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第4者が望んだ音楽戦争―MUSIC WAR WHICH THE 4TH PERSON DESIRED―

※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、この作品におけるフィクション扱いでお願いします。


※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。


※小説家になろうへ移植する際に一部セリフを変更している個所があります。

西暦2014年7月4日午後5時、各局のニュースではとある事件が一斉に報道されていた。

【速報:与党の政治家が次々と逮捕。次の選挙に絡んだ政治資金の流れか?】

【週刊誌報道を受けて、大臣級政治家の辞表提出が相次ぐ】

【一連の事件の影響を受け、与野党が分裂状態に。野党が超有名アイドルの芸能事務所からの献金について言及】

エインフェリアとの一件とは無関係の所で超有名アイドルを叩けば、次々と不正等の事件が出てくると言う状況を表している物であることは間違いなかった。


しかし、これで全てが終わる訳ではなかった。

「アイドルに必要なのは金ではない。もっと別な物が必要になってくる」

セラフィムがアーカイヴとの戦いが終わった後に放った一言。それは、超有名アイドル陣営を発狂させるには十分な内容だった。

【今まで日本経済を支えてきた超有名アイドルを切り捨てると言うのか!?】

【再び決起集会を開き、超有名アイドルで再び日本を染め上げるのだ】

【超有名アイドルは永久不滅である! それをファン以外は分かろうとしない。何故だ!】

【超有名アイドルが日本の財政を救う重要な力だと言う事は、様々なデータから見ても明らかである! 超有名アイドル以外は不要なのだ!】

【日本は超有名アイドル大国と言っても過言ではない! 今こそ、それ以外のコンテンツを排除する運動を起こすべきである!】

タイムラインには、強い口調で超有名アイドルを神に等しい存在として、別のタイムラインでは超有名アイドル商法が日本経済を救う鍵であると断言する人物もいた。


果たして、この争いは誰が望んでいた物だったのか? そして、戦いは一つのクライマックスを迎える。


#####


シーン6:秋葉原駅近辺・アカシックレコードサーガフィールド


同日午後5時、各局でニュースが流れている中、秋葉原のアカシックレコードサーガフィールドでは予想外とも言える人物がセラフィムとアーカイヴの前に現れた。

「一連の決着はついたようだね」

身長163センチ、若干細身、黒のショートヘアにメガネ、背広という外見の男性が姿を現した。

「お前は、まさか―?」

セラフィムの方は何かを知っているようだった。しかし、アーカイヴの方は何も知らない。その一方で、ギャラリーとして試合観戦をしていた西雲七海にしぐも・ななみは…。

「あの時の人物が、どうしてここに」

西雲は過去にロストノートと会った事がある。ただし、名前に関しては彼自身も名乗らなかった為に不明扱いだった。


「とりあえず、超有名アイドルを悪用して金稼ぎを考えていた連中は一掃された。一掃と言っても、まだ残党が残っている可能性は否定しないよ」

ロストノートは、セラフィムとアーカイヴに対して超有名アイドルを悪用した勢力を一掃した事を報告した。

「お前の目的は何だ?」

アーカイヴがロストノートに対し、目的を尋ねようとした。そして、彼は…。

「そんなの決まってるじゃないか―」

ロストノートがアーカイヴを睨みつけ、若干のタメを作って、こう言った。

「超有名アイドル自体を最初から『なかった事』にする。それが最終的な目的さ」

この考えが、正気と言えるような物ではない。つまり、超有名アイドル商法が確立された事が長い争いの始まりだと言う物である。

「誰だって思うだろう。『あれがなければ』、『これがなければ』と。その考えは超有名アイドルにも当てはまる」

「楽してお金を儲けようと言う考え方が生み出した超有名アイドル商法は、テンプレが完成されているから途中から参入しようと考えている企業等にとっては非常にありがたいと思う―」

「『時は金なり』と言われているけど、大量のお金を何処かで止めていれば、お金が平等に回る事は一切ない。超有名アイドルがやっている事は、一種のマネーゲームと同じなんだよ」

