アイドル神話の崩壊―COLLAPSE OF A IDOLMYTH―
※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、この作品におけるフィクション扱いでお願いします。
※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。
※小説家になろうへ移植する際に一部セリフを変更している個所があります。
西暦2014年5月30日の事である。突然、数年前に流行したコピペがつぶやきサイトに登場すると言う現象が起きた。
【超有名アイドルの芸能事務所による全ての掌握。政治、経済、産業…ありとあらゆる物に超有名アイドルとコラボし、それ以外のコンテンツを全て消滅させると言う展開があった】
前文は、このような始まり方になっている。しかし、その後の文章は似たような物もあるが、全く違う物も存在した。その一例として…。
【超有名アイドルの命令は絶対で、逆らった者は物理的に消される】
【超有名アイドルの命令は絶対で、逆らった者は社会的に消される】
この辺りは似たような事例だろうか。しかし、内容としては恐ろしい物を感じさせる。
【次第に超有名アイドル○○が愛用した□□のようなグッズしか売れない法律が作られる。もしも、それに違反した場合は社会的に消される】
【超有名アイドル以外とタイアップした企業は、超有名アイドルを有する芸能事務所と吸収合併される。最終的には、超有名アイドルの芸能事務所以外の会社が存在しない日本になる】
これは事例こそ違うが、内容としては同じような事を行っているような例である。
【超有名アイドルのおかげで、会社の売り上げが1年で1000兆円上がった】
【CDチャートで年間売上トップ100を超有名アイドルが独占。更に、トップ200までが同じアーティスト】
【FMラジオのカウントダウン系番組は、超有名アイドルのスポンサー番組と同意義】
【超有名アイドルに便乗した商法をしないと会社が倒産する確率が100%と同じ。あるいは、社会的に消される】
【超有名アイドルの出ている番組では、超有名アイドルの意見が絶対となるらしい。例え、その行為がグレーゾーンであっても】
ここまで来ると…。実際、このような事があったのかは確認する手段がないのがネックである。
【超有名アイドルのグッズ転売で1京円も!】
【迷惑メールで『CDチャートで1位にする為に購入した、特典なしの超有名アイドルのCD転売をしませんか? 日給1億円以上は保証します』と言う物が来た】
実際、この事例でもあるような転売屋や振り込め詐欺に関与した人物が大量に逮捕され、そのバックには元暴走族や大規模な悪の組織が絡んでいた事実が発覚している。
【有名では駄目なんですか? 超有名アイドルではないと存在してはいけないのですか?】
遂には、ある政治家の名言までもが…。
【結局、超有名アイドルのCDを買う為だけに犯罪に手を染めたと言う転売屋等が一斉摘発された結果が、超有名アイドルが絶対悪と言われるようになった理由である。そして、この世界でも同じ事は起こった】
【繰り返される超有名アイドルをめぐる黒い噂、悲しみの連鎖、破滅へのカウントダウンは終わらないのか? この世界でも、現実世界でも…】
【そして、超有名アイドルが全てを創造する神のように扱われている現状、それがキサラギのような存在を生み出したのかもしれない】
これらの一言は、当時にアカシックレコードが閲覧できた事を裏付けるような文章である。
この時代のネットでは、アカシックレコードは封印されていたのである。正確に言えば、数年前に閲覧できていたサイトが突然の移転宣言後、移転先のアドレスをクリックしても…。
【404エラー】
これが表示され、内容を見る事が出来ないのである。一説によると、超有名アイドルが該当するサーバーを差し押さえた、海外に移転した等の説があるが、真相は定かではない。
そして、時は流れて西暦2014年7月2日、突如としてアカシックレコードサイトが新規オープンをしたのである。
5月30日の一件は伏線だったのか、それとも…?
