第2話 プロドティス
西暦 2078年10月25日
東京生活共同体
マンションの一室
僕は繁華街の路地裏に倒れていた少女を背負ってマンションの自室に連れ帰り、丸板に足が付いただけの簡素なテーブルの近くに座らせ急いで芋を蒸かし彼女の前に置いた。
すると彼女は芋を見ると一心不乱に黙々と食べ出した。
「おーい、そんなに急いで食べると喉つまるよ」
僕がそう忠告したのだが時すでに遅く彼女が喉をつまらせるとこだった。
「んーっ、っ!」
彼女は喉に芋をつまらせ顔を真っ赤にしながら胸を叩いていた。
「はい、水」
彼女は出された水を一気に飲みつまっていた芋を流し込むと咳き込んだ。
「こほっ、こほっ」
「大丈夫?」
僕がそう聞くと彼女はこくりと頷きまた一心不乱に芋を食べ出す。
「ねぇ、君の名前は?」
「……」
僕がそう問いかけると彼女はこちらを無視して芋を食べていた。
それから数分ほどで芋を食べ終え一息ついたのを見てもう一度話しかける。
「君の名前は何?」
「私の名前は桐島 愛、一緒に来て紫龍 優人」
やはり感情を感じさせない平坦な声で彼女は小さく呟いたかと思うと彼女は立ち上がり部屋から出ていってしまった。
突然の事に唖然としていると彼女が戻ってきて「早く」と急かしてまた行ってしまう。
「え、あっ、ちょ」
何で自分の名前を知っているのかとか色々聞きたいことはあったが部屋でぼーっとしていても何も解決しないので急いで靴を履き、部屋を出て鍵をかけると走って彼女を追いかけた。
「ねぇ、何処に行くの?」
「ついてきて」
先程から何処に行くのか聞いてもついてきての一点張り。
うんざりする。
人にものを頼むならそれなりの誠意を見せるべきだろうに。
それにまだ食事のお礼言ってもらってないしな。
聞いても答えないつもりなのか、そのことに辟易しながらも仕様が無いので黙ってついていく事にした。
そして十分ほど歩くと目的の場所が段々と分かってくる。
「こっちって……廃ビル街」
廃ビル街、それはもう人の住むことが出来ないほどに壊れた廃ビルが集まっているところ。
人が住めないのだから残しておいても仕様が無いのだが壊そうにも様々な資源や人手が必要な為撤去には至っていない。
正式名称は東三区なのだが皆廃ビル街と呼ぶ。
はっきり言ってここにあるビルはいつ倒壊しても可笑しくないような状態となっているので一般人の立ち入りは禁止されている。
そんな場所に彼女は何を気にするでもなく悠々と入り、あまつさえそのビル群の中にある一つのビルに入っていった。
「え、いやいや入っちゃ駄目でしょ」
僕が二の足を踏んでいるとやはり彼女が戻ってきて「早く」と急かしてくる。
ええい、ままよ!
そう思って彼女が入ったビルに僕も入り彼女の後についた。
すると彼女は廃ビルの一室に入り部屋の隅まで行くと床に座り込み何か弄ったかと思うと彼女が床に手をかけてパカッと床板の一枚を持ち上げた。
「え、何それ」
目の前の出来事に呆然としていると彼女は普通に床の下に入っていった。
ここで呆然としていると彼女がまた戻ってきて急かしてくるので急いで彼女の後を追いかける。
床下に入ったところで彼女が待っていて「閉めて」と言うので言われた通りに床板を閉めて彼女の後を追う。
床下は螺旋階段のようになっていて結構下まで続いているようだった。
数分ほど螺旋階段を下っただろうか、漸く床が見えてきた。
一番下まで行くと彼女はスタスタと歩いていってしまう。
慌てて追いかけると大きな扉の前に彼女が立ち、何かパネルの様なものを弄ったかと思うとピッと電子音がして扉が解錠されたことを知らせる。
彼女は解錠された扉を開き中に入って行ってしまうので置いていかれないように急いで追いかける。
しかし、歩くの早くね。
等と考えてながら暫く歩くとそこに広がっていたのはパソコンなど今では殆ど使われていない電子機器の数々だった。
「何、ここ……」
僕が目の前の風景に驚いていると奥の暗がりから一人の男が現れ不適に笑いながら僕に話しかける。
「漸く来たか、紫龍 優人。ようこそ我々レジスタンス集団《プロドティス》の本拠地へ」