それぞれの出発⑧
愛馬は勢いよく嘶いた。まるで、故郷に帰ることが嬉しいかのようだった。
ロウマは愛馬のたてがみを、軽くなでてやった。今日からレストリウス王国に帰還する。国を空けたのは、約二月だった。
長いような二月だったが、あっという間の二月でもある。様々なことが自分の身に起こった。
ロウマはレストリウス王国に帰るのが、はっきり言って怖かった。一体、どんな処罰が自分に待ち受けているだろうか。
国王のラジム二世は、賢い人物である。罪を犯した者がたとえ、功績のある者でも容赦しない。間違いなく自分に処罰を下すだろう。
「しけた顔をするなよ」
後ろに控えているロバートが声をかけた。
「やっぱり帰るのは、怖いのか?」
まるで自分の心を見透かしているかのように内容は的中していた。どうして分かるのだろうとロウマは驚かされてしまう。
「正直に言うと怖いな。陛下は賢くて恐ろしい方だから私を処罰するかもしれない」
「殺されるってことはあるのか?」
「可能性は高い」
「まあ、お前が殺されてしまった時は、手厚く葬ってやるよ。そうだな……墓石にはこう彫っておく。『好色英雄ロウマ=アルバートここに眠る』ってね」
「手厚く葬ってくれるのは結構だが、好色英雄と彫るのはよせ」
「否定する理由が分からん。お前が昨日していたことを知らないとは言わせないぞ」
それを聞いた途端、ロウマは一気に額から汗が噴き出た。いつも冷静な彼にしては似合わない姿だった。
「あれは違う。昨日のことは、ナナー達が無理やり」
「なあに俺達だけの会話だ。お前の方から二人を襲ったのだろう?誰にも言わないから教えろ」
「だから違う!」
ロウマは大声で叫んだ。
大きな声が耳に入ったのか、飛び出して来る者がいた。ナナーとアリス、シャリーだった。昨日の一件の元凶三人娘である。
「びっくりした。大声を出してどうしたの、ロウマ?」
「何かあったのですか、ロウマ様?」
「どうかしたのですか、師匠?もしかして、ロバートが何か至らぬことでもしたのですか?」
至らぬことをしたのはお前達だろうと言いたかったが、ロウマは何も言う事ができなかった。