「そして、人々は超有名アイドル商法が一種のマネーゲームになっている事は関心を持たず、その結果が超有名アイドルとキサラギの争いに発展した」

「後はアカシックレコードに触れた人物がキサラギの技術を用いて形勢を逆転し、超有名アイドル人気は降下していく事になった」

「ここまで言えば、自分が何を言いたいのか分かるよね?」

長く話を続けたロストノートは、持っていたカバンからARウェポンである《ディスティニー》を取り出して構えた。

「アカシックレコードの秘密を知っている君は、いずれ邪魔者扱いされる事になる―」

「君には悪いけど、そのARウェポンは破壊させてもらうよ!」

そして、ロストノートとアーカイヴの試合が始まろうとしていたのである。


同日午後5時5分、各局のニュースでは特にアカシックレコードサーガに関しては報道されていない。報道規制と言う訳ではないが、超有名アイドルの芸能事務所への家宅捜索が視聴率を取れると言う事で後回しにしているのだろう。

【何処を回しても超有名アイドル関係ニュースばかりだ】

【やはり、今までの莫大な利益には裏付けされた何かがあると思っていたが、こういう事だったのか?】

【社会的に消されない為に超有名アイドルの芸能事務所へ大量の現金が回っていたとは…】

【『日本のお金は全て超有名アイドルへのお布施』と言われていたアレは本当だったのか】

【これが、夢を与えてきたアイドルのする事なのか!?】

タイムラインでは、色々な声が流れていた。超有名アイドルのやり方に怒りを覚える人物もいれば、アイドルその物に失望した人物もいる。

【試合の方が始まるようだ】

【相手は、ロストノートか…。聞いた事のない名前だが、ランクは上の人物らしいな】

【果たして、この試合がどのような結果になるのか】

【試合の結果よりも、超有名アイドルの関連ニュースが凄い事になっている。タイムラインが埋もれなければいいが―】

【向こうは気にしたら負けだ。自分達は、この試合を楽しむ事に専念しよう】

【おそらくは、他のまとめサイトが一連のニュースをまとめてくれるとは思う。アフィリ系の方は当てにならないと考えてもいいだろう】

【そう言えばアフィリ系のまとめサイトにも警察が立ち入り調査をしていたな。おそらくは、芸能事務所から宣伝費名目で1兆円クラスをもらっていたのだろう】


同刻、ある人物が秋葉原のアカシックレコードサーガフィールドへ向かっていた。その人物は、リニア=ゼロだった。しかし、フィールドへ向かう前に超有名アイドルファンと思わせる外見の男性が数人現れ、バトルを申し込まれると言う展開になった。

「あなた達のやろうとしている事の意味…分かっているの!?」

リニア=ゼロの外見は、何時もの肌と布の割合が7:3というARスーツではなく、更にフルアーマーで身を固めたARアーマーを装着しているように見える。怪盗クリスタルグラスとは違うのだろうか?

「当然だ。ロストノートが超有名アイドルを永遠に封印し…新たなるアイドルを生み出してくれる!」

「これ以上、超有名アイドルに投資していたらアイドル破産してしまう」

「アイドル破産をした人間の末路は決まっている。これ以上の罪人を超有名アイドルファンから生み出すのは心が痛む―」

「それによってアイドルと言う存在が黒歴史になるのだけは避けなければならない!」

「悪いが、彼の妨害を考える者を通す訳にはいかない!」

彼らのやり取りを聞いた人物が、リニア=ゼロの相方になるとばかりに現れた。その人物は、何とノートゥングである。

「この先は通してもらうぜ! ロストノートが考えている事は超有名アイドルの消滅じゃない。あれは、ただの釣り要素で過ぎない」

ノートゥングの言葉の後に姿を見せたのは、アークエンジェルだった。

「残念だが、君達の起こそうとしている事は警察に報告済みだ。今頃、決起集会が行われようとしている場所に機動隊が到着している頃だ―」

アークエンジェルもリニア=ゼロ側につくようだ。リニア=ゼロも疑似的なアカシックバーストを使う物として、アークエンジェルはマークしていたのだが…。

「アークエンジェル、ノートゥング…アカシックレコードを守護する側の人間が、アカシックレコードの介入を許さない我々に味方していいのか?」

リニア=ゼロには2人の正体が分かっていたようだ。そして、それは同じ系統のARウェポンを持つアーカイヴと西雲七海にしぐも・ななみにも言える事だった。

「そんな事を言っている場合ではない。アカシックレコードの存在に関しての議論は、後からでも可能だ。しかし、これから行われようとしている凶行は止めなくては―」

アークエンジェルがリニア=ゼロへ簡略的に説明をする。今回止めるべき存在は、超有名アイドルとキサラギの争いを利用して影から儲けようと考えていた勢力こそが、全ての元凶であると。

