世界線を越えた先―The point beyond a world line―
※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、この作品におけるフィクション扱いでお願いします。
※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。
※小説家になろうへ移植する際に一部セリフを変更している個所があります。
西暦2014年7月4日午後5時20分、西雲七海が圧勝とも言えるパワーを発揮した例の試合が終わった直後の話である。
「彼とは、別の方式で決着をつけたい―」
西雲はロストノートと別の方式を使ったバトルで再戦をしたいと要望したのである。そのバトルとは―。
《西雲七海VSロストノート》
それは、アーカイヴと同様にシングルでのバトルだった。シングルでは僅差とも言える展開でロストノートがアーカイヴに勝利している。
「さっきは圧倒的に勝利しておいて、今度は正々堂々と? 同情はやめてもらおうか!」
試合をする事には同意したものの、先程の試合結果を踏まえてロストノートには納得できない物があった。
「あの力は、本来であれば制御出来ない物。それで勝ったとしても本当の意味で勝ったとは言えないかもしれない」
西雲が発した一言は、意外なものであった。
「自分も、それに気付いてチップの方は使わなかった。あのチップがもたらす物、それは圧倒的な力…正確に言えば、感情のない凶暴とも言える存在」
アーカイヴの手にも、西雲に手渡した物と同じチップを持っていた。そして、アーカイヴはチップをポケットにしまった。
「このチップが、どんな目的で出回っていたのかは分からない。しかし、これがもたらす物はバランスブレイカーである事に他ならない」
「そして、このようなバランスブレイカーが流行した時に起こる事は…予想出来るだろう」
アーカイヴがフィールド外に出ると、ロストノートは予想外の事を口にした。
「さっきは取り乱してすまなかった」
そして、アーカイヴに対して一礼した。アーカイヴはロストノートのリアクションを見て驚いている様子だった。
「意思なき力は破滅を導く原因を生み出す可能性がある。一連の超有名アイドル騒動は、もしかすると―」
「一歩間違えればアカシックレコードサーガも?」
「他のARゲームも失敗した箇所をチェックし、バージョンアップを続けている」
「ARゲームは他の体感型ゲーム等と違い、下手をすれば生命の危機という事態も発生する可能性がある」
「それを防止する為のARスーツであり、細かなルールと言う事だ。それでも、ルールが破られるケースがあるのは残念な限りだが」
「100人全員がマニュアルを熟読するかと言うと…そうとは限らない。それが現実だ」
フィールド外で西雲とロストノートを見ていたギャラリーも、それぞれで何か思う箇所があるように思えた。
「超有名アイドルも関係ない! 今、ここでアカシックレコードへアクセス出来るARウェポンを止めて見せる!」
ロストノートは、大剣型のARウェポン《ディスティニー》を構えて、突撃の態勢を取る。
「私は、ARゲームの可能性を…未来を守るために戦う!」
西雲もARウェポン《エクシア》を構える。
試合が始まると歓声が上がり、熱気もヒートアップしているように見えた。そして、このバトルは動画投稿サイトでも午後5時35分頃にアップされ、わずか数時間で10万再生を記録する等の記録を生み出した。
【色々な意味でも白熱した試合だった】
【賛否両論があると思うが、この試合は面白かったと思う】
【言葉に出来ない位の展開が連続して…】
試合に関しては、このような面白かったという意見と…。
【超有名アイドルの試合を引き立てる為に利用された気配もする】
【試合内容に関しては申し分ないが、やはり超有名アイドル関係を引っ張っているような印象もあった】
【超有名アイドルのステルスマーケティングを思わせる試合と比べると、見応えはあった。それだけに…】
超有名アイドル関係の事件やアイドルによるステマ等も、アカシックレコードサーガの新規参戦者減少等を含めて少なからず影響を受けている…という意見もあった。
「確かに超有名アイドルがARゲームに影響がなかった…と言うとウソになる。作品によって、その影響は左右されているのだろうか?」