《我々は警告する。十人十色のアイドル像があり、それを統一する事は事実上の不可能に近い―》
《しかし、世の中を動かすのは『金の力』ではない。それを理解出来ない芸能事務所はアイドルをプロデュースする資格はない》
《このメッセージはアカシックレコードの中でのみ効果を発揮し、現実世界へ及ばない事を我々は願うばかりである》
《我が名はキサラギ…》
《超有名アイドルによって変わり果ててしまった世界を破壊し、新たなる産業の再生を願う者―》
キサラギ、この単語はいつしか超有名アイドルに侵略された世界を破壊し、新たな世界へと再生させる為に存在する存在とまで言われるようになる。
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シーン3:北千住駅ビル内・ARゲームアンテナショップ近辺
西暦2014年7月2日午前10時、秋葉原・アンテナショップ内。
「遂に始まるのか―」
「楽しみだな、新しいARゲーム…」
「以前の発表会後にプレイ出来たものはオープンβバージョンだったと聞いている。本格的にプレイ可能になったエリアが増えたのは、7月に入った辺りからだ」
アンテナショップの店内に設置された中継用モニターを見て、ギャラリーが話をしているように見える。
「確かに6月は秋葉原や東京23区の一部、埼玉、千葉、神奈川、群馬、栃木、茨城等の関東地方限定だった。7月からは関東以外でもプレイが可能になっている。先行稼働のような物と思えば良いかもしれない」
「全てのARゲームがプレイ可能とまではいかないが、日本全土で3作品はARゲームがプレイ出来るようになったみたいだな」
「ARゲームを設置するにも警察に場所の申請後、許可を得なくてはいけない。交通量の多い場所ではARデュエルは置けず、住宅街ではARミュージック等の音ゲーは置けないという感じか」
ARゲームに関しては警察に申請し、事前に設置許可を得る事が前提となっている。これは、ゲーセンや市町村単位で共同購入した場合、個人が購入した場合に関係なしで必須である。無許可設置は警察に警告を受ける場合があり、最悪のケースでは逮捕される事も…。
「どちらにしても、こうして警察もARゲームには一定の理解をしている。しかし、その理解をせずに暴走している存在も一部で目撃されているのは事実か」
しかし、どのジャンルでも言われている事だが、暴走した一部のプレイヤーが起こしている行為がピックアップされ、ARゲームの設置に反対すると言う団体が出来る程、ARゲームが社会問題にも発展している場所があるのは事実だった。まるで、ギャンブル関係の施設建設等に反対するデモ運動を見ているようでもある。
同日午前10時10分、北千住駅では新装開店したARゲーム専門のアンテナショップ目当てに大勢の見物客で駅が混雑をしていたのである。その混雑の様子は、平日の通勤ラッシュにも匹敵する。
【開店時に入場制限がかかってる。現在はショップで商品購入や事前にネットで商品を予約していた人が受け取りをするケース限定になっているらしい】
【それほど人が入っているようには見えないが、500人近くは店内にいると考えられるが?】
【ARゲームもいくつかプレイが可能、足立区内では最大規模の店舗面積だからな―】
【まだ入場してもおかしくはないように見えるが、何故に入場制限?】
【店舗は広いが、ARゲーム関連のプレイコーナーやARスーツの試着、その他のブースである程度のスペースが必要になるからだろう。スーパーやデパートの新装開店とは理由が違う】
【客層は20代~30代、稀に40代以上と言う気配だろうか? 学生の姿は見られない】
【まさか、ARグッズ以外にも色々とフードコーナーもある。平日で混雑しているのは、この為か?】
【フードコーナーは順番待ちが発生している。もしかすると、入場制限はフードコーナー向けかもしれない】
つぶやきサイトではARアンテナショップの内部を実況している為か、ネットでも大盛況となっている。
「フードコーナー以外ならば若干の入場は可能ですか?」
一般客の男性がスタッフに話しかけるが…。
「入場制限自体は11時で解除しますので、もうしばらくお待ちいただければ入場する事は可能です」
スタッフの1名は男性客の質問に、こう答えた。
同日午前10時30分、秋葉原駅近くにある規模の若干大きいアンテナショップ入口付近。
「予想通りだな。北千住にオープンした方は、初日でもかなり混雑している」
ネット上のつぶやきサイトのタイムラインを見ていた空野輝は秋葉原へプライベートな理由で来ていたのだが、北千住のアンテナショップへは少し行きたかったような気配がする。
「頼まれていたデータです。それにしても、アカシックレコードのログなんて何に―」
黒い背広を着たシマウマの覆面をした人物が、空野のARブレスに依頼されていたデータを転送する。ARブレス同士では、赤外線通信等でデータのやり取りも容易となっており、DVDを手渡すよりも機密性が高い情報も交換出来る。
「こちらとしても重要な出来事が起きたからな。今日の朝にネットで流れたニュース、知らない訳ではないだろう?」
「アカシックレコードサイトがオープンした一件ですか?」
「ああ。こちらとしても、若干急がないといけない事情がある―」
2人がやり取りをしている間に、ファイルの転送作業が終了した。そして…。
「特に違法ファイルが混ざっている形跡はないようだな―」
空野がデータのチェッカーを作動させ、違法ファイルがないか確認する。余談だが、ARブレス同士で違法ファイルの交換に運用しようとすれば、データログを即座に解析して24時間以内に警告すると言うシステムになっている。下手をすれば、警察の御用となる可能性も否定できない。
「そんな物を持ち出せば、こちらも命が危ない。向こうはテロ等に関しては一切行わないと言っている。しかし…」
シマウマの覆面が顔には出さないが慌てている様子である。声を聞けば、すぐに分かる気配もする。
「あなたには一応感謝はしている。今回のアカシックレコードの事に関しても教えてくれた恩もある―」
空野が他の事を切りだそうとしたが、シマウマの覆面はそれを止めた。そして、何も言わないままにシマウマの覆面はアンテナショップを後にした。
「次に向かうべきは―」
シマウマの覆面を外し、彼は秋葉原から別の駅へと向かった。果たして、彼は何処へ向かおうと言うのか…?