「アイドル破産の事情は分かっている。だからと言ってテロのようなやり口を認める程、こちらも甘くはない。お前達は、この結果によって日本のコンテンツが全て消滅し、海外勢に吸収合併されると言う可能性を考えた事があるのか?」

ノートゥングはARウェポンであるノートゥングを構え、臨戦態勢に入る。

「彼らの狙いは、一連の事件を利用して自分達に都合が悪い人物やコンテンツを排除、その後に自分達がコントロール可能な人材だけを残し、最終的には自分達だけが無限の利益を得て、戦う力を失った他勢力を吸収合併し、地球のコンテンツ業界を征服する」

アークエンジェルも、ARウェポンを準備し、試合の体制に入る。

「アカシックレコードのメッセージを全て信じる訳じゃないけど…。守られる権利は守り、開放すべき個所は開放する―それがARゲームを見て感じた事。それすらも許されない現状を作った超有名アイドルを、私は許さない」

「力を貸して―クリスタルブレイカー!」

リニア=ゼロは、蛇腹剣とは別のARウェポンを別の空間から呼びだした。呼び出されたガンブレードは、かつて怪盗クリスタルグラスが持っていたクリスタルブレイカーである。ただし、こちらは秘宝の力で生み出された物ではなく、ARウェポンとしてのレプリカだが…。


###


同日午後5時10分、遂に試合の方が始まった。今回も1対1と言う特殊ルールで行われる事に。

「超有名アイドルは記憶からも抹消すべき存在…。それが分からないとは言わせない!」

ロストノートは背広の下にARスーツを着ており、そこから実体化されたのはSFに登場するようなロボットを思わせるデザインのアーマーだった。

「お前は何も分かっていない―」

アーカイヴがヴァーミリオンを構え、攻撃態勢に入る。

「確かに超有名アイドルのやり方は間違っている部分もあるだろう。しかし、存在するべきではなかった…というのは言い過ぎではないか?」

「そうかな? 超有名アイドルの存在はアイドルファンを激減させるきっかけを作ったのは間違いない。超有名アイドルが売れるという考えが、コピペアイドルの増加を生み出し、アイドル産業以外が衰退するきっかけを作った」

「道を誤った物には正す事で救いを与える…。それがアイドルファンの義務じゃないのか? それさえも放棄しようと言うのか―」

「過去の誤りを正したとしても、同じミスを繰り返す事になれば同じ事だ。それならば、いっそのこと《なかった事》にしてしまえばいい!」

「例えなかった事にしても、同じ事が起こらないとは限らない!」

「超有名アイドルを規制しても法の抜け穴を利用して同じ事を繰り返す存在もいる。ならば、完全撤廃した方がコンテンツ業界の為にもなる」

アーカイヴとロストノートの主張合戦が始まった。アーカイヴは超有名アイドルを根絶したとしても同じ事を繰り返すと主張するのに対し、ロストノートは超有名アイドルの存在を抹消すればコンテンツ業界を変える事も可能だと訴える。

【ロストノートの言う事も一理あるかもしれないが、全てをなかった事にするのは不可能に近いだろう】

【一度生み出された物が広まっていき、それが超有名アイドルの規模となると簡単には完全撤廃と言うのは…】

【ならば、アカシックレコードにあった全てのジャンルが共存する事も一つの手段かもしれない】

【全部のジャンルが歩み寄れるのか…と言うのもあるだろう。過去に超有名アイドルがコンテンツ全体の95%という売り上げを占めていた事も、いくつかのジャンルが超有名アイドルに取り込まれて消滅した理由のひとつだ】

(中略)

【これも紛争と言う事になるのだろうか?】

【キサラギがやりたかった事は、今回も実現しないのか?】

【超有名アイドル商法の軌道修正、この世界でも実現する可能性は皆無なのか?】

【どうすれば、権力に物を言わせたアイドルPRが減るんだ!? 誰か教えてくれよ!】

タイムラインには、様々なやりとりが存在し、それらに対しての反応も今までとは比べ物にならない物だった。


「かつて、超有名アイドルと他勢力との共存を考えていた人物がいた! 彼は今も別の世界で戦い続け、アカシックレコードにメッセージを届けている」

アーカイヴがアカシックバーストを発動し、ヴァーミリオンのハイスピードとも言える連射で対抗するが、その攻撃をあっさりとロストノートのビームシールドにガードされてしまう。

