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世界線の破片―THE fragment in the worldLine―

※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、この作品におけるフィクション扱いでお願いします。


※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。


※小説家になろうへ移植する際に一部セリフを変更している個所があります。

西暦2014年7月2日午後3時、西新井にあるアンテナショップでは…。

「ここまでワンオフタイプのARウェポンは見た事無いですね。先行稼働で使われたバージョンでもなく、バージョンアップ前のカタログに載っているわけでもない…」

1人の男性スタッフはアーカイヴが持ち込んだARウェポン《ヴァーミリオン》を見て、ショップでの修理は不可能である事を説明した。

「パーツをある程度分析すれば在庫の有無を検索する事も可能ですが、このARウェポンはセキュリティ関係が非常に厄介な物を搭載している」

スタッフの話を聞いたアーカイヴは、自分の知らない機能がヴァーミリオンに搭載されているのでは…と考えた。

「ARウェポンにセットするARプレート自体は偽造防止等で細工が出来ないようになっています。動かない原因はARウェポンにあるセキュリティと見るのが有力でしょう」

他のゲームでARウェポンを修理した事もあるスタッフでも、お手上げ状態である。それほど、ヴァーミリオンには秘密が隠されているのだろうか?

「下手にセキュリティを外せば、修理も不可能になるでしょう。しばらくの間は、換わりのARウェポンで何とかします」

そう言い残し、アーカイヴはショップを出た。スタッフも顔を見せないアーカイヴの事を不審に思ったが、ARブレスの認証で顔写真も出てこない為、ブレス内のデータとショップのデータベースを照合して、偽者ではないと判断したのである。


「ヴァーミリオン、思った以上に厄介なものだな。適格者に選ばれたとはいえ、使用出来ない期間が長引けば不利だ―」

アーカイヴは下手にヴァーミリオンが使えない期間が続けば、遠距離主体のスタイルを変えなければいけないと言う危機にあった。

「これは、調べてみる必要性があるな」

そして、彼がARブレスでネット検索をしていると、あるやり取りにたどり着いた。

【RE:そして、超有名アイドルが全てを創造する神のように扱われている現状、それがキサラギのような存在を生み出したのかもしれない】

【キサラギは確か、超有名アイドルとキサラギの争いで中心となった存在だったか。結局、正体は分からずじまいだったが】

【怪盗クリスタルグラスも元々はアカシックレコードにモチーフがあったと言う噂を聞く。もしかすると、全ての原点はアカシックレコードにあるのかも?】

それは、ある一文を巡っての物だったが、アカシックレコードと言う単語が若干気になっていた。

「アカシックレコードか…」

数年前には流行語になる位に浸透していたアカシックレコード。しかし、ある時を境にしてアカシックレコードは封印されたかのように姿を消したのである。


そして、その日の夜にアーカイヴはアカシックレコードサイトを発見した。そこで目撃したのは…。


【4つのARウェポンは動力源に太陽電池とは別の特殊な機関を使用している。この機関を量産化する技術は、別の世界では確立されている】


アーカイヴは、この記述やアカシックレコードサイトで発見した情報を元にとある人物を尋ねる事にした。


#####


シーン4:上野駅・アンテナショップ近辺


西暦2014年7月3日午前10時10分、通勤客が一段落した上野駅周辺、そこではとあるARゲームが行われていた。ゲームの名前はARデュエル、対戦格闘ゲームのAR版とも言える作品だった。

