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世界線上の新たなる戦い―NewWars IS Worldline―

※この作品はフィクションです。地名は一部が実名になっておりますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。一部でノンフィクションでは…と突っ込まれる要素もあるかもしれませんが、この作品におけるフィクション扱いでお願いします。


※コメントに関しては『ほんわかレス推奨』でお願いします。それ以外には実在の人物や団体の名前を出したり、小説とは無関係のコメント等はご遠慮ください。


※小説家になろうへ移植する際に一部セリフを変更している個所があります。


西暦2013年7月1日、超有名アイドルの大ヒットによる税収等に頼り切っていた日本にとって深刻な事態が起こった。


それは、超有名アイドルグループであるラクシュミが解散した事である。


解散理由は表向きにはメンバーの独立と言う事だったが、裏では超有名アイドルに便乗した悪徳商法や凶悪犯罪が後を絶たない現状ではフォローしきれないと言うのが真相である。


その一方で超有名アイドル関連事業に減税、それ以外に増税という超有名アイドル商法を推奨した政府にも責任が追及される事になった。


最終的には『超有名アイドル規制法案』が可決され、今回の超有名アイドル優遇ともとれる政策を取った政治家が辞職、該当する党が解散した。この時の解散を『超有名アイドル解散』と呼んだ。そして、これによって日本は平和を取り戻す…と考えられていた。


しかし、その考えは脆くも崩れ去った。


西暦2014年1月20日、法律の抜け穴を利用した超有名アイドルが次々と登場し、遂にはアイドルその物を締め出しに…という声が市民からあふれ出してくる。


しかし、ある人物がつぶやきサイトで流した「アイドル全てを殲滅させたとして、悪徳商法や凶悪犯罪等がこの世から消えてなくなるのか?」という一言で市民の不満は一時的に解消された。


その後も「人間の作った物である以上は、こういった事態が起こる事は避けられない」、「結局は扱う人間の気持ち次第で全てが変わってしまう」と言ったコメントが定期的に流れ、それらの話に共感した者たちは同じ事を起こしてはいけない…と。


だが、事態は思わぬ方向で急展開を迎える。


西暦2014年4月1日、便乗商法として超有名アイドル詐欺を繰り返したりチケットやグッズの高額での転売等を続けてきた勢力が次々と逮捕された。


勢力の80%以上は暴走族や反社会勢力等が半数と言う事実は、アイドルファンに衝撃を走らせる事態となったのである。彼らの収入源として超有名アイドルが利用されていたと言う事は、次第に世界中でもトップニュースで取り上げられる事になる。


その一方で、超有名アイドルも自分たち以外のコンテンツを排除する為に法律を悪用し、次々と超有名アイドル以外のコンテンツを消し去ろうと考えていた事も報道され、『超有名アイドルこそが地球に存在する諸悪の根源』とまで炎上ブログやまとめサイトにまで取り上げられる事となった。


一連の反応は世界にまで届き、遂には米国に『日本は超有名アイドルをトップとして全てが管理されている国』とまで最も有名な新聞で紹介される事になった。


それが超有名アイドルの規制を加速させる事になり、『超有名アイドル規制法案』が更に規制強化、『拝金主義型商法禁止法案』が成立される結果となった。更には別口で『超有名アイドル禁止条例』も都道府県単位で広がる流れとなった。


そして、次第に3次元アイドルは衰退していき、アイドルはアニメやゲーム、特撮等のフィクション世界だけの存在となっていた。


この世界における日本は、行き過ぎた超有名アイドル優遇や神化、悪質な商法が目立った結果として超有名アイドルが黒歴史となった世界だった…。


《このアイドルバブルは起こるべくして起きた物…。人間達が拝金主義の考えを改めない限りは、同じ事は何度も繰り返される。例え、それが永遠に繰り返され超有名アイドルバブルによる『記憶の上書きによる連鎖』だとしても―》


《記憶に残る作品を作る為には、拝金主義を捨てなければならない。ファンの支持を集めるよりも重視される事…。それを忘れてしまった現状では、アイドルは架空の世界だけの存在となるのは間違いないだろう》


