第十章 記憶①
目が覚めた時、人が二人いた。一人は十代前半だろうか、あどけなさが、まだ残っている少年。もう一人は外見から二十代後半ぐらいの男だった。少年はよかった、よかった、と喜々とした声をあげながら抱きついてきた。なぜか脇腹に痛みがはしった。
「案外目覚めるのが、早かったな。もう少し寝てくれてもいいのだぞ。そうすれば、君の体を徹底的に調べることができる」
男の顔は、なぜか悔しげだった。
起き上がると近くにかけてあった衣服を着る事にした。どうしたことか衣服には、血がべっとりと付着していた。
「どこに行く?」
男が尋ねた。
「ここはうるさい。もう少し落ち着ける場所で寝たい」
正直言って歩くことは、まだつらかった。どうやら急所は外れているようだが、痛くてたまらない。
「おいおい、まるで子供のような言い分だな。まあそれだけ背が低いから無理もないか」
「どういう意味だ?」
「あれ?怒らないのか、セイウン?」
「怒るも何も言っている意味が理解できないのだが……」
「これは大変だ。ただでさえ、頭が悪いのは知っていたが人語を解することができなくなったとは」
わざとらしく驚いている男をよそに、少年が側にやって来た。
「ハシュク先生の言っていることは気にしないでください。先生のあの性格は今に始まったことではありませんから。それより今は安静が第一ですから、ベッドに戻ってください、セイウンさん」
結局、ベッドに押し戻されてしまった。
「ロビンズ、さっきのは僕に本気で言っているのか?」
「はい、何か問題がありましたか?」
「お前には後でたっぷりと調合の課題を言い渡す。明日の朝までに提出しろ」
「そんな、殺生な!」
どうやら二十代の男はハシュクで、少年はロビンズと言うようだ。二人のやり取りに思わず笑みがこぼれた。
「仕方ないですが、課題はやる事にします。ところで、セイウンさん。脇腹の傷はどうですか?やっぱり縫ったばかりですので痛いですか?」
「だから痛いのか?」
「割と深い傷でしたからね」
「一つ尋ねてもいいか?」
「なんですか?」
「お前達がさっきから、俺に向かって言っているセイウンというのは、俺の名前か?」
一瞬にして、場が水を打ったように静かになった。彼らは表情が凝り固まっていた。