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同日午前11時、虎の覆面が不在の梅島にある芸能事務所が入った某ビルでは…。
「―我々の実行する事は決まっている! 今こそ、超有名アイドルによる日本侵略を行うべきである」
ヒグマの着ぐるみをした人物が議長席に座り、他の着ぐるみをした参加者に対して演説を行っている。
「日本侵略とは大きく出ましたが、失敗をすれば多くの資金を失う事になります。無限の資金を持っていると言っても限界があるのは事実―」
サラブレッドの覆面をした人物が、ヒグマに対して意見を述べる。彼は、芸能事務所が無限の利益を得ていると言っても限界があり、それが尽きた時には文字通りの破産宣言をしなくてはならない。以前に超有名アイドルとキサラギの争いで大敗した時には多くの資金を失った…と。
「カラオケや音楽ゲーム等での楽曲使用料、その他の印税各種だけでも1カ月で10兆円規模、最大で100兆円を稼ぐ事も可能ですが、それもカラクリを見破られてしまえば、一気に事務所への収入が減る事にもなる。迂闊に日本侵略と言う手段に出るのは止めておいた方がいい」
サラブレットの覆面に続いたのは皇帝ペンギンの覆面をした人物だった。彼は何かを知っているような口ぶりで話したためか、ヒグマの覆面を怒らせてしまったようにも見える。
「しかし、現在の資金でも日本侵略は可能だ。既に超有名アイドルが国会進出する為の用意も出来ている。超有名アイドルが日本の全てを動かす存在となる…それこそ、かつて虎の覆面が掲げた唯一神としての超有名アイドルであるのは―」
ヒグマが力説している途中で、彼は突然ライフル銃で撃たれたのである。撃たれたヒグマの着ぐるみをした人物はその場で倒れ、担架で運ばれる事になった。
「貴様、まさかキサラギの刺客か?」
「会議を混乱させるのが連中の目的なのか! そうはさせない」
玩具のライフル銃を持っていたのは皇帝ペンギンの覆面をした人物だった。そして、彼は周囲を他の構成員に囲まれて逃げ場がないと言う状態になった。
「何か勘違いをしているようですね。彼は死んでいませんよ。ただ、少しの間だけ退席をしてもらう…それだけです」
どうやら、撃たれたと言ってもスタンガンの部類と言う事でヒグマの着ぐるみをした人物は気絶をしているだけのようだ。皇帝ペンギンの覆面の話を聞き、周囲を取り囲んでいた構成員は自分の持ち場に戻る。
「そして、日本侵略という方法では、何時まで経ってもキサラギに勝てるはずはない。キサラギの影響を受ける事のない、全く別の手段でアイドルを復権する方が先だ」
そして、皇帝ペンギンは予告なく覆面を外す。その顔を見た周囲は衝撃のあまりに言葉を失った。更には、議事録をパソコンで打ち込んでいた書記担当の人物もキーボードを打つ手が止まった。ネットで会議の中継を見ていたエインフェリアの構成員もコメントを打とうと考えていた手が止まった。それ位に、彼の行動はルール破りとも言える物だったのである。
「お前はエインフェリアと何だと思っている?」
「覆面や着ぐるみ、コスプレ等はお互いの正体を隠す為の手段。それを分かって正体を見せるのか?」
「貴様はキサラギ側のスパイか!?」
周囲からはヤジにも似た声が上がる。それ以外にも、エインフェリアのルールを破るような行動に出た彼に対して避難の声も出ている。
「私は虎の覆面による客人でしか過ぎない。彼からの伝言で、制約に関しても無視してかまわないと許可を得ている」
皇帝ペンギンの覆面をした人物の正体は、何とセラフィムだったのである。何故、彼がエインフェリアの会議に参加していたのか―それは謎が残る。
「改めて聞こう。君が考えるアイドル復権とは一体何だ? 拝金主義や信者的な物を利用した無限の利益を得るシステムを超える物か?」
サラブレットの覆面がセラフィムに対し、回答を求める。そして、彼は持っていたカバンから1冊のパンフレットを取り出した。そのパンフレットを見たネットユーザーは、それが何であるかを把握していた。
「復権させるヒントは、これだ!」
【本気なのか!?】
【超有名アイドルなんてどうでもいいと思っているに違いない】
【どういう事だ?】
【茶番過ぎる】
【スパイのあぶり出しと思ったら、違っていた件について】
ネットで中継を見ていたエインフェリア構成員、同じ中継を視聴していたユーザーはセラフィムが何を行うか分かっていた。そして、コメントに打ち込む。そのコメントは即座に中継に反映された。
「まさか、本気か?」
ネットの方で書かれていたコメントをスマートフォンで間接的に見たサラブレットの覆面がセラフィムに問う。
「向こうの方が君達よりも理解が早いようで助かる。私は、アカシックレコードサーガを使い、アイドル復権を狙う! そう言う事だ―」
そして、セラフィムは皇帝ペンギンの覆面を被り直し、会議室を後にした。