「西雲隼人―確かに、彼は音楽業界が完全共存できる世界を望んでいた。しかし、その声に耳を貸さなかった結果、超有名アイドルとキサラギの争いが幕を開ける事になった!」

ビームシールドでヴァーミリオンの連射をガード後、ロストノートは大剣を構えて突撃をする。

「だが、人は分かりあえるはずだ! 理想の押し付け合いや利益の争奪戦にならないような方法で!」

ロストノートの動きが大雑把だった事で、何とか大剣を回避する事に成功したアーカイヴは、2丁拳銃とは別のビームサーベルを構えて、ロストノートに連続攻撃を決めようとする。

「しかし、それでも彼らは不利益になるような要素を察知し、最も利益を上げる事が出来る都合のよい方法を選択し、次第にコンテンツ業界でも売りきり型タイプが現れるようになった!」

ロストノートもビームサーベルで来る事は分かっており、若干の距離を取り始めてアーカイヴの間合いに入らないように攻撃を回避する。

【これは凄い事になって来た】

【両方とも互角と言う気配にも見えるが…】

【しかし、勝つのはどちらかだ。引き分けは両者敗北を意味している】

(中略)

【アカシックバーストを使用しているアーカイヴが、ここまで苦戦しているなんて】

【これはロストノートにも勝ち目があるのか?】

タイムライン上で実況しているネット住民は、どちらが勝利を収めるのか見守っていた。そして、これが妨害される事のないように祈るだけだった。


同刻、秋葉原にあるアンテナショップでこの様子を観戦していた人物がいた。それは、意外な事に空野輝そらの・てるである。

「キサラギの警告は本当だったようだ。既にタイムラインでも例の警告を受け取っていると思われる人物のコメントもある」

彼のしている事は、つぶやきサイトのタイムラインをチェックしていると言う物で、それがアカシックレコードサーガとは無関係なのでは…と思う物だった。

(前略)

【全部のジャンルが歩み寄れるのか…と言うのもあるだろう。過去に超有名アイドルがコンテンツ全体の95%という売り上げを占めていた事も、いくつかのジャンルが超有名アイドルに取り込まれて消滅した理由のひとつだ】

【全ての産業、ジャンルが歩み寄れるのかは今後の展開次第になるのは間違いない】

【しかし、お互いに利害関係を探る内に超有名アイドルが全てを独占してタイムオーバーになりかねない】

【それでもキサラギは、超有名アイドルの商法に欠陥がある事を見破り、それを長くに渡って訴えてきた】

【その結果、一部の世界線では超有名アイドル商法の欠陥を認めた事例もある。しかし、超有名アイドル側が徹底抗戦をした結果、音楽ゲームや同人ゲームの楽曲が超有名アイドルと入れ替わりで支持を得た世界も―】

【時間は迫っているのだ。超有名アイドル以外のコンテンツが新たな法律で排除される法案が作られるまでの】

【どういう事だ!? それは、某国の作りだそうとしている法案なのか?】

【それとは違う。某国のアレとは作られた経緯が全くと言っていい程に違うシロモノだ。あれは、芸能事務所が全世界の資金を自分達に集めようと言う独裁を始める為に作られた―】

(後略)

「あの法案が成立目前と言うのは本当の事だったのか」

しかし、それを止めるために国会議事堂へ乗り込む訳にはいかない。ARウェポンを下手に見せれば警備員は暴力に訴えようとしていると勘違いし、最終的にはARゲームそのものに規制法案が作られる可能性もある。

「結局は超有名アイドルの芸能事務所やCDを購入している投資家、超有名アイドルを支援している富裕層等の財布が潤う…。超有名アイドルとキサラギの争いが何度も繰り返されるのは、この為か」