今回の動画を上野のアンテナショップでチェックしていたのは、空野輝だった。彼は、今回のARウェポンやARゲームを巡る事件には、超有名アイドルが少なからず関係していると考えていた。
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シーン7:東京駅周辺・アカシックレコードサーガイベント会場
西暦2014年7月12日午前11時、東京駅ではアカシックレコードサーガのニューバージョン稼働記念イベントが行われていた。
「同じイベントは東京以外にも、全国主要都市でも行われているらしい」
「あの騒動があって、一時はどうなるかと思っていたが…無事に試練を乗り越えられたような気配がする」
「超有名アイドルが関係した事件の全てが終わった訳じゃない。一応、アカシックレコードサーガに関係した物は解決の方向に向かっていると言う事だ」
【果たして、一連の逮捕者だけで全てが終わったと決められるだろうか?】
【今回の事件が氷山の一角という可能性も否定できない】
【しかし、同じような事件が起こった場合には法整備を含めて動きがあるのかもしれないな】
【法整備がされたとしても、それが悪用されて再び超有名アイドルが権力を取り戻す事も…】
【そこまでは考えたくないが、可能性はゼロではないと思う。それが起こらないように各業界が自制をする事が重要になるだろう】
【超有名アイドル騒動も氷山の一角と考えているのか。下手に法律が変われば競争の激化は回避出来ないだろうな】
「自分達だけが生き残るために、社会的に追い詰めていくと言う事か。そこまでは考えたくないが…」
「世の中には絶対と言う物はない。人が作った物である以上、何らかの抜け穴等が存在すると思われる」
「結局は、人の良心に委ねられると言う事になるのか―」
【何でもかんでも規制を強化すれば問題が解消される…という考え方の人物がいる限り、超有名アイドルとキサラギの争いは形を変えて激化していくのは間違いない】
【それよりも、テレビ番組の超有名アイドル押しが一時期衰退していたのが、勢いを取り戻しつつある。これは下手をすると波乱が起こるな】
今回の稼働記念イベントに合わせ、つぶやきサイトやネット上では超有名アイドルに関係した人物が大量に逮捕された事を踏まえ、さまざまな議論が展開されていた。
【まさか、例の出来事からわずか数日でバージョンアップするとは予想外だった】
【今回はアーカイヴから不正チップの現物提供を受けている。それを解析してのバージョンアップらしいな】
【ホームページでは一部ARウェポンの挙動変更や調整、不具合と思われる想定外の挙動を直す等がメインに見えたが…】
【それ以上に3対3のチームバトルシステム、クラン結成等の要素も取り入れたらしい。これによって、超有名アイドルのステマ等を防ぐのが狙いだろう】
【結局は2対1等の変則マッチングやハンデマッチは実装見合わせらしいな。あの時のバトルは、実装を予感させるような物にも思えた】
【最終的には、先行稼働→本格稼働→今回のバージョンアップと言う事か?】
【先行稼働でも色々な意見があったらしく、いくつかは本格稼働前にバージョンアップが反映された。しかし、いくつかは実装保留にしたらしい】
【その結果が超有名アイドルの不正ランクマッチングや他の勢力による妨害工作等に発展した…と】
【そう決め付けるのは時期尚早かもしれないが、そう言った可能性も否定できないと言う事だ】
一方で、今回のバージョンアップの速さや変更箇所の多さなどから、本格稼働でも調整保留していた箇所が一連の事件に悪用されたのでは…とも言われている。
『今回は、スペシャルゲストを呼んでおります!』
司会の男性がスペシャルゲストと言うには、かなりのサプライズゲストが…と周辺も考えていた。そして、現れたのは予想外の人物だった。
「まさか、彼女が来るとは!」
「ある意味でサプライズ過ぎる」
「ビックリした」
【実況組吹いた】
【瀬川が来るとばかり思ったが、向こうはARデュエルの大会があって無理か】
【どういう事なの?】
現地組と実況組も驚く結果となったスペシャルゲストとは、西雲だったのである。
『ご紹介しましょう。ロストノートとの激戦の末に見事勝利した、西雲七海さんです!』
「皆さん、今回はよろしくお願いします」
ステージに現れたのは、ARスーツ姿の西雲七海だった。そして、壇上に用意されたゲスト席に座り、若干緊張しているようにも見えた。
