帰還の果てに③
グレイスは担いでいるものを、ソファーの上にゆっくりと、まるで高価なものを取り扱うかのように置いた。かぶせている布も取り去った。出て来たのは女だった。肌の色が極度に白くないことから、北の人間でないことは分かる。整った顔立ちであり、目にした男は思わず見とれてしまいかねない。
「これがエレンか?」
シャニスは目を見開いて驚いていた。ロウマは初めてではないが、感情はシャニスと一緒だった。
似てない。どこも似ていない。それしか感想はなかった。
「本当に娘なのか?僕はちょっと疑ってしまうな」
「シャニス、正真正銘私の娘だ。名前もエレンだし、顔も妻にそっくりだ」
「奥さんの顔か。それならば納得いく」
「何だその顔は?まだ疑っているのか?ちょっと待ってろ」
横になっているエレンをうつぶせにしたグレイスは、着ている衣服を一気にずらした。一瞬グレイスが血迷ったのかと思った三人だったが、露出したエレンの肌を見た途端、その場にいた全員が凍りついた。
エレンの背中には、刃物で斬り付けたような傷痕があった。薄くなっているが、その傷は肉眼で確認がとれるほど、まだはっきりと残っていた。
「これで確定だ。この子は私の娘だ」
「その傷は?」
シャニスが尋ねた。
「私が娘に付けたものだ」
「本当なのか?」
「本当だ。娘はこの傷を受けた直後に逃走して、行方知れずとなった」
「なぜそんな事を?」
グレイスは口を閉ざした。分かっているのだが、答えなかった。妻を失った事で、何かがグレイスの中で狂った。同時に周囲にあった美しきものも汚れたものに映った。例えそれが妻との間にできた結晶体であったとしても。
「シャニス、これはグレイスの問題だ。触れるのは野暮だ」
「申し訳ありません、元帥」
シャニスが引き下がるのと同時に、うめくような声が聞こえた。エレンが目を覚ましたのである。起き上がったエレンは、目をこすりながら、ロウマ達を見渡していた。




