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幹部

「それで、コイツが団長の言っていた凄腕か」

 

 将臣が連れて行かれたのは、リエルの私室と思われるギルドマスターの部屋。

 素朴ながらも高級感あふれる家具に囲まれて、将臣は何となく落ち着かない気分になる。

 部屋の広さは二十畳程。

 部屋の中には中央に円卓、そこを中心に七つの席が存在した。

 リエルの席は上から見て、丁度真上の位置。リエルが席に座ると、五つの席が埋まった。

 最初に発言したのは、ゴツい大柄の男。

 恐らく近接職なのだろう、目から口元に掛けて大きな傷痕があり、その傷が一層男を強面こわもてに見せていた。

 鎧は着ていないが、雰囲気で男がタンクなのは分かる。

 スキンヘッドに青い瞳、黒人の様な見た目。

「見た感じは優男やさおとこって感じ……けどまぁ、魔術師に見た目は関係無いか」

 次の発言者は男の正面に座っている女、恐らく斥候ローグだろう。体中に巻いたベルトに短剣が装備されている。

 索敵特化、またはアサシンタイプの戦い方をするのだろう。

 将臣と同じく、羽織るようにローブを着ていた。

 他の二人は口を噤み、発言する様子を見せない。酷く小柄な女性と、中肉中背の男だ。

 男は腕を組んだまま背もたれに体を預け、将臣に鋭い視線を寄越す。女はずっと俯いて、顔を合わせようとしない。

「……フード位取ったらどうだ、新入り」

 周囲を見渡す将臣に、強面男が威圧する様に言い放つ。

 何とも、歓迎されている雰囲気では無いな。

 将臣が何か言い返そうと口を開きかけた時、リエルが「はいはい」と手を叩き、皆の視線を集めた。

「皆さん邪険にならないで、彼の実力は私が保証しますし、元より勧誘していたのは私達の方です」

「まぁ、どちらかと言うと団長と諜報部の独断でしょう?」

 斥候の女が気怠そうにそう言うと、リエルは「優秀な人材は迅速に確保すべきです」と鼻を鳴らした。

「兎も角、ディラ君は居ませんが彼の加入は決定事項とします」

 リエルはそう言って、懐から一枚の紙を取り出す。見れば、それは将臣の詳細なデータが書き込まれている資料。

 それに大きなハンコらしき物を押し付け、ポンと音を鳴らした。

 資料の右上には『ギルド加入』の文字が。

「はい、これでゼオさんは私達の一員です」

 ニコニコと微笑みリエル。それを他の幹部が珍しい物を見たと言う風に見ていた。

「それでは、彼には『ソレイユ』幹部としての地位と、ナンバーⅡの席を……」

 リエルがそのまま二枚、三枚と書類を取り出しハンコを掲げた所で、静止の声が響いた。

「待てッ!」

 強面の男が、リエルの声を遮って椅子を蹴り、立ち上がった。

 その顔は、まるで信じられないとばかりに驚愕に彩られている。

「正気か、団長?」

「……?」

 男の問いに、リエルは疑問符を浮かべる。言葉の要領が得ないと。

「ギルドの新入りに、ナンバー『Ⅱ』の席を与えると言う事だ、正気の沙汰とは思えん」

 リエルはその声に、冷静に返事をする。

「前から副団長は席を埋めていなかったでしょう? 貴方には言っていなかったけど、元から彼を副団長にするつもりだったの」

 当然の様に言うリエルに、男が絶句する。

 リエルが首を傾げると、男は円卓を強く叩き、周囲の幹部に向かって叫んだ。

「お前等は、何か思う所は無ぇのか!?」

 男の視線に晒される三人。正面に居た女が伸びをしながら、「私は知ってたよ」と答える。

 女の言葉に、呆然となる強面の男。

「えぇ、まぁ、私も知らされていました」

 先程まで口を噤んでいた中肉中背の男が、口を開く。同時に、小さな女もおずおずと手を上げて「わ、私も……」と頷いた。

「なっ……」

「知らされてないのはアンタだけだよ」

 女が半分閉じた目で、男を見た。

 どうせ言ったって、納得出来ないとか喚くでしょうから。

 そう言われて、強面の男は顔を歪めた。

 立ち上がっていた男は、ストンと力が抜けた様に席に座る。

「これは、別に俺が『Ⅱ』を欲するからとか、席次に固執してとか、そういう事で言っているんじゃない」

 男は額に手を当てて、熱を吐き出す様にして口にする。

 女も、「まぁ、アンタの事だから本当にギルドの事を考えてでしょうけど……それが暑すぎるのよねぇ」とぼやいた。

「これでも、今までギルドに貢献してきた古参の一人だ、少しの我儘わがままを許しては貰えないだろうか?」

 男が顔を上げてリエルを見つめる。

 見つめられたリエルと言えば、何とも、渋るような顔を見せた。

「ガルムさんの事です、どうせ、実力を見せて欲しいとか、そういう事でしょう?」

 溜息混じりに放たれたその言葉に、ガルムと呼ばれた男は頷いた。

 そうか、彼の名前はガルムと言うのか。

 将臣は独りでに頷く。

「俺も、自分より強く才覚ある者の下ならば、異存はない、素直に従おう」

 ガルムは真っ直ぐリエルを見つめ、数秒の後に白旗を上げたのはリエルの方だった。

「はぁ……まぁ、こうなる事は半ば分かっていましたが、貴方に伝えなかったのも早いか遅いかの違いですしね」

 リエルが大きく、長い溜息を吐き出して、将臣に向けて申し訳なさそうに言う。

「そういう事です、了承頂けますか、ゼオさん?」

「彼と戦えば良いのか」

 将臣が素っ気なく口にすれば、ガルムは「あぁ」と肯定の返事を寄越した。

「すみません、入団早々にこんな事を頼んでしまい……」

「構わない」


 むしろ、好都合だ。


「今すぐか?」

 将臣がガルムに対してそう問えば、「早い方が良いが、大丈夫なのか?」と心配された。

「何がだ?」

「先程、入団試験を受けてきたばかりだろう」

 彼の言葉に合点がいく。成る程、連戦による疲労の心配をしているらしい。

 将臣は一つ首を鳴らすと、「あの程度、子どもと戯(じゃ

)れる程度だ」と言い放った。

 それを聞いて、ガルムは眉をひそめる。

 随分な言い草だ、期待させてくれる。そう言うガルムだったが、目は笑っていない。

 将臣にとっては事実なので、訂正はしない。まぁ、ギルドの構成員を貶される発言を受ければ、多少怒気も孕むか。

 ガルムと睨み合う様な体勢で、将臣は目を細める。

「あぁ、ガルムさん、先に言ってはおきますが……」

 そんな中リエルが、思い出した様に口を開いた。 

 それに対し、「何だ」とガルムは問うが、リエルは言い難そうにもごもごと口元を動かし、少ししてようやく言葉を発した。

「やはり、何でもないです……きっと、身を持って体験しますから」

 その言葉に、ガルムは疑問符を浮かべ、将臣は笑みを浮かべるだけだった。


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