空野が気付いたとしても、この事実に到達できる人間が何人いるのか…と言うレベルである。


###


同日午後5時15分、秋葉原では西雲が介入をした事で事態が急展開を迎えていた。

「そう言えば、君と同じアカシックレコードにアクセス可能なARウェポンは他にもあったね―。そう、君の事だよ《エクシア》の適格者!」

西雲の姿を見て、ロストノートは何かを思い出したかのようにバトルを申し込む。

「あの時の人物が…ロストノートだったのね」

そして、西雲はARスーツを実体化させ、エクシアを握って臨戦態勢に入った。


《西雲七海 アーカイヴ VSロストノート》


画面に表示されたのは、何と2-1という変則バトルだった。そして、その影響もあってTPゲージはお互いに15000になっている。

【まさかの変則マッチか―】

【運営側が決めた物ではないようだが、大丈夫なのか?】

【運営も変則マッチに関しては導入を検討はしている気配を見せていたが、今回のマッチングでどういった結果になるかを見るつもりだな】

【前の試合ではロストノートが僅差で勝利したが、2人相手だとどうなるか?】

【今回の展開次第では、運営も実装を保留するか実装するかが決まる】

【ARウェポンのカスタマイズ方法に関しても、コンプガチャ問題等を踏まえて色々と調整に難航したと言う一例もある】

【ARスーツは他のARゲームでも使用されている都合で調整が難航したという話も聞いている】

ネット上では、今回の変則バトルが実装されるかどうかが反応次第という事が話題となっていた。


バトルの開始直前、西雲の頭に何者かの声が聞こえた。

『君もアカシックレコードを扱えるのか?』

「あなたは一体?」

『私の名前は、西雲隼人。音楽業界を変えようと動いている人物の一人…と言った方が早いか』

「アカシックレコードで名前を見た事ありますが、本当に西雲隼人なんですか?」

『その通りだ。アーカイヴにもメッセージを伝えたのだが―』

頭の中に語りかけてくる声、それは西雲隼人だったのである。

「アーカイヴにも? 彼は何と言ったのですか?」

『残念だが、それを君に教える訳にはいかない。君は何のためにアカシックレコードの力、アカシックバーストを使っている?』

「それは、守りたい物を守るために―」

『守りたい物とは?』

「ARゲームの自由です! 超有名アイドルとかキサラギとか…そう言った物に縛られない自由。それを取り戻したい」

『では、その覚悟が本物かどうか、確かめさせてもらおうか』

そして、西雲隼人の声は消えた。本当に彼が何処かで見ているのだろうか?

「アカシックレコードでは、他の世界のARゲームをはじめ、様々な動画を見る事が出来る。リアルタイムで見る事は出来ないと思うが…」

七海の方を向きながら、アーカイヴが一言。そして、ロストノートとのバトルが遂に始まったのである。

「これを渡しておく。何が起こるかの保証はできないが」

アーカイヴが七海に渡したのは、エクシアに使用するARウェポン用のチップだった。これはヴァーミリオンにも使用した物と同一で、以前に手渡されていた物だった。


「遂に始まったか。私は、このステージの行く末を見守る事にしよう」

ギャラリーが集まっている外部モニターでは、瀬川春香せがわ・はるかの姿もあった。どうやら、彼女は今回の件に関しては様子見を決めたようだ。


先手を取ったのは、ロストノートだった。彼はアーカイヴ戦でも使った大剣で西雲に襲い掛かるが、西雲もエクシアを使って大剣を切り払う事で攻撃を回避する。

「君には忠告したはずだよね。僕がやろうとしている事について…」

「まさか、あの時に言った事って!?」

西雲はロストノートの一言を聞いて、まさか…と思っていた。あの時に会った際、彼はこう言っていた。


《やがて、全てのARゲームは超有名アイドルとキサラギの争いの舞台となる。そして、その戦いに疲れた者たちは別のジャンルへ安息を求め、やがてはコンテンツ事業自体が崩壊する恐れもある》


「ARゲームの崩壊…そう言う事なのね」

西雲が何かに気付く。

「どうやら、僕の言った事に気付いたようだね。過去にコンプガチャ問題をはじめとして、超有名アイドルの便乗的な商品展開をした結果―」

ロストノートが大剣を再び振い、西雲を捉えたと思った。しかし、その大剣は空を切っていた。つまり、その場に西雲の姿はなかったのである。

「アカシックバーストをも超える力を、彼女が出したとでも言うのか?」

アーカイヴは驚きを隠せなかった。そして、西雲のエクシアが虹色に輝きだし―。

「『変えられない』と決め付ける事は誰にでもできるかもしれない。でも、変えようとする意志を持てば必ず世界を変える事は出来る!」

虹色に輝きだしたエクシアを手にした西雲は、ロストノートを一閃だけで弾き飛ばし、即座に倒す事に成功した。つまり、一撃必殺である。

「世界を変えるだと!? 大きな事を言って世界を変える事も出来なかった人間は大勢いた。そして、今も日本は規制法案が形骸化する程、超有名アイドルへの依存が急激に高まっている。この状況が―」

再復活したロストノートも、再び西雲が放つ一閃で再び行動不能になる。これで相手の残りTPは5000になった。

「そう決め付けて、ただ逃げているだけに過ぎない! 超有名アイドルも、いつか解散する。始まった物語も、いつか終わる時は来る。だからこそ、新しいコンテンツを作って育てようと言う勢力も出てくる。そして、それを妨害しようとするのは…いつだって超有名アイドルのような力を振り回すような存在」