【結局、2対1で戦った方はカウントしないのか】
【変則マッチと言うのもあったのだろう。運営側も、こちらは含めないと言う方向になったらしい】
【確かに西雲の戦績にも2対1の変則マッチの物はカウントされていないのを確認した。黒歴史化とは言い難いが、運営がどんな判断をしたのか…】
【これは予測だが、2対1の変則マッチもエキシビションマッチ扱いになったと思われる】
【エキシビションならば、確か対戦成績に反映されないと言う話だったな。イベントでの特別マッチとか、ロケテとか…】
【対戦成績に反映されないバトルは、これ以外にも不正データが検出された場合、想定外の事態が発生した場合と言うのもある。その場合はID凍結もあるらしい】
【しかし、司会の方もその辺りに触れていないと言う事は西雲の方は問題なかったと言う事か】
【その時使われたチップを調べた結果、ARブレスに入っている特定のOSに反応して動くタイプだったらしい】
【裏チップ販売と言うのはネットで見ないが、どういう構造になっているんだ?】
【ネットで売買されると言うケースは少ないだろう。運営の方も違法チップ等は出回らないように警戒していると言う話を聞く】
【もしかすると、アカシックレコードにあった技術を転用して作成された物の可能性が大きいだろう】
【アカシックレコードの技術は使い方次第では、破壊兵器に転用できる可能性がある。それを踏まえると…】
ネット上では、例の変則マッチで使用されたとするチップの出所やどのような技術を使用したのか…という箇所が議論になっていた。
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同日午前11時、秋葉原ではリニア=ゼロとアークエンジェルが敵同士として試合を行っていた。これに関してはギャラリーからも驚きの声が出ている。
「どうして、この二人が戦うのだろうか?」
「あの時は共通の敵が出てきた、という感じだろう」
「この2人が和解するような展開は望めないのか?」
「結局、アカシックレコードの扱いをどうするかで敵対している2人だからな。和解は相当な事でもない限りは難しい」
【アカシックレコードを再び封印するべきか、今度こそ正しく扱う為に動くか…。この辺りは人間の良心に委ねられる状況になるのか】
【超有名アイドルでも、絶対に起こらないと言われていた不祥事等が立て続けに起こった。それを考えると、アカシックレコードも例外ではないと言う事だ】
【アカシックレコードに頼るか、頼らないかで対立しているだけだからな、あの2人は】
【確かにアカシックレコードに依存する事は、大規模掲示板依存と似たような状態になると言う話を聞いている。しかし、アカシックレコードが大規模掲示板と違うのは、アクセス方法だと聞く】
【大規模掲示板が匿名性の高い物に対し、アカシックレコードは正確なソースと言う概念がない。仮に別の世界で実際に起こった出来事だとしても、こちらは事実を確かめる手段がない】
【アカシックレコードも第4者による架空のサイトと言う説も浮上している位だが、実際に架空のサイトかと言うと疑問が残る】
【実際にアカシックレコードに載っていた設計図がARスーツのベースになっているという話もある。100%嘘のサイトと言うには…この辺りが引っかかるだろう】
観客勢もネット勢もお互いに考えている事は同じらしく、リニア=ゼロとアークエンジェルが和解をする可能性は低いと考えていた。
「今はアカシックレコードの動きも激しくはない。出来る事は限られるかもしれないが、やれる事はやっておいた方が良いと思う―」
試合中、アークエンジェエルは謎の発言をした。アカシックレコードの動向をばらすような事をしてよいのだろうか…と。
「過剰な法律で縛るような作品は、作者とファンとの関係も一方通行になるのは間違いないだろう。ARゲームが同じ事になれば従来ファンも離れ、新規ファンの獲得も難しいだろう」
「あの時の言葉の意味、今ならば分かるような気配もする」
試合後、アークエンジェルは一言を言い残して姿を消した。何処へ向かったのかは分からないが、別のフィールドへ向かったと推測される。
「ここ最近では、超有名アイドル以外のジャンルでも事件が起きている気配がする」
「そして、この流れは止める事は出来ないのだろうか?」
その言葉を聞いたリニア=ゼロもARゲームの周囲が変わりつつあるのでは…と感じていた。
