見せつけられる現実⑨
今後はセイウンに、二度と驕らないようにしてもらわないといけなかった。そのためには、やはりパリスの力が必要である。ドアをノックする音がしたので、セングンは入るように命じた。
パリスだった。ジュナイドという男も一緒である。
「ここの飯はまずくないな。なあ、ジュナイド」
「はい。俺はあんなうまいものを食べたのは、生まれて初めてです」
「大げさだな。だが、うまかったのは事実だ。ここの料理人は腕がいいな」
料理を作る者を主導しているのはエレンだった。城にいる女を動員して作っている。エレンの作った料理は、兵士達の間でも評判がよかった。
「満足したか?」
「ああ、満足だ。さてと、俺の待遇はどうするつもりだ、セングン?」
「もう考えは決まった。お前にはここにいてもらいたい。バルザックとデュマは反対するかもしれないが、僕が説得する」
「分かった。横にいるジュナイドは、将校でもいいから取り立ててくれ。その辺の男よりは学識もあるし、腕もたつ」
「了解した」
セングンとパリスは、互いに握手をした。
ジュナイドはパリスが人と握手をしているのを見るのは、初めてだった。おそらく、このセングンという男に対しては、敵意を持たず心を許せるのかもしれなかった。
パリスの手を握ったセングンは、これでまた一歩前進できると確信した。
***
小さな白い手が自分の体を這っている。別になまめかしい動きをしているわけではなく、ただ包帯を巻いているだけなのだが、動きがなんとなく妖艶に見えてしまう。
セイウンはエレンの手に思わず見とれていた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「そう。でも、これで懲りたでしょう。今回のあんたが、驕っていたか。なんたって、あんたが武術で簡単に負けるのだから」
「そうだな……エレン、もしかして気付いていたのか、俺の驕りに?」
「まあね。一応あんたの妻なのだから、夫の異変にはすぐに気付くわよ」
「だったら言ってくれよ。そしたらこんな面倒な事にならずに済んだのに」
「甘い!あんたは口で言って『はい、分かりました』と言うほど素直じゃないのだから」
その通りだった。エレンは自分のことをなんでもお見通しのようである。付き合いが長いと本当に困るものだ。