「覚えておくがいい。いずれ、拝金主義や信者、一部のファンに頼った戦略は意味をなさなくなるだろう。市民の心を掴むようなアイドルは、3次元には存在しない時代が来る。そうなってからでは、アイドル復権は不可能になるだろう」
去り際にセラフィムは何かを言い残した。これは一体何なのか…。疑問に残りつつも、会議は別の議題に入った。
「では、次の議題に入ります。ここ数日、超有名アイドルの評判を更に落とそうという目的を持ったテロリスト集団が横行しております―」
サラブレットの覆面が、次の議題を読み上げ、ホワイトボードに1枚の写真を表示させた。そこには、黒いマントにフード姿と言う何者かにそっくりな人物の姿があった。
「彼の目的は不明ですが、既にグループ50をはじめとしていくつかのアイドルグループが被害を受けています。そして、それに共通しているのは―」
そして、サラブレットの覆面が次に資料を表示させようとした所で手が止まった。スタッフからは画像を出すようにという指示があるのだが、それを若干躊躇しているようにも見える。
「共通している点とは?」
「早く続きをお願いしたいのだが!?」
コアラの着ぐるみとクジャクの覆面をした背広の人物が次へ進めるようにと催促をする。
「皆さんも、先程のセラフィムに関しては覚えていますでしょうか? それが、こちらです」
サラブレットの覆面は、若干声が震えた状態で次の画像を表示させた。それは何とセラフィムが数分前に見せたアカシックレコードサーガのパンフレットだったのである。
「そう言う事だったのか」
「奴め、何を隠していると言うのだ?」
「あのセラフィムを放置するのは危険だ。いつ、裏切るともしれない人物を虎の覆面が放置する理由が分からない」
「超有名アイドルの唯一神神話を崩壊させかねないような行動を起こすような人物を、エインフェリアから追い出すべきだ」
「無限の利益を生む超有名アイドル以外の存在を許容するような彼の行動は、いずれ計画の妨げになる!」
周囲からは、動揺の声が聞こえた。それだけではなく、中には虎の覆面に関しての不信感を持つような発言もあった。
「お静かに願います。虎の覆面に関して不信感を抱く事は、組織全体の団結力を崩壊させる事にもなりかねません。ここは、抑えて―」
サラブレットの覆面が周囲に対して動揺を抑えるように指示をする。
会議の方はお昼前に一時休憩となった。会議では、グループ50及び他の超有名アイドルが例のテロリスト疑惑を持つプレイヤーとマッチングしないように運営へ意見を出すと言う流れにもなったが…。
【何処か一方が有利になるようなシステムの変更は認められない】
マニュアルにも書かれている、この注意書きの影響で意見を送る事も不可能になっていた。
「いっそのこと、あの人物の疲労が限界になった時に乱入すれば良い事。システムの変更が認められないのであれば―」
会議室を出たコアラの着ぐるみは何かを考えているようでもあった。
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同刻、北千住のアンテナショップでは10時からかかっていた入場制限が解除され、行列を作っていたお客が入場を開始していた。
「大きな混乱もなく、落ち着いているようにも見える」
「混乱を起こせば、超有名アイドルファンと言う風に見られる事を恐れているのだろう。少し前にネット上で超有名アイドルファンによる書き込みがニュースになっていたが…」
「アイドルファンでもないのにアイドルファンと見られてしまうのが嫌なのか、他のアイドルファンが同じように扱われるのが嫌なのか、両方なのか…」
「両方あるかもしれないな。この話はアイドルに限った物ではないのかもしれないが」
お客がスタッフの指示を聞いて動いているのを見て、行列に並んだ客からはこんな事も聞かれた。
【ARグッズの新作ならば、秋葉原の店舗にも売っている。今ならば、北千住よりは入手可能の割合が多い】
【地方ショップ限定アイテムはないのか?】
【ご当地アイテムと言うのはあるかもしれないが、ショップ限定は置いていないようだ。通信販売も可能と言うのも理由の一つかもしれないが…】
【ならば、品切れの心配はないと言う事か】
【ダウンロード系アイテムならば品切れの心配はないだろう。それ以外は話が別になるだろう】
ネット上でも、北千住のアンテナショップで買うべきか他のショップで買うべきかと言う相談も寄せられているようだ。
「さて、そろそろだな―」
ある男性はショップ内にあるARゲームの観戦用モニターを見ていた。そして、そこではさまざまなARゲームの実況中継や動画配信等が行われている。
『本日のメインイベントは、これだ!』
モニターに映っているアナウンサーが叫ぶ。そして、オープンになった別画面を見ると、そこには一つ離れた南千住駅で行われているアカシックレコードサーガのバトル映像が映っていた。
「あれは、まさかジークフリートか?」