同刻、梅島にあるエインフェリアのアジトと言われていたビルでは警察等による調査も終わり、今は通常営業をしていた。厳密に言えば、芸能事務所は解体され、現在は別のテナントが入っている。
「立地的に大丈夫か…と心配しましたが、悪くないですね」
「ここは、少し前に超有名アイドルを抱えた芸能事務所が入っていたらしい。一連の事件があっていくつかの事務所を手放して事業を縮小しているようだが…」
「梅島駅が最寄りと言う事で、電車関係に不安がありましたが」
「確かに。大手の路線が入っていないと言うのは、乗り換え等で対応出来るだろう。それよりも格安物件と言うのは非常に大きかった」
「どれ位なんですか?」
「半年契約で100万円弱だそうだ」
そんなやりとりをしていたのは、入社したてのサラリーマン2名だった。この会社はゲーム作品の面白さを伝えるために設立された会社で、その対象にはARゲームも入っていた。
「今回の仕事は、これになります」
2人の前に現れたのは、ジークフリートだった。彼もエインフェリアが解体された後はフリーに近かったが、警察の事情聴取を受けた後は今の会社に入社する事になった。
「ARゲームイベントの取材か…。面白そうだな」
「アーケードゲームの中でも、ARゲームは少し前から注目されていた。これは良い記事が出来そうだ」
2人の同意も得たので、ジークフリートは2人と共にある場所へと向かった。
「何処へ向かう予定なんですか?」
社員の男性がジークフリートに尋ねる。梅島駅へ向かう様子もなく、徒歩で何処かへと向かっているようでもあった。
「歩いて行ける距離に出来たからな―」
ジークフリートは、これ以上は何か言うような気配はなかった。どうやら、サプライズ的な要素もあるらしい。
同日午前11時5分、隣には牛丼店があるが、その隣にある建物は最近出来たような感じに見える。
「到着したぞ。ここだ―」
ジークフリートが案内したかったのは、梅島に新規オープンしたARゲームのアンテナショップだった。その広さは北千住にあるアンテナショップより少し規模が小さいが、充実したアイテム等が揃っている。
「ARゲーム・ミュージアム?」
「何時ものアンテナショップとは違うんですか?」
社員の2人は、若干戸惑っているようにも見えた。
「ここは主にアカシックレコードサーガだけではなく、別のARゲームも幅広くフォローしたARゲームの博物館というコンセプトでオープンしたアンテナショップだ」
そして、ジークフリートを含めた3人はARゲーム・ミュージアムへと入って行った。
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同日午前11時20分、イベントの方は特に妨害が入る事無く進行していた。
【やはり、あの話は口止めされている可能性もありそうだな?】
【あの話って、例のチップ絡みか】
【チップの方はアーカイヴがオリジナルを渡した結果、想像を超える物だった事が発覚している】
【アレをばらまいた存在は不明だが、超有名アイドル側にも似たような効果を持つ別アイテムが渡されていたらしい】
【おそらくは、改造が出来ないはずのARプレートを改造した物―。あれが出回った影響で、色々な所で変化が起きた】
【アカシックレコードに存在した技術で、あれだけの物を作り出した組織…。どの位の規模で動いているんだ?】
【あそこに書かれている技術は、そう簡単に再現できるようなレベルではないはず。物によっては、その世界でしか手に入らない素材も存在する以上は―】
ネット上では、イベントに関する実況に混ざるような形でアカシックレコード関係の話がタイムラインに混ざるという現象が起こっていた。
『最後に、今回着て下さったファンの皆様にメッセージをお願いします』
「アカシックレコードサーガだけではなく、その他のARゲームでも色々なファンが支えていると言う現状があります。そうしたファンが手を取りあって、事情を分かりあって作品を盛り上げていってほしいと思います」
『本日のゲスト、西雲七海さんでした。皆さん、盛大な拍手を!』
ファンからの温かい拍手に見送られて、西雲はステージを後にした。そして、次に登場したのは新型ARスーツモデルとして登場した…。
『続きまして、本日から発売される新型ARスーツを発表したいと思います! こちらです!』
