帰還の果てに④
「気が付いたようだな」
ロウマが言った。
「久し振りだな、エレン。私だ、ロウマ=アルバートだ」
ロウマはエレンになぜここにいるのか、説明しようとしたが、どうしたのか彼女はロウマを見つめながら、しきりに首をかしげていた。どうも様子がおかしかった。嫌な予感が体をかけめぐった。
エレンが口を開いた。
「あなたは誰ですか?ええと……すみませんが、ここはどこですか?」
冷や汗がロウマの背中を流れた。まさか次はあのセリフが出るのでは、と考えた。その予感は的中した。
「わたし……だれ……?」
壮絶だった。ロウマもシャニス、ゴルドーそして、父親のグレイスもあまりの事に声が出なかった。予期していないことが起こってしまった。全員が沈黙してしまうのも無理がなかった。
「もう一度聞くが、私のことを本当に思い出せないのか?」
「はい。初めて見ました。あのー……私は一体誰なのですか?」
そう言ったエレンだったが、急に何かの異変に気付いたのか、目を下に向けた。
「ひっ!」
エレンは小さな悲鳴を上げると、露出している胸を両手で隠した。さっきグレイスが衣服をずらした際に、乳房より下までずらしてしまったのである。おかげで二つの大切な丘が四人の目にさらされていた。
「元帥、ひとまず彼女は僕にあずけてください。嘘をついているかどうか、確かめます」
シャニスがロウマに提案した。彼はエレンの乳房を見ても、動じていないようだった。おそらく医者という職業であるため、慣れているのだろう。
ロウマは頷いた。
その時だった。
「ロウマ、ただいま」
「ロウマ様、お茶のお代わりはいかがですか?みなさんの分もありますよ」
「師匠、ただいま戻りました。今日の調練も無事終了です」
間が悪い時にナナーとアリス、シャリーの三人が入って来た。三人の目に最初に飛び込んできたのは、ロウマと露出している胸を隠しているエレンの姿だった。
「皆さん、お茶です」
アリスは冷たい声だった。男の冷酷さと女の冷酷さは、こうも違うものなのかと男達は実感した。
グレイスとゴルドーは、おそるおそるカップに手を伸ばすと、紅茶をすすった。うまいのだが、なぜか素直においしいというセリフが出て来なかった。
二人がびくびくしながら紅茶をすすっている間に、シャニスはそそくさとドアの方まで駆けて行った。
「元帥、連れて行くのは明日にしましょう。それから、色々な意味でお気をつけて」
シャニスはそれだけ言うと去っていった。
ふざけるな、とロウマは心中で叫んだ。
「ロウマ、この状態は何かしら?説明してくれない」
「見て分からないか、ナナー?」
「これを分かれというのが無理よ」
「彼女は客人だ」
「客人に対して身体検査が必要なのかしら?さぞ楽しんだでしょうね」
「お前は何か勘違いしているぞ、ナナー。まずは落ち着いて話をしよう。お前もそう思うだろう、ゴルドー」
とりあえず助けを求めたが、ゴルドーはグレイスと一緒に立ち上がると、脱兎の如く走って出て行った。
エレンはグレイスに呼ばれた時、首をかしげてばかりだったが、自分の名前がエレンであるのだけは、どうにか理解してくれたようである。衣服の乱れを元通りにすると、グレイスの後を付いて行った。彼女も周囲の危険を察知したようである。
その場に残ったのは、四人だけだった。
「師匠、さっき研いだばかりの剣をちょうど佩いているのですけど、どうしましょうか?師匠で試すのも悪くありませんね」
「ちょっと待て、お前達。疑う人物がどうして私だけなんだ?他はどうするんだ?差別だぞ」
「ロウマ様が好色だと全員知っていますので」
ここに来てロウマは、自分が好色だったのを恨んだ。
「待った。誤解だ。話せば分かることもあるはずだと思う」
『うるさい、覚悟!』
三人が一斉にロウマに襲いかかった。
悲鳴を上げることもできずに、ロウマは床に倒れた。