「先行稼働初日の無傷で10連勝とか凄すぎだな。その後はバランス調整の影響を受けたようにも見える」
「しかし、今回は既に倒されているようだ。誰が彼を撃破したのか?」
「1人は聞いた事のない名前のプレイヤーだ。ランクを見ると新人ではないようだが…」
中継映像を見た観客が驚く。中には余りの光景に開いた口が塞がらない…と言う人物もいた。正式稼働初日で無双とも取れる活躍を見せたジークフリートも、今回は相手が悪かったらしく敗退と言う結果になっている。
「どうやら、あの人物らしいな―」
倒れたジークフリートの前にいるのは、何と予想外とも言える人物だったのである。
同日午前11時20分、南千住駅の近くにあるバトルステージでは次の対戦が始まろうとしていた。
《西雲七海 オーディーンVSグループ50A グループ50D》
オーディーンは別のグループで対戦した空野輝を破ったプレイヤーで、北欧神話を思わせるデザインをしたアーマーを装備した謎の多い人物…その本名等は一切不明である。
「また同じグループ50か。正式稼働で、このような現役アイドルも参戦するようになったのか?」
オーディーンは西雲七海に質問した。しかし、西雲が答えるような気配はない。
(超有名アイドルは、このエクシアを求めている。もしも、ネットで噂されているアカシックレコードが本当にあるとすれば―)
西雲にオーディーンの言葉は耳に入っておらず、逆に彼女はARウェポン《エクシア》に不安を感じていた。
2つ前のバトルで、西雲はジークフリートと対戦した。稼働当初は1000コストという扱いをされていた彼も、マッチング調整等を兼ねたバージョンアップでは2500まで上昇している。
「パートナーはいないと同じ。エキシビションと同じ結果だけには―」
ジークフリートのパートナーはグループ50という超有名アイドルグループの候補生。事務所方針かどうかは不明だが、アカシックレコードサーガで優秀な成績を収めた人物をレギュラーにすると公式ホームページで発表したのである。
【何と言うジョーカーを持ってきたんだ!?】
【超有名アイドルが、遂に地球侵略に動きだした】
【これを誰か止められる人物はいないのか?】
【アカシックレコードサーガも超有名アイドルに侵略されるのか?】
【あの芸能事務所は、どれだけの資金力があると言うのだ。無限に近いと言っても過言ではないぞ!】
【無限か…。確かにあの事務所が大量の資金を使ってアイドルのPRをしているが、それ以上の金を回収してしまうと言うチートも存在する】
【あの事務所、もしかして―?】
ジークフリートのパートナーが超有名アイドルと言う事に対し、ネット上ではこんな意見が出ていた。
「えっ!?」
バトルが始まったと同時に、西雲の持っているARウェポン《エクシア》が輝き出した。その光は蒼を思わせる。そして…。
「おいおい、どういう事だ?」
「信じられない。バランス調整もされたジークフリートを、ああもあっさりと沈めるなんて…」
「まるで、ヴァーミリオンと同じだ。光の色、使用しているARウェポンの違い等はあるが、瞬間的な高機動、必殺技の威力…。これは異常としか思えない」
「あいつもアーカイヴと同じ人種なのか?」
「アーカイヴと同じと言うのは言い過ぎだが、あの剣に振り回されているような状況なのは事実らしい」
観戦モニターで見ていた観客は、急激に変化した西雲の高機動に驚かされたのである。
(これが私の…違う、これは自分が望んだ力じゃない!)
西雲は何とかコントロールを戻そうと必死の抵抗をするが、その抵抗も空しく4000コストのグループ50メンバーをあっさりと行動不能にした。
「なんだあの動きは…。まるで、アーカイヴと同じじゃないのか?」
西雲と1つ前にパートナーを組んだ男性プレイヤーが驚きの声をあげる。1つ前のバトルでは、このような現象はなかった為である。
「あれだけのパワーを隠し持っていたなら、もう少し上手くサポートをすれば良かった」
そして、彼はバトルの結果を確認する事無くステージを後にした。
「これならば勝てる…! グループ50に赤っ恥をかかせる事も可能か」
一方で、西雲のパートナーをしている魔術師を思わせるコスチュームをした女性プレイヤーは、ジークフリートから距離を取りつつ逃げの体制になっていた。
「こちらも適当な場面で戦闘に参加しなければ―」
逃げの態勢ばかりを取っていても、警告を受けてしまう為に彼女は適当なタイミングで戦線に復帰しようと考えていた。しかし、その考えは脆くも崩れ去る。
「既に戦闘が終わっている!?」
彼女が戦闘の行われていたフィールドへ向かう途中、戦闘終了とARブレスに表示された。つまり、彼女と西雲が勝った事になる。
【ほぼ西雲1人だけだったな。パートナーは全く戦闘に参加していないようにも見える】
【全くと言う訳ではないが、途中からは逃げばかりだな】
【これは、無気力と判断されてもおかしくないだろう】
【しかし、ジークフリートをあっさりと撃破してしまうとは…】