《その為にも、それを反省させる為にも―》


《この2つを完成させなければならない》


《アカシックレコードの力を借りる事が出来る、このARウェポンを―》


#####

シーン1:秋葉原


西暦2014年5月5日午前10時、日本・秋葉原のゲームセンター近く。


「ARウェポンが奪われただと?」

「どっちに逃げた?」

「向こうか? 何としても捕まえるんだ」

複数の警備員らしき人物が、誰かを追跡していた。周囲のギャラリーは何事か…と考える者もいたが、警察が出動していない事もあって、比較的落ち着いていた。


「一体、何があったのだろうか」

身長170センチ、黒のショートカットという髪型に黒い背広と言う外見をした人物が警備員のいる方角を見ていた。

「そう言えば、今回は面白い物を見せてくれるって話だけど?」

一方で、身長173センチ、3サイズは89、59、90(推定)。黒のロングヘア、目つきはやわらかめ、服装は若干地味な物を着こんでいる女性は彼に釣られる形で警備員のいる方角を見る。

「そのはずだったんだが、あの方角はロケテストを行っているゲームセンターがある。一体、何があったんだ?」

警備員のいる方向へと歩いているのは、男性の方が空野輝そらの・てる、女性の方は西雲七海にしぐも・なつみの2人である。


【ロケテストが中止になると思っていた】

【アレは客寄せパンダと言うと言い方が悪いが、普通の人間では使えるシロモノではないらしい】

【しかし、超有名アイドルが黒歴史になった途端に色々と変な事件が起こるようになったな】

【まるで、他のジャンルを超有名アイドルが黒歴史化して、再び返り咲こうと言うような―】

【年間CDチャートのトップ100曲が全て超有名アイドルになって、その時に『超有名アイドルの宣伝広告』とまで言われた過去もある。黒歴史化は妥当だと思うが】

【それを主導していたのが、超有名アイドルから賄賂を受け取っていた政治家だと聞く。当然と言えば当然の流れだな】

【これは憶測だが、超有名アイドルファンが大規模なクーデターを起こすらしいと言う話もある。これは、その前触れなのかも―】

ネット上では、今回のARウェポン強奪が黒歴史化された超有名アイドルのファンが起こした事件なのでは…という話が広がっていた。


「あいつか?」

「ここは二手に分かれよう!」

「我々は左へ向かう。お前達は右だ!」

何かを発見した警備員が二手に分かれ、一方は電気街、もう一方は別のエリアへと向かった。


「危ない危ない…。危うく、これを奪われる所だった」

身長178センチ、3サイズは88、56、90(推定)、肌と布の割合が7:3となっているセクシーなコスチュームを着たショートヘアの女性が警備員を上手くまいて、ほっと一息を入れていた。

「これは、この世界に災いをもたらす秘宝。誰にも奪われる訳にはいかない」

彼女の名は怪盗クリスタルグラス、あらゆる世界中に散らばったとされる7つの秘宝を集める為に活動していた伝説の怪盗である。

「それにしても、この玩具が秘宝の一つなんて…学園の方も何を考えているのか」

しかし、クリスタルグラスの存在はフィクションの話である。その彼女が、秋葉原に現れたのには何か理由があるのだろうか?


「その《ヴァーミリオン》を渡してもらおうか!」

クリスタルグラスの前に現れたのは、180センチの長身でやせ形、フード付きの黒マントという怪しい人物だった。顔はフードを深く被っている為か、隠れていて全く確認する事が出来ない。