《ウィナー 瀬川春香》

既に試合が終わった後で、瀬川春香せがわ・はるかが勝者としてコールされた。

「予想通りだな」

「瀬川と言えば、アカシックレコードサーガもプレイしているはず。複数のARゲームで好成績を叩きだすのは異例中の異例だぞ」

「ARゲームは半数以上が身体を動かすゲームになっている。下手をすれば、筋肉痛などは日常茶飯事だ」

「それにしても、ARゲームも設置場所が色々と増えたな。アカシックレコードサーガが正式稼働された辺りから」

「何時でもどこでも…と言う訳にはいかないが、日本全国に置かれているような気配はするな」

普通に応援をしているギャラリーもいれば、色々な雑談を行うギャラリーもいる。これが、ARゲームにおける光景である。


同日午前10時15分、ARデュエルが行われていた場所より離れた道路では、ARランナーズというバトル要素を取り入れた長距離障害物走のARゲームが行われている。

「アカシックレコードサーガが稼働した事もあって、他のARゲームにもスポットライトが当たるようになった」

「ARランナーズは、プレイヤーも1万人強で過疎ゲーとまでは言われていなかったが…」

「新規プレイヤーが増える事で色々と課題が山積みだった部分もあったからな。これを機会にして持ち直してほしい所だ」

「そう言えば、他のARゲームと言えばプレイヤー数が劇的に増えた作品があると聞いたが?」

「ARミュージックの事か? あちらは、ARゲームとは違う事情がある。ジャンル的に言えば、体感型音楽ゲームと考えるのがいいだろう」

こちらもARデュエルと同じギャラリーの光景である。一方で、彼らが一番懸念しているのはアカシックレコードサーガが稼働してから新規プレイヤーが増えている事だった。


同日午前10時20分、上野にある中規模のゲームセンター。そこでは、ARミュージックと言う疑似的なライブを楽しむ事の出来る音楽ゲームが稼働していた。

「こちらはアカシックレコードサーガに関係なく、プレイヤーが増えている印象がある」

「収録曲の関係もあるかもしれないだろう」

「ARゲームの中でもARにする必要性があるのか…と言われた位だからな、この作品だけは」

「体感型の音楽ゲームはARゲームが盛り上がる前から多くの機種が出ていた。それの延長線と考えるのが妥当なのかもしれない」

「ARゲームがゲームセンターの主役になったとしても、音楽ゲーム自体が衰退するという可能性は少ないだろうな」

こちらのギャラリーはARゲームをメインにしている層よりも、音楽ゲームを数機種プレイしているようなヘビーユーザーが多いように思えた。


同日午前10時30分、上野公園ではARサバイバルと言うゲームが展開されていた。このゲームは、鬼ごっこをARゲームのシステムにあてはめただけの単純明快な物である。他にもモードは存在するが、スタンダードモードの人気は非常に高い。

「他のARゲームと比較して、こちらはアカシックレコードサーガよりも口コミ等で新規参戦したというプレイヤーが多い」

「ARデュエルやARランナーズ、他にも多数あるARゲームは最近の傾向でアカシックレコードサーガがプレイするきっかけと言う人もいるが、こちらはつぶやきサイトで話題になった時から変わっていない」

「基本的なルールが鬼ごっこだからな。説明書を読むよりも身体で覚えるというのもこのゲームの最大の特徴でもある」

「他のARゲームは1人プレイでも可能だが、こちらは基本的に対人戦が自然と増える。コミュニティ的な部分でも強みがある」

「しかし、ユーザーの中にはアカシックレコードサーガに乗り換えると考えている人物も少なくはない。ユーザーをつなぎとめる対策が求められるな」

順番待ちをしているプレイヤーの何人かが談話をしている。


同日午前10時頃、つぶやきサイトのやり取りで超有名アイドルとキサラギの争いに関してのタイムラインが盛り上がりを見せていた。これが、その一部である。

【ここ最近のARゲームの盛り上がり方は―】

【確かに。ARミュージックは追加楽曲のタイムラインがメインだから外すとして、他の盛り上がり方は尋常じゃない】

【アカシックレコードサーガの影響も否定できない】

【超有名アイドルの便乗商法的な何かを狙っているのか?】

【そうだとすると、この盛り上がりは警戒する必要がありそうだな】

【超有名アイドル商法が問題になった際、他のジャンルは対岸の火事と言う事で何も対策をしていなかった。対策をしたジャンルもあったが―】

【そして、最終的に超有名アイドルとキサラギの争いを生み出す結果となった。アカシックレコードの存在も相まって】

【結果としてはキサラギ側の圧勝で幕を閉じ、超有名アイドルは衰退する事になった】

【今度は超有名アイドル側がエインフェリアを結成し、同じ超有名アイドル商法を繰り返そうとしている】

【歴史は繰り返されるのか?】

【キサラギ側は超有名アイドルのアンチファンという訳ではない。彼らは、自分達が手掛けた音楽ゲームの楽曲を守る為に超有名アイドルに反旗を翻した】

【その結果として、アカシックレコードが封印、超有名アイドルも一部を除いては解散に追い込まれ、数年後には『超有名アイドル規制法案』や『拝金主義型商法禁止法案』が成立される流れとなった】

【しかし、それでもキサラギとしては一連の争いを敗北と考え、活動を停止、今日に至るまではキサラギと言う名前が表舞台に出てくる事は一切なかった】

【他の世界では、同人ゲームの楽曲や音楽ゲームの楽曲などが超有名アイドルと入れ替わるような形で表舞台に姿を見せた。しかし、それでは同じ事の繰り返しになるとキサラギ側は考えていた】

(後略)


「アカシックレコードの復活と言うのは噂ではなかった…と言う事か」

ARブレスにて一連のタイムラインを見ていたのは、上野近辺でアカシックレコードサーガの筐体を運んでいるトラックを見かけ、それを追跡している空野輝そらの・てるだった。

「止まったのか?」

空野が停止したトラックから筐体と各種セット一式を下しているのは、上野駅から数キロ離れた距離にあるアンテナショップの近くだった。


###


同日午前11時頃、上野でもアカシックレコードサーガの筐体設置が完了し、早速プレイヤーが押しかけると言う状況になっていた。実際は初プレイと言うプレイヤーが半数で、上野エリアの様子見をしようと考えている常連が少数である。

「公式ホームページを見たが、上野エリアは初心者向けエリアになっているようだ。遮蔽物の多さがポイントになるだろうな」

「それ以外にも初心者向けのエリアは、荒川を挟んだフィールドが特徴の小菅エリア等か。どちらにしても、ビーム兵器を無効化出来る遮蔽物がないエリアは上級者向けなのかもしれない」

「遮蔽物もだが、基本的にフィールドの障害物は破壊不可能になっている。他の2対2のアクションゲームや他のジャンル、一部ARゲームでは破壊可能なオブジェクトがAR映像で再現される事もあるが…」

「他のARゲームでの話になるが、建造物の中がバトルフィールドになっている作品も一部であるらしい。この場合は、建造物のオーナーの許可がいるタイプかも知れないが」

プレイヤーが押しかけていた上野エリアだったが、今はスタッフによる行列整理などで混乱が収まっていると言う状況になっている。

「時間的に別のエリアも間に合うか―」

1人の男性が時計を見ていた。身長は175前後、ジージャンにジーパン、黒のサングラス、スポーツ刈りと言う外見の人物だ。

(何処かで見覚えのある人物が―)

そこへ通りかかったのは空野だった。空野はプレイ目的で上野に来た訳ではなかったので、撤収して別エリアへ向かおうと考えていた、その矢先だった。

(あの人物は…空野輝か?)