【もしかすると、あのARウェポンはエクシアなのかもしれない】
【エクシアと言うと、ネット上でもヴァーミリオンと対になっていると言うARウェポンか?】
ネット上では、このようなやりとりが行われた。その後、魔術師のプレイヤーに関しては無気力試合という判定はされなかったが、システム変更による仕様変更によってクラスアップポイントを減点される事になった。
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同日午前11時25分、南千住でのバトルの方が始まろうとしていた。
【いよいよバトルが始まるな】
【超有名アイドルが進出するとは、これも日本侵略の第一歩か?】
【どちらにしても、ここ最近で超有名アイドルのARゲーム進出が目立つようになっている】
【これも、アカシックレコードサイトがオープンした事に関係あるのか?】
【アカシックレコードだと? どういう事だ?】
【アカシックレコードについて】
【アカシックレコードとは?】
【アカシックレコード…】
西雲と超有名アイドルとの戦いを前に、ネット上では突然出てきたアカシックレコードと言う単語に対して反応を示したコメントがタイムラインを流れた。
「誰であろうと手加減をするつもりはない!」
オーディーンが槍を構え、戦闘態勢に入る。一方の西雲はエクシアを握り直すような仕草もなく、もう一方の剣型ARウェポンで戦うようだ。
「エクシアの力を使わなくても、勝って見せる!」
そして、西雲も戦闘態勢に入り、順調に試合の方は動くと思われていた。
【超有名アイドルが存在する以上、間違いなく―】
【この状況では、発動するのは確実だろう】
【処刑用BGM用意か?】
【相方が超有名アイドルだったら、辛うじて発動はしないと思うが…】
【敵サイドにいる以上は間違いない。アーカイヴの時と対戦パターンが酷似しているのも動かぬ証拠だ】
【向こうは名称が不明だが、色が赤か青の違いだけで能力は変わらない。2つのARウェポンに見られる現象をアカシックバーストと呼んでも良いのかもしれないだろう…】
しかし、バトルがスタートして数秒後にはネット上のタイムラインはアカシックバーストが発動する事を予言していた。
「やっぱり!?」
西雲の懸念は的中した。例え、エクシアをサブ武装にしたとしても同じ事は繰り返す…と。
「あの力はアーカイヴのアカシックバーストに似ている? しかし、向こうはコントロールできていたのに対し―」
オーディーンは敵の動向よりも、エクシアのアカシックバーストの方を懸念していた。あの力がコントロール出来ない事が意味する物、それは…?
【処刑用BGMの用意だ】
【やはり、あの力はアカシックレコードと関係していたんだ】
【一体、あのARウェポンは誰が何のために用意した物なのか?】
【アカシックレコードを開く為の鍵が有力だが、その理由が弱すぎる。『超有名アイドルを滅ぼす為』という単純な理由とは思えないが…】
【どちらにしても、アカシックレコードが必要とされる時が来たと言う事だろう】
圧倒的な能力に関しては説明不要かと思う位、タイムラインには滅多に出てこない。それよりも、気になるコメントが突如としてタイムラインに流れる。
【アカシックバーストの使えるARウェポンは現時点では2つしか存在しない】
このコメントを見たユーザーは、ある意味で衝撃を受けた。2個と言う事は、これ以上は存在しないという意味でもある。ただし、誰かが量産化していない場合だが…。
【タイムラインを追っていたら、既に終わっていた】
【相手はオーディーンにもダメージを与える事が出来ず、ある意味でパーフェクト負けに近いだろうな】
【試合を見逃したとしても、しばらくすれば動画が上がる可能性もある】
【そう言えば、グループ50のホームページを見たが…色々とひどい事になっていた】
【1位の成績を上げればリーダーの権利を得られると言う物だったか。アーカイヴの乱入で、半数以上のメンバーが1勝も出来ていないらしい】
【それはホームページの方も荒れるな。別の所では、アーカイヴをテロリスト指定しているコミュニティもあった位だ―】
【超有名アイドルファンは恐ろしい…】
つぶやきサイトのタイムラインでは、このようなやりとりが展開されていた。アカシックレコードサーガの試合に関しては、動画投稿サイトの方でもタイムシフトで視聴する事が可能で、試合内容によっては単独で動画がアップされる事もあるらしい。
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同日午前11時30分、西新井にある別のアカシックレコードサーガのフィールドでは、予想だにしない展開が起こっていた。
「一体、何が起こったんだ?」
「始まったと思ったら、1分も経過しないうちに終了していた。一体、何が…?」
「何と言うハイスピードプレイなんだ。あれだけのスピードを出せるなんて」