「冗談言わないで! あなたも秘宝を狙うトレジャーハンターなのね?」

「トレジャーハンター? 秘宝? 全く知らない単語だな。私は、あくまでも《ヴァーミリオン》に用があるのだ」

「《ヴァーミリオン》? それが、この秘宝の名前?」

「お前のようなARを知らないような人物が持つべきシロモノではない。それを持つにふさわしいのは―」

「AR…? まずい! 追手が来た」

2人が会話をしている内に、警備員も何人かが駆けつけてきてしまった。このままでは捕まるのでは…とクリスタルグラスは思った。

「さあ、おとなしくそれを返すんだ」

「それは、我々、エインフェリアが持つにふさわしい物―」

「馬鹿野郎! エインフェリアの名前は迂闊に使うなと」

警備員の1人がエインフェリアと言う単語を口にし、それを聞いた途端に黒マントの人物がとっさに個人防衛火器と呼ばれる銃を取り出した。

「エインフェリア…。貴様たちにARウェポンを渡す訳にはいかない!」

黒マントの人物は警備員に向けて銃を撃つ。銃声はせず、銃に撃たれたと思われる警備員3人は気絶をした。


「人殺し!?」

クリスタルグラスは目の前の黒マントの人物に向かって叫ぶ。しかし、彼がひるむような気配は全くない。

「早とちりをしては困る。この銃はARウェポンと呼ばれる拡張現実を利用した特殊な武器だ。奴らが倒れたのも、装備しているARスーツの影響に過ぎない―」

黒マントの人物はクリスタルグラスにARウェポンの仕組みを話し、改めてヴァーミリオンを渡すように要求した。

「それだけのシロモノを簡単に渡す訳にはいかない!」

しかし、クリスタルグラスはヴァーミリオンの要求を拒否する。

「そうか。渡す気がないのであれば、仕方がない―。本来は、このような手段を使いたくはなかったが―」

しばらくして、黒マントの人物は右腕に装着されたタブレット端末を操作し始めた。そして、しばらくしてクリスタルグラスの手にあったはずのヴァーミリオンが瞬時にして彼の手に転送された。


「一体、どういう事なの?」

クリスタルグラスの手元にはヴァーミリオンがなく、彼女も若干焦っていた。そして、消えたヴァーミリオンは黒マントの人物の手にあった。

「この《ヴァーミリオン》は適格者ではないと本来の力は発揮しない。君は適格者ではなかっただけの事だ」

黒マントの人物の話を聞いても、さっぱりのクリスタルグラス。そして、彼は周囲に更なる敵が来るのを感じたのか、撤退の準備を始めていた。

「あなたは、何が目的なの? 《ヴァーミリオン》には、一体何があるというの!?」


「今は目的を言う訳にはいかない。そして、これだけは覚えておくがいい―」

黒マントの人物は姿を消した。その速度は1秒にも満たないスピードである。一体、どんなトリックを使ったのか…。

「私の名はアーカイヴ…。いずれ、この日本は超有名アイドルの侵略によって全てを奪われる。それを防ぐ為に、アカシックレコードが存在する」


「アカシックレコード…」

考えても仕方ないと判断したクリスタルグラスは、追跡してきた警備員と仕方なく戦う事にした。

「まずは、この場を切り開く!」

右手に持っていた蛇腹剣を手にして、彼女は警備員に向かって行った。


###


西暦2014年5月1日、超有名アイドルが完全に消滅した日本でライバル不在と嘆く1人の若者が2つのARウェポンを作り出したのである。


1つは長剣の形状をしたARウェポン、もう一つは銃の形状をしたARウェポン…2つに共通するのは音楽ゲームで使用されるコントローラーを思わせるようなデザインをしている個所である。


2つのARウェポンは剣の方は《エクシア》、銃の方は《ヴァーミリオン》と名付けられた。


【そう言えば、一方のエクシアは奪われていないんだよな?】

【ああ。エクシアとヴァーミリオンは別格のARウェポンと聞く。片方だけ強奪して何の得があるのか?】

【転売目的だったとしても、やり方がお粗末すぎる。あれでは、超有名アイドルの『事件にまぎれて大々的に商品を宣伝する行為』と変わらない】

【流石に、それは考え過ぎだろう。仮に自作自演やステマ等だった場合には『不正販売防止法』で逮捕されるのはARウェポンを作ったメーカーになる】

【では、あれを強奪したのは一体―】

ARウェポンのまとめサイトをチェックしていたユーザーが、つぶやきサイトで例の事件に関して議論をしていた。

【予想はしていたが、こういう事件も起きたようだ。《URL省略》】

【やっぱりか】

(中略)

