帰還の果てに②
ロウマもエレンとは面識があった。だからこそ、彼女が本当にグレイスの娘か疑った。まず顔が似ていない。どうやったら、あんな綺麗な子とむさ苦しい中年男を親子と結び付ければいいのだろうか。正直悩んでしまった。
「どうかしましたか、元帥?」
「いや、何でもない……」
「ゴルドー達が心配なのは分かりますが、彼らを信じましょう。僕は彼らが事を成し遂げると信じてますから」
「そうだな」
確かにそれも考えているが、やっぱり重要なのはエレンとグレイスの親子関係の真偽である。確かめたいから早く帰って来てほしかった。
しばらくするとアリスが紅茶のカップを載せた盆を持って来た。
「どうぞ」
無駄のない動きでロウマとシャニスにカップを渡した。
「ごゆっくり」
一礼すると、アリスは部屋をあとにした。
「相変わらずいい子ですね」
「まあな。でも世話を焼きすぎて困る」
「よいではないですか。世話を焼いてもらうだけでも幸せですよ。それに、じゃじゃ馬女よりましです」
「シャリーのことか?」
「そんな名前でしたね。元帥も、あんな女と一緒でよく疲れませんね?」
「疲れるが退屈はしない。前よりも楽しい日々は送っている」
「そうですか」
シャニスは面白くないという表情をしていた。気持ちも分からない事もないが、それがロウマの本心だった。
「あの女の事で何かお困りでしたら、すぐに相談してください。跡形もなく消してやりますから」
「物騒だな、お前は。シャリーは、そこまでの奴ではないよ」
突然、ノックもなくドアが開いた。間違いなくアリスではない。
入って来たのは最初にゴルドー、次にグレイスだった。グレイスは何かを背中にかついでいるが、布でくるまれているため、なんだか分からなかった。
「やっと帰って来れたぜ。ただいま、ロウマ。おや、シャニスも来ていたのか?」
「随分と早かったな」
「これでも二十日以上いたぞ。もう潜入なんてこりごりだぜ」
「どけ、ゴルドー。娘を下ろす。すみませんが元帥、ソファーを空けてくれませんか」
頷いたロウマは、ソファーからどいてやった。