「あれが噂のヴァーミリオンか」
「今までの10連戦が1分未満で決着とか…」
周囲で観戦していたギャラリーが驚くほど、試合展開はハイスピードに進んでいたのである。メンバーの一人に、アーカイヴの名前があったのが決定的な証拠だろう。
《これで一気に決める! ヴァーミリオン、アカシックバースト!》
【例のアカシックバーストが出た!】
【処刑用BGMの用意だ!】
【これは決まったな】
【これで11回目の発動か。このシステムに活動限界と言う物は存在するのか?】
【そう言えば、アカシックバーストとは似て非なる物かもしれないが、別のフィールドでも似たような現象が目撃されたという情報がある】
【あれだけの機能の物が量産されているとは考えにくい。あれでも、バランス調整がされているという話もある位だ】
【先行稼働の時は、250戦無敗。次の相手が連勝を止めるまでは無双状態だったと聞く】
ネット上ではアカシックバーストが出たのと同時に盛り上がっていた。その一方で、この状態でもバランス調整はされていると言う話もあったが、その話がどこまで本当だったのかは…。
「考えて見れば、アーカイヴがアカシックバーストを使っているのは《とある共通点》を持ったプレイヤーだけになっている」
「そう言えば、ジークフリートやオーディーン、フェンリルのようなネームドプレイヤーと戦った時はアカシックバーストを使用していなかった。その共通点は…?」
「分かりやすく言えば、超有名アイドルだ。今回、別のエリアでアカシックバーストと似たような能力を持っている人物が目撃された事で、この結論が浮上した」
観客の中には、アーカイヴのアカシックバーストを使用する相手に何らかの共通点を突き止めた人物も存在した。どうやら、先程のつぶやきをARブレスでチェックして、即座に見破ったようにも見える。
「それだけの事を即座に判断出来る頭脳を持っているとは驚きだ。その能力を超有名アイドル以外の何かで役に立ててほしい物だが?」
黒のジーパンにスポーツ刈りの長身男性が、先程まで話していた男性に向かって問いかける。
「超有名アイドル? 愚問だな。拝金主義や一部のファンによる資金力で成立しているようなアイドルに生き残る資格はない。拝金主義や信者によるお布施感覚の売り上げという概念を突破しなければ、アイドルに未来はないだろう」
もう一方の人物の正体は、何とセラフィムだった。そして、彼はジーパンの男性に向かって一言だけ忠告した。
「数日中にエインフェリアが超有名アイドルやファンを利用して、大規模な作戦を展開する。目的は不明だが、警戒する必要性があるだろう」
そして、セラフィムは試合の途中だがフィールドを後にした。
同日お昼ごろ、アーカイヴの試合に関する動画がいくつかアップされ、それを見ていたユーザーは…。
【アレが発動する前にアカシックバーストって言っていたな】
【アーカイヴのARウェポン、ひょっとするとアカシックレコードと関係があるのかも?】
【サイトの方では特に変わった動きはないようだ。一体、何が起こっているのか?】
【アカシックバーストがアカシックレコードの力を借りている物だとすれば、超有名アイドルとキサラギの争いが再び起きるかもしれない】
【ここにきて、復活の兆しのあるアイドル神話も崩壊へのカウントダウンか…】
【どちらに転んだとしても、超有名アイドルが人類滅亡まで語り継がれる事はないだろう。いつか終わる時も来る…】
【それが有終の美で終わるのか、不祥事などの理由で打ち切りと言う形の違いだけだ】
アカシックバーストの秘密を明かそうとする者、それとは別に何かを感じる者、それぞれが違う視点で動画を確認していたのである。
同日午後2時、その後もアーカイヴが連勝を続けていく中で一つの事件が起こった。それは、超有名アイドルとは無関係のプレイヤーと対戦していた時の事である。
「まさか、こちらを使わせる事になるとは!」
この試合でアーカイヴが使用していたのは、ヴァーミリオンではなくビームサーベル2本だった。一体、彼の身に何が起こったのか?
【やっぱり、無制限に使用可能と言う展開ではなかったか】
【大体、1日で連続300試合辺りが活動限界と言う事か?】
【体力的な理由ではなく、もっと違う理由の可能性もありそうだが】
ネットのタイムラインでは、アーカイヴがヴァーミリオンを物理的に使えなくなっているのでは…という意見が半数を占めた。
「まさか、ARウェポンのオーバーヒートか?」
アーカイヴはヴァーミリオンが使用不可になった試合後、すぐにオーバーヒートに関して調べる事にした。ARウェポンには、プレイヤーに対する安全装置としてオーバーヒートと言うシステムが存在している。
「オーバーヒートになった場合、ARウェポンが数試合使用不可能になる。解除するには、数時間の放置か一定試合を行う事で解除されるが…」
しかし、ヴァーミリオンが使用可能になるような気配はない。オーバーヒート以外の原因があるのだろうか?
