記憶④
「戦いたいのは兵士達ではない。お前だろう」
パリスだった。場に似つかわしくない笑みを浮かべており、一同を見渡していた。
「どういう意味だ、貴様?」
サイスが剣の柄に手をかけた。ガリウスが止めに入ろうとしたが、セングンに制された。
「言葉の通りだ。表面上は他人のことを考えているようだが結局、中身は自分の事だけ。人の性がよく出ている」
「貴様、侮辱する気か!」
サイスが瞬時に剣を抜いて、パリスに突きつけた。剣はちょうど、パリスの額で止まった。一方、パリスは動じる様子もなく、サイスを見つめていた。
「斬るつもりがあるのか?」
挑発ではなかった。真剣に尋ねているのである。
「俺がお前の立場だったら、首なんてさっさと落としているぞ。お前は剣をおどしに使えと師から習ったのか?」
「減らず口を。だったら、今すぐその首を……」
「できるのか、お前ごときに?笑わせるなよ、サイス」
セングン達の背筋に寒気がはしった。場にいたほとんどの者が、一歩後ずさりしていた。彼が何気なく放った一言なのに、なぜ怯えてしまったのだろうか。セングンは額の汗をぬぐうと、サイスに目を向けた。
当のサイスは、凝り固まっていた。何か反論したいようだが、唇を震わせており、うまく反論できないようだった。持っていた剣が床に落ちた。鈍い音が、城内に響き渡った。
「本当に笑ってしまうよ。これがかつてクリスト=フォスターと一緒に戦った奴の実力か。がっかりしたよ」
頭をかきむしったパリスは次に、セングンに顔を向けた。表情から自分に何か話があるようだ。セングンは軽く首を縦に振った。
「決まりだな」
セングンとパリスは、バルザック達をその場に残して近くの空き部屋に入った。中で何が話されているのか、バルザック達には知る事はできないので、とにかく待つしかなかった。