そして、ラストも同じ一閃でロストノートのライフが0になり、勝負は決まった。

「これじゃ、やっている事が超有名アイドルと同じ―!?」

倒されたロストノートは何かに気付いた。今まで自分がやって来た事。虎の覆面を名乗ってエインフェリアを設立した事、そこで集めた人材に対して行った事…。

「こちらが一歩も動けなかった。どういう事なんだ?」

アーカイヴは目の前で起こった光景を見て、何も出来なかった。単純に身動きが取れなかったというレベルではなく、もっと別の何かが働いたような…。

「これで、気付いたかしら? あなたがやって来た事は、自分が否定した超有名アイドルと変わらない事を行っていた事実に」

そして、西雲は先程取りつけていたチップを外し、アーカイヴに返した。

「私には、これは似合わないから返すわね。彼とは、別の方式で決着をつけたい―」

こうして、西雲の発案で別の試合が行われる事になった。その形式とは―?


###


同日午後5時20分、試合の方はロストノートが勝利したと言う一報が届く。そして、試合会場から若干離れた秋葉原の公園で動きがあった。

「我らが同士が勝利したぞ! そして、我々は今からアンテナショップを襲撃し、超有名アイドルが日本で唯一の最強コンテンツである事を全世界に思い知らせる!」

「万が一、一斉逮捕につながったらどうなるんだ?」

決起集会に集まっていたメンバーの1人が、逮捕された場合にどうするかをリーダーと思われる人物に尋ねる。

「その時は超有名アイドルとは違うコンテンツの名前を出して、そちらの仕業とすればいい。そして、彼らが超有名アイドルによる正義の鉄槌を受ければ一石二鳥となる―」

しかし、彼らの動きは別勢力が既に補足していたのである。しばらくして、周囲を何者かに取り囲まれていたのだ。

「あのシールドに書かれた紋章は、秋葉原特殊自警団ホーリーフォース!」

「そんな馬鹿な。この場所で決起集会を行う事は、ホーリーフォースも捕捉出来ない掲示板で書きこんだはず―」

「ホーリーフォースに今までの事を聞かれていたとしたら、超有名アイドルは犯罪者集団と間違えられ、再び黒歴史になってしまう!」

「仕方がない。各メンバーはホーリーフォースを攻撃しろ! 襲撃は、それからだ」

「ホーリーフォースに攻撃を加えれば、間違いなく秋葉原への出入り禁止は避けられない―」

集まっていた構成員は慌て始めている。それほど、ホーリーフォースの存在は秋葉原を守る最強の盾として存在している。


同刻、同じようにアンテナショップを襲撃しようとしていた集団があった。彼らはエインフェリアとは無関係で、超有名アイドルも無関係の勢力である。

「我々の目的は、超有名アイドルに関係なく秋葉原を襲撃する事である。取り戻せ、あの時代の秋葉原を!」

「今頃、ロストノートに同調してアンテナショップを襲撃しようと考えているエインフェリアの残党が、アンテナショップを襲撃している頃か」

「超有名アイドルは我々にとって、百害あって一利なし。だからこそ、今までもゲリラ的に彼らの勢いを衰退させる作戦を行ってきた」

「今こそ過去の栄光を取り戻す為に、我々が秋葉原を正しく―」

こちらの方にも、同じようにホーリーフォースが周囲を取り囲んでいたのである。しかも、彼らの装備はステルス装甲、模擬弾を発射するライフルなどと本格的な物ばかりが揃っている。


同刻、他の勢力同様にアンテナショップ襲撃を考えていた一団が上野公園にも存在していた。

「さすがのホーリーフォースも行動範囲は秋葉原に限定されるだろう」

「我々は超有名アイドルも、同人作品も関係ない。取り戻すのは、古き良き昭和の時代である。今は超有名アイドルのような売れれば後々の事は無視と言う体制がはびこっている」

「そして、海外では超有名アイドル以外のコンテンツを全部廃止に追い込むような法律が作られようとしている。これは、明らかに芸能事務所が多額の賄賂を渡して作った物に他ならない!」

