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見せつけられる現実⑪

 グレイスはセイウンとエレンを見張っていた。腹わたが煮えくり返りそうな光景だった。エレンはセイウンに、べったりとくっついていた。何が楽しくて娘は、あんな男といるのだろうか。


 連れて帰ったら、仕置きの一つや二つは必要かもしれなかった。その前にセイウンには、痛い目に遭ってもらわないといけない。


 昼間にパリスにくらったものより、もっと痛いものを。




     ***



「離れないでよね……」


「分かった、分かった。でも、動きずらいから、もう少し、楽にしろよ」


「無理よ。絶対無理」


 駄目だこれは。セイウンは溜息をついた。吐かれた息はやはり白かった。周囲の目も白かった。すれ違うたびに兵士達から嫉妬と怒りと殺意に満ちた視線を浴びせられた。


 隙あらば、今にも飛びかかって来そうな状態だった。


「頭領、いい夜ですね。後ろに気をつけてくださいね」


「頭領、今夜の満月は血に飢えてますよ」


「あれ頭領?なんで生きているんですか?」


 次から次へと通る度に、にべもないセリフで攻撃されてしまう。セイウンは、泣きたい気持だった。


「みんな何を言っているの?」


「何でもないぞ、エレン」


 セイウンは必死にごまかした。


「頭領」


 また誰かに呼ばれたので、セイウンはうんざりしながらも、声の方を振り向いた。


 男がひざまずいていた。跪いているのと暗闇のせいで顔はよく見えないが、声の感じから年齢はサイスと一緒ぐらいだろう。


「誰だ?」


「私は厩舎きゅうしゃの掃除夫です。至急、厩舎まで来てください。敵に関して耳寄りな情報が手に入りました」


 なぜ厩舎の掃除夫が、耳寄りな情報を手に入れる事ができるのだろうか。セングンだったらそのように疑っていたはずだが、セイウンは掃除夫をまったく疑ってなかった。

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