男性の方も目の前を通過したのが空野だと言う事は分かっていた。しかし、彼は声をかける事はなかった。何か理由でもあるのだろうか?


《グループ50G ラミアB VS ノートゥング 隅田川浴衣少女隊A》


電光掲示板に表示されたのは、予想にも超有名アイドルオンリーに近いマッチングだった。しかし、その中で1名だけ違う名前が表示され、その名前を見たギャラリーからは歓声が鳴り響く。

「まさか、ノートゥングが上野に?」

「昨日は南千住にいたらしいが、特にマッチングしている姿はなかった」

「彼に関しては特別過ぎるからな」

「噂では、別のランカーも上野入りしているらしいが…」

「ジークフリートは秋葉原だな。確か、プレイ動画が既にアップされている」

「それにしても、このマッチングは…ある意味で不運としか思えないな。ノートゥングの場合は、それでも文句は言わない。ある意味でアカシックレコードサーガでは一番マッチングルールを理解している人物だと思うよ」

超有名アイドルに囲まれたマッチングだが、それでも彼は文句の一つを言う事もなく自分のやる事に全力を尽くす。それが、ノートゥングという人物なのだ…とギャラリーは判断している。

「まさか、超有名アイドルに囲まれたマッチングになるとは。混雑しているとはいえ、4人とも超有名アイドルに出来なかったのか…」

その一方で、このマッチングに疑問を抱いている人物が外野にいた。それは、何とジークフリートである。

「アレは、ジークフリートだよな? まさか、プレイ動画にいるジークフリートは名前が同じだけの別人か?」

「アカシックレコードサーガは名前被りは認められているのか?」

「向こうは基本的に顔認証だ。名前が若干被ったとしても問題はない。ただし、明らかに別人のなりすましが容易なケースは認められないだけだ」

ジークフリートの姿を確認したギャラリーが若干慌てているようにも見える。そして、一部のネームドプレイヤーがARブレスでエントリーのキャンセルを行っている姿もいくつか目撃された。

「ノートゥングだけではなく、ジークフリートもいるとなるとキャンセルをする人物が現れて当然か」

先程まで時計を見ていた男性が、試合の模様が中継されるスクリーンの方へとやってきた。


「あんたとは敵同士だが、今回だけは休戦だ」

「まさか、ラミアのメンバーと手を組む事になるとは予想外だった」

グループ50とラミアと言う超有名アイドルでも同じ芸能事務所に所属している同士である。今回ばかりは、マッチング運がなかったと言う事でアイドルとしてはライバル関係だが今回は休戦をする事にした。


「共にがんばりましょう―」

浴衣と言う変わったARスーツに日本刀型のARウェポンを持った女性が、ノートゥングに握手を求める。しかし、彼は握手を拒否した。コミュニケーションを嫌う傾向なのかと言うと、そう言う訳ではないらしい。色々と彼の方も事情持ちなのである。一応、彼女の方は一定の事情を持っている事は把握して特に言及する事はなかった。

「俺は最善を尽くすだけだ。そちらと慣れ合う気は―」

ノートゥングは愛用の同じ名前を持つスナイパーライフル《ノートゥング》を展開し、フィールドに足を踏み入れる。彼のARウェポンも、音楽ゲームで使用されるような鍵盤やターンテーブルのデザインが施されている。エクシアやヴァーミリオンと同系統の物だろうか?


(このマッチング、何かがおかしい―)

北千住のアンテナショップで観戦していたのは西雲七海にしぐも・ななみだった。今回のマッチングは、コスト的には5000と5000、もう一方も3000(ノートゥング)と4000(隅田川浴衣少女隊)というコンビである。

「どちらも1人が撃破されると危機的状況になるのは間違いないでしょう。しかし、このマッチングも意図的に仕組まれた物ではない―それは分かっているはず」

西雲の隣にいたのは、見知らぬ男性だった。身長163センチ、若干細身、黒のショートヘアにメガネ、左腕に黒のリストバンド、上着はTシャツ1枚という外見の人物だが…。

「確かに。運営がマッチングに介入する事は一切しない、それに加えて外部組織からのマッチング調整依頼も全て断っている。それを考えると、これも偶然―?」

西雲は偶然の一言では片付けられない何かを今回のマッチングが物語っているのでは…と考えていた。

「しかし、超有名アイドルとキサラギの争いを再現したようなマッチングはここ数日の間に連日で発生しています。多発というレベルではないですが、10試合に1回か2回は挟まれる形で」