新型ARスーツを着て登場したのは、何と瀬川春香だったのである。本来であれば、ARデュエルのトーナメント最終予選もあるのだが、その合間を見ての登場である。
【デザインは悪くない。性能に関しては、他のARゲームで有利不利が働かないように調整するのが大変だろうな】
【これはあくまでも女性用。男性用のカタログを見たが、性能的には大差ないようだ】
【発売は本日のようだが、値段がネックだな。1万円前後と言う話を聞いた事がある】
ネット上では、新型ARスーツの感想をつぶやいているユーザーが若干多いように見えた。
同日午前11時50分、梅島のARゲーム・ミュージアムで取材を終えたジークフリート達は隣の牛丼屋に入っていった。
「それにしても、凄い混雑でしたね」
「朝から行列と言う話もあったが、その時には300人以上が列を作っていた。それだけ注目度が高い証拠でしょうか?」
「ARゲーム自体は以前から存在していた。しかし、ARゲーム全体で盛り上げていこうと言う流れになったのは、つい最近と聞いている」
「やはり、誰かがやらなければ…と言う方向なのかもしれませんね」
社員2人は、そんな話をしていた。確かに、ARゲーム全体で盛り上げようと言う動きになったのはアカシックレコードサーガが導入された辺りである。
「アカシックレコードサーガも他のARゲームメーカーと共同で開発していたと聞いている。他のARゲームでも言及されていた問題等も踏まえて開発し、短期間で先行稼働が可能なまでに仕上げた」
「先行稼働バージョンで得たユーザーからの声を反映し、本格稼働時にも得たユーザーの意見は調整バージョンにフィードバックされ、実際に展開出来るまでになったのが7月に入る直前だと聞く」
「今回のバージョンアップは一部機能が追加されただけのように見えるが、実際は超有名アイドルが起こした事件で利用された部分を調整しているのがメインだろう」
ジークフリートは2人の話を聞き、改めてアカシックレコードサーガがどれだけ凄いかを語りだした。
7月13日午前10時、上野駅周辺ではアカシックレコードサーガのイベントが本日も開かれていた。どうやら、2日間開催されるイベントだったようだ。
【2日目のゲストは、空野輝らしい】
【どんな話が飛び出すのか気になる】
【他のイベント会場では、ARゲームのランカーがアカシックレコードサーガを体験すると言うイベントが行われるようだ】
【何処の会場も見所があって困る】
【一部を除いては公式で配信を行ったりしているようだ。空野輝のトークショーも配信の対象に入っているから問題はないだろう】
【北千住では瀬川春香が出るらしい事に加え、昨日オープンした梅島のARゲーム・ミュージアムにはジークフリートとセラフィムも出るらしい】
【あのセラフィムなのか? これは参加しなければいけない―】
【そう言えばセラフィムが公式イベント等に出るのは、あの時以来か?】
ネット上のタイムラインでは、アカシックレコードサーガイベントのタイムスケジュールを確認したユーザーによる情報交換会が行われているように見えた。
同日午前11時、梅島のARゲーム・ミュージアムにある特設イベント会場では、セラフィムとジークフリートのトークショーが行われていた。
【セラフィムが覆面なしでイベントに参加するとは意外だった】
【メインになっている話はARゲームのこれからやビジネスにおけるARゲームのポジション等がメインで、試合の話等はない気配だな】
【聞いている客層がビジネスマンメインだから仕方がない…と言うのもあるかもしれないが】
【空野がどのようなトークをしたのかが気になる】
【向こうの方は初心者向けのアカシックレコードサーガ講座だな。それ以外にもフリートークがあるらしいが…】
【他の所でも、ARゲームとアカシックレコードサーガのルール比較やARウェポンの使用方法等―】
【やはり超有名アイドル関連に関しては触れないのだろうか?】
【ARゲームに関係した物は一通り解決しているという警察発表もある。その一方で、ネット上では過激な超有名アイドルファンは健在という現状もある】
タイムラインでも、アカシックレコードサーガのイベントで超有名アイドルに言及していないのには事情があるのでは…という話題が浮上しつつあった。
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8月1日午前10時30分、大イベントを前に行われた、有明の同人誌即売会において一つの事件が起きた。それは…。