【身元も超有名アイドル絡み。つまり、ヴァーミリオンを奪ったのは超有名アイドルファンがARウェポンの評判を落とす為の陰謀だったと―】

【超有名アイドルが黒歴史になった理由を、未だに理解していない人間もいたのか?】

【悪質な転売屋、超有名アイドル絡みの振り込め詐欺等、超有名アイドルの名前を使えば1京円稼げると勘違いした便乗が原因だと言うのに…】

【ダイナマイトが本来の使用方法とは違う使われ方をしたのと同じか。超有名アイドルと言う単語自体が賢者の石になったというのも納得できる】

【過去には、アニメと特撮を除外したテレビ番組の90%で超有名アイドルが出演していた時代もあった】

【あれは別のタレントが不祥事を起こして出演不可能になった際、超有名アイドルの事務所がスケジュールをタイミングよく入れたという説がある】

【超有名アイドルが他のタレントの不祥事を誘導するような事件もあったという話を聞いた事がある。あくまで憶測にすぎないが…】

【あれは日本が全体的に超有名アイドルという名の賢者の石に支配されていた時代だったな。何ともひどい事件だった】

【いやー、超有名アイドルは強敵でしたね】

そして、あるユーザーが貼りつけたエクシア強奪未遂事件の記事で再び話題が盛り上がる。超有名アイドルが残した爪痕は想像を絶する物だった。


【最終的には犯罪に走って超有名アイドルを優位にするような最悪の事態は避けなくてはならない。それが超有名アイドル特例で無罪になるような世界になったら終わりだ】

【この路線に走ろうとする世界は、探せば5万とあるような気配はする。現実でもあり得るような展開になっている】

【マスコミも超有名アイドルが黒歴史になったら大変と言わんばかりに別の報道等で逃げようとする。何故、このような展開を生んでしまったのか】

【もはや、超有名アイドルが全ての世界線を征服する日も―】

【つまり、超有名アイドル以外を応援する事が犯罪と言う事になるのか。それだけは絶対に阻止しなくてはならない―】

超有名アイドルの暴走が、この世界で超有名アイドルの黒歴史化を進めた。その事を反省せず、再び動き出そうとする存在もある。彼らは、それを知っているのだろうか?


【そう言えば、エインフェリアって何だ?】

【拝金主義部分だけを特化させた超有名アイドルを復活させようと考えている…と憶測されている例の組織か】

【あの時に現れた警備員はエインフェリアの工作員だったって話だ】

【既に不起訴処分で釈放されたと言う話だが…まさか?】

【無尽蔵の資金力を持っている…とでもいうのであれば違うと言いきれる。資金力があれば、海外にも支部を持っているはずなのに日本にしか存在しない】

【別の噂では、世界を牛耳るのは超有名アイドルと信じて疑わないという話もあるが…どういう事だ?】

【彼らの目的自体が超有名アイドルを当たり前の存在にする事で、その為であれば殺人やテロを除外して手段は選ばず…という話も聞いた事がある】

【どちらにしても、彼らを放置する事は日本にとってはバブル崩壊以上の不景気を呼ぶ事になる。超有名アイドルによる冬の時代が来る!】

その一方でエインフェリアと言う組織に関して、その行動を推測するつぶやきもいくつかで見られた。


###


西暦2014年5月5日午前10時30分、秋葉原のゲームセンター前。ここでは、アカシックレコードサーガというゲームのロケテストが行われている。

「やっぱりか。既に50人は並んでいるな―」

空野が外に並んでいる人の列を見て驚いている。丁度、入口から2メートル辺りの歩道で【ロケテスト参加の最後尾は、こちら】という立て看板を掲げたゲーセンの店員がいる。

「ロケテスト参加の方ですね。一応、この紙をチェックして必要事項を並んでいる間にでも書いておいてください」

空野と同じ身長のゲーセン店員が2人に用紙を手渡す。他にも何人か並び始め、彼らにも次々と用紙を配っていた。

「なに、これ…」

西雲が驚いたのは、この用紙に書かれていた内容だった。それは、アカシックレコードサーガへ参加する為の注意事項と言うべき部分だった。


《参加資格は12歳以上、過度な運動でドクターストップを受けている人は参加できません》

西雲が用紙に書いてある項目を見て驚いたのは、この部分だった。ゲームセンターの体感ゲームでも、年齢制限を設けているゲームと言うのは基本的に存在しない。それに加えてドクターストップとなると…。

「この他にも、サブカードの作成が不可、ARブレスを自前で用意する必要性あり…?」

他にも西雲が首をかしげるような項目が多くあった。ARスーツの着用義務、ARウェポンの改造禁止、違法改造されたARウェポンの所有禁止等…西雲にとっては専門用語だらけで訳が分からなくなっていた。