男性は話を続ける。彼の口から出た超有名アイドルとキサラギの争い…確かに、言われてみれば類似するマッチングに遭遇した事があったのを西雲は思い出す。

「やがて、全てのARゲームは超有名アイドルとキサラギの争いの舞台となる。そして、その戦いに疲れた者たちは別のジャンルへ安息を求め、やがてはコンテンツ事業自体が崩壊する恐れもある」

「超有名アイドル側の目的は、端的に言えば『楽をして無限の利益を得る。そして、全てを自分達の都合のよい存在にする』というコンテンツで日本だけではなく地球全土を埋め尽くす事」

「そんな事をしても、一部勢力等から反感を買うのは当たり前だよね。だから、彼らはありとあらゆる手段を使って反対勢力を賛成側に付かせている。それこそ、法律の穴を付くような手段で―」

「超有名アイドルは自分達が利益を得られれば、他の事などどうでもいい。つまり、超有名アイドルの名前をかたった詐欺事件や出会い系サイト関係のトラブル、大量のCD転売事件、CDチャート操作、別コンテンツを消滅させる為だけに起こした自作自演の事件等はファンが起こした…と言う事で自分達は無関係を貫く」

男性の話は続いている。西雲の方は試合の方に集中していて聞いてはいないが、要点だけはいくつか理解しているようだ。そして、最後に彼は…。

「そう言った理屈が認められるほど、この世界は甘くはない。金の力で口止め工作をしようと、それらはいつか公表される。この世界には魔法や奇跡の力と言ったような物は存在しない。かつて、大人たちは総選挙のポスター等で超有名アイドルの力押しをして周囲の反感を買った。それは、政治家が超有名アイドルの芸能事務所から賄賂を受け取っていた事実に他ならない」

この辺りの話を聞いた西雲は、我慢の限界に来ていた。しかし、ここで彼を起こったとしても何の得にもならない。反対に他の客から退席願いを出されるのがオチである。

「そのアカシックレコードの力を、君はどんな風に使うのか―。楽しみにしているよ」

そして、彼はこの場から去っていった。正に嵐のような人物と言うべきだろうか?


###


同刻、アーカイヴはいつもの黒マントを封印して竹ノ塚のアンテナショップにいた。理由は、ヴァーミリオンの修復の為である。

「あまり多くを語っても無駄だと思うから、あえて言及はしない。しかし、アカシックレコードの奥底に踏み込むと言う事は、超有名アイドルを完全に殲滅する事と同義とされている。最近できたまとめサイトにも書いてあったな―」

頭に赤いバンダナをしたアンテナショップの男性スタッフは、アーカイヴに対して忠告をした。アカシックレコードには、超有名アイドル商法等に対する恨み節が書かれている事が多く、その半数以上が超有名アイドルを完全に殲滅する事しか音楽業界を救えないと言う記述ばかりである。

「キサラギが一度アカシックレコードを封印した理由も、その辺りに由来しているようだが…真相は不明のまま」

男性スタッフは、パソコンにARウェポンのデータを入力し、動かなくなった原因を突き止める。

「これだ。どうやら、ARウェポンやARスーツで普段から使用している太陽電池とは違う太陽電池を使用しているらしい。簡単に説明すれば、太陽電池・改と言った所か。これを充電する手段は、1つだけ存在する」

「その手段と言うのは?」

男性スタッフの話を聞いたアーカイヴは、唯一の充電手段を教えて欲しい…と。

「これを―」

アーカイヴにスタッフが見せたのは、現在中継されているアカシックレコードサーガの試合だった。

「これは?」

アーカイヴは、この中継を見た瞬間に衝撃を受けた。アーカイヴの持っているヴァーミリオンと同じ、アカシックバーストを使用出来る人物が他にもいたと言う事実に。

「あのARウェポンが2つとは限らないと調べて見たが、この中継に出ているプレイヤーの1つと別に1つ…つまり、合計4つは存在すると言う事らしい」

衝撃的な事実だった。他にも似たようなARウェポンがあると薄々気づいてはいたが、それが自分の物を含めて4つあるとは…。


一方、中継もされている上野エリアでは、恐ろしい程のハイスピードマッチになっていた。

「さて、こちらも本気を出すとするか! アカシックバースト!」

ノートゥングが叫ぶと、彼のARスーツが変化し始めていた。両肩には2つのビームランチャー、背中には12枚のシールドにも似たガンビット、そして極めつけはノートゥングとは違ったハンドガンタイプのARウェポンである。

「そんな手品につきあっている暇はない!」

グループ50の女性アイドルが叫ぶ。ARウェポンの方は本物かもしれないが、他の武装はARによる映像で表示されている物で、特殊なメガネ等で見ないと何も表示されないと言う仕組みになっている。

「手品かどうかは、今、その身で確かめてみるといい―」

そして、ノートゥングが指を鳴らすと、背中に展開されていた12枚のガンビットが分離、その後に変形して一斉にビームを発射する。一斉発射されたビームの雨に対応出来ず、瞬時にして機体は速攻離脱となった。