「この空白スペースは一体…?」
「展示取りやめと言う話だ。超有名アイドルが一斉に逮捕された一件があるだろう? その影響でサークルが出展自粛したらしい」
「やはり、警察に逮捕されると言う理由か?」
「警察と言う点は半分正解だが、サークルが逮捕される訳ではないらしい。実は―」
空白スペースを見た男性客の一人が、私服のスタッフに事情を聞くと、衝撃の理由が出て来たのである。
今回の事態になる20日前、運営サイドに予告状と言う物が送られてきた。内容は以下のとおりである。
《8月1日、有明の同人誌即売会にて超有名アイドル関係のサークルを全て出展中止にせよ。さもなければ、有明の会場を襲撃する》
この予告状に関しては郵便ではなく、電子メールで送られてきた。ウイルス等は入っていなかった為、当初は運営もいたずらと考えていた。
ネット上では、この事件に関しての反応は様々だった。いくつかのまとめ記事が出来る位には知名度があったと思われる。
【まさか、超有名アイドルの黒歴史化を更に加速させようと言う一団がいるらしいな】
【その一団が即売会の運営に予告状を送ったらしい。脅迫状となっていない所から、運営は一種のイタズラと考えていた】
予告状を見た時はイタズラいたずらと思ったユーザーが半数だったらしい。一部では本気にしていたり、ネットに拡散していたユーザーもいたようだ。
【所が、一昨日の黒マント集団による丸の内ジャックとも言える事件。あれに予告状を送った一団が関係していたらしい】
【予想外の展開だったな。しかも、彼らが使用している物がARウェポンだった事が話をややこしくする結果になった―】
事態が急変したのは7月30日の事だった。午前4時と言う早朝だったのだが、丸の内のオフィス街が謎の一団によってジャックされたのである。2時間後には退去したが、彼らの存在が真実である事を証明させる光景でもあった。
【黒マントで銃型ARウェポンと言うとアーカイヴを連想するが、違うのか?】
【アーカイヴとの関連性は少ないだろう。この一団は反超有名アイドル勢力からもブラックリスト入りされている組織だ】
しかも、この一団が黒マントに銃型ARウェポンを所有していた事が、今回の事態をややこしくしていった。これによって、アーカイヴが事件を誘導した犯人なのでは…と疑われたのである。
【疑われたのは、あくまでもネット上での話。実際は、彼らが所有していたARウェポンのシリアルナンバーから別人と言う事が判明している】
では、今回の犯人は誰なのか…ネット上でも謎は深まっている。
「あれは、まさか?」
「予告状は本当だったのか」
会場の外が慌ただしくなってきた。まさか…と思い外に出たスタッフが見たのは、黒マントに銃型ARウェポンを持った集団だった。
『我々は超有名アイドルを完全保護する為に行動を起こしている。超有名アイドルを意図的に批判する存在は、我々が粛清する!』
メンバーの1人らしき人物が宣言する。どんな目的の為に彼らが動いているのか…。
「実際に、超有名アイドル保護かどうかも疑わしい―。そんな勢力に、ARウェポンを持つ資格はない!」
突如として、会場出入り口から姿を見せたのはアーカイヴだった。黒マントにフードを深く被っていると言うのが以前からのスタイルだが、今回はフードを被っておらず、西雲隼人似の顔が見えると言う状態である。
『アーカイヴ、お前も超有名アイドルに加担する気か?』
「今の音楽業界は、全ジャンルが共存できるように和解の道が取られている。お前達のやっている事は、その和解を閉ざす結果を生み出す」
『超有名アイドルが音楽業界にとっても、日本の産業にとっても唯一無二…絶対的存在でなければいけない。そうすれば、増税議論を一気に解消する事も、エネルギー問題や海外貿易にも―』
「黙れ! お前達のやっている事は、別のコンテンツを唯一神にしようとしているだけだ。超有名アイドルが今までやろうとしていた事と変わらない」
このアーカイヴと幹部らしき人物とのやりとりを聞いていたネット住民は…。
【やっぱり、そう言う事か?】
【夏の大型イベントを1ジャンルオンリーイベントに変更しようと考えている勢力が、超有名アイドルを叩く…】
【超有名アイドルならば、一連の事件等を考えてもネットで炎上する事もないと考えているのかもしれない】
【これでは炎上ブログサイトやアフィリエイト系まとめサイトの餌食になるな】
