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記憶⑥

「そういうわけで、記憶を戻す方法は無い。だから、旅に連れて行く」


「待て。お前だけでは信用できない。俺も行くぞ」


 バルザックが声を上げたのと同時に、セングンが前に出た。


「お前は行くな、バルザック」


「どうしてだ、セングン?俺はセイウン殿とパリスの二人きりなんて危険だと思う。この男は何をするか、分からないぞ」


「主力の一人のお前に出られると、城を攻撃された時に厄介だ。だから、この城から出るのだけは我慢してほしい」


「どうしてもなのか?」


「ああ。この通りだ」


 セングンはバルザックに向けて深く頭を下げた。


 バルザックは唇を噛みしめた。しばらくの間、セングンとパリスを交互に見ることが続いた。


「バルザック、ここはセングンの言う通りにしてやれ」


 デュマだった。普段はセングンと仲が良くない彼でも、頭を下げているセングンの姿から伝わるものが何か分かっていた。ガストーたちも必死に目で訴えかけていた。


 とうとう、周囲の空気にバルザック自身が呑まれた。


「くそっ!」


 バルザックは、自身の拳を壁に打ち付けた。あり得ないと分かっているのだが、一同は壁にひびが入ったのではと錯覚した。


「セイウン殿に何かあったら、ただでは済まさないぞ」


「そっちも城をしっかりと守れよ。お前は自分では分からないだろうが、すぐに感情をむき出しにするから、はっきり言って、守備には向かない」


「言いたい放題言いやがって」


 バルザックはきびすを返すと、一人だけ廊下の奥に姿を消した。


 残った全員は、急いでセングンの部屋に向かった。部屋に入ると、壁に二枚の絵があった。昨日から行方知れずとなっている掃除夫が二人いた。


 二人を見たという兵士達の証言をもとに絵を作成したが、どこかで見た事があると思ったセングンは、すぐにレストリウス王国の主だった人物の人相書きに目を通した。

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