「これが、コスト5000が持つ最大の弱点だ。後は1人か―」

ノートゥングが、もう一方のラミアのアイドルに目を向けると、こちらの方も決着が付くような気配だった。

【やっぱり、あのノートゥングもアカシックバースト持ちだったか】

【あとはアンノウンが1名、似たような力を使っているが…名無しと言うのは原則的に使用出来ないはず。意図的にアンノウンと言う名前かもしれない】

【これでアカシックバーストを持っているプレイヤーは4人、その内のアーカイヴは戦線離脱している。離脱と言っても修理が終われば復帰すると思うが】

【それにしても、あのマッチングになっても文句の一つも出ないノートゥングは別の意味でも凄いな】

【あのマッチングに放り込まれたら、別の意味で発狂しそうなプレイヤーもいると言うのに―】

【別の世界線だと、ARゲームにおける超有名アイドルの現役メンバー参加は禁止されているらしいな。宣伝になると言う理由で】

【そして、相変わらずのアカシックバースト発動時の処刑用BGM展開】

【ノートゥングの相方が撃破されたぞ!】

【コストオーバーでもないのに復帰出来ないのか?】

【10000のTPゲージが残っている範囲ならば復帰は可能なはず。復帰できないと言うのは明らかにおかしい】

【TPゲージがユニット復帰で0になる場合に復帰可能と言うのはバグだが、0にならないのに復帰出来ないのはバグだろう】

タイムライン上ではノートゥングについての議論が展開されていたが、その途中で相方が撃破、しかも復帰できないと言う展開にタイムライン上でも驚いていた。


「仕方がない、ここは単独でも―狙い撃つぜ!」

ノートゥングがスナイパーライフルとハンドガンと言う異色とも言える2丁拳銃で速射、更にはガンビットにビームランチャーと言う一斉発射でラミアのアイドルを撃破する。

【やっと決着か。それにしても、あの現象は不具合だったのか?】

【不具合と言うにはおかしな部分もあるな。超有名アイドルに限っては、1回撃破されると再復帰は出来ないようになっている。他のプレイヤーは再復帰可能なのに】

【これは、運営が超有名アイドルのみにハンデを与えているのかもしれない】

【運営は超有名アイドルにだけ不利な状況を与えているのか?】

【もしかすると、超有名アイドルの持っているARプレート自体に仕掛けがあるのかもしれない】

【ノートゥングのランクは…!?】

タイムラインでは、ひっつの疑問が浮上していた。超有名アイドルが所持しているARプレートに何らかの仕掛けがあるのでは…と言う事実である。そして、ある1人のつぶやきが仕掛けを発見するきっかけとなった。

【このマッチングは通常では成立しないはずのマッチングだ】

【超有名アイドルメンバーのランクはFランク、ノートゥングはCランクだ。ランクが2つ以上離れている場合は不成立もあるはずなのに…】

【この辺りのマッチングルールは八百長や談合マッチ防止の為に作成された物。つまり…?】

【超有名アイドル側が不正なARプレートを持っていると言う事か?】

【ARプレート自体、不正改造等は不可能な構造になっているはず】

【世の中には絶対という物はない。何らかのハッキングプログラムでデータを改ざんしたのだろう】

【そして、その疑惑がかけられているメンバーは復帰なしになっている…と言う事か】

【運営も超有名アイドルを泳がせて、その辺りの証拠を掴もうと考えているのかもしれない】

【ハッキングプログラムは、どうやって作ったのか?】

【おそらくは、超有名アイドルお得意の《無尽蔵の資金》だろうな。金に糸目をつけないやり方は、相変わらずだ】

そして、試合の結果よりも超有名アイドルの無尽蔵とも言える資金力に対するタイムラインがしばらくは続いた。


###


同日午前12時30分、一人の男性が北千住でアーカイヴと遭遇した。アーカイヴは名前も聞くのを忘れたアンノウンを追跡していたのだが…偶然にも彼に会う事に成功した。

「あなたが、最後の一つを持った―」

アーカイヴの言葉の切り出しにふと思う所があった彼が取った行動は、ある意味でも予想外の物だった。

「悪いが、他を当たってくれないか?」

アンノウンは何かを悟られるのを恐れ、一言だけを残して姿を消した。もしかして当たりの可能性を考えたアーカイヴは、彼を追跡する事にした。当然の事ながら、竹ノ塚から北千住までアーカイヴは黒マントを封印して移動している。


「あれは確か―」

1人の背広を着たサラリーマンのような人物が、スマートフォンを取り出してアンノウンの逃げたと思われる方角を向く。

「我々が追っていると思われるアンノウンを発見。北千住駅を出て、西の方へ向かっている模様―」

『了解した。引き続き、警戒の方を頼む。くれぐれも、キサラギのエージェントに発見される事のないように行動してくれ』

そして、何者かと連絡を取った後に電話を切った。しかし、その彼も予想外の人物に発見される事になる。

「特徴的な背広を着ていたのが仇になったようね。超有名アイドルのファンクラブ残党―エインフェリア!」

予想外とも言える人物の正体、それは瀬川だったのである。そして、瀬川は北千住駅の西にあるARデュエルフィールドまでエインフェリアの構成員を来るように指示を出す。

「よりにもよって―」

構成員は瀬川の要求を拒否して逃走を続ける。その一方で援軍要請もするが…。

『現状でエインフェリアが事を起こせば、確実に超有名アイドルへのバッシングが加速し、日本のアイドルはゲームやアニメにおける2次元アイドルのみになってしまう。何とか対処して欲しい』