【イベントで空野輝の話していた事が現実になったのか?】
【やはり、それぞれのジャンルで対話し、お互いに分かりあう事が求められるのか?】
【もしも対話に応じないジャンルがあったとしたら…】
【確かにジャンルによっては話が通じないジャンルも、存在するかもしれない】
【それでも、話を聞く姿勢を見せる事が重要になってくる】
【それが実現しなければ、日本は超有名アイドルのような利益優先型コンテンツが市場を制圧するようになる】
大方の予想通りではあるが、内容は超有名アイドルに関係する話題、炎上ブログサイトやアフィリエイト系まとめサイト等に狙われると言った話が出ていた。
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同日午前11時、有明の方では何かが行われるかのような流れになっていた。それが何かはネット住民にも頭の上に?マークが出る程に疑問が浮上していた。
『これはどういう事だ!?』
幹部達が周囲を見回すと、既に何かのフィールドが展開されており、逃走は不可能になっていた。このフィールドはアカシックレコードサーガのプレイフィールドである。
「あなたたちのやろうとしている事は間違っている。強引な手を使ってまで、自分達の意見を押し通そうとするなんて―」
その一言と共にフィールド内へ入って来たのは、リニア=ゼロだった。今回は以前に見せたARスーツ・フルアーマーで参戦している。
『今回の手段が強引だと? 立てこもり事件等と一緒にするな!』
構成員がARウェポンで反撃をするが、リニア=ゼロはいとも簡単に攻撃を回避する。
「そんな事をしたとしても、一部のファンが企てた事件として黒歴史になる事は明白よ」
ARナックルを装備した瀬川がフィールド内に乱入し、次々と構成員を撃破していく。
『一部のファンだと? そんな事はない! これは全てのファンが思っている事だ』
瀬川と交戦している構成員が反論をするが、そのトーンは非常に小さく、説得力が全くない。
「お前達のやり方には意思が感じられない。自分達の行動をネットでアピールするだけという意思が見て取れる」
次々と現れる構成員を撃破していくのはノートゥングだった。それに続いて現れたのは…。
「自分が今やっている事の意味、それが分からない訳ではないだろう? お前達のやっている事は、ただ悪意を広めているだけに過ぎない」
アークエンジェルも偶然イベント会場の視察をしていた際、今回の事件に巻き込まれていた。そして、飛び入り参加をしたのである。ノートゥングに関しては、とある呼びかけに応じたのみだった。
「お前達と同じ価値観で見られるのは許せない! 私の目的は…アイドルに賭ける情熱は、そんなに安い物ではない!」
続いて登場したのは、何とセラフィムだった。彼はARフレームで参戦し、次々と構成員を蹂躙していく。
「分からないのか! 言いたい事や考えている事には理解できるが、それを単にアピールしたいが為にARゲームを利用するな!」
セラフィムに続いて姿を見せたのは、ARウェポン《ディスティニー》を持ったロストノートである。これだけのメンバーが有明に集合する事は滅多にない。
「これは一体…どうなっているんだ?」
今回の現状を一番驚いていたのは、アーカイヴだった。当初、アーカイヴは単身で丸の内ジャックを起こした犯人を倒そうと思っていたのだが…。
「これが、ARゲームを守りたいと思う者の力…。自分は、そう信じたい」
驚いていたアーカイヴの隣に姿を見せたのは、何と西雲だった。彼女の手には、ARウェポン《エクシア》がある。
「これがARゲームを守りたいと願う者達の意思…なのか?」
アーカイヴも参戦する為に、ARウェポン《ヴァーミリオン》を構えた。
『今まで超有名アイドル商法の影響で闇に消えた者の悲しみを忘れてはならない! 超有名アイドル商法の力押しを続けた業界を許すわけにはいかない!』
構成員の一人がアーカイヴの方へと向かってくる。しかも、アーカイヴはフィールド外にいて、そのプレイヤーを攻撃した場合は反則を取られる。その上、プレイヤーが怪我をした場合には問題も浮上するだろう。
『自分達が信じられるのは、超有名アイドルではない。我々が信じるのは―』
フィールド外のアーカイヴへ攻撃しようとした人物が、エリアオーバーの直前で急に倒れた。アーカイヴへの攻撃は避けられたのだが、これは一体誰の仕業なのか?
