、殺害する魔術。

 それを生み出すために、将臣は街の外へと足を運んだ。

 今までは宿の中でぱっと思いついた魔術を、そのまま迷宮で使用し、気に入れば採用などというフザけた方法を採っていたが、それではガルエンディアの様な怪物と再度戦った時、次は確実に自分が死ぬだろう。

 【魔術矢】でも、【魔術槍】でも貫けない強固な装甲。この二つの魔術は凡ゆるモンスターを屠ってきた、そして接近されても【魔術障壁】が全ての攻撃を防ぐ。

 その必勝パターンが、ガルエンディアには通用しなかった。

 ボウデリックの様なボスでも、【重力操作】を使用しただけで、使用した魔術はスタンダードなモノばかり。

 第十階位にも負けず、【魔術杭】並みの破壊力を持つ遠距離魔術、将臣の強さの根幹を成す技。

 それを生み出すことが、今将臣に課せられた課題だった。

 


 将臣は一人、街の外にある森へとやってきた。

 浅い部分には薬品の調合や果実などが実り、それを採取しに来る探索者なども多いが、深い部分には滅多に人が寄り付かない。 

 元々、モンスターを討伐するだけならば迷宮で事足りるし、態々そんな遠くに足を運ばなくとも良いからだ。

 故に、将臣は誰にも邪魔される事無く、新しい魔術を生み出し、試す事が出来る。

 木々が日光を遮り、木漏れ日が幻想的な風景を作り出している中、将臣は目を閉じて思考に没頭していた。

 将臣が理想とする戦闘スタイル、それに合った魔術を編み出していた。

 

 まず初めに考えたのは、索敵魔術だった。

 この世界に於いて、索敵魔術と言うモノは存在しない。

 いや、もしかしたら将臣が知らないだけかもしれないが。 

 この世界には『斥候ローグ』と言うクラスが存在するのだ。

 斥候はパーティーの少し前を先行し、敵の気配を察知しパーティーに知らせる役割を持つ。

 戦闘時には弓や短剣、トラップなどを駆使してパーティーを補助するクラスだ。

 居なくても探索自体は可能だが、大抵のパーティーに一人は存在する。

 故に、基本ソロでは戦わない魔術師は索敵の手段を持つ必要が無い。

 将臣の様に、圧倒的火力をもってて接敵即殺害(サーチ&デストロイ)が可能ならまだしも、連携して敵を倒さなければならないパーティーにとって、前もって敵の出現を知っている事は大きなアドバンテージとなる。

 将臣は、近接戦闘が出来無くなった事を知った時、この魔術の必要性を感じた。

 出会い頭にモンスターと遭遇して、一発【魔術杭】をぶち込み終了。なんて事がこれからは出来無くなるのだ。

 であるならば、索敵魔術を使用して遠距離から一方的に攻撃する他無い。

 索敵と言う行為を考えた時、どうやって敵の位置を把握するのか。将臣は考えた。

 魔術を編み出す上で必要なのは、想像イメージ

 自分の魔力(生命エネルギー)を使う上で、それをどう行使するのか、それが重要なのだ。

 将臣の世界には幸いにして、凡ゆる科学の力が満ちていた。故に、この世界の魔術には存在しない『科学性』と言う物を、想像イメージに組み込む。

 一番最初に思いついたのは、レーダーの様な探索魔術。

 連続的に魔力を消費するのは燃費的な観点から敬遠したい、そこで将臣はある一定方向、或いは全方位に向けて収束させた魔術波を短時間のみ発射する、指向性魔術波を使用し、反射した魔術波を受け取る事によって敵の位置を探る魔術を編み出した。