援軍要請は拒否され、更には1人で何とかして欲しいとも受け取れる発言。そして、構成員が逃げた先は…。

「ここは、アカシックレコードサーガのフィールド…?」

瀬川がARデュエルとは異なるフィールドを見て少し戸惑っていた。

「ARデュエルではランクの関係上で対戦不可になる。こちらならば、お前のランクとこちらのランクに大差が付く事はない―」

構成員の方はカバンからビームガン型ARウェポンを取り出す。

「対戦が出来ないなら、そう言ってくれれば何とかしたのに」

何か思う所がありつつも、瀬川は着ていた上着を脱ぎ、カバンからARブレスを取り出して右腕に装着する。スーツの方は上着の下に着こんでいた為に問題はないようだ。

「まさか、お前もアカシックレコードサーガのプレイヤーだったのか?」

構成員は更に別のARウェポンを取り出して戦闘準備をするが、瀬川の方は既に準備完了と言う状態だった事に驚いている。

「知らなかったの? 私はアカシックレコードサーガのヘビープレイヤーの一人よ。それに、あなたたちのような拝金主義を第一として他者を切り捨てるような存在は、許せないの―」

瀬川の一言を聞いても構成員は疑問も反論もしなかった。やはり、末端の構成員は切り捨てられる宿命だろうか?


「1対1のソロバトルもあるが、ここは助太刀をさせていただこうか」

瀬川の相方となったのは、大型のバスターキャノンを持った1人の男性だった。瀬川は、彼の顔とARスーツのデザインを見て、即座にアンノウンだと分かった。

「よりにもよって、向こうにはアンノウンがいるのか!?」

構成員の方は、予想外とも言える助っ人に驚かずにはいられない。そして、彼の相方は何とラクシュミの現メンバーだったのである。

「丁度いい、改良したばかりのARウェポン《アークエンジェル》の試運転と行こうか」

どうやら、彼が噂になっていた4つ目となるARウェポンの適格者らしい。


同日午前12時40分、アーカイヴは別の場所で黒マントを装備し、いつものアーカイヴに戻った。そして、アンノウンを見失ったポイントに到着する。

「これは…どういう事だ?」

彼自身も、何が起こったのか…と言う表情で到着したエリアの様子を見る。既に試合の方は終わっていて、アンノウンが勝利している。相方は、何と瀬川である。

「君がアーカイヴか―」

黒マントの姿を見て、アンノウンは即座にアーカイヴと分かった。声を聞く限りでは、先程の人物が…という認識だが、色々な事情もあってタイミングを待っていたらしい。

「超有名アイドルも遂に動き出したようだ。そして、4つのアカシックレコードへアクセス可能なARウェポンも揃った―」

アンノウンがアカシックレコードへアクセス可能と言ったのは間違いない。そして、更に彼の口からは意外な言葉が…。

「何故、その単語を知っている?」

アンノウンの一言で、アーカイヴは起動しないヴァーミリオンを彼に向けた。ヴァーミリオン事態は起動しない為、これがフェイクである事は向こうも分かっているようだが―。


###


同日午後2時、梅島にある芸能事務所ビル―エインフェリアの本部では、緊急対策会議が再び行われていた。

「今回も別の5グループが襲撃を受けている。これ以上は、警察を動員して警備を強化してもらう事も視野に入れなければならないだろう―」

コアラの着ぐるみをした人物が議長席で演説をしている。今回もアーカイヴではないが、別の人物によって超有名アイドルが次々と襲撃されている事が議題にあがっていた。

「警察とは大げさすぎる。下手をすれば、我々の方が壊滅に追い込まれる可能性が高い」

「勝負の世界である以上は勝ち負けがはっきりと付く。負けてばかりという状況で警察を呼ぶと言うのは、ある意味で八つ当たりと思われるだろう」

「あの状況を妨害と考えるのであれば、もっと別の案を取り入れるように芸能事務所に進言するのが筋ではないか?」

「我々とて、表向きの目的も忘れてはいけない。3次元アイドル復権、こちらが遅れているようでは虎の覆面が何を言い出すか分からないぞ」

他の覆面をした人物や着ぐるみをした人物からは、警察を動員するのは逆効果だという意見が半数以上を占めていた。

「確かに、勝負の世界である以上は白黒をはっきりつける必要がある。しかし、我々が必要なのは敗北ではない。勝利だけだ!」

「どんな手を使おうとも、超有名アイドルは永久不滅である事をアピールし、絶対的な力を見せつけて他のコンテンツよりも超有名アイドルに資金を回させる事が重要。世界に存在する全ての金は超有名アイドルが独占すべきなのだ!」

「そして、超有名アイドルによる日本制圧を完璧な物にしなくてはいけない。超有名アイドルとキサラギの争いは最初からなかった。それは幻想であり、妄想に過ぎない事を全ての人間に思い知らせる必要性がある」

今回は別の人物による襲撃もなく、コアラの着ぐるみをした人物は会議室を後にした。そして、司会進行をしていたサラブレットの覆面が他の人物に意見はないかを尋ねる。

「予想通りだが、ああいう政治家と裏取引しているような人物には退場してもらうしか―」

「超有名アイドルに全ての金を集中させ、更には税収で日本政府にも大量の資金が回ると考えているのだろう」

「そう簡単に物事が運ぶとは考えにくい。セラフィムのような人物もエインフェリアにとっては邪魔な存在だが、ああいった『アイドルが売れれば、他がどうなっても関係ない』的な古い考え方を繰り返す人物も必要はない」

「これでは、現代世界と同じ事の繰り返しになるだろう」

「超有名アイドルと政治家が深く関係しているのは、どの世界でも同じか―」

緊急対策会議も終わり、会議の方も通常議題の方へ移る事に。


「次の議題は、ここ最近になって盛り上がっているアイドルについてです。こちらをご覧ください」

サラブレットの覆面がホワイトボードに写した映像、それはアイドルのステージなのだが…?