「我々が日本のコンテンツ道を正す! それが、アカシックレコードの中にある真実を見た者の使命かもしれない」
先程の構成員を撃破したのは、何と空野だった。彼の使用するARウェポンは今まで使っていた物とは違う新型ARウェポンだった。しかし、形状は今まで使用したビームサーベルと酷似している。
『何て連中なんだ!』
『これでは、話が違うぞ!』
『あの出版社に一矢報いるはずが…』
『日本のコンテンツ最強は超有名アイドルではない! 最強なのは―』
そして、彼らは退却の態勢を見せるのだが、行く手を遮ったのは意外な人物であった。
「オーバーロード! 発動!」
彼の掛け声とともに、持っていたシールドが複数のファンネルに分離し、構成員に向かってビーム攻撃を繰り出す。これには流石に抵抗も無意味と悟り、彼らは降伏を宣言した。
「ジークフリート、どういう風の吹きまわしだ?」
ロストノートは、この場にジークフリートが現れた事に驚きを感じていた。
「実は、音楽ゲームのイベントも同じ会場で行われる事になっていて、その時に偶然だが例の一団を見つけて、尾行した結果が…こうなるとは予想外だった。例のメッセージの事もあるかもしれないが…」
ジークフリートが他のメンバーに事情を説明する。そして、自分は例の発言をきっかけに会場へ足を運んだ訳ではない…と追加した。
「例のメッセージの正体は、アカシックレコードにあるみたいだね。僕も、別の用事があるからこれで失礼するよ」
ロストノートは一言のヒントを残して、何処かへと去ってしまった。アークエンジェルとノートゥング、ジークフリートも別の用事がある為に会場を後にした。
「アカシックレコードのメッセージ…これね」
リニア=ゼロがARブレスでメッセージを保存した画像を開く。その中には、ある人物の直筆メッセージで書かれていた。
《超有名アイドルや一部ユーザー向け作品等の一部コンテンツが市場を独占するような世界、それを望まない者たちは行動を起こし始めている》
《その行動の結果、アカシックレコードが予想出来ないような世界が出来るかもしれない》
《そして、その先にもう一つの可能性がある物と自分は考えている》
《一線を越えてはいけない…と言うのもあるかもしれない。それを越えた時、何が起こるか分からないのも事実だろう》
《しかし、それを恐れてチャレンジ出来ずに終わるのは自分も望まない。その先にある可能性、それを自分に見せて欲しい。 西雲隼人》
「例のメッセージには、一団を思わせるような警告メッセージはなかった。しかし、ある一線を越えるような可能性が一団にあったのは間違いない」
空野は、西雲隼人のメッセージが新たな戦いの夜明けなのでは…と思っていた。それが何かは分からない。
「しかし、チャレンジ精神を忘れないと言うのは同意できるわ。ARゲームもやってみなければ、その面白さは見えてこない」
瀬川もチャレンジ精神を持つと言う事の重要さをARデュエルで知った。そして、アカシックレコードサーガでも…。
「私もアカシックレコードは世界に不要だと思っていたけど、時にはアカシックレコードの力が必要な事も知った」
リニア=ゼロはアカシックレコードはこの世界に不要な存在と考えていた。しかし、今回の一団や超有名アイドル勢力に対抗する為の手段もアカシックレコードに書かれていた。
「アカシックレコード、その力はあまりにも強大だ。そして、一度は封印された。その意味、今ならば分かる」
アーカイヴは、一度封印された理由がようやく分かったような気配がした。その強大な力を使ってきた事で、身を持って知ったのだろう。
「世界線を越えた先にあるもの―それに向かって、私達は新たな可能性を見つけてみせる! その為にもARゲームの自由は守り抜く!」
西雲七海はエクシアを空高く掲げ、新たなる誓いを立てた。この世界の可能性を見つける為にも、ARゲームの自由を守る事を…。
その後、8月10日の同人誌の祭典当日には超有名アイドルのスペースも無事に出展できるようになった。これは、一団の正体が芸能事務所関係ではなかった事も理由の一つだった。
【結局は一団の正体は何だったのだろう?】
【警察の詳細発表があるまでは、下手に憶測を出すわけにもいかないか】
【ひとつ言える事は、一団はファン交流型よりも別のタイプを望んでいた…と言う事か】
ネット上では、一団の狙いを推測する動きもあったが警察の発表があるまでは、炎上ブログやアフィリエイト系サイトが取り上げないように沈黙を続けていた。
同日、秋葉原のアカシックレコードサーガフィールド、そこでは西雲七海が他のプレイヤーと共にルールを守って楽しくプレイする光景があった。