「この辺りはARゲームの宿命だな。ARブレスは―」

空野が専門用語に疎い西雲に対して用語の説明を始めた。


【ARブレス:秋葉原に設置されているARゲームをプレイする為に必要なガジェット。腕に装着するタブレット型端末でもある】


【ARスーツ:ARゲームをプレイするのに必要な対衝撃緩和スーツ。これを実用化すれば、自警団の戦力強化も出来るのでは…と言われている】


【ARウェポン:今回のゲームをプレイするのに必要な専用コントローラーのような物。形状などは多種多様で、アンテナショップで発売予定】


【ARプレート:プレイデータを保存するカードであり、パスポートの役割を果たす。サブカードの作製はルールの関係上で不可】


「ARって、ここまで進歩しているのね」

西雲もここ数年で劇的に進化している事に関心しているが、用語等に関してはさっぱりだったのである。

「音楽ゲームではライブ会場にいるような感覚、格闘ゲームでは今まで出来なかった2D的な演出をリアルに再現したり、本場ラスベガスの雰囲気を味わえるメダルゲームなんて言うのもある」

空野の説明したARゲームだけでも一例であり、それ以外にも実際の道路を疾走して演奏する音楽ゲームも存在する。

「今回設置されているのは簡易型らしい。理由としてはステージの完成がロケテストには間に合わなかったという説があるらしいが―」

空野がロケテスト告知のポスターを見て一言。行列に関しては100人単位まで増えているが、2人がいる位置としては20人待ち位の位置になっている。


「あいつ、強いぞ!」

「まだロケテストから数日しかたっていないのに…」

「常連客か?」

ゲーセンから歓声が聞こえてくる。どうやら、連勝を続けているプレイヤーがいるらしい。

「またやられた!」

一方のプレイヤーが興奮のあまりに叫ぶ。どうやら、彼が相手をしている人物が連勝中のプレイヤーらしい。

「まだまだ、修行が足りないかな?」

女性の声が聞こえる。どうやら、向こう側の筐体でプレイしているのは女性プレイヤーと言う事になる。

「まさか、10連勝を達成するプレイヤーが出てくるとは…」

「しかも、彼女はARデュエルにも参加しているプレイヤーらしいな」

「これは予想外と言うか…何と言うべきか」

10連勝した彼女のコスチュームは、ARデュエルと言うARを使用した格闘ゲームに使われるARスーツだった。そこから、ギャラリーは彼女がARデュエルのプレイヤーだと思ったらしい。

「既にAR系のゲームはいくつかプレイ済みだから、これも実力の内かな?」

167センチという身長、黒のツインテールにへそ出しのインナースーツの女性…。顔を見ると、何処かで見覚えのあるような人物にも思える。あえて、ギャラリーが無用のトラブルを避けるために言葉に出さないと言う気配もするが。


「もうすぐ順番になるが、用紙の方を早く書かないと―」

入口の自動ドアの先で空野が見たのは、10台の同型筐体だった。どうやら、これがアカシックレコードサーガらしい。

「ARと言うよりは、少し前に大ブレークした対戦格闘ゲームタイプみたいね」

西雲の言う事も一理あるし、あえて否定はしない。しかし、ステージの完成が間に合わなかったという事で別の筐体を利用するとは…非常に考えにくい。

「!?」

そして、若干の疑問に思った空野は改めて用紙を見た。確かに最後の項目に、以下のような一文がある。


《本日のロケテストで使用される物は、据え置き型ゲーム用に移植予定のアカシックレコードサーガとなります。実際のAR版とは異なり、12歳以下の方でもプレイ可能なバージョンになります》

どうやら、今回使用されているのは家庭用ゲーム機に移植予定のバージョンらしい。しかし、家庭用移植版だが仕様に関してはAR版と大幅に異なるような物はない。違うとすれば、入力デバイスがジョイスティックである事とARスーツやブレス等が不要と言う点だろう。


「あれが新作のAR対応ゲーム…」

ロケテストの様子を見ているのは、身長163センチの若干細身、黒のショートヘアにメガネ、カジュアルな衣装に左腕には黒のリストバンドをしている青年だった。

「―っと、今はこっちに集中しなくちゃ」

彼がプレイしていたのは、クレーンを使用するプライズゲームである。クレーンに商品をひっかけ、一定のエリアまで商品を運べば商品がもらえると言う物だ。一昔は爆発的にヒットしたようだが、今は入荷する景品によってはプレイヤーが多い位になっている。


