見せつけられる現実⑩
ここで涙でも見せれば可愛いのだが。
「あんた今、心の中でつまらない事を考えたでしょう」
「何も考えてません。本当です。信じてください」
「聞く耳持たぬ」
そっぽを向いてしまったエレンだった。
包帯を巻いてもらったセイウンは、窓に向かった。だいぶ冷えてきたので、窓を閉めようとした。まだ秋であるが、今年の冬は早く来るかもしれなかった。
なんといっても暗闇を怖がるエレンのために、多くのろうそくを灯してもこの寒さである。試しに息を吐いてみると、案の定、息は白かった。窓から顔を出して辺りをうかがった。兵士達はみんな夜の見回りをしているのが見える。みんな寒いのか、時折、手をこすり合わせたりしていた。
こんな風に寒い夜でも働く兵士達がいるのに、自分は何をしているのだろうか。こんな所でぬくぬく、と温まっていいのだろうか。セイウンは改めて自分の驕りについて考え直した。彼らの気持も分かってあげないといけなかった。
「エレン」
「どうしたの、セイウン?」
「外に出てみないか?」
セイウンは、笑いながらエレンに提案した。
***
それは絶好のチャンスだった。寒い中めげずに、見張っていたかいがあった。
セイウンとエレンが外に出て来たのである。
昼間にエレンをさらおうと画策していたが、どうやらその必要は無くなったようである。運が向いて来た。グレイスとゴルドーは、ほくそ笑んだ。とりあえずゴルドーを馬小屋に向かわせ、逃走用の馬を奪取させることにした。