 発射した指向性魔術波の強度によって、例え雨水だろうと全て把握出来る人間レーダー。

 それを脳でリアルタイム処理出来る魔術も必要だ。その為、将臣は一時的に脳に巡る魔力を増大させ、体感速度を遅らせる魔術も考案。

 しかし、それを実際に使えるようにするには、かなりの時間を要した。

 体感速度を遅らせる魔術は、脳に送る魔力量の調整が難しい。

 量が多すぎれば脳が悲鳴を上げ、頭痛にのたうち回る事になり、少なすぎれば恩恵を全く受けられない。

 一秒を二秒、二秒を三秒に引き伸ばすには、適切な魔力供給が必要だ。

 その感覚を掴み取るのに、二時間の人体実験を要した。

 一般的な魔術師から見れば恐るべき早さだが、将臣からすれば遅すぎて話にならない。 

 例えこの魔術を安定させても、最終的な目標は索敵魔術にある。これはその過程に過ぎない。

 何とか体感速度を遅らせる事に成功した将臣は、次に索敵魔術の構成に取り掛かる。

 索敵魔術は魔術波を発射し、帰ってきた魔術波を受け取る事で成立する。

 将臣は始めに、前方に向けて収束させた魔術波を発射した。

 しかし、魔術波の進みは遅く、将臣に返ってくるまでに多大な時間が過ぎる。挙句の果てには、木々に衝突した瞬間に魔術波が打ち消されてしまった。

 これでは、索敵を果たす事が出来ない。

 今度は、少し強く。

 イメージするのは、【飛来する刃】の様な半円形の魔術波。

それを薄く、弱く、そして反射する様に作り出す。

 発射された魔術波は、将臣の前方五十メートルの地形と、潜んでいるモンスターの位置を掴んだ。

 しかし、魔術波が強すぎたのだろう。将臣の存在に気付いたモンスターが、一斉に動き始める。

 強すぎれば、魔力を感知され自分の存在を知られてしまう。

 これも、要練習だろう。

 将臣は群れを成して襲いかかってくるモンスターを【魔術槍Ⅱ】で掃討しながら、そう考えた。

 【飛来する魔術刃】のイメージでは強すぎる。であれば、更に弱く、薄く。

 それはまるで一本の線、本当に微弱な魔術波を作り出す、それでも弱すぎず、最低限の強度を誇る魔術波を。

 そうして完成した魔術を将臣は

演算強化クロックアップ

【パルスレーダー】

 そう名付けた。

 

「【重砲撃】」

 将臣がそう呟くと、突き出した指先から青白い閃光が発せられた。

 マズルフラッシュに続き、地面を震わせる轟音と、風圧が辺りの木々を揺らす。

 将臣が放ったソレは、四体の子鬼が密集している場所へと飛来し。

 爆発した。

 強烈な閃光、砂煙、目も開けていられない爆風が将臣を襲う。

 そして、それらが収まった後に残るのは、くり抜かれた様に無残な姿を晒す地面。子鬼の肉片一つ残っていない。

 攻撃の考案は、索敵等に比べ簡単に済んだ。

 それはイメージの具体例について多少なりとも知識があった事と、前々から考案していた魔術が存在していたからだった。

 【重砲撃】、これはわば戦車砲。

 魔力を凝縮した魔術弾を生成し、それを魔力爆発によって撃ち出すと言う、原理は【魔術杭バンカー】と何ら変わらない。

 しかし、射撃の際に魔術弾を回転させ、ガンパウダー代わりの魔力爆発は薄い魔術障壁で覆って方向性を持たせている。

 試射の一発目は、確かに成功した。

 子鬼は肉片一つ残っていないし、地面のクレーターも大きい。範囲内の木々も木っ端微塵だ。爆発範囲、威力、申し分ない。

 しかし、将臣はこの結果に満足しなかった。

 確かに、威力だけを見れば申し分ない。だが、この程度の威力ではガルエンディアの装甲を破る事は不可能。

 爆発は面攻撃に於いて真価を発揮するが、反面一点突破の性質が無い。

 今のままの【重砲撃】では恐らく、ガルエンディアの様な硬い装甲を持つ敵と遭遇した場合、砲弾が内部に届かずに終わるだろう。

 では、どうすれば良いのか。

 簡単な話だ。

 

 弾丸を、重くすれば良い。


 劣化ウラン弾と言う砲弾がある。

 これは、鉄の約二・五倍。

 鉛の一・七倍の重さを誇る。

 鉄の砲弾でも貫けない分厚い装甲をも貫く代物だ。

 戦車の砲弾の威力は、質量に比例する。

 つまり、重ければより大きな破壊力を生むと言う事。

 魔術弾の重量をより重くするには、より魔力を圧縮させた状態で生成すれば良い。

 先程の二倍、三倍と圧縮し、砲弾は先ほどと同じサイズでありながら、重量はその比では無くなる。

 撃ち出す魔力爆発に必要な魔力も増加させ、構える。

 目標は、先程着弾した場所よりも、僅かに奥。

 目測で、百メートル程先。

 おあつらえ向きに、大樹が着弾地点にそそり立っている。見上げるような高さで、きっと樹齢何百年と生きて来た樹に違いない。

 将臣はその大樹目掛けて、【重砲撃】を放った。

 先程よりも強い反動が将臣の腕を襲う。

 強い閃光が視界を覆い、魔術弾は高速回転しながら撃ち出された。

 一拍遅れて、将臣の足元の砂が跳ね上がる。

 そして、着弾。

 中央に収束した光が、四方八方に拡散。爆炎と爆煙を吹き出し、轟音が鳴り響いた。

 強い爆発が地面を抉り、将臣の元へと熱波を届ける。

 遅れて、爆風がコートの裾を強く打った。

 爆風が収まり、砂塵が周囲を荒らす中、将臣は爆心地へと目を向ける。

 爆煙の立ち上る地面は先ほどの【重砲撃】よりも深く抉られており、爆発範囲、貫通力共に申し分ない。

 魔術弾が着弾した瞬間、装甲を貫通、内部で爆発が最も理想的な形。

 捲り上げられ、より深く抉られた地面がその理想を体現している。

完成だ。

 将臣は、細く微笑む。

 魔力消費量は【魔術杭バンカー】と比較して遥かに大きい。凡そ第六階位程の魔力消費量。

 だが、その威力は【魔術杭バンカー】を超える。

 その重い魔術弾が敵の装甲を食い破り、内部から爆発する即死級の一発。

 魔力消費量こそ第六階位だが、その威力は第十階位(切り札)に比肩する。

 【魔術矢】や【魔術槍】で貫けない装甲であっても、態々(わざわざ)敵に近づいて【魔術杭バンカー】を使わず、遠距離から一方的に過剰殺害オーバーキル可能な魔術の誕生だ。

 砂塵と爆煙が立ち上る中、将臣は一人拳を握り締めた。

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