###


同日午前10時35分、ゲーセン内…。

「出番が来たようだけど、これはどうすればいいのかな?」

出番が来た西雲は、筐体にあるコイン挿入口へ200円を入れ、周囲に貼られているインストカードと言う操作説明に当たる紙を見ている。空野よりも番号が少ない整理券を受け取っていた為、若干早いタイミングでプレイ出来る事になったようだ。

「今回はキャラクターを選択すれば、自動的に相手が決まると言う特別ルールになっています。10人勝ちぬき、3ステージのストーリーモード制覇のどちらかでプレイが終了になります」

どうやら、ロケテストの特別仕様らしい。スタッフの話を聞いた西雲は、ストーリーモードとVSモードの選択でVSモードの方を選択した。


《使用するキャラクターを選択してください》


画面に表示されたキャラクターの数は50人。そして、細かいパラメーター以外に気になる数字にコストと言う物があった。

「最初はコストの重いキャラよりも軽い方を選んだほうが若干有利になります。基本的には、2人1組でペアを組んでプレイする事に―」

スタッフの話を聞いても疑問に思う箇所があったので、2500コストのガンナーを選択する事にした。

「同じコストなら、こっちの女性アンドロイドか黒騎士の方が良かったかな…」

西雲は、そう思いつつも画面の《しばらくおまちください》と言う表示の間にインストカードを見て操作を確認していた。プレイ中に操作を確認する事は非常に難しい為である。


《マッチング準備が完了しました》


画面に準備完了と表示され、ステージが表示される。どうやら、ステージは新宿らしい。相方プレイヤーのコストを見ると、何と4000と言う高いコストのプレイヤーだった。タイプは、重火力タイプだろうか?

「相手の方は…コスト3000が2人か。タイプは、武者タイプと格闘家タイプ―」

対戦相手は、武者と格闘家という両者とも近接戦闘に特化したチョイスをしていた。

「この液晶はタッチパネル方式ね―」

西雲は筐体のパネルがタッチパネルと言う事で、何か出来ないか考えていた。どうやら、画面右にチャット用メッセージのアイコンがあるようだ。

『よろしくお願いします!』

台詞を喋る事はないが、これで相手プレイヤー及びパートナーには何か伝わっただろう。しばらくして、返事が返ってきた。

『よろしくお願いします!』

これはパートナーからの返事である。どうやら、メッセージは伝わったようだ。

『3Pは任せます』

次に西雲は、左画面に表示されているプレイヤーステータスをタッチし、武者タイプの3Pにタッチした後に『任せろ』の吹き出しを2回押す。

『4Pは任せて』

パートナーは、西雲と同じように画面をタッチして格闘家タイプの4Pにタッチした後に『任せろ』の吹き出しを2回押す。


「何だ、奴らの動き…」

「信じられない反応だ。初めてのプレイヤーとは思えない」

一方で、チャット画面を利用せずに力押しで何とかしようと考えていた相手プレイヤーは何もする事無く、あっさりと撃破されてしまった。一応、2連勝はしていたようだが…。

『ありがとうございました』

『ありがとうございました』

西雲とパートナーを組んだプレイヤーがチャットで返事をする。どうやら、即席コンビでも予想外の大活躍とも言える展開だったようだ。

「次も同じプレイヤーと組めるとは限らない。基本的に、マッチングはランダムだからな」

出番が来た空野が隣の筐体に座り、200円をコイン挿入口に入れる。選択したのは、コスト1500の闘士タイプである。主にモーニングスターと呼ばれる武器をメインにして戦うようだ。

「次の相手は…!?」

西雲が次に対戦する相手、それは…。


「相手は5000と1000の組み合わせ?」

西雲が驚いたのは、相手がコスト5000と1000の組み合わせだった事だけではなかった。それは…。

「9連勝中の相手…一体、何者なんだ?」

隣で様子を見ていた空野も衝撃を受けていたのである。コスト5000の方は1連勝だけだったが、コスト1000の方が何と9連勝で10連勝にリーチだった。

「あっちの女性も7連勝だが、向こうの男性に当たったのか?」

「彼は格ゲーでも実力のある人物だ。これは運が悪かったな―」

ギャラリーも彼に当たった事が既に敗北フラグなのでは…と言う人物も何人かいる。それ位に、彼と当たる事は不幸である―と。


###


同日午後1時、秋葉原のファストフード店。

「アーカイヴ―。彼の言うARウェポンって一体…」

警備員を何とか撃退したが、彼らからは情報を入手出来なかったクリスタルグラス。彼女はファストフード店でミックスピザとコーラを頼んで、少し遅い昼食を取っていた。衣装に関しては既にメイド服に着替えている。