「我々は古き良き時代を取り戻すべく、その手初めてとして超有名アイドルよりも脅威になりつつある―」

演説をしている男性に割り込むかのように現れたのは、何とジークフリートだった。

「考えている事は、エインフェリア等と同じか―。超有名アイドルに罪をなすりつけて、自分達だけが生き残ろうと考えている。それでは、やっている事は超有名アイドルファンと変わらない!」

「黙れ! エインフェリアに所属していたお前に何が分かる! 我々は見たぞ。お前がエインフェリアで何をしてきたかを!」

ジークフリートの一言を聞き、それに反論するかのように男性はジークフリートが元エインフェリアである事を公表した。

「エインフェリアに所属していた事は事実だ。そして、そこでしてきた事についても反省すべき個所があるのは間違いない。しかし、だからと言ってお前達が行おうとしている事を黙って見過ごす事にはならない!」

そして、ジークフリートが指を鳴らすと、周囲にはホーリーフォースが現れたのである。この光景には…。

「バカな。ホーリーフォースは秋葉原限定の自警団。それが上野に進出できるはずがない―」

「確かにホーリーフォースが秋葉原限定と言うのは事実だ。しかし、今回は彼らの協力も得た事で広域範囲での活動も可能になった」

男性の疑問にジークフリートが答える。協力を得た人物とは、男性の方も驚く人物だったのである。


「空野輝だと…!? 一体、ホーリーフォースにどんなトリックを使った?」

彼の目の前に姿を見せたのは、何と空野だった。彼は少し前まで秋葉原にいたのだが、理由があってジークフリートに同行し、上野までやってきた。

「トリックは特にない。ホーリーフォースが秋葉原限定だったのは、彼らの持っている強化型装甲が秋葉原でしか発動しない事だった―」

「そこで、ARウェポンで使用されているソーラーシステムを利用して強化型装甲を発動できないか試した結果が、ヴァーミリオンとエクシアと言う事になる」

「ここまで言えば、どんなトリックを使用したのか一目瞭然だが…」

空野がエクシアとヴァーミリオンを作った本当の理由は、何と違う世界のアカシックレコードから入手した技術を融合させる事だった。

「強化型装甲自体もアカシックレコードの技術を元にして開発したものだ。それを流用して作られたARスーツならば、ソーラーシステムが使えるのでは…と思った」

「それを更にアレンジした物が、これになる!」

空野が何もない空間から出現させたビームライフル、それが空野のARウェポンである。名称はアンノウン…要するに名無しである。

「何もない空間から武器を召喚するとは…魔法使いか?」

男性が怯えながらも抵抗の意思を見せようとする。しかし、周囲は降伏というムードに突入したかのように戦闘意思を失っている。

「魔法使いか…。残念だが、この世界には魔法的概念は存在しない。アカシックレコードでも魔法や錬金術を用いた技術は禁忌と言われている―」

空野の発言を聞き、男性は抵抗の意思を失った。そして、他のメンバーと共に警察に逮捕される事になった。


同日午後5時25分、第2報が届き、そこでは変則2対1バトルにてロストノートが敗れたと言う情報が届いた。

「そんな馬鹿な…。ロストノートが敗れたのか?」

「信じられん! 我々、超有名アイドルファンの夢が―」

【まさか、あの大逆転とも言える展開になろうとは】

【ご都合主義と言われればそれまでだが、この展開は読めなかった】

【これによって、コンテンツビジネスのあり方等を考えるきっかけになればよいが…】

【逆にARゲームのような自由度の高さが縛られてしまうような事にならない事を祈るしかないような気配もする】

第2報を受けて、超有名アイドルファンクラブによる暴動等も収まり、事実上の超有名アイドル敗退とも取れるような結果となった。


###


同日午後5時30分、一連の超有名アイドルファンによる大規模なテロ未遂とも言える事件は、こうして幕を閉じた。一連の黒幕に関しては警察の調査で明らかになると思われるが…。