「見た事のないアイドルだ。動画で最近伸びていると言う話は聞くが―」

「今回のアイドルと超有名アイドルは関係があるのだろうか?」

「以前に出没した怪盗クリスタルグラスはコスプレアイドルと言う事だったが、こちらはどのようなアイドルなのか」

出席者からは質問等が多数投げられている。動画サイトの方で中継を見ているユーザーも…。

【まさか、このアイドルが議題に上がるとは―】

【こちらの方は超有名アイドルとは無縁の存在。芸能事務所にも属していない架空アイドルに近いと思う】

【エインフェリアは、架空の2次元アイドルも警戒しているのか?】

【あれは確かARアイドルだ。AR映像で作られたアイドルで、現在は試作段階と聞いている】

【ARアイドルも超有名アイドルのターゲットになっているのか?】

ネット住民の方は、ホワイトボードに映し出された映像がARアイドルと分かっているようだ。一方で、会議の出席者はARアイドルが分かる人物が少ないらしい。

「このアイドルはARアイドルと呼ばれ、声は合成ソフト等を使い、モデルは自作のCGソフトで作成された物で、2.5次元アイドル等とネット上では話題になっております―」

何時もの事だが、議題が自分達に関係ない物だと分かると会議室は沈黙ムードになる。唯一の音があるとすれば、書記が議事録を作る際にパソコンのキーボードから音がする位である。

「彼女達の存在は、いずれ超有名アイドルを脅かす物になるでしょう。超有名アイドル規制法案は3次元のアイドルにのみ適用され、今回のような2.5次元には適用されません。これが意味する物は分からないと言う訳では―」

サラブレットの覆面が力説をするが、メモを取って聞いているのは数名のみで、他は超有名アイドル関係の書類を作ったり、関連グッズをオークションに出品したり等…聞いているような姿勢を見せる者は少ない。


同日午後3時、秋葉原では怪盗クリスタルグラスが再び現れたと話題になっていた。相手は、ノートゥングである。


《怪盗クリスタルグラス カノンA VSノートゥング フェンリル》


組み合わせは、クリスタルグラスが超有名アイドルの現メンバーでリーダーと組み、ノートゥングは同じランクのランカーであるフェンリルと組む事になった。コストは、クリスタルグラス側が5000と5000に対し、ノートゥングは4000と4000である。

「ノートゥングのコストが上がってる。確か、フェンリルも少し前の試合では3500だった気がするが…」

「ノートゥングは10試合で3000から4000へ一気に上がっているのか。アカシックバースト所有者が軒並み5000に近いポジションにいるのは、どういう意図なのか?」

「既にアーカイヴは5000に到達しているが、ヴァーミリオンが使用不可と言う事もあって4000までコストダウンしている。やはり、この辺りはプレイヤーの装備品やランクでコストが上下すると考えるのがいいだろう」

「勝つとすれば、明らかにノートゥング側が有利と判断出来る。しかし、相手はアカシックバースト持ち以外で数少ないコスト5000の怪盗クリスタルグラスと言うのも気になる」

「超有名アイドルのコスト5000は監視目的と言うのもあるが、クリスタルグラスのコスト5000は本物だ」

「どちらが勝ってもおかしくはない―」

周囲のギャラリーはノートゥング側が有利と考える一方で、クリスタルグラスがいる事も考えると…と言う意見が多かった。


しかし、このバトルの結果は思いがけないような結果が待っていた。

【処刑用BGMの用意だ!】

【そんなバカな…。アカシックバーストを使用可能なARウェポンが他にもあったのか?】

【フェンリルも決して弱い訳ではないのに、ああもあっさりとやられるなんて―】

【カノンのリーダーは哀れとしか言いようがない】

試合の展開は1回目は2対2で進行し、ノートゥングとフェンリルタッグが勝利した。しかし、これを不服としたカノンのリーダーが再乱入と言う事態になった。


《ラクシュミE カノンA VSノートゥング 怪盗クリスタルグラス》


【ちょっと待ってほしい。これは2対2のはずだよな。どうして、いつの間にか3対1みたいな構図になっているんだ?】

【超有名アイドルに対して、ノートゥング、クリスタルグラス、フェンリルが戦うという構図か】

【フェンリルは次のバトルでは別のマッチングで組まれている。このエリアでは別のランダムマッチングシステムが組まれているようだ】

そして、気が付いてみればフェンリルが途中で離脱し、超有名アイドルのカノンが同じ超有名アイドルのラクシュミと組み、ノートゥングはクリスタルグラスと組むと言う事態になっていた。