「アーカイヴに会ったの?」

クリスタルグラスの隣を通過したのは、先程ゲーセンにも現れた瀬川春香せがわ・はるかだった。

「あなたは彼の事を知っているの?」

クリスタルグラスは、アーカイヴと言う単語に反応した瀬川に尋ねる。

「彼は非常に変わった人物よ。他のARゲームにもエントリーしているけど、素顔を人前にさらす事は決してない―」

「確かに。私も初めてあった時には黒いローブと深被りしたフードが印象的だった。素顔をさらせない理由は一体、何?」

「素顔を人前で見せる事で、何か誤解される事でもあるのかもしれない。そんな都市伝説がつぶやきサイト等で広まっているみたいだけど」

「都市伝説か…」

2人が会話をしていると、外ではARデュエルが始まろうとしていたのである。


【ARデュエル:格闘技と格闘ゲームを融合させたARゲームの一つ。その昔、超有名アイドルの宣伝活動を続けるファンとARデュエルを守ろうとする一部勢力でリアルファイトに発展寸前になった事がある】


「確かARデュエルでも、あなたの名前を見た事があったような…」

クリスタルグラスは、瀬川の姿を見て何かを思い出そうとしていた。しかし、あえて口に出すのを止める。

「一応、ブレイブランカーまでは到達していないけど、有名人だからね」

瀬川は、そう言い残して店を後にした。クリスタルグラスが自分の正体に気付いたとは考えにくいが…。


「それにしても、エインフェリアの言っていたARウェポンって―」

クリスタルグラスは、少し前に襲撃してきたエインフェリアの刺客が残した言葉を思い出していた。


数時間前、秋葉原某所…。ここでは、警備員に偽装したエインフェリアの構成員とクリスタルグラスが交戦し、見事に勝利した後だった。

「あなたたちの目的は何? 《ヴァーミリオン》の何を知っているの?」

クリスタルグラスは、倒れている構成員の内、気絶していない1人に質問をした。

「貴様のような何も知らないで踊らされているような連中に教える事は何もない!」

どうやら、彼はクリスタルグラスを完全な部外者と考えているようだ。それを聞いたクリスタルグラスは…。

「どうあっても喋らないのであれば―」

アスファルトに蛇腹剣を叩きつけ、構成員から何かを聞きだそうと考えた。

「どうしてもというのであれば、一つだけ警告してやろう。この世界のARゲームは、お前達の考えているようなではない―」

それだけを言い残し、構成員は気絶した。一体、彼は何を言おうと考えていたのだろうか。


「秋葉原だけではなく日本でブームになりつつある拡張現実を用いたARゲーム…」

ピザも食べ終わったクリスタルグラスは店を後にした。丁度、店を出た辺りでテレビでニュースが流れた。


『次のニュースです。先日、国会で成立した拝金主義型商法禁止法案に反対する大規模集会が何者かによって襲撃された模様です。多数の怪我人が出ているようですが、死者に関しては出ていないようです』

秋葉原のテレビコーナーは、このニュースで独占されている状態になっていた。唯一、グルメ番組を放送していた局が1つだけあったが、基本的には全て同じニュースになっていた。