「これだけは覚えておくがいい。君達が超有名アイドルの暴走を食い止めたとしても、第2、第3の超有名アイドルとキサラギの争いは起きる―」

「むしろ、この事態が起きない事が不思議ではない程、コンテンツ業界は利益優先型のタイプにシフトしている証拠だ」

「その証拠が、こちらの世界でも一時期に問題化したコンプガチャの問題―。あれも超有名アイドル商法を真似ようと考えた結果、失敗に終わっている」

「そう言った利益優先型コンテンツをキサラギは良く思わない。そして、日本が超有名アイドル商法に縋り続ける限り…キサラギは何度も抵抗を続けるだろう」

「今は、君達の勝利と言う事で一時的に姿を消す事にするよ」

言いたい事だけを言い残し、ロストノートはARフレームを改良したARフライトユニットに乗って姿を消した。


『君の音楽業界…この場合はゲームに対する思い、確かめさせてもらったよ。それだけの熱意があれば、ARゲームもきっと熱意に答えてくれるだろう』

『そして、人にはそれぞれの事情と言うのもある。その事情を正しく理解し、時には要望を出す事や流れを正す為にアクションを起こす事も重要と考えている』

『しかし、その解釈をめぐって大勢のネット住民を扇動するべく偽の情報を流す事で混乱を起こし、今回のような事態を起こすと言う可能性も否定できない』

『だからこそ、アカシックレコードの情報量に惑わされず、偽りの情報を見破り、上手く使いこなすだけの力量が重要になる』

『情報量が莫大になっていくのは避けては通れない。だからこそ、その情報と上手く向き合う事がアカシックレコードを見る上で必要だ』

西雲七海の頭の中に西雲隼人の声が聞こえる。そして…。

『第4者の存在、それは世界線を脅かすような悪意となる存在になるのか、新たな可能性を生み出すのかは誰にもわからない―』

『全ては、それに触れた者たちの心次第で変わるのかもしれない。それだけは覚えておいてほしい』

『最後に一つだけ言っておきたい事がある。これからも世界線の変動が続く限り、新たなる並行世界は生まれてくる。その世界がどうなるかは誰にも予想出来ないだろう』

『もしも、その世界が第4者の悪意や邪悪な野望によって支配されるような事があった時があれば、君達の今まで得てきた知恵を彼らにも貸して欲しい』

『それが…自分に出来る、せめてもの―』

何かを西雲七海に言おうとした所で、西雲隼人の声は聞こえなくなっていた。

「アカシックレコードと正しく向き合う方法か―。自分がつぶやきサイトのアカウントを意図的に持っていなかった事と、関係あるのかな?」

つぶやきサイトのアカウントを持っていなかった七海は、アカシックレコードとつぶやきサイトを重ねて考えていた。どんなものでも、凶器となりうる可能性はある。それを、アカシックレコードサーガをプレイして改めて思っていた。

「どんなものでも、触れなければ分からない事はある。それに触れないで非難をする事も出来るが、その言葉には嘘が多く含まれている可能性もある。それを人の悪意と言うのかもしれない」

アーカイヴは、深く被っていたフードを取り、周囲に初めて素顔を見せた。その顔は、確かに西雲隼人とそっくりだったのである。

「第4勢力がどんなものか、それはアカシックレコードにあるように炎上ブログサイトやアフィリ系まとめサイトのような物、現実世界やメタ的な何かかもしれない。しかし、それとはもっと別の可能性も否定できないだろう」

「ノートゥングの言う通りだ。第4勢力がどのような存在かは、後々判明するような流れになるだろう」

秋葉原のフィールドにようやく到着したのは、ノートゥング、アークエンジェルの2人だった。リニア=ゼロの方は途中で別れたのかもしれない。


《こうして、ARゲームを巡る一つの争いは幕を閉じた》


《一連の超有名アイドル事件も警察の調査が待たれる結果となり、ネット上では静観ムードとなっている》


《そして、時は流れ8月の大型イベント1日目に―ひとつの事件が起こる》


「警察がどんなに調べても、超有名アイドルの根幹にある存在…あのプロデューサーを引きずり出さなければ、全てに決着を付ける事は出来ない」

上野公園のスタジアムのような場所には、リニア=ゼロの姿があった。周囲には人影はあるが、彼女の方を振り向くような気配はない。

「虎の覆面―彼がアカシックレコードに介入する可能性は、別の世界で捕まった事により限りなくゼロになった」

「しかし、彼の名を騙った、第2、第3の虎の覆面が出現する可能性はある。それを根絶しない限り、世界を良い方向にするのは困難だろう」

「その懸念が生み出したのが、今回のロストノートだろう。彼以外にも、世界その物を最適化しようとする者、超有名アイドル以外のコンテンツを駆逐する者、更には自分の意のままに動くアイドル以外を排除しようとする者も―」

「私達はアカシックレコードの力を借りずに目的を達成しようと考えていた。しかし、結果的にはアカシックレコードの力を借りる事になった―」

「世界は繰り返すのだろうか? 超有名アイドルとキサラギの争いを」

いつの間にか、ステージにいたリニア=ゼロは姿を消していた。

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