「仕方がない、しばらくはヴァーミリオンなしで試合を行うしかないか―」
結局はヴァーミリオンに関しては、その他の原因で使用不可能になったと判断、アンテナショップへと向かう事にした。
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《どうして、使いたくないような状況で作動してしまうのか?》
《アーカイヴと同じアカシックバーストを使用出来る唯一のARウェポン…》
《勝手に作動してしまうこの剣を、どうすれば使いこなせるようになるのか?》
《超有名アイドルと戦わない事が発動しない条件とオーディーンは言っていたけど―》
《つぶやきサイト等で情報を集めていく内に、それは不可能だと言う事実を知った》
同日午後7時、つぶやきサイトのタイムラインを見ていると…。
【グループ50以外にも、他のアイドルがアカシックレコードサーガでリーダーを決める流れになっている】
【まさかの便乗商法か?】
【これが本当だとすれば、運営も黙っている訳にはいかなくなるだろう】
【あの運営は、超有名アイドルの動向に関してはチェックが厳しいからな。他のARゲームでは超有名アイドルの宣伝行為を禁止、あるいは宣伝と受け止められる行為は禁止されている】
【アカシックレコードサーガだけ特別というよりは、泳がせている説が大きい。一体、何が起こるのか?】
この辺りの流れを見て、西雲は超有名アイドルとの戦闘を回避する事は不可能だと言う事を悟った。そうなると、必ずと言っていい程にアカシックバースト発動する事になる。
【そう言えば、アーカイヴが連戦している途中でビームサーベルを使っている場面があった。一体、何が起こったのか?】
【ARウェポンの耐久度も無限と言う訳ではない。壊れる時もある…と】
【修理が終わるまではアカシックバーストは発動しない。つまり、超有名アイドルサイドにもチャンスが来たと言う事になる】
同時に、アーカイヴの《ヴァーミリオン》に関しても故障中であるという事実を知る事になった。これは、西雲にとっては悪いニュースだった。
「向こうは、間違いなくもう一方のARウェポンの破壊も考えているはず。そして、超有名アイドルの方はアーカイヴの戦力ダウンを狙って他の初心者プレイヤーを狩るのは間違いない―」
超有名アイドルプレイヤーの中には、2ケタや3ケタという勝ち星を持っている人物もいる。しかし、それらはプレイを始めたばかりの初心者ばかりを集中的に狙った初心者狩りとも言えるような物だった。
【考えて見れば、アーカイヴがバランス調整で弱体化されたが、逆にこれは一種のチャンスではないかと考えるが…】
【アーカイヴだけじゃない。ジークフリートやオーディーンと言ったネームドプレイヤーは、バランス調整で弱体化した影響を直撃している。もしかすると、自分達でも上位を狙えるチャンスなのかも?】
【そうなってくると、上位ではなく中堅のプレイヤーには警戒する必要がありそうだな】
一連の流れをチェックした西雲は、風呂に入る事にした。今回は連戦の影響等もあってか、汗まみれである。いくらARスーツが汗を防止する機能等も付いているとはいえ、限界はある。
「一体、アカシックレコードサーガで何が起きているんだろう―」
風呂に入っていた西雲は、そんな事を思っていた。
同日午後8時、竹ノ塚にあるゲーセンでは…。
「全ては順調とまではいかないが、計画通りか。超有名アイドルは、こちらの思惑通りに行動を始めた…」
オンライン麻雀ゲームをプレイしていたのは、カジュアルな格好をしたセラフィムだった。
「唯一の誤算はアーカイヴのヴァーミリオンにリミッターがかけられていた事。そうなると、エクシアの方にも何らかのリミッターがあると考えるべきか」
しかし、セラフィムにも誤算はあった。アーカイヴが試合途中でヴァーミリオンの使用を中止した事である。そこで、セラフィムは何らかのリミッターがARウェポンに入っている事を知ったのである。
「向こうの一手がどう出るか次第で、次の試合が大きなポイントになる」
セイレーンは思った。超有名アイドルが無限とも言える利益を稼ぎ出し、その存在は未来永劫忘れる事のない伝説の存在となる…。そう言った事が3次元のアイドルに出来るかと言われると、不可能に近いのである。
「あとは、彼の行動次第か?」
セイレーンのカバンの中には、シマウマの覆面も入っていたのである。これが意味する物とは…?
同刻、自宅に戻ってパソコンで情報収集をしているアーカイヴは、黒マントではなくカジュアルな服装でデスクワークをしていたのである。
「あの現象が何かを突き止めない限りは、ヴァーミリオンを使い続けるのは危険か―」
そんなな中で、アーカイヴがたどり着いたのはリニューアルオープンしたばかりのアカシックレコードサイトだった。
【4つのアカシックレコードへアクセス可能なARウェポン、そのエネルギー源となるのは通常のARウェポンで使用されているソーラーバッテリーとは違う】
この記述を見て、アーカイヴは驚いた。説明書を読んでいなかったという事もあるが、ARウェポンは太陽電池で動いていたのである。
【そして、エクシア、ヴァーミリオン―の4つに関しては特殊な太陽電池を使用している。それは、超有名アイドルサイドが求めている永久機関や賢者の石に等しい物かもしれない】
そして、続きの記述を読んで行く内に今回のオーバーヒートに似た現象の正体が判明した。
「アカシックバーストを使えばエネルギー消費が激しくなると言う事か。そして、それを充電する手段は―」
彼は悩んだ末に、とある人物を訪ねて見る事にした。アンテナショップでは電池切れとしか分からなかった機能停止の原因を突き止められると信じて。