【一体、何がどうなっているんだ?】

【拝金主義型商法禁止法案と言えば、超有名アイドル商法を禁止すると言う法案。それを反対する集会を襲撃して何の得がある?】

【おそらくは、何処かの大企業が法案に対して異議を唱えているとか、超有名アイドルファンが自作自演をしているかのどちらかだろう。仮説に過ぎないと言う前提はあるが】

【とある作品で爆弾騒ぎやイベントの中止を求める抗議などがあったが…それに対する報復なのか?】

【世界は日本を『超有名アイドルが支配する国』と大々的に紹介してしまっている】

【その影響で、海外のいくつかの国では日本製品を締め出していると聞く。超有名アイドルの影響下から完全に脱出しなければ…】

ネット上では今回のニュースに対しての反応が多数あった。その半数が拝金主義型商法禁止法案の反対集会を襲撃する必要性のある組織があるのか…と言う箇所だった。

「ここで大規模集会の襲撃か…。死者が出ていないと言う事は、ARウェポンが使用されたのか?」

電機店のテレビコーナーでニュースを見ていた空野は、このニュースが意味している事をある程度は理解していた。

「ARウェポンは、ARデュエルやアカシックレコードサーガでも筐体が展開するフィールド内限定のはず。フィールド生成を可能にした何かを開発したのか、それとも―」

何かの胸騒ぎを覚えた空野は、秋葉原を後にした。


###


《結局、彼には勝てなかった》


《何が足りなかったのか、自分でも何となく分かっていた。コスト1000に油断した訳ではない》


《彼が放っていたオーラは、善とか悪で決めつけられるような存在ではない事は間違いない》


《そして、自分は帰宅した。その時にはテレビで大規模集会の襲撃事件の犯人が捕まったと言うニュースが飛び込んで来ていた》


《犯人の目的は「拝金主義に取りつかれたアイドルファンの目を覚まさせたかった」と言う事らしい》


《しかし、力を行使する事は超有名アイドルと同じであることは間違いない》


《結局、日本は超有名アイドルを復活させようと言う組織に再び制圧されてしまうのだろうか?》


同日午後5時、自宅に戻った西雲はテレビを付けてニュースの内容に衝撃を受けていた。

「それにしても、彼は何で偽名を名乗ったのだろうか?」

西雲が思い出していたのは、ゲームセンターで自分を破ったと言う人物がジークフリートと名乗った事である。


《俺の名はジークフリート。エインフェリアには関わるな―》


西雲がゲーセンを去る間際に彼が言った一言は、彼女にとっても謎を残すメッセージとなった。

「エインフェリア、調べてみる価値はありそうね」

そして、西雲はパソコンを起動させてエインフェリアについて検索をする。エインフェリアの語源等もネット上では引っ掛かったのだが、それとは別に3ページ目にあった謎の単語が気になったので、該当するリンクをクリックした。

「まさか…?」

そのページを見た西雲は、衝撃のあまりに言葉を失ってしまった。


『全ての金、利益は超有名アイドルにささげる為のお布施』


『拝金主義型商法禁止法案を最も潰そうと画策している集団』


『過激派超有名アイドルファンの集まり』


これらはエインフェリアに対する印象を一言で表したものだが、他にも物騒な単語が使われている物も多い。


「あの事件もエインフェリアの仕業…?」

西雲は考えたが、焦って答えを出しても組織を壊滅させる事は不可能だと判断し、今は心の中にしまっておく事にした。


同日午後7時、ゲーセンでのロケテストも行列がなくなり、フリープレイと言う状態になっていた。

「あの顔、何処かで見覚えがあるのだが?」

「お前も同じ事を思っていたのか」

「某雑誌では有名なコスプレイヤーだったからな」

ギャラリーが気にしていたのは、ロケテストの機種とは全く違うガンシューティングゲームをしている人物だった。

「まさか、ゲーセンにリニア=ゼロがいる訳は―?」

1人のギャラリーが名前を言った途端に周囲は少し騒がしくなったような気配がした。声には出さないが、反応を見る限りではまずい事を言ったのだろうか?


同時刻、北千住のCDショップでは特にイベントが行われている訳ではないが、多くの通行人が足を止めていた。

「このご時世に新曲か…」

「規制法案に引っ掛かりそうな予感もするな」

「今や、CDで売れるジャンルは演歌になっている。J-POPもそこそこ売れるが、共感を得られるような曲でなければ―」

一般客も足を止める物の正体は、ARを使用した架空アイドルだったのである。架空アイドルであれば、拝金主義型商法禁止法案には引っかからない。

「メーカーは超有名アイドルとは無関係の会社だが、これは何かのメッセージと受け取るべきか―」

身長180センチという長身の男性がCDを手に取る。特に購入する訳ではないが、ジャケットや視聴等で気になっていたようだ。


こうして、それぞれの1日が終わった。果たして、この世界での超有名アイドルがどうなるのか…?


その鍵を握るのはARウェポンである《ヴァーミリオン》と《エクシア》の存在なのは間違いない。


この世界の勝利者となるのは、どちらなのだろうか?

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