###


《遂に、想定外の事が起こってしまった》


《ラクシュミやグループ50をはじめとした超有名アイドルのメンバーが、初参戦のプレイヤーばかりとマッチングを繰り返す事になった》


《これに対し、運営側は『意図しないマッチングが繰り返された場合は、マッチングシステムの改善を含めたバージョンアップを行う』事をホームページで発表した》


《ネット上では超有名いアイドルが初心者狩りをしていると言う噂が広まり、遂には新規プレイヤーの増加が一時ストップする騒ぎにもなっている》


《先行稼働時には初心者狩りや談合マッチング等の不正行為に対しての対策が行われていたが、超有名アイドルがリーダーの座をかけたバトルを行う場として使用するとは予想外だったとしか言えない》


《理由の一つとして、超有名アイドル規制法案等の関係で投票券を同封したCDを売る事自体が禁止された事にあるだろう》


《これによって、CDが5000万枚も売れたと言う話を聞く。他の世界では、これらの行為が社会的問題になり、詐欺事件等にも発展、遂にはテロ未遂まで起こる騒ぎとなった》


《今、ARゲームの周囲では超有名アイドルによる市場侵略が行われようとしているのかもしれない》


同日午後6時30分、西雲は自宅でネットにアップされているノートゥングの動画を見てふと思った。

「超有名アイドルの手段を選ばないような露骨な宣伝手段、更にはサイト炎上さえもビジネスに変える炎上ブログやアフィリエイトサイトの存在、更には第4勢力…。日本のコンテンツ業界は最大の危機を迎えるのかもしれない」

超有名アイドルの存在は日本のコンテンツ業界を震撼させる存在である。更に言えば、彼らのやり方は下手をすれば『超有名アイドル以外のコンテンツを全て消滅させる』的な色眼鏡で見られる事は間違いない。それが意味する物は海外コンテンツに吸収される末路の可能性も否定できない。

「エクシアがアカシックレコードにアクセスできる事の意味―」

西雲は改めて考えた。アカシックレコードのまとめサイト等が存在する現状で、アカシックレコード自体にアクセスが可能なARウェポンを持った事の意味を…。


同日午後7時、突如として現れた第4のARウェポンを持った人物がアークエンジェルと言う名前と言う事が判明した。ただし、これは本名ではない。アカシックレコードサーガ自体、本名で登録するようなプレイヤーは皆無である。この辺りは、プライバシー等も考慮されているかもしれない。

「アークエンジェルだけではない。アカシックバーストとは違うが、疑似的に似たような現象を再現したARウェポンもあるらしい」

「怪盗クリスタルグラスの持っていた蛇腹剣だな。彼女はクリスタルブレイカーと言っていたが、本来のクリスタルブレイカーはガンブレードのはず」

「それ以外にもガンブレード型と魔法のステッキ型という2種類もあるらしい。噂レベルでしか過ぎないのが、非常に気になる」

「どちらにしても、超有名アイドルが介入しただけではなく、アカシックレコードサーガのプレイヤーの中にも波乱を呼ぶような存在がいるのか」

「彼らは『超有名アイドル商法の根絶』を掲げているようだが…」

西新井のアンテナショップでは、アカシックレコードサーガのナイター中継を見ながらチョコ焼きというたこ焼きを思わせるデザートを食べる男性客がいた。

「『超有名アイドル商法の根絶』をした所で、日本のコンテンツ産業が変わる訳じゃない。超有名アイドル以外のコンテンツを完全排除しようと考えているエインフェリア、超有名アイドルを排除して別のコンテンツを新リーダーに据えようと考えている反乱軍―」

2人が話している輪の中に入って来たのは、意外な事に瀬川だった。

「瀬川春香か…。彼らの狙いは、何だと思う?」

背広を着てコーヒーを飲みほした一人の男性は、瀬川に質問をした。

「アカシックレコードサーガを単純に盛り上げる為と言う訳でもない。盛り上げるだけだったら、上位ランカーの存在、運営の迅速なバージョンアップ等もある。もっと、別の理由だと思う」

瀬川は立ち話も…と言う事で、彼ら2人の合席で食事を取る事にした。

「ご注文はお決まりですか?」

「コーヒーと、中華春雨サンド、チョコ焼き、ショートサイズピザをお願い」


同日午後8時、竹ノ塚のアンテナショップではアーカイヴとバンダナの男性が何かを受け渡していた。

「アークエンジェルに会ったのか?」

バンダナの男性がアーカイヴに答えを尋ねるが、その答えが返ってくる気配はない。

「これでヴァーミリオンのアカシックバーストは安定するはずだ。残る1つ、エクシアにも使用する事は可能だが―」

彼がアーカイヴに渡した物、それは1枚の増設用メモリーカードだった。渡されたのは2枚、どうやらエクシア用も作っていたらしい。

「超有名アイドルがやろうとしている事は、人に夢を与えるような計画ではない。あれは―」

アーカイヴを何とか思いとどまらせようと彼も説得するが、アーカイヴの考えが変わる事はなかった。


同日午後8時30分、クリスタルグラスことリニア=ゼロは自宅に戻ってシャワーを浴びた。その後、パソコンの前でデータを収集していたのだが…。

「これは、もしかすると―」

彼女が見ていたのはニュースサイトの記事である。タイトルには、このように書かれていた。


【グループ50等の超有名アイドルが同盟を結ぶ】

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